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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 仕事復活です!
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第5話 気になる若い保育士さん

 その日の帰り託児所に行くと、壱弥は他の子や保育士さんと楽しそうに遊んでいた。

「壱弥君、お母さんが迎えに来たよ」

 その言葉で壱弥は私を見ると、すごい速さでハイハイしてきた。


「壱君、おりこうさんにしてた?」

「すごくおりこうさんでしたよ。いっぱい遊んだし、お昼寝もしたし」

「そうだったんですか?泣いたりしていませんか?」

「はい。お母さんが行ってから、15分くらいでおさまりました」


 え、15分も泣き続けた?

「すみません。迷惑かけて」

「いいえ。最初の頃はみんなそうだから、気になさらないで下さい」

「はい」

 さすが、保育士さんはプロだなあ。そういう苦労はいっぱいしてきたんだろうなあ。


「あの、今日は副社長は?」

「一臣さんだったら、まだ仕事中です。私が先に終わったから迎えに来ました」

 そう若い可愛らしい保育士さんに言うと、

「まだお仕事ですか。大変なんですね」

と、ちょっとがっかりしている様子。


 えっと、なんでがっかしりたかな?一臣さんに会いたかったのかな?


「壱弥君、また明日ね」

 その若い保育士さんは、壱弥ににっこりと微笑んだ。壱弥もにこにこしている。

「今日は1日ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀をして、壱弥を抱っこした。荷物は一緒に来てくれていた矢部さんが持ってくれた。


