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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 新しい試練
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第8話 私も心配性

 誕生日パーティも無事に終わり、ダンスのレッスンの時間はなくなった。でも、英語とマナーの時間はまだある。


 このマナーの先生も厳しくって、見た目は清楚でお上品なお嬢様風なのに、授業になると顔つきまで変わる怖い先生だ。まだ、30代前半というが、貫禄もある。


 ただ、授業が終わると優しくなる。

「先生はご結婚は?」

 話の流れでそう聞いてみると、

「わたくしは多分、一生独身ですわ」

と先生は静かに返事をした。


「そうなんですか」

 何か深い意味でもあるのか、だけど、聞いていいかどうかもわからずそう答えると、

「一臣様くらい素敵な方が現れれば、即結婚しますけどね」

と微笑んだ。


「え…」

 冗談かな。本気かな。もしや、一臣さんに気があったり。


「どうもねえ、いろんな方と接する機会が多いんですが、おめがねに叶う人が現れないんですのよ」

 え!それってつまり、理想が高い?

「一臣様はその点、すべてが揃っていますわね」


「それは、えっと、どのへんが?」

「まあ!あなた、それもわかっていなくて結婚なさったの?」

「いいえ。素敵だと思いますけど、先生にとってどのへんが揃っているポイントなのかなって」

「すべてですよ。お家柄、容姿、能力、人望、将来も絶対的に保証されている」


「あ、えっと、内面は?」

「内面?」

「性格というか」

「それは必要かしら」


「え?!」

「結婚は経済力があって、将来が保証されていて、それだけでいいのではないかしら?」

「…」

「あとは、家柄かしら。わたくしの仕事をしていく上で、バックアップしてくれるもの。お家柄、経済力、人望、それだけでよろしいわ」


 うそ。中身関係ないの?一生共にする人なのに?


「見た目はそんなに重要視していませんの。でも、できましたらいいにこしたことはないでしょう?目の保養にもなるし。ただ、一臣様の場合、女性遊びが過ぎた…。あれは、わたくしにとってマイナスになるでしょう?旦那さんがあちらこちらで浮気していたら、わたくしの名にも傷がつく」

「…。傷?心がじゃなくって、名前にですか?」


「ええ。だけど、結婚してみたら、あなたのことを随分と可愛がっていて、すごく仲がよろしいみたいですし。浮気なんてしていないようですしね。それだったら、わたくし、一臣様と結婚してもよかったのにって、少し後悔しておりますのよ」

 はあ?どういうこと?


