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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第4話 アマンダさんも強い味方

 翌日から早速、試練のときがやってきた。


 朝、電話で起こされた。その後一臣さんがルームサービスを頼み、一臣さんはバスローブ、私はパーカーとジーンズ姿で朝食を食べている中、ドアをノックする音がした。


「はい?」

 ドアを開けにいくと、

「おはようございます」

と、スーツ姿の細川女子と、樋口さんが入ってきた。


「一臣様、今日のスケジュールですが」

「まじかよ。アメリカではいきなり朝早くから、秘書に管理されるのか?」

「…朝早くと言ってもすでに、8時半ですが」

「まだ、日本でも出社していない時間だろ」


「スケジュールなど、車の中でお伝えしていましたが、ここではそうもいきませんし」

 樋口さんが表情を変えることなくそう伝えた。う…。なんだか、嫌だなあ。樋口さん、お屋敷ではいつも優しいのに。


「樋口さんと細川女子は朝食は?」

「済ませました。ホテルのラウンジで」

「あ、そうなんですね。じゃあ、早くに起きたんですね」

「いつもと同じ時間です」

「あ~~~あ、部屋では弥生とのんびりしたいんだけどなあ!」


 わあ。一臣さん、いきなり駄々こねた。ほんと、この人って樋口さんの前では我が儘言うよね。

「そうは言いましても、10時にはアポイントがありますから」

 細川女史が笑いをこらえながらそう答えた。樋口さんはというと、やれやれっていう表情。


「おや?壱弥様は?」

 樋口さんはそう言いながら、寝室のほうを覗きに行った。と同時に、

「ぱ~~~ぱ~~~」

と大声を上げて壱弥がハイハイで突進してきた。


「壱弥様!おはようございます。元気でしゅね~~」

 樋口さんの声も表情も一気に変わり、壱弥を抱っこして、そのうえ高い高いまでしてあげた。

「きゃ~~~」

 ああ、大喜び。


「壱弥様、この部屋になじんでいるんですね」

「ああ、屋敷にいたときと変わらず、すげえ元気だ。さっきから、こっちの部屋と向こうの部屋をハイハイしまくってる。朝から大運動会を一人でしているぞ」

「まあ、そうなんですか。くすくす。でも、そんなに元気で安心しました。なかなか慣れてくれなかったら、大変でした」


 細川女史も壱弥を抱っこしたいのか、樋口さんの腕にいる壱弥に両手を出した。でも、樋口さんが渡そうとしない。それに壱弥は抱っこより、ハイハイ一人運動会を再開したいみたいで、樋口さんの腕の中でもがきだした。


「はい、どうぞ。ハイハイして下さい」

 樋口さんは壱弥を床におろした。するとすごい勢いで、壱弥はまた向こうの部屋にハイハイして行った。

「大丈夫ですか?どこかにぶつかったりしないんですか?」

「細川女史、心配しないでもいい。壱は運動神経がいいみたいで、ぶつかる寸前に曲がったりブレーキをかけて止まったりしている。放っておいても大丈夫だ。そのうち疲れてやめるだろ」


「お屋敷でもああなんですか?」

「そうだ。食堂でも大広間でもメイドやコックたちが追いかけて大変なんだ。前は椅子やソファに突進していたからな。何度かぶつかって、痛い思いをして学習したんだろ」

「……さようで。そう言えば15階の廊下も、ハイハイで突進していましたっけね」


「で。10時からの予定は?」

「○△タイムズのインタビュー、11時からは、TVCMの打ち合わせ、12時からは取引先の大手ブランドの副社長との食事。午後からは…」

 樋口さんが淡々とスケジュールを話し出した。

「そのうち、弥生様が同席されるのは…」


「待て。細川女史、全部弥生と一緒じゃないのか」

「弥生様は弥生様で別にスケジュールがあります。奥様同士の集まりもありますし」

 え~~~~!そうなの?

「弥生様には私が付き添いますし、いつも京子様と一緒です」

 あ、ちょっと安心した。


「昼は?」

「夫婦同伴ですので一緒ですね」

 樋口さんがまた顔色も変えずそう答えた。

「は~~~~。よくもまあ、それだけ詰め込んでくれたな」


「仕方ありません。半月ほどしたら、日本に戻って日本での仕事をこなさなければなりませんし、ニューヨークにいる間、出来るだけのことをすべてやっていただかないと、オープンに間に合いませんからね」

「なんだっけ?オープン前のいろんなイベントごともあるんだろ?ほぼパーティらしいが」

「そうですね。多くの企業からも招待されていますし、一流ブランドも何店も入りますからね、そのブランドのお客様相手のパーティもございます。緒方財閥主催でするパーティです」


「うげっ」

 うわ。一臣さん、すごい嫌そうな顔。

「あれだろ、金持った高慢ちきな奥様たちの集まりだろ。一番苦手だ」

「…そうですか。前は喜んで出ていませんでしたか?知り合いの方も何人もいて」

「樋口!」


「あ…」

 樋口さんは私のほうを見て口を閉じた。もしや、一臣さんが付き合ってた女の人とか?

「大丈夫です、弥生様。私がいつも見張っていますから」

「樋口、その言い方はなんだよ。俺が悪さをしないように見張るってことか?」

「いえ、その逆です。周りの女性たちが一臣様や弥生様に悪さをしないよう、見張っています」


「あ!そうだぞ、細川女史。俺がいないところでかよわい弥生がいじめられないよう、気をつけてくれよな?」

「は?あ、はい、もちろんです」

 細川女史が一瞬目を点にしてた。私だって耳を疑ったもの。かよわいって一臣さん言わなかった?