 バタン。ドアが閉まると、

「副社長の奥様は礼儀正しいのね」

「私たちにまで、あんなに丁寧に挨拶してくれて」

「副社長夫人って感じがしないわ」

という話し声が聞こえてきた。


「……」

 矢部さんはその時黙っていたが、エレベーターに乗ると、

「きっといい意味で言っていたんですよね」

とぼそっと呟いた。

「あ、大丈夫です。気にしていないですから」


「え?」

「副社長夫人に見えないって、自覚していますし。って、こんなこと言うと一臣さん怒るかも」

「一臣様が?」

「自覚しろって言われています」

「私はいいと思います。今のままの弥生様で!」

「あ、はい。ありがとうございます」

 矢部さんがいきなり力強く言ってくるから驚いた。


 15階のオフィスに行き、壱弥は樋口さんを見るとはしゃいだ。知っている顔を見れて嬉しかったのかもしれない。樋口さんも目尻を下げて喜んでいる。

「壱君、パパの部屋に行こうか」

「ぱ~~っ」

 ノックをしてからドアを開けた。


「ああ、壱、いい子にしていたのか?!」

「あ~~~!」

 一臣さんはソファから立ち上がり、壱弥を抱っこした。壱弥、大喜びだ。きゃっきゃと嬉しそう。

「壱君、パパに会えてそんなに嬉しいの?」

 そう私が聞くと、

「そりゃ、嬉しいだろ」

と一臣さんがドヤ顔をした。


「さて、仕事も終わったし帰るか」

「すぐに帰れるんですか?」

「ああ、帰れるぞ」

「あ~~~」

 言っている意味がわかるのか、壱弥はまた喜んだ。


 帰り道の車の中、

「壱君、朝は15分泣いていたんですって。でも、そのあとはいい子にしていたみたいです」

と私から一臣さんに報告した。一臣さんは嬉しそうに聞いている。そして、

「若い保育士さんが、迎えに行ったのが一臣さんじゃなくてがっかりしていました」

と、そこまで報告すると、一臣さんは片眉を上げた。


「それはどうでもいい」

「う、そうですか」

「なんだよ。なんか気になるのか?」

「いいえ。一臣さんはモテるなあって思っただけです」

「……。だから、なんだ?」


 一臣さんが眉間に皺を寄せた。

「い、いいえ。何でもないんですけど」

「ふん。いまだにそんなことを弥生は気にするのか。周りの女のことなんか、とっくに気にしなくなったと思ったのにな」

「……ちょっとだけ、気になっただけです」


  ぐにっ。一臣さんにほっぺを掴まれた。

「痛いでふ」

「弥生のほっぺはつっつくと柔らかいのに、掴むと硬いな」

「誰と比べてですか?」

「またそういうことを言う…、ああ、そうか。あれか!」


「はい?」

 なんか、一臣さんの表情がいきなり明るくなった。

「欲求不満か。そういえば、昨日はしなかったもんな」

「そういうことじゃないですっ」

 もう~~~~。この人は…。


「じゃあ、何なんだ。今さら…。なあ?壱もそう思うだろ?他の女なんかどうでもいいのは、わかりきっているだろうに。変なやつだ」

 変なやつ扱いされた。ただ、突然気になっちゃっただけなのに。ずっと寮で家族水入らずで生活してて、他の女性の存在もなかったから、なんだか急に気になっただけで。


 でも、一臣さんの周りにはいつでも、綺麗だったり可愛い女性がいるんだよなあ。

「もし、可愛らしい若い子が言い寄ってきたら、どうします?」

「どうもしない。放っておく」

「すっごく可愛いんですよ?アイドルとか」


「まったく興味ない」

「でも、一晩だけでもいいんですっ!って抱きつかれたら?」

「……う~~ん。もし、弥生にそう言われたら、一晩だけと言わず毎晩でもいいぞと言い返す」

「いえ、私じゃなくてですね」

「そうだな。なんて言われたら、俺を落とせるかな?」


「え?」

「例えを言ってみろ」

 例えを?

「えっと~~。例えば、えっと~~~」

 そんなこと言ったことないからわかんない。そんなドラマとかあったっけ?


「例えば、何でも言うことききますから!とか」

「へ~~~、何でも言うことを…」

「あれ?そんなことで、グラつくんですか?」

 今、にやけたよね。


「いや、グラつかない。他には?」

 あ、真面目な顔になった。

「えっと~~~。愛人でもいいですとか」

「却下」

「う~~~ん。一生のお願いですとか」


「面白くない」

 面白がってる?

「そんなことで俺を落とせると思っているのか?」

「じゃあ、じゃあ、抱いてくれなかったら、死んじゃいますとか」


「……」

 あ、眉上がった。

「そうだな。もう少しだな」

「抱いてくれるまで離れませんって言って、しがみつかれちゃうとか」

「それはいいな!よし。帰ったら、弥生が実践して見せろ」

「は?」


「弥生から、抱いてくださいなんて言われてみるのもいいよな」

「だから、私じゃなくて!」

 あ~~、一臣さんがにやにやしている。駄目だ。これは面白がっただけだ。もう。

「エロ親父」

 ぼそっと言うと、一臣さんは私を睨み、

「他のやつには絶対に、抱いてくださいなんて言うんじゃないぞ」

と、わけのわからないことを言った。


「言うわけないです。っていうか、一臣さんにも言いません」

「へ~~~、そうか。じゃあ、今後ずっと抱かれないでもいいんだな」

「いいですよ」

「ほんと~~~に、いいんだな?」

「はい」

 困るのは一臣さんじゃない。


「じゃあ、俺が他の女で済ませてもいいんだな?」

「え?!」

 何それ!?

「も、もし、私が拒否していたら、他の人のところに行くんですか?」

 うそ。


「あ、嘘だ。そんなに真っ青になるな。泣くな。行くわけないだろ。そもそも、弥生が意地悪なことを言うからだ」

「い、意地悪なんて…」

「いいか。とにかく、俺は弥生だけなんだ。いい加減他の女のことを気にするのはよせ。前に言ったろ?弥生しか抱きたいと思わない」


「……」

「本当にどうしたんだ?おかしなやつだな」

「はい。久々に会社に行って、他にも綺麗だったり可愛い女性はいっぱいいて、一臣さんはモテるんだってこと、思い出しただけです」

 チュ。一臣さんは私の頬にキスをして、私の腰に手を回した。片手では太ももを撫でている。


「今日は早くに帰ってきたし、思う存分抱けるぞ」

「そういうことを言ったわけじゃ…」

「そういうことだろ?満たされたら、そんな不安もふっとぶ」

 そうなのかな。私、やっぱり一臣さんに愛されたいのかなあ。


「今日あたり、壱もちゃんと寝てくれるだろ。な?壱。って、車で寝ちゃっているなあ」

 壱弥を見ると、気持ち良さそうに寝ていた。

「大丈夫です。ギュって寝る前に抱きしめてもらえるだけでも」

「そうか?だが、俺が抱きたいんだけどな…」

 そう一臣さんは言うと、私の頭に頬ずりした。


「まあ、弱くなっている弥生も可愛いんだけどな」

「え?」

「どんな弥生も可愛いんだけどな」

「……」

 そんなことを言われて嬉しいような恥ずかしいような…。


 そして、夜。壱弥は昼間託児所で遊んだせいか、しっかりと寝てくれて、私は一臣さんに思い切り愛してもらえた。

 ああ、満たされた。やっぱり、欲求不満だったのかなあ?



