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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第2話 昔の女?

 飛行機では、壱弥は気圧で耳が気持ち悪かったのか、一時ぐずった。でも、みんながあやしたりおやつをあげたりしてくれて、そのうちに機嫌が直り、無事アメリカに到着した。


 飛行場ではアマンダさんと、旦那さんのボブ、もう一人いかつい黒人のSPがついてくれた。龍二さんと京子さんにも別の秘書とSPがついていた。それに、知らぬ間に消えた忍者部隊も見守ってくれているようだし、侍部隊も後ろからついて来てくれたから、まったくもって安心できた。


 私たち家族と龍二さん、京子さんはリムジンに乗り、他のみんなもそれぞれ迎えの車が来て乗り込んだ。そして、アメリカで滞在するホテルに着いた。


 行ったことがある海外はハワイだけ。ニューヨークとはまったく違う。そりゃそうだろうけれど、ホテルも立派過ぎて見上げて頭がクラッとしたほどだ。だが、一臣さんと龍二さんは慣れているのか堂々としている。


「立派なホテルですね」

 京子さんが私に小声で話しかけてきた。

「ですよね」

 飛行機をチャーターしたり、こんな立派なホテルのスイートルームに泊まれたりと、本当に緒方財閥って計り知れないんだな。その御曹司の奥さんだって自覚、全然なかったかも。


 う、でもなあ。こんな贅沢していいものかどうか、疑問だなあ。経営不振で閉鎖になった工場もあるのに。やっぱり、自家用ジェットを買うと言い出しても、断固反対しよう。


 ホテルだって、こんなに最高級のレベルでなくてもいいのに。


「そうはいかない。ここはセキュリティの面でもトップクラスだからな。そんじょそこいらのホテルに泊まって壱に何かあってみろ。ん?後悔するのは目に見えている」

「そこまでここのホテルはすごいんですか?」

「各国の首脳陣や、国王クラスも泊まるからな」

 どひゃ。そんなにすごいところなんだ。


「何年も昔から緒方財閥の人間は、ニューヨークに来るとこのホテルに世話になるから、緒方財閥専用のスタッフがいるんだ。長年の信用がある」

「そうなんですね…」

 じゃあ、そうそうホテルを変えるってこともできないんだなあ。


 それにしても…。ニューヨークって、別世界だ。窓から外を見ても、映画の中にでも入っちゃったかのような錯覚に陥る。

「あ~~~~!」

 そんな中、床を元気に壱弥がハイハイしだした。


「あ…、現実に戻った」

 壱弥を見たら現実にあっという間に戻ったや。

「壱君、元気だね」

「こいつはどこでも元気だな」

 一臣さんはちょっとお疲れの様子。ソファに座った。


「ここも広いお部屋ですね。寝室と別にリビングもあって」

「そうだな。服とかクローゼットに入れるか」

「はい。わかりました。しばらくここにいるんですもんね」

「ああ、いい。誰か手伝わせる」

「ホテルの方ですか?」


「いいや、何のために呼んだと思ってる」

「?」

 一臣さんは携帯で誰かを呼んだ。するとドアをノックする音が聞こえ、一臣さんはドアを開けに行った。


 入ってきたのは、樋口さん、細川女史、モアナさん、日野さん。

「スーツケースの服、しまってくれるか」

 そう言うと日野さんが、「かしこまりました」としまいだし、モアナさんは壱弥のものを引き出しにしまいだした。


「樋口、細川女史、今後のスケジュール」

「はい」

 樋口さんがさっと手帳を出して、一臣さんにスケジュールを伝え始め、その横で細川女史も、手帳を見ながら頷いている。


「そうか。そこまでハードじゃないな。壱弥を一緒に連れ出すのは2~3日あとだし、それまではここでモアナたちに面倒をみてもらうか」

「かしこまりました」

 クローゼットから2人が顔を出して答えた。


「あ、私も片付け手伝います」

「大丈夫です。ゆっくりなさって下さい」

「じゃあ、みんなのお茶を入れます。えっと」

 キョロキョロとあたりを見回していると、そこにまたノックの音がして、ホテルのスタッフが入ってきた。おや、日本人らしい女性だ。


「一臣様、ご無沙汰しております」

「ああ、アリー。今回もアリーが担当か?」

「はい。わたくしと母が担当します」

「そうか…。あ、アリー、俺の奥さんの弥生だ」

「弥生様、初めまして。アリー・マツダです」

 

