第6話 ビバ!新婚旅行
翌朝、一臣さんの腕の中で目覚めた。ほんのりとまだ、アロマキャンドルの香りが残っている。
朝…とはいえ、昨日寝たのが明け方近かったから、もうすでに10時。
一臣さんはまだ寝ている。スースーと可愛い寝息を立てて。
すりすりと一臣さんの胸に頬ずりをした。
「ん…、弥生?」
あ、起きちゃった?
「お前、可愛いな」
ひょえ、朝っぱらから。とびっくりしていたら、すやすやとまた可愛い寝息を立てた。
あれ?寝てた?今の寝言?でも、顔、にやけてる。
つん…とぽっぺをつついてみた。でも、寝てる。チュッとキスもしてみた。あ、にやけた。でも、寝息立ててる。
やっぱり、寝てる。
すりすりとまた、一臣さんの胸に頬ずりをした。一臣さんがぎゅっと私を抱きしめた。
あれ?起きてる?
「ん~~、弥生」
と言って、くー…とまた、寝息を立てた。
寝ているんだ。可愛い!
ああ、幸せだ~~~~~~~~~~~~~。
それから30分、一臣さんの寝顔を眺めた。ふっと一臣さんの目が開き、私と目が合った。
「……おはよう、弥生」
「おはようございます」
チュー。突然のキス。でも、一臣さん、まだ眠気まなこ。
「ん~~~~、よく寝た。今、何時だ?」
「10時半です」
「もうそんな時間か~~~」
そう言って一臣さんは、伸びをした。
「今日は何をしようか」
「なんでもいいです」
「じゃあ、1日エッチでも」
「それは、嫌です」
「ちっ」
舌打ち?
「じゃあ、テニス!昨日、できなかったから」
「お前、へたくそだからなあ。勝負にならないんだよなあ」
「一臣さんがうますぎるんです」
「まあな」
うわ。否定しないところがすごい。
「エイミーさんは強かったんですか?」
「下手だった。少し加減してやったけど、あっという間に勝負がついた」
「加減してあげたんですか?」
「でないと拗ねるからな。面倒なやつなんだよ」
それなのに、テニス一緒にしたんだ。面倒くさいのが嫌いなのに。
「くそつまらなかったな。使いたくない気まで使って…」
「え?」
「俺は弥生といちゃつくためにハワイまで来たんだ。そのために、毎日毎日血反吐吐くくらい仕事をして」
血反吐は、言いすぎだよね。
「それなのに、弥生は俺のことよりも、じじいのほうがいいとか言い出すし」
言ってないよ~。
うわわ。ぎゅうっと抱きしめてきた。息ができないくらい。く、苦しい。
「弥生のために頑張ったのに、ひどいと思わないか?そんな俺に労いの言葉も、労いのエッチもなく、さっさとじじいに会いに行きやがって」
え~~~~?何それ!
「一昨日の夜、ちゃんとしましたよ…ね?」
「あんなんじゃ足りない。昨日のでもまだ足りない。いったい、何日分、俺は我慢したと思っているんだ。本当だったらな、結婚したら毎晩弥生を抱きたかったんだ。それなのに、弥生は冷たすぎる」
は?
「結婚した男には、もう餌もあげないつもりか」
はあ?
「わ、私だって、ずうっとお屋敷で一人寂しく寝てました。ずうっと、我慢していたし、新婚旅行がすんごく楽しみだったんです」
「その割には、エッチ、すぐに断るじゃないか」
「昼間は他に、一臣さんと一緒にテニスしたり、海行ったり、買い物したり、おいしいものを食べたりってしたいんです!」
「俺は弥生とべたべたしていたい」
そう言うと、私の頭に頬ずりをし始めた。
なんか、一臣さんがすんごい甘えん坊になってる?
うわ。なんか、すんごい可愛いかも!
きゃわ~~~~~。一臣さんに甘えてもらうの、嬉しいかも~~~~!
よしよしと、背中を撫でてみた。可愛い。ぎゅっと抱きしめてみた。可愛い。
髪も撫でてみた。超可愛い。
「なんだよ、弥生。さっきから何してるんだよ」
「え?か、一臣さんが可愛くって、つい…」
「俺が可愛い?」
「はい。甘えてきて、すんごい可愛いなあって」
「俺がいつ甘えた?」
「今…」
あれ?怒った?
