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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 副社長は子煩悩
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第3話 久々の甘美な世界

 その日の夜、壱弥を一臣さんは早々と寝かしつけ、

「よし、寝たぞ、弥生」

と小声でそう言って、髪を乾かしている私のそばに来た。

「髪も乾いたな」


 私の髪を触ってから、一臣さんは後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

 ドキ。うわ、なんだか久しぶりにドキッとしちゃった。


「優しくするからな?」

 そう言ってベッドに連れて行かれ、一臣さんは電気を消した。

 ドキドキ。なんだか、すんごいドキドキする。

「か、一臣さん」


「ん?」

 パジャマを脱がしている一臣さんに声をかけた。

「怖いんです」

「んん?何がだ?」


「えっと、だから、その。痛くないでしょうか。大丈夫でしょうか。その…、まさかと思うけど裂けちゃったり」

「え?」

 しばらく一臣さんが固まった。私のパジャマのボタンも最後の1個だけ残したまま。


「い、いや、大丈夫だろ?なんだか、処女に戻っちゃったみたいだな。こっちまで緊張してきた」

 やっと一臣さんはそう口にして、最後のボタンを外した。

「え?じゃ、初めの日、一臣さんも緊張していたんですか?」

「ああ。緊張してた」

 言葉とは裏腹に、一臣さんは優しく私の頬を撫でた。


 ドキ。

 うわ。今日の一臣さんの触れる指、すんごい優しい!

 キュキュン。


 するするっとそれからは、パジャマもブラもパンティも簡単に脱がし、私のことをギュッと抱きしめてきた。

「弥生の肌だ…」

 ドキン。


 チュッと首筋にキスをして、それから肩にも優しくキスをする。

 もう、胸が幸せいっぱいだ。


 それからは、甘い甘い世界に連れて行かれた。

 久々の、甘美な世界…。



「ふ、ふえっ、ふえっ」

 壱弥がぐずる声が聞こえるまで、私と一臣さんは甘い余韻に浸っていた。


「壱君、お腹すいたのかな」

 むくりと起きて、一臣さんの腕の中から抜け出した。一臣さんはなぜか両手を天井のほうにあげ、

「あ~~~あ、弥生を壱に取られた」

と呟いた。


 下着をつけパジャマを着ていると、その間にも壱弥の泣き声をどんどんとでかくなり、

「俺のおっぱいでも先に吸ってるか?」

とあほなことを言い出ながら、一臣さんがベッドから起き上がろうとした。


「いいです!すぐに壱君におっぱいあげれるから」

 パジャマのボタンはせずに壱君を抱き上げ、ソファに腰掛けおっぱいをあげた。

「いつもその辺にバスローブでも置いておいたらどうだ?エッチしたあと、それを着たらすぐに授乳もできるだろ?」


「そうですね。でも、そうそう年中しませんから」

「何をだ?」

「で、ですから、え……っち」

「はあ?何を言ってるんだ。二人目も作んなきゃならないし、年中するに決まってるだろ」


 一臣さんは呆れたっていう顔をして、ベッドから立ち上がりこっちに来た。

「まま、待ってください。裸ですよ?パジャマ着てください」

「…なんだよ。俺と弥生しかいないんだからいいだろ?」

「壱弥がいます」


「壱だって、パパの裸くらい見てもなんとも思わないだろ?ったく、一緒に風呂だって入っているのに、ママはどうしていつまで経っても恥ずかしがり屋さんなんでしょうかね~~?」

 パンツを履き、パジャマを羽織りながら一臣さんはソファに来た。そして、おっぱいを飲んでいる壱の頬を指で撫でてから、

「そこがママの可愛いところだからしょうがないか、な?壱」

と思い切りにやけた。


「一臣さん、なんか、最近やっぱり変ですよね?」

「どこが?」

「言うことが変です。前はもっと嫌味をいっぱい言っていたのに」

「そうか?嫌味を言わないほうが変なのか?っていうか弥生は俺に、嫌味を言われたいのか」


「ち、違いますけど」

 けっこう今まで傷ついてたし。狸とか、へんてこりんとか言われて…。だけど、それにも免疫がついて、そう言われ慣れちゃったから、今の一臣さんが別人みたいで変な感じだ。


 まさか、別人?

 なわけないし……。


「ずっと弥生といただろ?」

「は?」

 何をいきなり唐突に?

