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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 仕事復活です!
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第12話 自分も大事にすること

 侍部隊の例の窓も何も無い部屋に、私たちは通された。

「白岡にはもう事情を聴いたんですか?」

 椅子に腰掛けると一臣さんはすぐに辰巳さんに聞いた。


「はい。14階の応接室まで来てもらって、話を聴きました。託児所の所長も同伴してもらいました」

「で?」

「呆れましたね。まったく悪びれていなくて、自分がいったい何をしでかしたのかっていう顔をしていましたよ」

「動機はなんだったんですか?」


「多分、自慢したかったのでしょう。もしかしたらアピールかもしれないですね」

「アピール?」

「副社長に気に入られようとしたとか…」

「はあ?」


 一臣さんが呆れた声を出すと、

「一臣様に入れ込んでいたようですからね」

と樋口さんは冷静に言った。


「壱弥の顔をさらして、俺が喜ぶとでも思ったのか?!」

「だから、かなり浅知恵というか、馬鹿というか、どうしようもないというか」

 辰巳さんもそこまで言うと、はあっとため息を漏らした。


「じゃあ、裏で誰かが企んでいたとかじゃないんですね、辰巳さん」

「その辺はもっと、調べますよ。今日は取り合えず、なぜこんなことをしたのかを聞き出しただけですし、まだクビだってことも言っていません。ただ、しばらく謹慎処分ってことで、休んでもらうようにしました。その間、忍者部隊に見張らせます」

