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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 新しい試練
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第5話 激甘な一臣さん

 託児所新設のプロジェクトは、私がいなくても大丈夫なくらい順調に進んでいるし、機械金属チームも連携が取れてきて、各自がリーダーとなり各々活動することも増え、私がサポートしなくても大丈夫なようだ。


 託児所ができるまで、やんちゃな壱弥をオフィスに連れて行くのも大変だし、英語だのダンスだのお作法だの、いろんなことを数ヶ月で覚えなくちゃならなくなったし、私は託児所がスタートするまで仕事をお休みすることにした。


 一臣さんは反対した。平日は仕事をして、帰ってから特訓を受けたらいいと。だが、

「それでもよろしいですよ。ただし、すぐにお屋敷に戻ってきなさい。そして仕事が終わってから、毎日3時間は特訓。休日は丸々1日かけて特訓です」

と、お義母様に脅され、

「託児所ができるまでは、寮にいていいという約束ですっ!それに休みの日には家族3人でのんびりしたい」

と私が訴え、私に激甘の一臣さんは、「しょうがないなあ」と簡単に折れてくれた。


 まあ、一臣さんも休みの日の家族水入らずの幸せなときを、奪われたくはなかったんだろうな。


「しかたない。壱もオフィスでじっとしていられないようだし、託児所ができるまで屋敷に置いておこうかと思っていたしな。託児所は7月にスタートだろ?だから、1ヶ月半くらいだな」

「たったそれだけで、英語をマスターできません」

 顔を引きつらせながらそう言うと、

「マスターなんかできなくたって、ちょっとした日常英会話ができりゃいいんだ。マナーやダンスなんか、ちょっとやれば身につくだろ?」

と、一臣さんはあっさりとそう言ってきた。


 一臣さんとは違うの。そんなに簡単にできるとは思えないよ。人間、向き不向きってあるんだよ。特にダンスなんて、武道家の私ができるわけないよ!


 そんな思いを込め、一臣さんを見つめていると、

「ダンスはたまに俺が相手になってやる」

と一臣さんは余裕の笑みを見せた。


 そうか。それはかなりテンション上がるかも。一臣さんはきっと、王子様なみに上手なんだろうな。

 じゃあ、私はお姫様?なんつって!


 という考えが、思い切り甘かったことをその後数日で思い知った。


 とにかく、英語もマナーもダンスも、教えに来てくれた先生たちが超スパルタ!