「ふん!甘える俺が可愛いなら、もうほっておくなよな!」
うわ。何、その発言!!!可愛すぎる~~~。
むぎゅ~~~~。また、思わず一臣さんを抱きしめてしまった。でも、一臣さんは私を思い切り離し、
「起きるぞ。腹減った」
と、ベッドから降りて隣の部屋に行ってしまった。
なんだ~~~。まだまだ、べたべたしていたかったのになあ。
「弥生、早く顔洗ったりしろよ。早めの昼にするぞ。そのあと、テニスするんだろ?あとは、マウイ島の観光でもするか?」
「はいっ!します!」
わ~~い!
昼はマークさんの車で近くのレストランへ。そのあと、コテージに戻り、敷地内にあるテニスコートでテニス。まったく一臣さんの足元にも及ばず。どうやら、私にはまったく手加減をしてくれないようだ。
くたくたになり、少しプールサイドでのんびりとしてから、マークさんの車にまた乗り込み、観光へ。
「明日はヘリコプターで回るか?それか、クジラを見に行くってのもいいかもな」
「クジラ!見たい!」
一臣さんの提案で、翌日はクジラを見に行き、ちょっと遠目ではあったけど、クジラを見ることができた。
そのまた次の日は、ペリコプターをチャーターしてマウイ島全体を見た。ヘリコプターに乗るのは初めてで、途中酔ってしまった。
「大丈夫か?弥生。今日は早くにコテージに戻って休もうな?」
「はい」
「でも、夜はできるよな?」
「…連日しているんですけど」
「当たり前だろ」
え~~~~~。
なんてタフなんだ。
「一臣さんはヘリコプターで酔うことないんですか?」
「ない。何回も乗っているから慣れているしな」
どうやら、ハワイでも国内にいる時ですら、ヘリコプターをチャーターして移動することがあるらしい。 恐るべし、緒方財閥。
夕方からコテージの中で、のんびりとした。モアナさんがココナツジュースを持ってきてくれて、それを飲みながら、コテージのリビングのソファでまったりとしていると、一臣さんはダイニングのテーブルで、ノートパソコンを開き、何やら真剣に見始めた。
また、変なものでも見ていないよね。前に何か真剣に見ているからと覗いたら、狸の動画を見ていたり、レッサーパンダを見ていたときもあったっけ。
「一臣さん、何を真剣に見ているんですか?」
気になり聞いてみると、
「株の動きのチェックだ」
と珍しくまともな答えが返ってきた。
「悪い。少しの間、弥生、そこで休んでいてくれるか」
そう言うと、ノートパソコンを持って、一臣さんは寝室に行ってしまった。多分、寝室にあるデスクで仕事をするんだろうな。
やっぱり、休暇とは言え、会社のことが気になるのかな。そりゃそうだよね。だって、副社長なわけだし。ハワイに来て5日。日本はもう仕事始めだよね。
私も何かお手伝いがしたいな。結婚してから、まともに仕事をしていないような気もする。
プロジェクトも、一臣さん一人で忙しそうにしているし、結婚したら一臣さんの補佐をするんだろうなって思っていたのに、秘書課の仕事ばかりを任されていたし。
まあ、秘書課も今大変だから、しょうがないんだけど。
まず、細川女史が一臣さん専属の秘書になるため、秘書課をまとめるのは江古田さんになる。その引継ぎをしていて、江古田さんも細川女史も忙しい。
それに、矢部さんは私の秘書になるため、あれこれ勉強中。ってことで、秘書課の人員が足りず、事務仕事を私が任されていた。
「本当は、いっつも一臣さんのそばで補佐をしたかったのになあ」
「そうか。そんなに俺といつも一緒にいたかったのか」
わあ!聞かれてた。
「仕事は?」
「樋口に電話で指示を出した。また、後で連絡が来ると思う」
そう言って一臣さんは私の隣に座り、抱きしめてきた。
「弥生に仕事の補佐を頼みたいんだが、親父やおふくろから早くに跡取りを作れってうるさく言われててさ」
「え?」
