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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 仕事復活です!
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第9話 信頼関係

 信頼関係とは?どうやって作られるのか、私は何気に聞き込み調査を始めた。一臣さんには内緒で。


 まずは近場で、こっそりとお義母様のいない間を見計らい、寮を訪ねた。梅雨のど真ん中、雨の続く休日、一臣さんは蒸し暑いお屋敷の部屋が嫌で、壱弥を連れてプールに行っている。今日は忍者部隊の若手がお守り役に行っているので、いつもお守り役の樋口さんは寮にいた。と言うより、樋口さんの手には負えないからというのが、本当の理由らしい。

 

 とにかく、最近の壱弥はつかまり立ちも始まったし、目を放せない状態。多分、プールには何人もの忍者部隊の人が配置されていると思う。申し訳ないとは思いつつ、一臣さんに言わせるとそれも仕事のうちだと言うしなあ。


 キッチンを抜け、寮に行くとちょうどいいことに、等々力さんも休憩室でテレビを見ていた。競馬かな。こういうの、興味あるのかな。

「あの、寛いでいるところを申し訳ないのですが」

「弥生様、どうなされましたか」

 等々力さんが慌てて立ち上がろうとした。


「あ、お気遣いなく」

「いえいえ。お茶でも淹れましょうか」

 等々力さんの言葉に私はすぐに自販機の前に行き、

「大丈夫です。私、勝手にこの自販機のミルクティーを自分で買います。あ!!!季節限定のパンがある!」

 わあい。と大喜びでそれも買い、テーブルについた。


「では、早速なんですが、インタビューを始めます」

 ミルクティの缶を空け、パンを半分食べたところで、我に返った私はノートを広げた。

「インタビュー?」

「私、信頼関係について調査をしています」



「は?」

 2人がきょとんとした。

「一臣さんと、お2人って、すんごい信頼関係があるじゃないですか」

「ああ、はあ、まあ」

 2人とも曖昧に返事をした。

「それって、どうやって作られたものですか」


「一臣様とですか」

 う~~~んと唸ったのは等々力さんだ。樋口さんは口元を和らげ、

「私も等々力さんも、子供の頃から一臣様を存じておりますからね。ある意味、父親のような父性があるんですよ」

と答えてくれた。


「それだけで、ずうっと長い間秘書をされているんですか?一臣さんって、樋口さんのこと100パーセント信じきっていますよね。どうしてでしょうか」

「弥生様のことも100パーセント信じていますよね」

「それは夫婦ですし」

「夫婦になる前も」

「えっと~~~。そうですけど」


「それはなぜですか?」

「ええ?なぜって言われても」

「弥生様が一臣様を信じられたのはなぜですか」

「私は最初からです。一臣様のお役に立てることが嬉しかったし」

「そういう弥生様だからこそ、一臣様は信頼されたんじゃないですか」


「……う~~ん?」

 なんだか、わけわからなくなってきた。私が聞きに来たんだけどなあ。あれ?私が一臣さんと揉めているとでも勘違いしたのかな?


「弥生様はここの従業員みんなのことも、信頼していますよね」

「はい」

「それはどうしてですか」

「どうしてって、えっと。信頼っていうか、大好きなんです。亜美ちゃんもトモちゃんも、最初から優しくて、いつも味方だって言ってくれて。あ、喜多見さんもです。喜多見さんがいると安心できて、頼りになる」


 そう言いながら私はどんどんと名前を挙げた。

「国分寺さんもです。何よりも一臣さんを大事に思っているし、もちろん等々力さんもです。初めてお会いした時から、お優しかったし。樋口さんも本気で私のこと心配してくれているんだなってわかってから、すごく嬉しくて大好きになって。あ、私の場合きっと、好きが原動力なんです。好きになっちゃったら、信頼するとかしないとかじゃなくって、そういうの関係なしに大事な存在になる」