 おっぱいを飲んだ壱のオムツを換えると、一臣さんが壱を抱っこしてゆらゆら揺れながら語りだした。


「妊娠してから、つわりでしばらく会社に来れなかったり、生まれる前もひと月近く離れてただろ?」

「お屋敷では一緒に居ましたけど」

「そうだけど、会社には来なかっただろ?」

「はい」


「ここんとこ、ずっと抱けなかったし」

 そして壱の顔を見ると、

「壱にはすごく癒されているけど…、でも、弥生のぬくもりも感じられなかったし」

と、声が徐々に小さく低くなって、ちょっと一臣さんが寂しそうに見える。


「俺は相当弥生に惚れているよな、と改めて思ったぞ」

 え?ドキン。なんか、嬉しいこと言ってる?!

「で、オフィスで弥生を思い出し、この部屋で弥生を抱いていた日々はよかったなあと」

 なんだ、もう~~~。結局エロ発言?


「つくづく、弥生は可愛かったなあ、最高の女だよなあ、と、毎日俺はオフィスで思っていたわけだ」

「最高の女?え?誰がですか?」

「お前だ」

 どひぇ~~~~~~~~~~~。やっぱり、おかしい。絶対におかしい。


「わ、私のどこが?いっつもいろいろとバカにして、からかって遊んでいたくせに、いったい私のどこが最高なんですか?」

「どこがって、エッチの時は色っぽいし、可愛い声とか出すし、感じやすいし、最高だろ?」

 やっぱ、エロだった!!!


 がく~~~~~~~っ。


 ああ、なんだ。喜んで損した。思いっきり損した気分だ。


「壱、寝たぞ」

 静かに一臣さんは壱をベビーベッドに寝かした。そして、くるっと私のほうを向き、

「寝るぞ」

とソファに座っている私の腕を引っ張り、ベッドに連れて行かれた。


「ふあ~~~、眠い」

 大きなあくびをして、一臣さんは私のことを抱きしめると、

「すぐ眠れそうだ」

とすでに眠気眼。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ、弥生」

 チュっとキスをして、一臣さんは目を閉じた。


 私も一臣さんの胸に顔をうずめ、安心しきって眠りについた。


 それからも、一臣さんは毎日とは言わないけれど、早めに帰ってきた日には、

「弥生、今日も甘美な世界に連れて行くからな」

と、早々と壱弥を寝かしつけ、甘い世界へと私を連れて行った。


 なんだってこうスケベなんだ。とか思いつつ、一臣さんのぬくもりに直に触れ、優しく愛されて、私も幸せを満喫していた。もしかして、もしかしないでも、私も寂しかったのかもしれない。


 そんな幸せな日を送っていたが、いよいよ壱弥のお披露目会の日がきてしまった。朝から私はずうっとドキドキと緊張をしている。今にも吐きそうなくらいの緊張だ。


 一臣さんはいつもとまったく変わらず、ビシッとスーツを着て涼しい顔をしている。あ、今日はスリーピースなんだ。珍しい。スリーピースも似合うんだな。かっこいいな。


 私は着物も着付け終わり、壱弥も日野さんと喜多見さんが可愛い真っ白のベビー服を着せてくれていた。

 

