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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 新しい試練
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第1話 やんちゃすぎる壱弥

 5月。託児所はすでに建設段階になり、順調に進んでいる。

 機械金属プロジェクトはさらに大きくなり、緒方財閥全体のプロジェクトとして展開している。


 そして、カランも六本木の上条グループのビルに、第1号店を出すことになり、着々と今、工事が進められている。2号店は大阪に、それを皮切りに次々と全国にお店が出る。


 9月にはアメリカにもお店が出ることが決まり、カランのプロジェクトチームも大忙しだ。そこに携わる龍二さんも東京、大阪を行ったり来たり。そこには常に京子さんも一緒に居て、この夫婦も仲がいいと評判だ。


 京子さんはおしとやかで、つつしまやかで、私とは正反対の奥様というイメージがあるらしく、どこに行っても男性陣から羨ましがられると龍二さんが鼻の下を伸ばして話していたことがあった。

「ふん」

 一臣さんはそんな時、鼻で笑うだけ。


「まあ、兄貴はどうせ、弥生一筋なんだろうから、羨ましいなんて思わないだろうけどな」

 嫌味なのかひやかしなのかわからないことを、龍二さんが言うと、

「当たり前だ。まったく羨ましいなんて思わない」

と、一臣さんはどや顔で答える。


 まあ、そんなこんなで、この兄弟は仲良くやっている。京子さんは、ちょっと羨ましそうに私と壱弥を見ていることが多いけど。


 二人がお屋敷に来る時は、私たちは寮に住んでいることを隠す。別に龍二だったらいいだろと一臣さんがお義母様に言ったが、そこまで徹底して内緒にしなさいと言われてしまったらしい。だけど、山之内さんにはばれているんだけどな。それはお義母様に内緒にしている。


 いろいろと慌しくなってきている中、壱弥はハイハイをしだし、寮での私と一臣さんの生活も慌しい。

 休みの日にお屋敷に連れて行き、ベビーチェアに座らせてもジタバタと暴れるので床に座らせると、その辺をハイハイして動き回り、メイドさんやコックさんは大喜びだ。


 でも、お屋敷のダイニングも応接間も子ども仕様になっていないから目が離せない。うっかりすると、とんでもないところによじ登っていたり、テーブルの足にぶつかっていたりする。


「壱弥おぼっちゃま!」

 喜多見さんや国分寺さんも右往左往。そんな時は若い亜美ちゃん、トモちゃんが大活躍をする。

 首が据わらない時には、おっかなくってお世話ができないと言っていたトモちゃんも、今は壱弥の面倒をみてくれたり、遊んでくれて大助かりだ。


 すっかりあったかくなって、というかすでに夏のような日差しにもなってきて、庭園でのピクニックが気持ちよくなってきた。休日のお昼はシートを広げ、お弁当を広げて一臣さんと壱弥とのんびりしたりしている。


 壱弥は離乳食を終えると早速、ハイハイを始めてしまうので、回りにはいろんな人が待機してくれる。メイドさんたちのときもあれば、コックさんのときもある。だけど、みんなに遊んでもらっていると思っている壱弥は大喜び。


「壱、嬉しそうだな」

 そんな壱弥を一眼レフカメラで撮って、一臣さんは喜んでいる。コックさんもメイドさんも一緒に撮り、その写真もみんなにあげたりして喜ばれている。


「なかなか、カメラって言うのは面白いよなあ」

 壱弥だけでなく、木々や花も撮っているし、4月には桜と鶯も撮って喜んでいたっけ。 


 平日が本当にハードな分、私たちは休日、お屋敷や庭園でゆっくりと過ごす。天気が悪ければ、寮でのんびりするが、壱弥がやんちゃで家の中では手を焼くことも多く、一臣さんはあんなに嫌がっていたのに、寮の休憩室に行くことも増えてきた。


 第2寮には今、4家族が居る。壱弥も含め、子どもは4人。上は5歳。下は壱弥と同じ年の子がいる。そんな子どもたちが遊ぶ中、一臣さんも壱弥と一緒に遊んだり、他の子も相手にしたりして、寮に住んでいるメイドさんやコックさんから驚かれている。