 それも、お義母様も暇があると、休日ですら私を呼び出し、ダンスの特訓を始める。


「弥生さん、なんだってあなたはそんなに、リズム感がないの?ステップをどうやったらそんなに、間違えられるの?」

 散々嫌味を言われ、打ちのめされて寮に戻ると、

「おかえり、弥生」

と、一臣さんがなんと昼食を作ってくれていた。


「うわ~~~!一臣さんの手料理?」

「言っただろ?カレーやパスタぐらいしかできないが、アメリカでも作っていたって」

「カレーですね、いい匂い」

「ただのカレー粉入れただけとは違う。ちゃんといろんなスパイスも入れた。コック長に持ってきてもらってな」

「そうなんですね」


 ああ、頑張った甲斐があったというものだ。私へのご褒美だわ。


「壱君、その間大人しくしていたんですか?」

「樋口が面倒を見ていた」

「え?樋口さんが来ていたんですか?」

「1階のキッズルームでな。等々力も来ていたらしいぞ」

「みなさんに迷惑かけているんですね」


「逆だ!みんな、壱と遊びたがっているんだ。これは、みんなの役に立っていることだ」

 そうか。でも、本当にそうかも。樋口さんなんて孫でもできたかのような、可愛がりようだもんね。


「どうだ?少しは踊れるようになったか」

 カレーを食べながら一臣さんが聞いてきた。壱弥はすでに離乳食を終え、リビングでめずらしく大人しく遊んでいる。多分、午前中思い切り遊ばせてもらったんだろうな。


「う…」

 踊るって段階にもいっていない気がする。

「午後は俺がみてやる」

「ええ?一臣さん、きっと呆れます。いえ、怒り出しちゃうかも」

「弥生を?俺が?」


「……」

 それはないか。何しろ、激甘だったんだ。

「よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、頭を撫でられ、

「手取り足取り腰取り、教えてやるぞ」

と一臣さんはにんまりと笑った。


 スケベなこと考えてる?でも、こういうのにも慣れてしまった自分が怖い。このくらいじゃ、顔が火照ることすらないなんて。


 昼食後、少しだけリビングでまったりとしてから、すっかり寝てしまった壱弥を起こさないように抱っこをして、一臣さんとお屋敷に行った。壱弥はベビーラックを国分寺さんに運んでもらい、大広間に寝かせてから、

「さあ、特訓だ」

と一臣さんはにやりと笑った。


 なんだか、怖いかも。もしかして、一臣さんもスパルタだったり。


 ちょっとびくつきながら、一臣さんのそばによると、ぐいっと腰に腕を回して、

「国分寺、音楽かけてくれ」

と、一臣さんはまだ寝ている壱弥を眺めている国分寺さんに頼んだ。


「はい。ダンスの音楽ですね」

「ああ、練習用のを頼む」

「音楽に合わせてなんて無理です。そういう段階じゃないんです」

「いいから。ほら、手!」


 一臣さんの差し出した手に、私の手を乗せた。

「国分寺、音楽かけたらもう下がっていいぞ」

「はい」

 国分寺さんは静かにドアを閉めた。


 そして、すぐに大広間には音楽が流れ出した。なんだっけ、この曲知ってる。ワルツ?中学のときに音楽の時間に聞いたような…。


「決まりきったステップとか、気にしなくていいぞ。俺に合わせて動いていればいい」

「そう言われても」

 心臓をドキドキさせながら固まったままでいると、いきなり一臣さんが私の腰を持って回りだした。


「う、うわ」

「一歩後ろだ」

「は、はい」

「次は前」

「はい」


「次は横に一歩」

 一臣さんがすごく軽やかに、横に移動した。私が足を動かそうとする前に、なぜか一臣さんと一緒に足が出る。


 なんだろう、これ。一臣さんの動きに合わせて、私、勝手についていっちゃう。まるで、私、人形にでもなったかのように。


 クルッと一臣さんは回った。私の腰を持って軽やかに。それに合わせて、私まで回っちゃう。


 段々と一臣さんは、動くスピードを上げていき、そのうちに音楽とのテンポと同じになった。曲はすでに2曲目に入り、1曲目よりも軽快な曲だ。それに合わせて、一臣さんは動く。


 なんだか、楽しい。なんで?なんで、私、踊れているの?お義母様にあんなに駄目だしされるほど、リズム感なかったはずなのに。

「一臣さん」

「なんだ?」


「楽しいです」

「そりゃ、良かった」

「なぜですか?なんで、私、踊れるんでしょう」

「俺がうまいからだろ」


 ドヤ顔した…。

「ダンスなんて、相手がうまいかどうかだ。リードを取ってくれるやつに任せておけば、踊れるんだよ」

 クルッとまた回った。そして、リズミカルに踊った次の曲は、なんだか、ムードのあるゆっくりめの曲。


「今度は、チークタイムだ」

「チーク?」

 一臣さんが両手を私の腰に回してきた。

「弥生は、俺に体全部預けていいぞ」


 そう言われて、一臣さんの胸に顔を当てた。チークって言うから、本当だったら頬と頬?でも、身長差があるから、一臣さんの胸に顔がくっつく形になっちゃう。


 でも、一臣さんの動きに合わせて私も揺れてみた。ひゃあ。一臣さんとチークダンス!これは、照れる!