「さ、そろそろ準備するぞ。昼までは別行動だ。弥生は京子さんと、大手ブランドの社長夫人に呼ばれているんだろ」

「…わたし、そこでどうしたら」

 一気に不安が。


「わたくしもついておりますから、大丈夫ですよ」

「そ、そうですね」

 ドキドキしながら、細川女史が用意してくれた服に着替えた。色が艶やかなワンピースだ。大きな花柄だしこんなの似合わないのに。


「ああ、そのくらい派手でも弥生は可愛いな」

 ええ?!なんと言いました?

「じゃあ、がんばれよ、弥生」

 チュっと頬にキスをして、一臣さんはかっこいいスーツ姿で先に樋口さんと出て行ってしまった。


 と、同時ぐらいにモアナさん、日野さんが来て、

「弥生様、素敵ですね。楽しんできてくださいね」

と言ってくれた。

「はあ、壱君のことお願いします」

「はい」


 楽しんでと言われてもなあ。重い足取りで細川女子と昨日とは違う黒人のSPとエレベーターに乗った。ロビーにはすでに京子さんがアマンダさんとボブといた。あれ?アマンダさん、一臣さんと行ったんじゃないんだ。


「弥生!おはようございます!今日はわたしがついているから安心して下さい」

「はい。よろしくお願いします」

 アマンダさんも強いのかな?でも、SPだけでも充分迫力あるから、安心なのになあ。


 なんて、私はぼけたことを考えていた。そう、安心して下さいの意味を履き違えていたのだ。


 私と京子さんは、車に乗り込み、大手ブランド本店のビップ室に通された。そこに社長婦人と娘さんがいて、どうやらその娘さんが一臣さんとデートもしたことがあるらしく、私のことを意地悪そうに見ていたのだ。


 すっとそんな私の横に立ち、何気に威嚇している様子のアマンダさん。

 向こうは英語でぺらぺら話す。最初の挨拶程度はわかったが、その後はさっぱりだ。アマンダさんが通訳してくれて、なんとか英語で答えられるところは答えていたが、

「日本語でもいですよ。通訳します」

とアマンダさんが言ってくれたので、途中から日本語にした。


 京子さんは、英語で返していた。さすがだ。差が出てしまう。


 社長婦人が店内を案内してくれて、これはどうだと京子さんに勧めている。京子さんは、主人に相談しますと言って、うまく誤魔化している。

 私にはあまり社長婦人は話しかけてくれない。私は娘さんがずっとついていて、どうやらチクチクと嫌味を英語で言っているようだが、アマンダさんが嫌味の無い言葉で通訳をしてくれている。


 だけど、目つきでわかってしまうんだなあ。絶対に見下している。こんな女がなぜ一臣と?みたいな雰囲気漂わせているもの。

 でも、アマンダさんが始終にこやかに私と彼女の中にはいり、通訳をしてくれている。


 私がいるから安心してって、こういう意味か。一臣さんがらみの女性から守ってくれるって事なのね。

 細川女子は一歩下がったところで、見守ってくれている。それに、つかず離れずボブがいる。


「弥生様がお気に召すものはないようですね、と言っています」

「え?あ、そういうわけではないんですけど、ほら、えっと、サイズが合いそうも無くて」

 慌ててそうアマンダさんに言って、通訳してもらった。

「HAHA」

 あ、娘さん、笑った。鼻で笑った。


 1時間がたった。長かった。次のスケジュールがあるからと、細川女史がそう相手に伝えて、私と京子さんは店を出た。

「は~~~」

 車に乗ると、勝手に私からため息が出た。


「あ、すみません」

 思わず細川女史やアマンダさんに謝った。

「大丈夫。あのダイアンには前々から頭にきていた。私もほんと、疲れました。ヤヨイ、お疲れ様でした」

「え?ダイアンってさっきの娘さんですか」


 京子さんがそう聞いてから、

「確かに…。わたくしもちょっと頭にきていましたわ」

と珍しく毒を吐いた。京子さんはダイアンさんの言っていた言葉がわかったのかあ。

「あんなのと付き合っていたなんて、本当に一臣様は趣味が悪い…。おっと、失礼しました、弥生様。でも、きっと性格悪い女としか付き合っていなかったんです。本気にならないように」


「そ、そんなに性格悪いんですか?」

「典型的な我が儘娘ですよ」

 うわ。細川女史も毒を吐いた。

「私、英語わからなくてよかったかも…」

 そう言うと、京子さんは、

「本当に良かったですよ。あんな人の言うこと真に受けていたら、いくら弥生様でも傷ついていましたよ」

と、心配そうな顔をした。


「あ、わからなかったから、傷ついてもいないんで大丈夫ですよ」

「アマンダさんの通訳、すごかったです。あんなふうにやんわりと優しく変換して訳して、すごいなあって横で聞いていて感動してました」

 そうなんだ。やっぱり。


「心の中じゃ、この馬鹿娘って頭にきていた。でも、ヤヨイのために、そのまま伝えられないからね」

「まあ、まあ、一応大事な取引先ですからね、そのくらいにしておきましょうか」

 細川女史の言葉で、アマンダさんも黙り込んだ。でも、

「ヤヨイ、今後も私がついています!大丈夫!私もボブもいつでもヤヨイの味方です」

と言ってくれた。ああ、なんて頼もしいんだ。


「私もですっ」

 京子さんもそう言って私の手を握り締めた。

 リムジンの中はなんだかよくわかんない決断力が芽生えていた。でも、これもすべて、一臣さんが若い頃遊んでいたからなんだよなあ。それも、フィアンセが嫌で遊んでいたんだから、結局原因は私なのかなあ。


 と思ったら、ちょっと落ち込んだ。

 いや、こんなの私らしくないね。みんなが元気付けてくれたんだもの。よし、がんばるぞ。負けないぞ!!!



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