 翌朝、元気に壱弥を連れて託児所に行った。すると、あの若い保育士さんが、また私を見てがっかりしていた。

「あの、副社長は?」

 小声で聞いてきたので、私も声を潜め、

「すでに15階に行っています」

と答えた。


「お忙しいんですね」

「そうですよ、一臣様のスケジュールは分刻みです。あなたの名前は?」

 うわ。荷物を持って一緒に来てくれた樋口さんが、若い保育士さんに無表情で話しかけた。さすが、地獄耳というか、小声で話していても聞こえちゃうんだな。


「え、えっと、白岡です」

「白岡さんですか。なぜ副社長夫人にわざわざ、副社長のことを聞くんですか」

「す、すみません。特に意図があるわけじゃなくて、お忙しい方なんだな…と思っただけで…その…」

 白岡さんは、樋口さんの威圧的な言葉にたどたどしく答えた。


「白岡さん、副社長とはなかなかお目にかかることはできませんし、この前お会いできたのは、最初で最後かもしれないぐらい、私たちにとって雲の上のような存在です。それも、緒方財閥にとって大事なご子息をお預かりしているんです。浮ついた気持ちでいてもらっては困ります」

 そう言ったのは、託児所の所長さんだ。


 一番年長の女性が所長と思っていたら違った。まだ30代のふくよかな女性が所長さんで、優しそうなのに保育士さんたちには厳しくビシビシとよく怒っている。

「すみませんでした」

 白岡さんはぺこりと頭を下げ、すぐに奥の部屋に消えた。


「申し訳ありませんでした。あの子は何もわかっていない若輩者で」

「い、いいえ。そんな…」

 ひゃあ。なんか、この人、礼儀正しすぎる。

「では、今日も壱弥のこと、よろしくお願いします」

 託児所を去ろうとすると、また壱弥がギャピーと泣いた。でも、心を鬼にしてドアを開け、振り返ることもせず私も樋口さんも廊下に出た。


「こ、心が痛い…」

 そう言うと、樋口さんまでが、

「私もです」

と顔を曇らせた。


 だが、樋口さんはすぐに表情を戻し、

「白岡という保育士、ちょっと要注意ですね」

と小声で言った。

「何がですか?」

 え?まさか、一臣さんに言い寄るから?


「壱弥様に対して、変な感情を抱かれなければいいんですが」

「一臣さんにじゃなくて、壱君に?」

「一臣様に想いを寄せているなら、その息子である壱弥様に対しても特別な感情を抱く可能性もありますからね」

「そ、そうか…」


「壱弥様は、一臣様に似ていらっしゃいますし」

「ですよね。私よりも一臣さん似です」

「まあ、あの所長がいますから、なんとか対処してくれるでしょう」

「あの所長、しっかりしていますよね」


「ここだけの話ですが」

 エレベーターに乗り込んでから、樋口さんはさらに声を潜め、

「託児所の所長は、辰巳氏の姪御さんです」

と教えてくれた。

「え?そうなんですか」


「やはり、彼女の父親が侍部隊にいて、彼女もそれなりの訓練を受けています。ああ見えて柔道も強いですよ」

 そうなんだ!なんだか目つきも怖いと思った。辰巳さんと同じ血が流れているからか。


「ですが、白岡という女性、一臣様や辰巳氏に報告しておきましょう」

「はい」

 一臣さんに気があるかも…。と、私はちょっと気にしただけだけど、それが壱弥にも影響するかもしれないんだ。


 そんなことまで、樋口さんは気を配っているんだな。だけど、樋口さんの取り越し苦労で終わったらいいな。なんて、そんな暢気なことを私は考えていた。



 






 





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