「わたくし、プロポーズされたらOKしていましたわ」

「あの、プロポーズもなにもなくてですね、前もって結婚が決まっていたというか」

「あ、政略結婚ですものね。ほほほ。わたくし、旧家なんですの。緒方家とつり合いは取れますわ。実はわたくしの先祖は」

 先生の話が長く続きそうになった時、

「失礼します。レッスンは終わりましたか?弥生様、申し訳ないですが、壱弥おぼっちゃまが」

と日野さんがノックと共に入ってきた。


「え?壱君が何か?」

「そんなに具合は悪くないんですけど、ただ、ぐずってなかなかお昼寝をしてくれなくて」

「じゃあ、すぐに行きます。先生、すみません。今日もありがとうございました」

「…いえ」

 先生には簡単な挨拶しかできず、でも、壱弥のことが気になるからすぐに応接間を出た。


「熱は?」

「ないです。食欲もあったし。ただ、昨日もなんですけど、わたくしどもでは、寝かしつけてもぐずるばかりで」

「…どうしたんだろう」

 日野さんの言葉に、私はちょっと不安を感じながら寮に戻った。


 ドアを開けると、モアナさんが壱弥をなんとかなだめている声と、壱弥のぐずる声が聞こえてきた。

「壱君、どうしたの?」

 その声を聞き壱弥は私を見て、

「あ~~~~」

と私のほうに手を伸ばしてきた。


「弥生様」

 ほっとモアナさんが安堵の表情を見せた。壱弥を私が抱っこすると、壱弥は私の胸に頬ずりをして、すっごく安心した顔になり、にこにこし始めた。


「やっぱり、弥生様がよかったんですねえ」

「日野さん?」

「最近、弥生様と一緒にいる時間も増えたからでしょうか。お母様と別の人という区別がついてきたんでしょうか。違うんですよねえ、壱弥おぼっちゃまの顔が」


「そうなんですか」

「元気に遊んでいる間はいいんですけど、眠くなったりすると、不安になるんですかねえ」

 私は壱弥をぎゅっと抱きしめてから、

「おねむでしょう?ねんねしようね」

と、ベッドに近づきながらゆらゆらした。


 壱弥はそのまま、すぐに目を閉じて寝てしまった。そっとベッドに寝かせ、

「ごめんなさい。大変な思いをさせていますよね」

と、日野さんとモアナさんにそう言った。


「いいえ、わたくしたちのことは、気になさらないで下さい」

「……壱君、まさかの人見知りなのかな」

「それだけ、成長されたんですよ」

 日野さんの言葉に、モアナさんも頷いた。


 でも…。これから、託児所にも預けないとならないのに。


「ここのところ、ずっとそうだったんですか?」

 日野さんに聞くと、

「一臣様の誕生日パーティ以来ですかね?」

と日野さんが答えた。


 あの時もずっと、日野さんとモアナさんにみてもらっていた。大変だったのかな。パーティに連れてきたら良かったかな。


 夜、一臣さんが帰ってきてから、そんな話をすると、

「パーティには無理だろ。人もたくさんいたし」

と簡単に言われてしまった。


「託児所は、始めは苦労するかもしれないが、慣れたら大丈夫だ」

「そういうものですか?」

「他の赤ちゃんだってそうだろ?」

「…そうかもしれないんですけど」


「弥生は、心配性だな」

「う…。ですよね。壱弥のこととなると、どうも。一臣さんはそうでもないですよね」

「俺か?俺も心配な部分もあるが。どうやら、俺にとって一番は弥生らしいからな」

「一番というと?」


「だから、一番心配な対象。溺愛しているやつ」

 私ってそんなに心配されられるような、危なっかしいのかなあ。


「そうだ。今日、マナーの先生に変なこと言われたんです」

 今日あった会話をそのまま一臣さんに言うと、

「ああ、結婚も条件でしか考えないやからってことか」

と一臣さんは片眉をあげた。


「まあ、ほとんどがそうじゃないのか。経済力、仕事の安定、生活の保証、大事なことだからな」

「旦那さんに浮気されたら、心じゃなくて先生の名前に傷がつくって言っていました」

「そういうやつは、一生独身のほうがいい。自分だけの責任を負えばいいからな。結婚相手の不祥事を背負い込まなくて済むだろ」


「不祥事?」

「不倫とか?女癖悪いとか?あとは、賭け事だの、仕事の失敗だの。まあ、いろいろと自分の名を売って仕事をしているんだ。結婚も自分の不利になるようであれば、したくないんだろ」

「…そっか」


「弥生が悩む必要はない。その先生だって自分は独身でいるって言っているんだろ?正解だな。もし、俺と結婚したとしても、その先生が相手だったら俺は浮気し放題しているな。俺とは結婚しないほうが先生にも良かったってことだ」

「浮気し放題するんですか」


「弥生以外と結婚していたらそうなるな。断言できる」

 えらそうに言うことかなあ。あ、でも。

「じゃあ、私と結婚して良かったんですね」

「当たり前だ!」

 うわ。嬉しい。思わず一臣さんの胸にダイブした。


「なんだよ、今夜はもう遅いから無理だぞ」

「そういうことじゃないです。ただ、抱きつきたかったんです」

 壱弥はもう寝ていた。一臣さんは洋室の電気を消すと、

「俺らも寝るか」

とベッドに潜り込んだ。


 私は一臣さんの腕枕で、幸せを感じつつ、また話を始めた。

「パーティ、いろんな人が来ていましたね」

「親父が、俺を認めたんだろ」

「一臣さん自身を?」


「後継者として認めたんだろ」

「未来の社長として?」

「いいや。緒方財閥の総帥の後継者だ」

「…」

 それを聞くといつも、胸を締め付けられる。一臣さんはそんな重い責任があるんだよね。


「前よりも、いろんなことを相談されるようになった」

「お義父様からですか?」

「ああ。前は親父一人で決めていたことも多かったからな」

「それは、素晴らしいことですよね!」

「責任重大だけどな」


「…。そ、そうですけど。でも、これって世代交代ってことですよね」

「ああ、そうだな」

「そっか。じゃ、私も頑張らないと」

「そうだな。気合入ったか?」


「え?はい」

「壱のことも、まだ心配だろうが、気合入れば大丈夫だな」

「はいっ。頑張れます」

「壱も、成長段階ってわけだ。俺らもな」

「そうですね。私たち親も成長しないとですね」


 ひそかにガッツポーズをしていると、一臣さんはにんまりと笑って私を見た。

「弥生」

「はい?」

「あのパーティは、どうやら相当な宣伝効果があったようだぞ」

「宣伝と言うと?」

「緒方財閥の次期総帥は、奥さんと仲が良い」


「やっぱりアピールしていたんですね。それが目的だったんだ」

「いいや。一番の目的は可愛いドレスを着た弥生と踊りたかった。それだけだ。あとは、おふくろに弥生がダンスのレッスンを終えてもいいくらい成長したってことを見せたかった」

「それも目的?」

「ああ。合格点もらっただろ?」


「一臣さん!ありがとうございます」

 ぎゅっとまた一臣さんを抱きしめた。一臣さんってすごいな。一臣さんと一緒だとなんでもできちゃう気がする。

「マナーも、英語も大丈夫だ。弥生なら頑張れるしな」

「はい」


 ちょっと弱気になっていたけど、なんだか力が湧いてきた。

 よ~~し。頑張るぞ!


 今度はおおっぴらにガッツポーズをした。それを見て一臣さんはくすっと笑い、

「いつもの弥生だな」

と私の頭を撫でてくれた。


 この辺がやっぱり、溺愛されているところなんだろうなあ。




 

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