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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 副社長は子煩悩
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第5話 仕事復帰

 いよいよ、産休が終わり仕事を再開することとなった。壱弥を抱っこして一臣さんと部屋を出て、ドキドキしながら1階に降りた。


「弥生様、あまり無理なさらないように」

 階段の下にいた喜多見さんが本気で心配している。

「大丈夫だ。俺が無理しそうになっていたら、強制的に仕事を休ませるから」

「そうですね。過保護の一臣おぼっちゃまがいれば大丈夫ですね」


「喜多見さん、過保護は余計だ!」

 あ、一臣さんが照れてる。くすくすっとメイドのみんなが笑うと、一臣さんはキッと睨み、お屋敷を出た。睨まれて一瞬みんな、真顔になった。でも、次の瞬間、みんなの顔は驚きの顔に変わった。


「わ~~~~!」

 一番驚いたのは私かもしれない。なにしろ、お屋敷の前に停めてある車が、いつもの車じゃなくってリムジンだったから。


「こ、これって、リムジン」

 とうとういちゃつくために、買っちゃったの?

「ああ。壱弥も乗せるとなると、今までの車じゃ乗せられないだろ?」

「え?」

 ああ、そうか。ベビーシートが乗らないからか。


 でも、だったらワンボックスとか、ワゴンとか。って、そんな車から一臣さんが降りてくるのは不自然かな。やっぱり、リムジンが一臣さんには似合っている。


 だけど、私が釣り合っていない。絶対に不釣合いだよ!