「なるほど」

「だから、この屋敷の従業員みんなが好きなんです。植木職人さんも含めてみんな!」

「それが弥生様の素晴らしいところです。お嫌いな人はいないんですねえ」

 等々力さんが優しく微笑んだ。


「います。会社にちょっと。嫌いというか、苦手…。好きになれそうもないなって人が」

 心苦しくて本音を言うと、

「弥生様でもいるんですか、そういう人が」

と、等々力さんは驚いた。だが、樋口さんは、

「そりゃ、いらっしゃるのが普通ですよ。嫌いな人間の10人や20人」

と真顔で言った。


「そんなにはいないですよ、数人です」

「なるほど。だが、会社というと仕事は一緒にやっていく人間ですね」

「そ、そうですね」

 海外事業部にこれからも顔を出すとなると、広尾さんとは仕事関係でこれからも関わるよね。


「苦手な人との信頼関係って、いったいどうしたら?」

「難しいですね」

 等々力さんはそう口にした。

「等々力さんは?苦手な人を車に乗せるとかありましたか?」


「私は社長の運転手でした。社長のことは尊敬していましたから、いつも緊張はしていましたが、苦手ではありません。その後、一臣様の運転手として任されましたが、一臣様は子供の頃からよく乗せていて、樋口さんが言うように、情が移っていますからね。苦手なんて感情はなかったですね。成長が見れると嬉しいですし、具合が悪いと心配ですし」

「父性ですね」


「そうですね」

 そっか~~~。

「樋口さんは?」

「わたくしは、仕えるのは一臣様と弥生様、あとは社長ですからね、皆様のことは大好きですから、苦手ではないですしね」


 うわ。大好きって言われて、なんだか照れくさい。

「そ、そ、そうなんですね」

「会社で聞かれたほうがいいんじゃないですか。実際部下が何人もいる人間に。辰巳氏とか。あ、今日は多分、格技場での訓練と、ジムでトレーニングのはずですよ」

「はい、行って来ます。お時間取らせてすみませんでした」


 っていうわけで、これから一臣さんに見つからないよう、格技場に進入します。

 それにしても、一臣さんのために信頼関係について調査をしているのに、私の問題発見をしてしまった。私も苦手な人とどうやって、信頼関係を築いていけるのか、ここ、重要なところだよね。


 嫌いな人、苦手な人はあまりいないと言えばいない。大塚さんだって、仲良くなったし、秘書課にいた三田さんとか、根性悪かった人は辞めさせられていなくなっちゃったしなあ。


 でもこれからも、そんな根性悪い人や、相性の合わない人や、一臣さんに入れ込んじゃう人とも仕事を一緒にしていくことになるかもしれないから、どうクリアしたらいいかは大事な問題じゃない?

 それってやっぱり、公私混同しないことかな。一臣さんはどうしているんだろう。常に一線を置いているのか、それとも、信頼できる人としか仕事をしないとか?


 早速、辰巳さんが格技場での訓練を追え、シャワーを浴びて休憩を取るところをつかまえて、話を聞くことになった。ありがたい事に辰巳さんは、一つ返事でOKをしてくれた。


「信頼関係についてですか」

「はい。辰巳さんは部下がたくさんいるじゃないですか。どういう形で信頼関係を結んだのかなあって」

「さあ?」

「はい?」

 いきなり、さあ?って言われても。


「侍部隊は元々侍の出ですからね。普通とは違うんですよ」

「普通とは違うというと?」

「主従関係ですよ。絶対服従のようなところがありますからね」

「絶対服従…」

「主が右と言えば、左が合っていようが右なんです。忍者部隊もそうですからね。社長とはそんな関係ですよ。これはもう、緒方財閥に拾われた時からですね」


「拾われたっていうと?」

「侍はいらなくなった。忍者もです。そんな頃、緒方商事がわれわれ侍を雇ってくれた。雇うと言っても普通の仕事ではなく、ちゃんと侍や忍者の生き方をそのまま貫かせてくれたんです」