 ハーフなのかな。綺麗な人…。黒髪、黒い瞳だけど、背が高くてスタイルがいい。少し日本人離れしている顔立ち。


「弥生です。よろしくお願いします」

 挨拶をすると、アリーさんは微笑んでから、少しだけ暗い表情を見せた。

「アリー、早速だがお茶を入れてくれ。みんな紅茶でいいか?」

「わたくしたちは失礼しますのでけっこうです。では、また後ほど夕飯の時に」

「ああ」


 樋口さん、細川女子は出て行った。モアナさんと日野さんも片づけが済むと、

「私たちも部屋に戻りますね。また用があったらお呼びください」

と出て行ってしまった。


「お茶、入りました」

「ありがとうございます」

「弥生様は、可愛らしい方ですね。まだお年もお若いんですね」

「え?」

「アリーより1歳上くらいだ」


「え?!」

 アリーさんが目を丸くした。

「そ、そうなんですね。失礼しました」

 そんなに私、幼いのかな。確かにアリーさんの方が大人っぽいけれど。っていうか、色っぽい。


「アリー、何か用だったのか?」

「はい。色々とお手伝いに来たのですが」

「今回は秘書やメイドもたくさんついてきたから、来なくても大丈夫だ。何か用があったら呼ぶから、もう下がっていい」

「はい。わかりました」


 アリーさんは小さくお辞儀をして、なんだか寂しそうに出て行った。


「アリーさんのお母さんも、ここで仕事をしているんですか」

「そうだ。旦那は侍部隊だ。日本で親父の護衛をしていたが、今はアメリカにいる緒方財閥のSPをしている。今回も親父が来たら、親父のSPになる」

「へえ…。アメリカにも侍部隊がいるって、そういえば前に聞いたことあります」


「ああ。で、このホテルで親父のSPとして何度も泊まっていた時に、今の奥さんと知り合って結婚して、その娘もここで働くようになったってわけだ」

 なるほど。

「親父のSPだけじゃなく、俺のことも護ってくれていたから、奥さんと娘とも面識があって、このホテルに泊まった時は、奥さんとアリーが俺の世話をするようになったんだ」


「じゃあ、アリーさんとはもう前からの知り合い」

「そうだな。10歳くらいから知ってるな。ここで働くようになってからも、何回か会っているし」

「留学のころも?」

「いや。ニューヨークじゃなかったし、ホテル住まいでもなかったしな」

 