「すごいですね、弥生様、リムジンですよ」

 亜美ちゃんが横でそう言って驚いている。

「あれ?そういえば、いつも日野さんとモアナさんが来るのに、今日はお休み?」

 目を輝かせてリムジンに見入っているトモちゃんに聞くと、

「お二人はすでに会社に行っています」

と、ニコニコ顔でそうトモちゃんが答えた。


「日野とモアナに壱のお守りを頼んでいる」

「そうなんですか。じゃあ、一緒に行けばよかったのに。これって何人乗りですか?余裕で乗れたりしませんか?」

「乗せるわけが無いだろう。一緒に乗ったら、リムジンにした意味が無い」

「え?」


 壱弥を一臣さんが抱っこして、ベビーシートに寝かせた。それから一臣さんと私が乗りこむと、国分寺さんが、

「行ってらっしゃいませ」

とドアを閉めてくれた。


 すでに等々力さんと樋口さんは車に乗っていて、

「おはようございます」

と私たちに挨拶をしてきた。


「今日のスケジュールは?」

 車が静かに発進するといつものように、一臣さんがそう樋口さんに聞いた。樋口さんがスケジュールを伝えると、

「わかった」

とひとこと言って、一臣さんは仕切りを閉めてしまった。


「ほらな?すっかりこうなると家族3人だけの空間だ。いいだろ?」

「ちょっと寂しいです。等々力さんと樋口さんと会話ができない」

「なんだと?俺といちゃつけるんだからいいだろ」

 そう言って、一臣さんがわたしの太ももを撫でてきた。


「壱君が見てます」

 壱弥がベビーシートに寝転がったまま、私たちのことをじ~~っと見ている。

「両親が仲良くて安心しているんだろ。ほら、もう目が閉じかけている」

「あ、本当だ」


 数秒で壱弥は寝てしまった。車に乗ると寝てしまうんだな。

「いい子だな。これで思い切りいちゃつける」

「え?!」

 うそ。一臣さん、本気でキスしてきた!うわ~~~~~~。


「い、いちゃつけるって言っても、程度があるじゃないですか。もう~~~!」

 そう言って一臣さんの胸をポカポカ叩くと、

「痛いって、弥生。そんなに照れるな」

と、また太ももを撫でながら一臣さんはにやついた。


「照れているんじゃないです!呆れているんです!」

「なんだよ、弥生。嬉しくないのか?俺はまた忙しくなるんだ。一緒に行動できるかどうかもわからないんだぞ。移動の時間くらいいちゃついてもいいだろ?」

 またそういう言い訳をする~~~。


「弥生も照れてないで、もっとべったりくっついてこい」

 だから、照れているんじゃないってば。久しぶりに仕事に行くから緊張もしていたし、気合も入れてきたのに~~~。


 太もも撫でられたり、キスされたり、そんなこんなしている間に、車はあっという間に緒方商事のビルに到着した。

「んだよ、もう着いたのか?遠回りでもすればいいのに、等々力のやつ気が利かないな」

「そんなこと言ってたら、会議に遅れますよ。さっき、樋口さんが10時から会議だって言ってました」


「まだ、9時前だ。1時間もある」

 まったく。この人は…。ちょっと変わったかもしれないとか思ったけど、このエロさ加減は変わらないんだな。


 等々力さんがドアを開け、

「どうぞ、弥生様」

と私に声をかけた。私は慌ててスカートの乱れを直し、髪もさささっと直してから車を降りた。あ、なんでだか正面玄関だ。役員専用の駐車場じゃない。


 リムジンが停まったからか、みんながこっちを遠巻きにして注目している。私が降りると、

「あ、弥生様よ。じゃあ、一臣様も一緒なんじゃないの?」

と女子社員は色めきだっている。


 すぐに一臣さんが偉そうに降りてふんぞり返るかと思って後ろを振り向くと、一臣さんは車から降りてすぐに壱弥をベビーシートから降ろし、抱っこしたまま、

「行くぞ、弥生」

と私の背中に片手を回した。片手には壱弥、片手には私…。


「一臣様、お子さんを抱っこしてる!」

「壱弥様でしょう?うわ~。一緒に出社したんだ」

 さらに、社員のみんなが集まってきた。


「おはようございます」

 受付嬢の二人がすっと立ち上がった。

「おはよう」

「おはようございます」

 一臣さんと一緒に私も挨拶をした。受付嬢も壱弥を抱っこしている一臣さんを見て、目を丸くした。


「おはようございます」

「壱弥様もご一緒なんですね」

「弥生様、お仕事復帰ですね」

 そんな声をかけられ、私はぺこぺことお辞儀をした。一臣さんはと言うと、あれ?いつもみたいな仏頂面じゃない。けっこう朗らかな顔をして、「おはよう」と挨拶を返している。


「一臣様、ご機嫌だ」

 今度はみんな、そんなことを口々に言い出した。そんな声もまったく構わず一臣さんはエレベーターににこやかなまま乗り込んだ。


 パッチリ。壱弥が目を覚ました。まだ、首もすわっていない壱弥をエレベーターに乗った周りのみんなが見て、

「可愛い」

と女性社員は顔を和ませ、男性社員はなぜか黙ったまま、壱弥を見ている。


「可愛いだろ?」

 うっわ。一臣さんが女性社員に答えちゃった。

「え?あ、はい」

 微笑ましく壱弥を見ていた女性社員が、一気に緊張の顔つきになった。


「あ、あの。壱弥様もご一緒に、これからも出勤されるんですか?」

 一人の女性社員がそう聞いてきた。確か、人事部の人だよね、この人。

「ああ、俺のオフィスに壱弥のベビーベッドから遊び場まで置いてあるからな」

「そうなんですか。じゃあ、ずっと弥生様が壱弥様のお守りを?」


「いいや、ベビーシッターもいる。屋敷のメイドでいつも壱弥の世話をしているから、安心して任せられる。だから、弥生も仕事に専念できるぞ」

「ベビーシッターもいらっしゃるんですか?羨ましいですね。そういう環境だったら、お子さんがいる人も仕事をしやすいですよね。託児所も保育園もあいているところがなくて、産休開けに仕事に復帰できない同期もいるので、羨ましいです」