「あんまり、プロジェクトでも弥生に頼っちゃうと、弥生の産休の間、穴を埋めるのが大変だからな。今からなるべく、弥生以外のメンバーで動けるようにしたいんだよ」
「そ、そんなこと言われても、いつ妊娠するかもわからないし」
「そういう曖昧なことは、NGだ」
「エヌジー?」
「ハネムーンベイビーを作れと、ほぼ社長命令だ」
ひょえ~~~~~。総おじ様がそんなこと?あ、違った。もう、お義父様だ。
「あ、だから、まさか、連日しているんですか?」
「それもある。だが、毎日弥生を抱いても飽き足らないくらい、弥生を抱きたいんだ」
うわ。今、すんごいこと、さらっと言ったよね。顔から火が出るよ。
「今、避妊もしないでいいし、妊娠したら、またしばらく控えないとならないだろ?めいいっぱい、エッチしまくれるのって、今くらいしかないからな」
しまくるって言った?う…。それは、かなりドン引きしちゃう。っていうか、怖いんですけど。
「日本に帰ったら、また俺は忙しくなって、そうそう一緒にいられないぞ。今だけだ、こんなにべったりできるのは」
そうか。そうだよ。また、寂しい思いをしないとならないんだよ。
そう思うと寂しくなり、一臣さんに思い切り抱きついてしまった。
「ん?」
「寂しいの、嫌です」
「俺だって嫌だぞ。それも、別れた女から、ひっきりなしに連絡が来たり、待ち伏せされたり、言い寄られたり」
はい?
「俺は、弥生を抱きたいんだ。他の女なんか抱きたくもないのに、なんで誘ってくれないんですか~、なんて猫撫で声出して近づきやがって」
「それって、誰のことですか?」
「誰って、何人もそういう女がいるんだよ」
うそ!大塚さんが言っていたことって、本当なの?モトカノたちが、一臣さんに言い寄っているの?
「そ、それで、一臣さん、まさか…、う、浮気」
「するわけないだろ!ちゃんと俺の話を聞いていたか?弥生が抱きたいんだ。他の女なんか、抱きたくないって言っただろ」
「………でも、言い寄られているんですよね?」
「安心しろ、無視しているし、樋口が阻止しているし」
「阻止?」
「樋口は怖いんだぞ。まったく表情を変えず、ロボットのように俺をガードするんだ。言い寄る女に、『一臣様は仕事で忙しいので、手間を取らせないで下さいませんか』と、つめた~~い目で言い放ち、いや、あれはもう何か光線が出てるな。目から女が凍るようなビームを出していると思うぞ。そう樋口が言うと、みんなガチっと固まって動かなくなるから」
うひゃあ。流石だ。
「弥生にだけは、優しいのにな?見てると、わが子を見るような目で、弥生を見ている」
「樋口さんが?」
「樋口が離婚しなかったら、弥生くらいの年の娘がいてもおかしくないしな」
「娘…」
「父性愛ってやつかな。親父も、養女にしたいって思ったくらいだし、お前って、どこか父性愛をくすぐるような何かを持っているんじゃないのか?」
「え~~~、なんですか、それ」
「俺はないけどな」
「何がですか?」
「お前に対しての父性愛ってやつ。あったら、抱けないもんな」
「でも、ペットみたいなんでしょ?」
「いいや。ちゃんと俺の妻だって、そう自覚している。さあ、ベッドに行くか」
「え?ちょっと」
待ってって言いたいのに、お姫様抱っこされて、強引に寝室に連れて行かれた。
「もう、気分も治っただろ?」
「治りましたけど」
「じゃあ、大丈夫だ」
え~~~~~!!
抵抗してみたところで、熱いキスをされたら、それだけで私はノックアウトされてしまう。
「弥生」
「はい?」
うっとりと一臣さんを見た。一臣さんはにやりと笑い、
「新婚旅行っていいな。誰にも邪魔されず、したいだけできるもんな」
と、とんでもないことを言った。
もう、スケベなんだから!
でも、誰にも邪魔されず、一臣さんとべったりできるのは、本当に最高だ。
ああ、これぞ、ビバ、新婚旅行!思う存分、残りの日を一臣さんとべったりするぞ~~~~。
そう思いながら、私も一臣さんに抱きついたり、キスをした。