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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 副社長は子煩悩
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第9話  嬉しいニュース

 広報課に早速、アンケートを依頼に行った。託児所を作るというプロジェクトも始まるから、私も忙しくなる。でも、わくわくしている。


 そんな中、いきなり亜美ちゃんから、

「実は、結婚しようと思うんです」

と衝撃発言が飛び出した。

「え?!」

 うそ。付き合っている彼氏と?


「プロポーズは前にされてて。一人前になったらって話だったんですけど、それを待ってたら亜美、年くっちゃうねって言われて。弥生様のこともあって、早めにこどもはほしいよねって」

「そうなの?!まさか、すでに妊娠…」

「してません。赤ちゃん産んだら、メイドの仕事やめないとならないのかなとか、いろいろと悩んでいたんです。でも、育児休暇もあるし、働いてからもみんなが助けてくれるってわかったから、安心できて」


「そうなんだ!おめでとう!式はいつですか?」

「まだ、決めていないです。住む場所も、今の寮、いっぱいだし、どうしようかと思って」

「彼氏の部屋に一緒に住むのは?」

「彼、他の見習いコックと相部屋なんです。私とトモちゃんみたいに」

 あ、そっか。


「今後、人が増えることも考えて、寮の部屋を増やさないとですねえ」

「今の寮を建て替えるとかですか?」

「でも、建て替えている間、住む場所がないですよねえ」

「はい」


 寮って、家族で住むとけっこう手狭。子どもが一人ならいいけど、二人できたらさすがに無理。

 今いるメイドさんやコックさんで、寮だと狭いからって、近くに引っ越した人もいるらしいし。


「一臣さんにも相談してみます」

「はい」

 亜美ちゃんは少し顔を赤らめながら、部屋から出て行った。


 今日は、一臣さんは会合があって、食事もしてくるらしく私だけ先に壱弥と帰ってきた。

 お風呂に入れるのは、亜美ちゃんに手伝ってもらった。やけに亜美ちゃんが、普段一臣さんとどうやって壱弥をお風呂に入れるのか、聞いてくると思った。きっと、参考にするためだったんだな。


 うわ~~~。わくわくする。いよいよ、亜美ちゃんも結婚か。

 確か、彼氏の名前は清瀬くん。だから清瀬亜美になるんだ。わ~~~~~。

 結婚式はどこで挙げるのかな。亜美ちゃんなら教会が似合うかな。うん。ウエディングドレスが似合いそう。

 清瀬君も、シュッとしていてタキシードが似合いそうだ。


 その日は、一臣さんが10時に帰ってきた。

「お帰りなさい」

 壱弥はもう寝ている。一臣さんはベビーベッドの壱弥を見ると、

「なんだ、寝ちゃったか」

とがっかりしている。


「一臣さん、ビッグニュースです」

「ん?」

 まだ、スーツの上着しか脱いでいない一臣さんの腕をつかみ、

「亜美ちゃん、結婚するって」

と報告した。


「へえ」

 あれ?反応薄い!


