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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 仕事復活です!
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第6話 またもインタビュー

 それから2週間、特に何も変化はなかった。1週間くらいは朝泣いていた壱弥も、託児所に慣れたのか、泣かなくなった。


 私も一臣さんと別の仕事が増え、別々に過ごすことが増えてきた。前のように15階のオフィスで一臣さんといちゃついていた頃が懐かしい。

 

「今日の弥生様のスケジュールは、午前中は広報のインタビュー。これは最初は一臣様と、その後お一人でのインタビューをお願いしたいとのことです」

 15階に着くと、矢部さんがいつも私のスケジュールを教えてくれた。


「俺もインタビューか」

「そうですね。9時半からです。10時から一臣様はアポが1件入っています。午後からは海外事業部の会議で、本日は上条グループに行く予定です」

 樋口さんがクールにそう言うと、

「弥生は午後何かあるのか」

と矢部さんに聞いた。


「あ、は、はい。午後は新プロジェクトのミーティングが16時から」

 矢部さんが手帳を見て、慌てながらそう答えた。

「ふん。そうか。だったら弥生も上条グループに行けるな」

「え?海外事業部の会議に出席ですか?」

 私、今までは蚊帳の外だったけど?


「ああ。アメリカに建つビルのセレモニーにも弥生は出ることになるんだし、これからはどんどん弥生も関わっていくことになるんだ。今からプロジェクトに参加して、内容を知ったほうがいい」

「そうですね」

 樋口さんも細川さんまで頷いてる。


「それに、弥生は上条グループ本社に行ったことはあるのか?」

「ないです」

「だろ?一回その目で見たほうがいい。上条グループがどんな会社なのかを」

「…そうですよね。あ、私、緒方財閥については最近、必死に勉強していますけど、上条グループのことはさっぱりわかってなかった」


「緒方商事の大事な取引先だ。これからも長く付き合っていくんだから、ちゃんと勉強しろ。かなり刺激的だろ、あの会社は」

「え?そうなんですか?」

「ああ。活気がある。緒方商事のような古臭い習慣もあまりないしな。それと実は、IT関係で取引をし始めた面白い会社があるんだ。そこも今度一緒に行こう。なかなか斬新な若い会社だ」


「へえ!それは楽しみです」

「ああ。時代は変わっている。親父たちの時代とはまったく違う。もっと緒方財閥も新しい風を入れないとな」

「はい」

 そっか。上条グループに行けるんだ。わあ、なんだかドキドキだ。父親が社長のくせに、私、上条グループとはまったく縁がない生活していたから、なんだか不思議な感じだ。


 兄たちは上条グループで働くからと、子供のころに会社訪問をしていたことがあったけれど、私はそういうのまったくしてこなかったからなあ。


「それではそろそろ、広報部に行きましょうか」

 細川女史がスクッと席を立った。あれ?樋口さんじゃないんだなあ。

「インタビューか…。細川女子、今回はなんのインタビューなんだ」

「カランですよ。緒方商事でのニューブランドについてのインタビュー記事を、今度の広報誌や緒方財閥のHPに載せるそうです。カラン立ち上げに一臣様は参加していらっしゃいましたし、実際お子様のいる副社長と弥生様でベビー服やタオルなどを見てもらって感想を聞くという、そんなインタビューのようです」


「面倒だな。まさか、このインタビュー、樋口が受けたのか」

「はい。ご夫婦の仲のよさをアピールできますからね」

「まだ、そんなことをしないとならないのか。もう十分夫婦仲がいいという噂は知れ渡っただろ」

「アピールは何度だってしても、過ぎるということはありませんよ」

 樋口さん、ちょっと怖い。


「まだ、疑っているやつがいるってことか?」

「お子様のことも大事にしているという印象はあるようですが、その辺も含めてもっとアピールしましょう」

「もう十分だろう」

「上条グループとのプロジェクトもこれからが大事な時期です。成功するためにも、上条グループとの繋がりを強化する必要があります」


「……」

 一臣さんの眉間に皴がよった。

「弥生様が上条グループに行かれるというのは賛成です」

「もしかして、上条グループでよくない噂でも流れているのか?樋口」

「まあ、色んな一臣様の悪い噂は、届いていたようですからね」


「悪い?」

 ぼそっと矢部さんが呟くと、

「女性関係の噂ですよ」

と、細川女史がクールに答えた。


「自分で蒔いた種なんですから、刈り取らないとですねえ、一臣様」

 細川女史、そこまで言う!?樋口さんですら今、苦笑したよ?