 そうなんだ。それにしても、気になったなあ。私に微笑んだあとの暗い顔。

「アリーのことは気にするな。な?」

「え?はい」

 ん?何も言っていないのに。なんで、そんなこと言い出したのかな。逆に気になる。


「一臣さん」

「なんだ?」

 ソファに座ってゆったりと紅茶を飲んでいる一臣さんの隣に、壱弥を抱っこして座り、

「アリーさんって、スタイルよかったですね。足も長くて、胸も大きくて」

と聞いてみた。


「そうか?」

 じ~~~~。一臣さん、ちょっと変。言葉少ない。

「な、なんだ?」

「女の勘が働くようになりました」

「はあ?」


 一臣さんの片眉が上がった。

「知らなくてもいいだろ?もう過去のことだ」

「やっぱり。付き合ったことがあるんですか?」

「付き合っていたわけじゃない。あっちが勝手に熱を上げただけだ。本気になられても困るだけだからな。一回きりだ」


 ズ~~~~ン。ああ、聞かなければよかった。馬鹿だなあ、私。女の勘なんていらないかも。

「それも、たいしたところに行ったわけじゃない。アリーが20歳過ぎたから、ホテルのバーで飲んだだけだ」

「それから?」

「タクシー拾って、送っておしまいだ」

「え?それだけですか?」


「そうだ。あ、まさか、体の関係でもあるかと思ったのか。言っただろ。遊んでいる女としか寝ない。本気っぽいやつには手は出さない。やっかいだからな」

「…そうなんですね」

 あまりすっきりしないなあ。アリーさんとは何にもなかったにせよ、遊んでいた女性とはそういう関係があったってことでしょ。アメリカでもあったのかなあ。


「弥生」

 一臣さんが顔を近づけキスをした。すると壱弥が一臣さんの顔をぺチンと叩いた。

「いてえなあ、なんだよ」

「あ~!!」

 壱弥はなぜか怒ったように声を発し、私のほうを向くとブチュッとキスをしてきた。


「ああ!壱!!!何勝手に弥生にキスしてるんだよ!」

 息子に怒ってもなあ。

 私の胸に顔をすりすりする壱弥に、一臣さんは、

「離れろ。俺の弥生だぞ」

と怒っているし。大人気ない。


「眠いのかも…。それかお腹空いたかな?」

 案の定、お腹が空いていたようで、おっぱいに吸い付いた。

「は~~あ、いつまでおっぱい飲んでいるんだ?こいつは」

 一臣さん、すんごいため息。


「弥生」

「はい?」

「多分大丈夫だとは思うが、念のため言っておく」

 何かな。改まって。

「アリーには手を出したりしなかった。だが、これからのパーティでもしかすると、俺と遊んでいた女と出くわすこともあるかもしれない」


 え?!!!

「すでに結婚しているかもしれないし、今もまだ独身でいるかもしれないが、いわゆるお嬢様と言われるような女性にも、遊んでいたのもいたからな」

「………」

「婚約者がいようが、旦那がいようが男と遊ぶ…、女版の俺みたいなやつが」


「え、出くわしたらどうしたらいいんですか?」

「う~~~ん。社交界だったら、自分が遊んでいるのは隠しているやつも多いから、直接は言って来ないだろうが。まあ、俺が一緒にいれば守ってやるし、アマンダやSPにも守らせるが」

「守る?」

「嫌味を言ってきたり、何かしかけてきたり」


「何かって?」

「わからないが…。まあ、そんなことがあるかもしれないが、ちゃんと守るから安心しろ」

「…そ、そんなに多くの人と一臣さんは、遊んでいたんですか?」

「いや。アメリカではそうでもないな。基本外人の女は好きじゃない。でかいし、巨乳も嫌いだし」

「……」


 でも、遊んでいたんだ。なんだって、アメリカに来てまで、そういうこと気にしないとならないのかなあ。

「弥生は堂々と俺に引っ付いてろ。正式な奥さんなんだからな」

「正式…?」

「そうだ。仲のいいところを見せてやるぞ」

「はい」


 ただでさえ、パーティとか憂鬱なのに、さらに気持ちが凹むような要素が増えてしまった。


 いや、ここは頑張らなくっちゃ!私には味方だって多いんだから!!


 そう思い、ひそかに私はガッツポーズをした。一臣さんにはバレていたけれど。

「あ~~~~う」

 お腹いっぱいになった壱弥はなぜかご機嫌。私の膝の上でご満悦のようで、なかなか離れず、時々私の胸に抱きついた。


「見慣れないところだからでしょうか。離れないですね」

「さっきは元気でハイハイしていたのにな」

「ですよね」

 でも、壱弥のぬくもりや匂いのおかげで、癒されたかも。


「ありがとうね、壱君」

「あ~~」

 もしかすると、私の不安を感じ取って癒してくれていたのかなあ。




 



 


 


 



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