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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 副社長は子煩悩
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第1話 1ヶ月検診

 壱弥とお屋敷に帰ってから、あっという間に1ヶ月が過ぎようとしている。夜中の授乳のたび、一臣さんを起こしてしまったり、寝不足にさせてしまって申し訳なかった。でも、

「不眠症でずっと眠れなかった頃に比べたら、ちゃんと眠れているから大丈夫だ」

と一臣さんは言ってくれた。


 オムツを換えたり、沐浴も一臣さんは積極的にしてくれた。それに、お義母様も家に帰る頻度が多くなり、ちょくちょく壱弥を見に来てくれた。そして、

「壱君は一臣の赤ちゃんの頃にそっくりだわ」

と言いながら目を細める。


 まったく、お屋敷に寄り付かないお義父様まで、一月の間に2回も帰ってきた。

「壱弥~~~~」

と高い声で呼び、写真をたっくさん撮って喜んでいた。


「お披露目はいつにするか、一臣」

「親族へのか?」

「そうだ。そろそろお宮参りも行かないとな」

「親父も行くのか?!」


「ああ、スケジュール調整は秘書にさせる。大事な跡取りだ。一緒に行くぞ」

「おふくろも?」

「もちろん。上条家にも日取りを決めて連絡しないとな」

 お義父様が壱弥を部屋に見に来た日曜日、そんな話を一臣さんとしていた。


 そうか。お宮参りとか、親族への紹介とか、いろいろとイベントがあるんだなあ。


「1ヶ月検診っていうのもあるよな、弥生」

 お義父様が帰ってから、一臣さんに聞かれた。

「はい」

「一緒に行くからな」


「え?本当に?」

「ああ。今後壱弥に何かあったら、いろいろとお世話になる小児科の先生だ。俺からも挨拶しておきたいし」

「……」

「なんだよ?」


「いいえ。一臣さんって、子煩悩なお父さんになりそうだなあって、感動していました」

「なんだ、そりゃ。緒方財閥の跡取りなんだから、どんな医者が担当医になるのか、きちんとこの目で確かめておかなきゃならないだろ」

 そんなことを言ってるけど、絶対に子煩悩なお父さんだよ、一臣さんって。


 私だってびっくりしているもん。壱弥のオムツも換えてくれるなんて。それも、

「くっちゃいなあ、壱~~~」

とか、可愛い声出して換えているし…。


 メイドさんたちも、最近一臣さんが壱弥を抱っこしてお屋敷内をうろうろしていると、びっくりしているもん。そういうイメージがなかったのかな。


「あ、壱弥様!」

 今日も一臣さんが壱弥を抱っこして、私も一緒に1階に下りた。するとすぐに亜美ちゃんとトモちゃんが、私たちを見つけた。


「お散歩ですか?」

「ああ、部屋の中だけにいるのも、退屈だろうからな」

 そう一臣さんが言って、亜美ちゃんとトモちゃんに壱弥を見せた。


「大きくなっただろ」

「はい。手足がムチムチしてきましたよねえ」

「ああ。やばいよな。弥生に似てこいつは大食漢になるんじゃないのか」

「私、大食漢じゃありませんってば!」


 そう言うと、トモちゃんと亜美ちゃんはくすくすと笑った。

「あ、壱弥様?」

 そこにモアナさんも来た。

「ああ、モアナ、いつも壱弥の世話、ありがとうな」


「いいえ」

 モアナさんははにかみながら笑い、壱弥の顔を覗き込んだ。


 本当にモアナさんはいろいろと壱弥の世話をしてくれて助かっている。トモちゃんはオムツ換えとか、絶対にできないようだし、亜美ちゃんもなかなか慣れないようだ。でも、モアナさんは違った。最初からテキパキとオムツ換えをしてくれた。