「なるほどな」


 一臣さんは腕を組んで、何やら考え込んだ。

「まあ、しばらく泳がせておくのが一番かもな」

「え?!じゃあ、白岡さん、スパイとか、どっかの悪いやつらと繋がっているとか?」

 青ざめながらそう私が聞くと、

「まだわからないが、その可能性もある。白岡が誰かに唆されたって可能性もあるしな」

と一臣さんが眉をひそめて答えた。


「そ、そうなんですね」

「辰巳さん、頼んだぞ」

「はい!」

 一臣さんの言葉に、辰巳さんは真剣な顔で頷いた。


 裏組織の部屋から出て、私たちは15階の一臣さんのオフィスに戻った。そして、

「は~~~、やれやれだな」

と一息ついた。一臣さんにコーヒーを入れ、私も一臣さんの横に座った。


「アメリカ、大丈夫ですか?」

「壱弥か?」

「はい。連れて行って大丈夫なのかな…」

「そうだな。まあ、今回の件をしっかり調べてから、また考えよう。今悩んだって、結果は出ないんだからな」

「そうですけど…」


「こういうことは常につきまとう。これからもだ。油断はならないが、侍部隊や忍者部隊を信頼するしかないな」

「あの、こんなことを聞くことも失礼かなとは思うんですけど、忍者部隊などから裏切り者が出たとか、そういうことは今まで」


「ない」

 聞き終える前に一臣さんが答えた。

「そうですか。そうですよね!」

「忠誠心が半端ないんだ。なんなんだろうなあ?俺も偉いと思うぞ」

「忠誠心…」

 すごいな。ほんと、侍スピリットなんだ。


「でもまあ、考えてもみろ。裏切るメリットってあるか?金か?名誉か?」

「えっと…。裏切る人って、どういうことがメリットがあって裏切るのかがわかりませんけど。あ、例えばもっと表に出たいとか。だって、いつも裏で働いているわけですし」

「ふん。裏切ったらもっと表に出て来れなくなるんだぞ」

「なるほど、そうですよね。でも、素晴らしいですね。絶対的な信頼関係が結ばれているなんて」


「そうだな。緒方財閥はまず人を疑うところから付き合いを始めるが、裏組織にいたっては、絶対的な信頼があるな」

「アメリカに壱君が行った時にも、護ってくれるんですよね」

「もちろん、侍部隊も忍者部隊もついてくるからな」

「私も、護ります」


「壱をか?」

「はいっ」

「あほ。お前は護ってもらうほうだ」

「え?自分の身は自分で護れます」

「そういう自信が危ないんだ。お前を護るのもやつらの仕事のうちなんだから、ちゃんとあいつらに仕事をさせてやれ。わかったな?」

「はい」


 壱弥のことで、ちょっと心配になったけれど、もっとみんなを私も信じよう。


 5時半を過ぎ、壱君を託児所に迎えに行った。白岡さんの姿はなかった。もう帰らされたんだな。

 他の保育士さんも、迎えに来たお母さんたちも何事もなかったように、明るく何時もどおりにしている。誰も今回のSNSのことは知らないんだな。


「壱君、帰ろうね~~~」

 抱っこをすると壱弥は、思いっきり嬉しそうに抱きついてきた。ああ、この瞬間、たまらないな。恋人に抱きつかれたかのような気分になる。

 あ、これは一臣さんには内緒。絶対に壱弥にやきもちやくもの。


 壱弥を連れて一臣さんのオフィスに戻ると、お義父様と一臣さんがソファでにらめっこ状態だった。

「あの…」

 その空気感に怖気づきながら声をかけると、

「壱~~~~~!」

と突如お義父様の顔つきが変わり、私のまん前に飛んできて、壱弥を抱っこしてしまった。


「きゃきゃきゃ」

 あ、壱弥も嬉しそうだ。

「親父壱をあやしている場合じゃないだろ」

「いいじゃないか。もうさっきの話は終わりだ。あとは辰巳たちに任せよう」

「は~~~、結局、そうするしかないよな」


 白岡さんのことだよなあ。


「弥生、託児所はどうだった?」

「いつもと同じです。白岡さんがいないことも、誰も何も言っていませんでした」

「家の事情で早退したとか、そんなことにするって所長が言ってたな」

「あ、そうなんですね…」


「しばらくね、弥生ちゃん。警備が前より大げさになるかもしれないけど、我慢してね」

 お義父様は壱弥を抱っこしたまま私に微笑んだ。

「大げさにって?」

「等々力の車で帰るが、その後ろからも侍部隊の車の見張りがついたり、屋敷の周りにもガードマンがうろついたり、会社のビルの前にも警備員がうろついたり」


 私の質問に一臣さんが答えた。

「ガードマン?」

「侍部隊の連中が黒服に黒のサングラスでうろついたり、まあ、さすがに会社の周りは怪しすぎる格好だから、警備服を侍部隊のやつらが着て、警備するって感じだな。壱の顔、いくらすぐに消去したとはいえ、どこまで拡散したかわからないしな。こっちから、わざと徹底的に壱を護っているってことをわからせるのも手かと思ってな」


「これだけ護られていたら、手を出せないなって、そう思わせるとか?」

「う~~~~ん。まあ、それもあるし、しばらくの間、セキュリティを強化するまでの策っていうか。この機会にもっとセキュリティ対策を万全にしようと親父と話していたんだ」

 どひゃ。今でも十分すごいと思うけどな。


「アメリカに行ってからのことも、策を錬らないとな。それとも、弥生ちゃんと壱君は日本に残すか?一臣」

「絶対に嫌だ。連れて行く」

「わがままなやつだな」

「親父、今後壱も海外に行くことは増えるんだぞ。その時のことも考えて、今から警護を万全にするようにしたらいいだろ」


 うわ~~~~。緒方財閥って、やっぱりスケールが違う。上条グループなんて、だ~れも警護されている人いないもん。お父様だって。家もセキュリティなんにもしていないし。


 お義父様は壱弥との別れを惜しみながら、社長室に戻っていった。壱弥はと言うと、一臣さんに抱っこされてご満悦だ。お義父様のことなんか、即忘れたんだろうな。ほんと、壱弥を見ていると、今に生きているんだなって思う。


 自分の周りで起こっていることも、何もかも知らず、のほほんと生きている壱弥が羨ましい。


「弥生、帰るぞ。今日は余計な気疲れがあって、疲れた」

「そうですね、帰ってゆっくりしましょう」

「そうだな」

 一臣さんは樋口さんにも声をかけ、とっとと屋敷に戻るぞとオフィスを後にした。


 車内では等々力さんや樋口さんに、

「今後、2人にも気を抜かないよう、壱の警護を頼む。出来るだけ樋口も、白岡のことは辰巳さんたちに任せて、こっちの警護を頼むぞ」

「はい」

「で、屋敷に帰ったら、2人とも十分に休んでくれ。明日からも気が抜けなくなると思うからな。休めるときに休んでくれよな」


「はい」

 2人にそう告げた後、仕切りを上げて一臣さんは、

「は~~~あ」

と私にもたれかかってきた。壱はすでに夢の中。この子、本当に車に乗るとすぐに寝ちゃうよなあ。


「わけのわかんない保育士のせいで、余計な気苦労が増えた」

「大丈夫ですか?一臣さん。疲れた顔してます。顔色もよくない」

「う~~~~ん。子どもの心配っていうのは、けっこう来るな」

「え?来るって?」

「心身ともにどっと疲れた。親父もこんな思いをしたんだな」


「一臣さんも誘拐されそうになったりしたんですよね」

「ああ。そうだ。弥生が誘拐された時は、生きた心地しなかったぞ。あの時は本気で弥生に何かあったら、俺も死ぬくらいに思ったしな」

「私は大丈夫ですよ。こう見えて強いです」


「……。まあな。まさか、あんなに大の男たちをやっつけているとは思ってもみなかったけどな。今頃泣いているか、怖がっているかしているんじゃないか、傷つけられてやしないかと、いろんな悪い想像ばっかりして、行ってみたら、男どもがゴロゴロ寝転がって痛がっていたもんなあ」

「はい」

「だけど、もし拳銃とか持っているようなやばいやつらだったら、本当に危ないからな。アメリカでは行動を控えるんだぞ。警護しているやつらに任せて、弥生は護られるほうに回るんだぞ。いいな?」

「はい」


「でないと、俺の寿命が縮む。俺のためにならないから、ほんと、気をつけろよ」

「はい…」

 一臣さんは私の腰を抱いた。


 私には護るべき人が増えた。いざとなったら、護る。戦える。でも、それで私が傷ついたり、何かあった時には、一臣さんや壱弥、他にもたくさんの人が悲しい思いをしたり、気をもんだり、迷惑だってかけることになるんだ。


 もう、私ひとりの問題じゃない。私一人の命でもない。


 一臣さんにもたれかかり、私は一臣さんのためにも、自分のことも大事にしていこうと、そんなことを固く誓っていた。 

 





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