「今日も可愛らしい!壱弥おぼっちゃま、一臣お坊ちゃまの赤ちゃんの頃にそっくりですね~」

 喜多見さんがそう言うと、日野さんも、

「本当に壱弥おぼっちゃま、可愛いですよね」

と壱弥の顔を優しい目で見ながら相槌を打った。


「こんな赤ちゃんの頃から、女にちやほやされて、壱は女ったらしにならないか?」

「は?」

 着物を着た私のお尻に手を回しながら、一臣さんがわけのわかんないことを言い出した。


「壱も俺みたいに女にモテて苦労するのか、大変だよな」

「…」

 喜多見さんも日野さんも、何にも答えずちょっと困ったっていう顔をしている。


「私は一臣さんに似て、スケベにならないか心配です」

 私のお尻に手を当てたままの一臣さんにそう言うと、

「俺のどこがスケベだ。俺ほど女に淡白な男はいないだろうが」

とまだお尻に手を回したまま、行動と裏腹なことを言った。


「え?」

 その言葉に日野さんが驚くと、

「なんでそこで驚くんだ。言っておくが、俺がベタベタするのは弥生だけだぞ」

と一臣さんはふんぞり返った。


「壱弥おぼっちゃまも、心から愛する人に出会えるといいですね」

「ああ、そうだな。俺みたいにな」

 うきゃあ。喜多見さんも一臣さんも、なんでそういうことを平気で言うかな。


「一臣様、そろそろ皆様が来る頃です。応接間にいらして下さい」

 国分寺さんが呼びに来たので、私たちは1階の応接間に移動した。


 お披露目会は客間で行う。司会が進行をしてくれるらしく、私たちは呼ばれるまで応接間で待機をしているらしい。

 みんながお祝いに来てくれるんだから、お出迎えをしないでいいのかなあ、とも思うんだけど。


 わいわいがやがやと、人々が集まってくる声がしてきた。一臣さんの誕生日パーティと同じように、親族がみんな集まるんだから、また相当な人数が来ているんだろうなあ。

 そういうの、まだ慣れない。今日は壱弥が主役とはいえ、やっぱり緊張しちゃう。


「か、一臣さん、なんかスピーチとか頼まれたりしないですよね?」

「弥生はないだろ、俺はあるけどな」

「一臣さんだけ?」

「親父もスピーチするだろ?あとはまた、汐里のチェロとか、俺の演奏とか、そんなので終わるさ」


「それだけ?」

「ああ。また立食パーテイだ。あとは好き勝手に食べたり飲んだりするだろ。壱を連れて2階にあがっていいぞ。壱が眠そうだからとか、適当に理由作ってやるから」

「はい」


 そうか。そんな感じで終わるのか。ちょっとほっとした。


 それから10分もすると、国分寺さんが私たちを呼びに来て、客間に移動した。

 ドアをバタンと開き、私が壱を抱っこして一臣さんと並んで中に入った。中にいた人は拍手で私たちを出迎えてくれた。


 客間の奥は少し高いステージのようなスペースがあり、そこでお義父様とお義母様が並んで立っている。二人も拍手で私たちを出迎えた。

 司会の人はステージの端にいて、

「どうぞ、一臣様、弥生様、壱弥様、ステージの上にお越しください」

と私たちを呼んだ。


 ドキドキ。足がもつれそうだ。でも、そっと私の腰の辺りを一臣さんが優しく支えてくれて、ゆっくりと歩調を合わせ歩いてくれた。


 緊張する~~~~~~~~。みんながいっせいにこっちを見ている。

「一臣様、今日も素敵」

という声が聞こえる。

 わかってる。みんなが注目しているのは、私じゃなくて一臣さん。わかっているけど、緊張する。


 ステージの上に立ち、一臣さんがみんなに挨拶をした。壱弥が生まれた報告と、みんなへのお礼と、今後の緒方財閥の発展についての力強い自分の意思を告げた。すると、その場にいた人たちからの拍手喝采。みんながすっごく喜んでいるのが伝わってきた。


 私たちは、一旦ステージをおり、司会の人が進行を進めた。どうやら社長の挨拶は、私たちを呼ぶ前に済んでいたようだ。


 汐里さんが紹介され、ステージにあがると、

「壱弥様のご誕生おめでとうございます。今後の緒方財閥の発展を祝して、演奏させていただきます」

と一言挨拶をして、チェロの演奏を始めた。


 今日は、いつもより優しい音色。壱弥がいるからかな。


 それから、緒方電気の社長の挨拶や、その後もお偉いさんの挨拶があり、壱が眠いのかお腹がすいたのかぐずりだした頃、一臣さんが呼ばれてピアノを演奏し始めた。


「あら、壱君、静かになった」

 私の隣に座っていたお義母様が壱弥の顔を覗き込んだ。本当だ。パパの演奏がわかるのかな。時々聞かせていたからかしら。耳を澄ませ、そのうちに眠そうな顔つきになった。


「寝ちゃうわね」

「はい」

 私の腕の中で、壱弥は目を閉じてすやすやと寝息を立てた。

 

 一臣さんは演奏を終えると、壱弥が寝ているのをステージから確認し、マイクを使わずに、

「壱弥が寝てしまったので、壱弥は退席させていただきます」

と一礼してステージを下りてきた。


 私もその言葉で壱弥を抱っこしたまま立ち上がり、みんなのほうを向いてお辞儀をし、一臣さんに連れられ客間をあとにした。


 客間を出て、「ふ~~っ」と息をはいてほっとしていると、

「お疲れ様、2階で休んでいいぞ」

と一臣さんが優しくそう言ってくれた。


「はい」

とそんな一臣さんに寄り添おうとしたところに、

「一臣様!!!」

と客間から勢いよくドアを開け、可愛らしい女性が飛び出してきた。


 誰?と一臣さんに尋ねる間も与えてくれず、

「一臣様、ご無沙汰しています」

とその女性は一臣さんに抱きついてしまった。


 え?え?誰?!

「お前、香里奈か?」

「そうです~~!きゃ~、覚えてくれたんだ~~~、嬉しい!!」

「本当に香里奈か?」


 かりなさん?!え~~~~?なんか、一臣さんまで嬉しそうなんですけど?!




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