「いつ?」

「まだ、先ですけど。まず、新居とか考えないとならないし。今、寮っていっぱいじゃないですか」

「そうだな」

「近くのアパートとかだと、子ども生まれてからみんなで面倒見れないし」


「じゃあ、もう1軒寮を建てるか」

「え?改装じゃなくて?」

「改装なんて面倒だ。敷地内にもう一棟くらい建てられるだろ。そうだな。家族専用にするのはどうだ?」

「いいかも!」


 そうしたら、家族が増えても寮に住めるよね。

「今、2DKだから、新しい寮は3DKとか」

「そうだな」

 一臣さんがネクタイを外して、ふうっと息を吐きながら、ソファに座った。

 あ、お疲れモードだ。


「会合、大変でしたか?」

「いいや。たいしたことはない。ただ、来ていたやつらの見え透いたお世辞やおべっかに疲れた」

「おべっか?」

「緒方電気の杉田みたいに、俺を見下しているやつらも頭にくるけど、うわべだけのやつらも頭にくるよな」


「…はい。ですよね」

 私も一臣さんの隣に腰掛けようとしたが、腰を抱かれ、膝の上に座らせられた。そして、後ろからぎゅっと抱きしめられた。


「ようやく落ち着いた」

「壱弥の寝顔で癒されなかったんですか?」

「う~~~ん。ぬくもりが欲しくてな…」

 相当疲れたんだな。


「裏ではバカにしているくせに、俺の前ではへつらう…。そういうやつらが一番頭に来る。まあ、そんなやつばっかりだけどな」

 なんだか、一臣さんがこんなに愚痴をこぼすのって珍しい。


 一臣さんの膝から降りて、一臣さんのほうに体を向けた。そうして、ぎゅうっと抱きしめた。それから髪も撫でると、一臣さんも私を抱きしめてきた。


「壱もいつか、こんなふうに嫌な思いをするんだろうな」

「…大丈夫です。そんなときには私と一臣さんが、ちゃんと壱君の味方になれば」

「うん、そうだな」

「他にもきっと、たくさんの味方はいます。一臣さんにだっています。樋口さんも一臣さんのこと、本当に大事に思っているし」


「そんなの、前から知ってる」

「そうですよね」

 私よりも前からずっと。

「大丈夫だ。弥生、心配するな。ちょっとだけ弥生に愚痴りたくなっただけだ」


「はい。いつでも聞きます。バンバン愚痴って大丈夫です」

「ははは。頼もしいな」

 一臣さんはしばらく私を抱きしめたまま、離れなかった。


 きっと今までも、いろいろと嫌な思いもしているんだろうな。でも、いつでも俺様な態度で、落ち込んだ姿なんて見せたことも無かった。社員にだって一回も。

 毅然とした態度で、みんなから怖がられるくらいの、そんな姿しかきっとみんなは知らない。だからこそ、私の前では弱いところを見せてもいいよ。


「一臣さん」

「ん?」

「ダイダイ大好きです」

「…なんだよ、突然」


「めっちゃ愛してます」

「うん、知ってる」

 一臣さんがそう言って、あっつ~~いキスをしてきた。


「壱、寝てるし、大丈夫だな?弥生」

「え?」

 そのまま、お姫様抱っこをしてベッドに寝かされた。もう、さっきの熱いキスで、私の意識は朦朧としている。


「でも、一臣さん、お疲れなんですよね」

「ああ。だけど、弥生を抱けば疲れなんて吹っ飛ぶ」

 そうして、甘美な世界に連れて行かれた。壱君、ずうっと泣かずに寝ていてくれてありがとう。


 ほわわん。

「汗掻いた。シャワー浴びてくるから、弥生、先に寝てていいぞ」

「はい」

 夢心地で一臣さんのぬくもりの余韻に浸っていると、壱弥がぐずぐずとぐずりだした。


「壱君、お腹すいた?」

 バスローブを羽織り、すぐに壱君におっぱいをあげに行った。バスローブは一臣さんの提案で、ベッドのすぐ横にいつも置くようにしている。


 壱君を抱っこして、ベッドに腰掛けおっぱいをあげた。すると一臣さんが髪をバスタオルで拭きながらバスルームから出てきて、

「壱、悪いな。今日は俺のほうが先に、弥生のおっぱいすっちゃったぞ」

と、とんでもないことを壱弥に、まるで内緒話をするように囁いた。


 そんな言葉を無視して、壱弥は一心不乱に私のおっぱいを飲んでいる。

「なんだよ、無視かよ」

「もう~~。変なこと言ってないでください。壱君がスケベ親父になっちゃう」

「まるで俺が、スケベ親父みたいな言い方するな」

「だって、そうじゃないですか…」


「は~~~?いつも俺のことを熱い目で見てうっとりしているくせに、スケベなほうは弥生だろ?」

 う…。それは、反論できないけど。


「さてと。寮を建てること、誰に指示するかな。屋敷を取り仕切っているのは国分寺さんかな。うん。国分寺さんから親父に伝えてもらうか」

「そうしたら、新しい寮には誰が住むことになるんですか?」

「今、子どもも一緒に暮らしているっていうやつはいないからな。国分寺さんもすでに子どもが独立しているし、喜多見さんのところも、もう出て行ってるしな」


「あれ?じゃあ、寮を作っても住む人がいない?」

「いや。結婚して子どもが生まれるからって、近くのアパートに出て行ったコックがいたから、呼び戻せばいいんじゃないのか。確か、2年前くらいにコックとメイドが結婚したぞ」

「へえ!職場結婚、多いんですね」


「逆に、他の場所で出会う機会がないんだろ。行き遅れたメイドも多いって聞くしな」

「そうか。私もきっと、一臣さんがお嫁さんにしてくれなかったら、一生売れ残ったかもしれないですよね」

「……」

 あれ?返答無し?


「それはないだろ。お前、意外とモテていたし」

「え?まったくですよ!恋愛対象からいつも外されてました」

「いただろ。結婚を前提にまで考えていたやつ。久世とか、トミーとか」

「あ、あれは、えっと。そんなに本気にされていなかったというか」


「本気だったろ。絶対に、俺が他のやつになんか渡しやしないけど」

 お腹いっぱいになった壱弥が、満足そうな顔をしていると、

「ほら、オムツ換えてやる」

と一臣さんは壱弥を抱っこした。


「その前にゲップだな」

 そう言って一臣さんは壱弥の背中をさする。

「ゲフ」

 早い。もうゲップ出た。一臣さん、上手になったなあ。


「最近、この部屋はミルク臭くなったよな」

 テキパキとオムツを換えながら一臣さんがそう言った。

「そうですよね。なんてういか、私と一臣さんが二人で子どもを育てているっていう感じもするし、すっかりこの部屋が家族団らんの部屋…みたいになりましたよね」


「そうだな。確かにここでオムツを換えていると、俺と弥生で育てているっていう気もするよな」

「はい」

「でも、実際は仕事中はベビーシッター。俺がいない時にはお風呂の世話をメイドが手伝うし、ほんと、この屋敷に住んでてよかったな。子育てが楽だ」


 …確かにそうだ。私ったら、一臣さんと二人だけで子育てしている気になっちゃった。みんながいて手伝ってくれているから、私は仕事と子育てを両立できているのに。


 でも、そんな私が社内で働く子育て中の女性たちのために、よりよい託児所なんて作れるのかな。

 みんなと同じ立場でもないし、同じ目線でものも見れないし、意見なんか言える立場じゃないよね。


 なんか、みんなの役に立てるように頑張るだの、私もアドバイスしようだの、おこがましいこと思っていたんだ。

 

 そんなことを考え出したら、わくわくがだんだんと萎んでいった。

 


 

 

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