「明日、1ヶ月検診ですね」

 亜美ちゃんの言葉に、

「うん。ちょっとドキドキです」

と私が答えると、一臣さんが「なんでだ?」と不思議そうな顔をした。


「壱君の成長もですけど、私のことも」

「大丈夫だろ。壱弥も弥生も元気いっぱいなんだから。食欲もあるしな」

「そこが心配。あんまり体重減らないし、大丈夫かなあ」

「弥生のか?」


「大丈夫です。おっぱいあげている分、たくさん食べないと」

 モアナさんがそう言ってにっこりと微笑んだ。

「そうだな。壱弥、いっぱいおっぱい飲むからな。弥生のおっぱい、占領しているしな」

 うわ。今の言葉、恥ずかしいよ。亜美ちゃんとトモちゃんが、ちょっと顔を赤らめたじゃないよ。


「あー」

「あ!壱弥様がしゃべった!」

「可愛い声~~~!」

 亜美ちゃんとトモちゃんが大喜びした。


「可愛いだろ?最近しゃべるんだよ。たまに笑うしな」

「目元一臣さんにそっくりで、可愛いですよねっ!」

 私も大喜びをすると、

「俺にそっくりで可愛いとか言うな。みんなの前で」

と怒られてしまった。


「ごめんなさい」

「ったく。どんだけ自分の旦那に惚れているんだって、みんなが呆れるだろ」

「……」

 私が黙り込むと、

「大丈夫ですよ、一臣様。弥生様が一臣様に惚れ込んでいるのなんて、みんな知っていますから今さらです」

とトモちゃんが笑いながらそう言った。


「まあ、そうだな。屋敷のみんなには弥生がストーカーなみだってのも、ばれているからいいか」

「ストーカーじゃありませんけどっ」

 ムッとしてそう言うと、

「一臣様が弥生様に惚れ込んでいらっしゃるのも、みんな知っていますけどね」

と亜美ちゃんが大胆発言をした。


「…」

 あ、一臣さん片眉あげた。亜美ちゃんも、やばいって顔になった。

「会社でも、俺が奥さんにベタ惚れだって噂が流れているぞ」

「え?」

 そうか。もうさすがに仮面夫婦なんていう人はいないんだな。


「今後は、子煩悩な副社長って噂が流れるんじゃないんですか?」

 私がちょっとからかい半分にそう言うと、亜美ちゃん、トモちゃん、モアナさんは真剣な顔でうんうんと頷いている。


「子煩悩?それならいいが、親ばかとは言われたくないよな。気をつけないと」

「え?」

「跡取り息子は甘やかされて育って、わがままなボンボンだなんて、言われたくないだろ?」

「そうですけど。でも、愛情たっぷり注いで育てたいです」


「……弥生はいい母親になりそうだな」

「一臣さんだって」

 そう言いながら見つめ合っていると、

「すみません、私たちお邪魔なようなのでこれで」

とトモちゃんが顔をにやけさせながらそう言い、亜美ちゃんたちとぺこりとお辞儀をして、そそくさとダイニングのほうに消えていった。


「ふん。あいつら、言いたい放題言いやがって」

 そう言いながら、応接間に入ると、なんとそこにお義母様がいてびっくりしてしまった。


「あれ?ティータイムですか?」

「ええ。あなたたちも、お茶でもしますか」

「そうだな。弥生、何か持ってきてもらうか」

 お義母様の横に居た国分寺さんに一臣さんが指示を出し、国分寺さんはなぜかにこにことしながら、応接間を出て行った。


「一臣、壱弥は私が抱っこしますよ。ゆっくりとお茶を楽しんだらどうです?」

「ああ、じゃあ壱弥のこと頼みます」

 お義母様に壱弥を渡し、一臣さんと私はソファに腰掛けた。


「今、国分寺と言っていたんです」

 壱弥をしばらくあやしてから、お義母様は話し出した。

「何をですか?」

「一臣の変化にびっくりですねって」


「変化?」

「廊下での話が聞こえてきたんですよ。メイドたちとのやり取りに驚いていました」

「ああ。それで?まさか、メイドが失礼なことを言ったとか、怒っていたわけじゃないですよね」

「ええ。まあ、あれくらいはいいんじゃないですか。ただ、前だったら、あなたを怖がって、あんなにメイドは話したりしなかったでしょう?」


「そうですね。俺に話しかけてくるメイドなんて、喜多見さんくらいでした」

「くす。一臣、丸くなったものねえ。これも全部弥生さんの影響ね」

 そう言ってお義母様は私を見てから、

「ねえ、壱弥」

と壱弥に話しかけた。


「子煩悩なお父様でよかったわねえ?」