「で、でも、あの…。常に影にいるんですよね」

「そうですね。ですが、われわれの縁者全員を守ってくれているんです。それは長い歴史があり、深い関係なんですよ」


「そうか。上条グループなんて浅い会社じゃ、計り知れないんだ」

「守り守られしたわけですからね」

 そうなんだ。だから、従っているんだ。

「でもそれってやっぱり、上に立つ人間が素晴らしいからですよね?」

「はい。社長は懐のでかい人ですから」


 う。そういうことか。私はまだまだ浅いんだな。

「じゃあ、一臣さんは?一臣さんに対しても、辰巳さんはいつも従われていますよね」

「社長の息子さんですから。いずれは長になる人間です。それだけの度量はあると思いますよ」

「そういうの、見抜いている…とか?」


「そうですね。まあ、これだけのでかい組織を動かさないとならない人間です。器が小さかったら無理です。あれだけ威風堂々としているのは、あっぱれですよ。戦国時代で言えば、社長が武将、一臣様は若君ってところですか。ははははっ」

「威風堂々?」


「あまり怖気づいて見えない。いや、睡眠障害になったりしていたという話しは聞いております。本人はみんなが知らないところでプレッシャーと戦っているのでしょうが、見た目そうは見えない。社員に怖がられるくらいの存在でいることは、素晴らしいことなんですよ」

「え、そうですか?」

「はい。そして弥生様が、社員に好かれる存在になる。とてもいいバランスではないですか?」

 あれれ。なんか、話がまた違う方向に。


「例えば、苦手な人とも仕事をするとなったら、どういう信頼関係を結べばいいと思いますか?」

 思い切って辰巳さんにも聞いてみた。

「苦手って言うのは性格ですか」

「あ、はい。そうですね」


「仕事ができるかどうかでしょう。性格は、もし仕事をしていく上でマイナスだと思えば、弥生様が注意をするといい」

「私が?」

「弥生様も一臣様と同じ立場、上に立つ人間ですよ」

「私が上ですか」


「弥生様も、時には心を鬼にすることが試されることもありますよ。そうすることで、相手が成長もできるかもしれませんしね」

「……鬼ですか?」

「はははは。弥生様が鬼っていうのは想像できないですがねえ。まあ、弥生様なりの注意でいいんですよ。弥生様が相手のことや、仕事のことを真に思い、何が必要かを選んでいけばいいんです」


「相手のことを思って?」

「何が適切で、何が一番か…。弥生様ならできますよ。鬼ではなく、弥生様の場合は真の心を持ってですね」

「真の心…、真心ってことですか?」

「そうです」


 辰巳さんって、素敵かも!やばい。泣きそう。

「どうしたんですか、弥生様」

「私、最初辰巳さん顔怖いし、苦手だったんですけど、こうやって辰巳さんと関わるようになって好きになって、今は、感動しています!!!」


「感動?」

「はいっ。辰巳さん、素敵過ぎます」

「は、はははははははは」

 あ、思い切り笑われたかも。


「そうですか。顔怖かったですか」

「あ、あ、すみません!とんでもないこと言った、私」

「ははははは。いいんですよ。自分でも顔怖いと思っていますからね。それが売りです。ははははは」

 ああ、思いっきり笑われた。失敗したかな。


「そういところです。弥生様の強みは。誰からでも好かれる。私も最初は弥生様が一臣氏の奥様で務まるのか不安でしたけどね、今では信頼していますよ。いや、弥生様でよかったと本当に思っています」

「うえっ。ありがとうございます」

 涙が止まらない。困った。それを見て、辰巳さんはさらに笑い、休憩所にいた他の侍部隊の人たちにまで笑われてしまった。


 私、副社長夫人の威厳っていうのは、一生備わんないんじゃないかな。ごめんなさい、一臣さん。その辺は期待されても、やっぱり無理そうです。


 あ、一生って、いつかは社長婦人だよね。うわ~~~~。無理無理。社長婦人の器じゃないよ~~~。





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