「そうなのか」

「はい。だから、私も子供を生むのを躊躇しちゃって」

 いくつくらいなのかな。30代前半かな。

「なるほどな。じゃあ、このビルに託児所があれば、都合いいわけだな?」


「え?会社内に託児所ですか!それはもう、便利なんてもんじゃないです」

「そういう会社も実際ありますよ」

 もう一人の女性社員がそう訴えてきた。目つきがさっきとは違う。さすがの一臣さんも一瞬、のけぞったくらいだ。


「そ、そうか。わかった。検討する」

 そう言うと、女性社員が全員、と言っても、エレベーターに乗っていたのは3人だけだけど、目をきらきらさせた。

 男性社員はまったく興味を示していなかったが。


 オフィスにつくと、すでに細川女史が仕事をしていて、その横には矢部さんもいた。

「おはようございます。今日から弥生様の秘書をさせていただきます」

 矢部さんはぺこりと頭を下げた。

「え?そうなんですか?」


 びっくりしていると、

「最初は細川女史について、秘書の仕事を覚えてもらいます」

と樋口さんがクールな表情でそう言った。

「あ、はい。よろしくお願いします」

 私もぺこりとお辞儀をした。


「おはようございます!」

 日野さんとモアナさんは、一臣さんの部屋にいた。壱弥のために、部屋の掃除をしたりしてくれていたようだ。

「ああ、壱のことを頼んだぞ」

「はい」

 早速モアナさんが壱弥を抱っこして、ベビーベッドに寝かせた。壱弥は本当に大人しかった。


「弥生、会議には出席できるな?」

「はい。それまでに一回壱君におっぱいを飲ませます」

「そうだな。腹がいっぱいになれば、ご機嫌で待っていられるだろ。まあ、何かあったら、弥生の携帯に連絡しろ」

「かしこまりました」

 日野さんが丁寧にお辞儀をした。


 一臣さんは会議の資料をソファに座って読み出した。私はその間に壱弥におっぱいを飲ませ、オムツの交換はモアナさんがしてくれた。


「弥生も資料に目を通せ」

「はい」

 一臣さんの隣に座り、資料を見た。今日の会議は、機械金属のプロジェクトチームの会議だ。どうやら、緒方電気や緒方機械の人も会議に出席するらしい。


「もうすでに、いろんな企画が動いているからな」

「はい」

「泉岳寺ってやつの企画書、覚えているか」

「はい。お兄様の部下の泉岳寺さんですよね」


「ああ。機械もそろい、すでに試作品も出来上がっている」

「え?そうなんですか。すごい」

「すごくない。これからだ。利益が出なかったら意味がないからな」

「そうですね…。でも、やっぱりすごいです。だって、埋もれてしまって日の目を見なかったかもしれない企画書ですよね?それがちゃんと形になっていってるんですから、すごいことです!」


「ははは。お前のおかげだろう?何をそんなに他人事のように喜んでいるんだ。お前の功績だ」

「まさか!私はなんにもしていません。形にしていっている方々がすごいんです」

「ふん。そのためのプロジェクトチームだ。ああ、言い忘れた。プロジェクトチームのメンがーが増えたぞ。緒方機械、緒方金属、緒方電気のやつらも加わっているし、緒方商事からもさらにメンバーが増えている」


「そうなんですか」

「ああ。今じゃかなりでっかいプロジェクトになっているからな」

 それを一臣さんが取り仕切っているんだ。すばらしいなあ。


「もう一つのプロジェクトはどうなっていますか?」

「ブランドを立ち上げるってやつか。あれは、ほとんど龍二に任せてある。大阪と本社を行ったりきたりしてあいつも頑張っている」

「そうなんですか!」


 じゃあ、例の金町さんって言ったっけ?あの人と一臣さんもそうそう会うこともないんだな。

「ブランド名は決まったぞ。『カラン』っていう名前だ」

「カラン?カランコロンのカランとか?」

「フランス語で抱っこするとか、ハグするとか、そういう意味らしい」


「へえ!可愛いですね」

「アメリカに出すんだから、ハグでいいと思わないか?まあ、どうやら京子さんあたりがつけた名前らしいがな。龍二じゃ思いつかないだろ」

「でも素敵ですね!抱きしめるって意味でしょう?」

 カラン。響きもなんだか可愛いかも。


 こんな話をしていると、仕事復帰しましたって言う気になってくる。一臣さんがこのビルに託児所を作るのを検討するって言ってたし、そういうの、私も大賛成だ。

「一臣さん!」

「ん?」


「頑張りましょうね」

「子作りか?いいぞ。会議が終わってから1時間あくしな」

 きゃ~~~!すぐそこに日野さんとモアナさんがいるのに!

「違います。仕事をです!」


「なんだ。そっちか。弥生は無茶するなよ。まだ本調子じゃないだろ?」

「大丈夫です。やる気満々です」

「まったく。いいか?無茶はするなよ。喜多見さんにも注意されたろ?わかってるな?」

「はいっ!」

「わかってんのかよ、本当に」


 ぶつくさ一臣さんは言っていたけど、ずうっとお屋敷にいたんだもん。体もなまっちゃってるよ。

 やっと活動できる!わくわくだ~~~~。




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