 そして普通に父親として、コックさんと話したり悩みを打ち明け相談に乗ってもらったり。う~~ん。昔じゃ考えられないことだよね。


「最近、本当に危なっかしくてしょうがないんだ」

とか、

「言葉がまだ出てこないんだが、遅くないか?」

とか、

「弥生に似てよく食うから、体重が標準よりでかいんだ。大丈夫か」

とか。


 横で聞いてて、私に似ては余計!と心の中で叫んだりしているんだけど、邪魔しないように私は黙っている。


 でもたいてい、先輩パパから、

「一臣様は心配性なんですねえ。全然大丈夫ですよ」

と笑われている。


「そうか。一人目だからよくわからん」

 笑われているのに、一臣さんは腹も立てず真面目にう~~んとうなったりして。面白い。


 そして、GWもお屋敷で過ごし、GW明け、亜美ちゃんたちの結婚式が近づき、お屋敷内でもみんなが準備にそわそわし始めた。


 結婚式は身内だけで挙げ、披露宴はパーティ形式でレストランを借りてするらしい。本当は行きたかったけど、従業員の結婚式に行ったりしたら、逆に気を使わせるからやめなさいとお義母様に怒られてしまった。


 もう結婚祝いの家具はあげてしまったので、せめて何か…と思い、式やパーティで飾るお花やブーケを贈らせてもらった。


 ああ、いいなあ。素敵な結婚式なんだろうなあ。絶対にビデオ撮ってもらって見せてもらおう。


 新婚旅行には、シンガポールに行くと言っていた。もっと派手にどこかに行けばいいのにと言ったが、あまりお休みを貰うのも悪いからと3泊で帰ってくるらしい。なんだってそう謙虚なんだろう。



 そして…。最近は、誰もがやんちゃな可愛い天使である壱弥に振り回されている…。


「壱!こら!」

 一臣さんのオフィスを出て、私と一臣さんで会議に行こうとしたそのすきに、壱弥はドアの隙間からててて~~と脱出する。


 15階の廊下をすごい速さでハイハイして行くのを、樋口さんから細川女子から、ベビーシッターできているモアナさんまで、走って追いかける。もちろん、一臣さんと私も。


「待て!すばしっこいやつだな」

 すると役員さんたちも何が起きたかと、ドアを開けて出てくる。

「あれ、また壱弥君が脱走ですか」

 微笑ましく見ているけれど、誰か止めてよ。


 ようやく一臣さんが追いついて抱き上げると、壱弥は両手両足をばたつかせ、すんごい抵抗をして、結局そのままお義父様の部屋に連れて行くことになる。


「壱~~~~~!!!!」

 なぜか、必ずと言っていいほど、壱弥が社長室めがけて突進していく日はお義父様が部屋にいる。なんで?なんでわかるの?