「……」

 ほら。一臣さんなんて絶句している。


「弥生」

「え?はい?!」

「昔の話だからな?今はまったく何もしていないからな?ここ最近俺が女に手を出して、そんな噂がまた広がったわけじゃないから安心しろ」

「はい」

 あれ?一臣さんの顔が一気に和らいだ。あ、もしかして、私が心配するかと思った?


「細川女史、言い方に気をつけてくれ。こう見えても弥生は繊細なところもあるんだ。特に最近は一緒にいる時間も減って、帰ったらやけに甘えてくるし、他の女性のことも心配することもあるし、俺は浮気なんかするわけないのに、意外と心配性なんだ。だから、そういうことを安易にだな…」

「申し訳ありませんでした」

 細川女子は少し口元を緩ませ謝ると、私に向かって、

「一臣様のほうこそ、心配性ですよね。弥生様は本当に大事にされているし、過保護なくらいですよね、そう思いませんか」

と、内緒話をするように小声で言った。


「聞こえてるぞ、細川女史!」

 あ、一臣さん拗ねた。でも、耳真っ赤…。


 だけど、本当にこの前まで、私、心配して落ち込んでいたし、だから一臣さんも気にしてくれたんだ。私がまた落ち込まないようにって。


 優しい!!最近一緒にいる時間が少なくって、お屋敷でついつい甘えていたけど、それもわかってくれていたんだ。感動。やっぱり、一臣さん、大好き!!!


「弥生、こら。そんなに引っ付くな」

「え?」

 あ、いけない!もう広報部だった。思い切り無意識に一臣さんの腕にしがみついてた。

「ごめんなさい。無意識で、つい、いつもの癖が」


「いつもの癖?」

 もう応接室に来ていた広報部の女性に目を丸くされた。後ろでくすっと細川女史が笑い、その横でなぜか矢部さんは赤くなっていた。


 樋口さんは、別件で忙しいようで来なかった。そういえば、最近、15階のオフィスにいることもあまりないなあ。


「では、インタビューを始めてよろしいでしょうか」

 いつもの広報部の女性が1人、男性のカメラマンが1人。それから今日はカランの代表の女性が2人参加している。みんなの前にお茶が用意され、インタビューは始まった。


「本日は新しい緒方商事のブランドカランから、新商品が出ることとなり、それについてのインタビューをさせて頂きます。私は広報部の市川、カメラは小岩さんが担当します。宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」