「か、一臣さん、チークも上手ですね。よく踊るんですか?」

「こんなの、誰だってすぐに踊れる」

「…よく、女の人と踊っていたんですね?」

 質問に答えてくれないから、もう1回質問してみた。


「2回くらいだ。ダンスは、おふくろに覚えろと言われ、嫌嫌覚えたし、アメリカやヨーロッパでどうしても、ダンスしなくちゃならない時だけ踊った。まあ、チークは日本のパーティでも、踊ったことがあるけどな」

「誰と?」

と聞いてから、

「いえ!いいです。言わなくて」

と、思い切り一臣さんの言う言葉を遮った。


「ユリカと、汐里と、あとはアメリカで誰だかわからない、上流階級のマダムとかいうやつだ」

 言わなくていいって言ったのに!

 う。そうか。マダムとか、汐里さんはいいけど、ユリカさんとも踊ったんだ。


 一臣さんはいきなり揺れるのをやめて止まると、私をぎゅうって抱きしめてきた。

「はあ」

 ん?なんだか、満足している感じでため息をしたぞ?


「ダンスも弥生となら楽しいな。こんなに楽しんだことはないぞ」

「え?そうなんですか?すごく上手だから、いつもダンスを楽しんでいるのかと思いました」

「いいや。いつも仕方なく踊っていただけだ。誰が好き好んで、こんなことをするもんか」

 そうなの?でも、上手なんだ。一臣さんって何やってもうまくこなせちゃえるのかしら。


「これからも、時々踊ろうな?」

「はい。私も一臣さんとだったら、すっごく楽しいです」

「ふん、可愛いやつだな、本当に」

 そう言うと、また一臣さんは私をぎゅうって抱きしめ、それから、壱弥が寝ているベビーラックの隣の椅子に二人で腰掛けた。


「喉渇いたな。何か持ってきてもらうか」

 電話で国分寺さんに頼むと、一臣さんは壱弥を優しい目で見つめ、そのまま優しい目を私に向けた。

「英語はどうだ?」

「き、聞かないで下さい」


 実は、英語の先生から半分、見放されているじゃないかって最近思ってた。お母さんが日本人、お父さんがイギリス人、で、本人は4年間、アメリカで住んでいたという30歳の女性。


 旦那様はアメリカ人で、今は夫婦で日本に暮らしているらしいが、日本語が喋れるくせに、まったく喋ってくれない。こっちが日本語を使うものなら、

「イングリッシュ!ヤヨイ!」

と怒られる。


 発音も、私は相当悪いらしく、何度も何度も注意を受ける。私の出来が悪いから、先生方は怖くなるのか、それとも、スパルタの先生方をお義母様がわざとよこしたのか、どっちなのかわからないけど、どんどん自信がなくなっていくのは確か。


 ああ、私、ちょっとやそっとじゃ、へこたれないのに。なんだって、今回は駄目なのかな。苦手意識があるからかしら。こんなで、一瞬でもアメリカに留学を考えていたなんて、思い上がりもいいとこだ。


「じゃあ、今日は英語で話すか」

「は?」

「日本語使ったら罰金。いや、それじゃつまらない。そうだな。5回日本語を使ったら、俺の言うことを聞くってのはどうだ」

 怖い。

「罰金のほうがいいです」


「金貰っても、俺が面白くない。金なんていくらでもあるしな」

 そうだけど!

「大丈夫だ。5回でアウトだから、なんとか4回までに抑えておけばいいんだ。な?」

「その、言うことを聞くってどんなことですか?」


「う~~ん。今はまだ思いつかないから、そのうちに考えておくさ」

 いや、あれは絶対に何か、良からぬことを思いついたっていう顔!

「10回までにしませんか?」

「いいや、5回だ。それとも、1回にするか?」

 酷い。


「わかりました」

 とりあえず、寮に戻ってから、日本語使っちゃいけないゲームを開始することとなった。





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