「新しいおもちゃがあるんだよ。ほら、一臣は会議に行け。モアナちゃんと壱の面倒はみておくから」

「はあ~~~。しょうがねえなあ」

 こんなことがしょっちゅうあるので、社長室にもオムツやら着替えやらが置いてある。


 だけど、青山さんは一切壱弥の面倒をみない。本当に子ども嫌いみたいだ。だから、モアナさんだったり、日野さんだったり、ベビーシッターも一緒に社長室にいることになる。


「じゃあ、何かあったらメールでもしろ」

 そう言って、一臣さんは諦め、私の腰を抱き廊下を歩き出した。

「やれやれ。壱のやつ、すっかり社長室が気に入っているよな」

「一臣様のオフィスだけじゃ、物足りないんですね」


 私たちの後ろから歩いてきた樋口さんがそう言った。

「そうだなあ。まだ、託児所もできていないし。っていうか、俺はだんだんと不安になってきたぞ。託児所もあいつだったら、脱走しないか?」

「一応監視カメラもありますし、常に忍者部隊の誰かが見張るようにしますが」


「ハイハイであれだぞ。歩き出したらどうなるんだ?」

「……」

 樋口さんは黙り込んだ。細川女史もだ。


「俺は屋敷に居たから、屋敷はそれなりにでかいし、動き回れたからよかったが。まあ、メイドにも国分寺にも迷惑はかけていたみたいだけどな」

「わたくしも、大変な目にいつもあっていましたけどね」


 うわ。樋口さん、なんていうことを言い出したの。

「そうか?そういえば、樋口と追いかけっこをよくしたな」

「ええ。逃げ回ってばかりで大変でしたね。まあ、一臣さんは途中で大人しくなりましたが、龍二さんは特に大変でした」


「ああ、あいつのほうがいつまでたっても、子どもだったな」

 そうなんだ。じゃあ、一臣さんのほうが早くから大人びちゃったのか。

「俺はそんな暇すら与えてくれなかったからなあ」

「…そういえば、小学生になられてからは、一気に大人しくなりましたね」


「遊び相手もいないし。まあ、樋口くらいか」

 え?そうだったの?

「一人可愛い遊び相手が出来て喜んでいたのに、忙しくて会いにいけなくなり、しばらくふてくされてわたくしにもあたっていましたっけねえ」


「なんのことだ?」

「確か、柔道をして仲良くなった可愛らしい女の子で、会いに行く日を楽しみになさっていて」

「弥生のことか。そうか。忙しくなって行けなくなって、哀しい思いをしていたっけな。思い出した」

「そ、そうなんですか?」


「お前は?すっかり俺のことなんか忘れていただろう」

「う…。ごめんなさい」

「ふん!薄情なやつだ。これからも遊ぼうねとか言っていたくせに」

「でも!その代わり大学に入ってからは、一臣さん一筋で!」


「ふん!その頃から弥生のことを知っていたら、俺は他の女と付き合ったりせず、弥生と楽しい大学生活を送れたのに。樋口が教えてくれればよかっただろう」

「そう言われましても。わたくしだって、初恋の相手が弥生様だなんて知りませんでしたから」


「ああ、そうだな。親父だ。そもそも親父がさっさと教えてくれていればな」

「ですが、今は仲睦まじいんですから、よろしいじゃないですか」

 細川女史がそう言うと、一臣さんはしかめっ面のまま、

「ふん。ちょっと弥生と楽しい大学生活を送っているのを想像してみただけだ」

と、そんな可愛いことを言った。


 私も想像してみた。でも、あの頃はビン底メガネで貧相な格好もしていた。絶対に一臣さんと釣り合いなんか取れない。いや、今も取れているかわかんないけど。


 機械金属プロジェクトの会議が終わり、私たちはまたオフィスに戻った。すでに壱弥もモアナさんとオフィスに居て、モアナさんと細川女史がてこずっていた。


「細川女史、すまない。自分の仕事ができないだろう」

「いいえ。大丈夫ですが、まあ、壱弥様がお元気で、モアナさんだけでは手を焼いているようでしたので」

「悪いな。モアナ」

「い、いいえ」


「ぱ~~~!」

 壱弥は一臣さんに抱っこをせがんだ。ひょいと壱弥を抱っこして、

「本当に困ったやつだ。普通はこんなに動き回るものなのか?」

と、一臣さんも困り顔。


「どこか、壱君が遊ぶのにいいところがあればいいですよね」

「広い遊び場か…」

「お友達でもいればいいのに。ほら、寮の休憩所、あそこだと脱走もせず楽しんでいます」

「屋敷に置いてくるほうが、壱にはいいのかもな」


 ぼそっと言った一臣さんの言葉に、私の心はチクリと痛みを感じた。もし、そうなったら、私はいっつも寂しい思いをするんだろうか。ううん、母親も父親もいないなんて、壱弥は寂しくない?


 それはないかも。と、メイドさんにもコックさんにも誰にでもなつく壱弥を見てそう感じた。寂しいのは私だけかもしれないんだなあ。




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