 その場にいた人がみんな頭を下げた。あ、一臣さんを除いてだけど。一臣さんは黙ってお茶を一口すすった。


「えっと…」

 なんとなく一臣さんの圧を受けたのか、市川さんは言葉が出てこなくなったようだ。

「あ、わたくし、カランの宣伝担当、横須賀です」

「わたくしは、カラン営業担当、田浦です」

「緒方弥生です。宜しくお願いします」

 ぺこり。また一臣さん以外がお辞儀をした。


「副社長はカランの立ち上げのプロジェクトチームに参加されていたと聞きました」

「ああ。そうだな。みんな優秀だから、参加していたといっても全てを任せていたが」

「ここに商品があるんですが、今日は特にベビー服とタオルについて、宣伝担当の横須賀さんから説明をお願いします」

 横須賀さんは流暢に商品についての説明を始めた。


 私はベビー服とタオルを触ってみて、どうですかと質問され、柔らかくて手触りがすごくいいと素直に答えた。すると、

「ああ、そうだな。これなら赤ちゃんのデリケートな肌でもいいな。うちの壱弥も、最近あせもができてきたしな。汗も吸い取ってくれるらしいし、ありがたいな」

と、聞かれてもいないのに一臣さんは答えだした。


「まあ、あせもが…」

「タオルも柔らかいな。そうだ。バスローブはないのか?子供用のバスローブもあれば便利だ。なあ、弥生」

「そうですね」

「風呂から出ると、はいはいして大変なんだ。バスローブみたいにすぐに羽織るものがあれば、裸でいられるよりいいだろ?」


「はい。今は2人でなんとかパジャマ着せていますけど、歩くようになったら逃げ回って着せられないかも」

「壱弥様、やんちゃなんですね」

「やんちゃもやんちゃ、とんでもないやんちゃだ。部屋の中をハイハイしまくっていて、家ではゆっくり仕事もできない」

「お仕事をお屋敷でされているんですか?」

 市川さん、一臣さんのプライベート気になるのかな。


「仕事をオフィスでしないで持ち帰ればそれだけ、弥生や壱弥といられる時間ができるから持ち帰っている。今でも壱弥が寝てから仕事をしている」

「へ~~~」

「意外に子煩悩なんですね」

 小岩さんの一言に、一臣さんは「意外はよけいだ」と文句を言った。


「あ、すみません」

 小岩さんは慌てて口を閉じた。

「壱弥様と遊んだりするんですか?」

 今度の質問は横須賀さんだ。30代前半かな。ショートの髪が似合う、仕事ができそうなキャリアウーマン風な人。


「壱君、あ、壱弥はパパ…、あ、一臣さんと遊ぶのが大好きで、一臣さんが帰ってくるとべったりくっついて離れないんです」

「へ~~~~~」

 その場にいる人全員が、矢部さんまでが目を丸くした。


「毎日早くに帰れるわけじゃないから、早くに帰れた時くらい遊んでやらないとな…」

「お優しいんですね~~~」

 市川さん、目がハート…。市川さんはまだ独身らしいし、30にもまだなっていないって言ってたっけ。

 

「カランのことはいいのか。俺のことばかり聞いてもしょうがないだろ」

「あ、すみませんでした」

 市川さんが慌てた。そして、カラン営業担当の田浦さんにも質問したり、今後の展開や、カランに向けての一臣さんの意見などを聞き、インタビューは終わった。


「今度、ベビー服を着ている壱弥様と、一臣様と弥生様の写真を撮ってもよろしいですか?」

「駄目だ」

「え?」

 市川さんの言葉にあっさりと一臣さんは首を横に振った。


「そうだな。壱弥の顔を見せないでというならいいぞ。後ろ向きに抱っこするとかしてな」

「あ、はい。壱弥様の顔はお見せしないように気をつけます」

 市川さんはそう告げ、ね?と小岩さんにも返事を促した。

「はい」

 小岩さんはそれだけ言うと頷いた。


 インタビューは終わり、カランの担当者と一臣さん、細川女子は応接室を出て行った。私はその場に残り、次の取材を受けることとなった。


 5分休憩に入り、応接室に現れたのは託児所の所長。今度は、託児所のことでのインタビューだった。

 また市川さんと小岩さんも現れ、インタビューは始まった。


 一臣さんがいないとすごく緊張もするし、心細い。

「弥生様はプロジェクトに参加され、その後託児所にお子様である壱弥様を預けていらっしゃいますが、会社に託児所があるのはいかがですか」

「はい。モニターで様子も見れますし、何かあればすぐに会いに行けますし、安心です」

「そうですよね。同じビルにお子様がいるって言うだけでも安心ですね。それにモニターで様子も見れるんですね?!」


「はい。預けているお母さんたちと話す機会もあるんですが、会社から遠いところだと、熱が出たとか具合が悪くなった時とか、なかなか駆けつけられなくて、すごく心配するとかで…。それに、隣のビルにある小児科ですぐに診てもらえますし、とても安心できると言っていました」

「そうですよね。そういった意味では本当に助かりますよね」


「はい」

「弥生様のお子様、壱弥様も病気をされたりしましたか?」

「いいえ。うちの子はまだ。最初は私が離れるとき大泣きしていました。でも、最近は託児所に行くとすぐ嬉しそうにおもちゃで遊ぶようになりました。お友達もいるし、保育士さんたちも優しいし、楽しいようです」

「実際、託児所で働いている所長さんに伺いたいのですが、どういったことに注意をしていますか」


 次は私ではなく、所長へのインタビューになり、私はほっと胸を撫で下ろした。緊張した~~~。なんでいつも一臣さんって、どうどうとしているのかな。すごいよなあ。


「今日はありがとうございました」

 30分でインタビューも終わり、私は矢部さんと所長と一緒にエレベーターホールに行った。

「最近、白岡さんは副社長のこと気にしたりしていませんか」

「え?」

 所長の言葉に、私は思わずびっくりしてしまった。


「えっと、特に何も一臣さんのことを聞かれたりしませんけれど」

「そうですか」

「何か気になることでも?」

 矢部さんが疑うような目で見て、所長に聞くと、

「あ、いえ。気になさらないで下さい。ただ、まだしつこく聞いたりしているようなら注意をしないとと思っただけです」

と所長はにこりと微笑んだ。そして、下りのエレベーターが先に来て、所長は降りて行った。


 白岡さんのことなんて忘れてた。託児所に行っても、私に話しかけてくることすらなかったし。なんだか、ちょっとだけ気になるなあ。所長のあの何事もないから大丈夫と言わんばかりの笑みが、逆に不安を感じさせた。



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