 お義母様がそう言うと、壱弥は「あ~」と答え、にこりと笑った。

「まあ!笑ったわ。わかったのかしら」

「まだ、理解はしていないでしょう。ただ、おふくろの声が優しかったから、笑ったんですよ」


「そう?ふふ。孫って可愛いものね。あなたや龍二も可愛かったけど、孫はまた別ね」

 お義母様、すっごく嬉しそう。

 なんだか、壱弥が生まれてから、お屋敷内も明るくなったし、みんな優しいしあったかいし、赤ちゃんってすごい。きっと壱弥の存在がお屋敷全体を変えているんだね。


 翌日、月曜日。一臣さんは会社を休んで、1ヶ月検診に付き合ってくれた。等々力さんの車で出かけ、助手席には樋口さんが乗った。なぜか二人ともいつもと同じスーツ。


「樋口さん、つき合わせて申し訳ないです」

 仕事でもないのに一臣さんは、樋口さんを呼んだのかなあ。

「いいえ。本日はホディガードとして来ました。大事な壱弥様をお守りするために」

 あ、そうか。そういうことなのね。


「樋口だけじゃない。病院にも今日は侍部隊のボディガードもいるし、忍者部隊の忍びもいるぞ」

「忍び…」

 さすがだ。


 一臣さんは休日仕様の服装だ。紺の棉のパンツに、長袖のカットソーにジャケット。壱弥を抱っこして壱弥の肌に触れても優しい素材にしたようだ。

 私はと言うと、ストーンとしたワンピース。だって、お腹がまだまだ戻っていないんだもん。これ、いつかちゃんと戻るのかなあ。その辺も心配。


 太ったり、寸胴のままだったら、一臣さんに嫌われたり、

「お前なんか抱きたくない」

とか言われたりしないかなあ。


 そんなこと悩むより、ちゃんとダイエットしたり、ジムに通ってウエストのくびれ作ったりすればいいんだよね。うん!

 なんて、病院に着くまでの間にそんなことを決意していると、静かに車は到着した。その間、壱弥はずっと眠っていた。等々力さんの運転が気持ちいいのかもしれないなあ。


 病院の入り口には、産婦人科の婦長と院長、つまりは京子さんのお父様までいた。院長は私が退院するときにも、見送りに来てくれたほどだ。

「お待ちしていました、緒方様」

「わざわざのお出迎え、恐縮です。これからは、院長自ら来て頂かなくても」


「いいえ。京子も緒方家にはお世話になっているのですから」

 少しだけ、一臣さんの顔がげんなりしたように見えた。でもすぐにぱっと明るい表情に戻り、

「うちの壱弥が今後お世話になります」

と頭を下げた。


 それから、エレベーターまでは院長も一緒に来たが、そのあとは婦長さんが案内をしてくれた。

「どうぞ、こちらです」

 エレベーターから降りると、そのまま待合室もスルーして、診察室に案内された。


「あの、待合室にたくさん待っていた人が…」

「緒方様は担当医も違いますし、特別ですので」

 特別?


 まずは婦長さんとベテラン看護師さんで、とっても丁寧に壱弥の体重や身長を測ると、その次はお医者さんの問診。一臣さんもずうっと私の横にいて一部始終を見ている。そのせいか、看護師さんやお医者さんですら緊張している様子。


「お名前は壱弥様ですね?」

 看護師さんもお医者さんも、ちゃんと壱弥の名前を覚え、それからはずっと「壱弥様」と呼んでいるあたりもすごい。もう、壱弥は特別なんだ、きっと。


 そんな扱いに私は戸惑った。妊婦の時も、一臣さんと一緒の時には、診察も回りみんなが緊張していた様子だったし、順番も待たずに診察してくれたっけ。一臣さんは、それが当たり前って言う感じで堂々としていたけど。


 今だってそうだ。ちょっと、いや、かなり偉そうだ。でも、

「壱弥はどこも異常ないですか?」

とお医者さんに聞き、

「はい。健康です。すくすくと育っていらっしゃいますね」

とお医者さんが言うと、ちょっと安堵した顔を見せ、

「そうですか。よかった。これからも壱弥のことをよろしくお願いします」

と意外にも一臣さんは、お医者さんにぺこりとお辞儀をした。


「あ、は、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 もう50を過ぎているだろう、少し白髪交じりの髪のお医者さんが、かなり動揺している。


「弥生様の診察をこれからしますので、壱弥様は私どもがお預かりします」

「ああ、いいですよ。僕が見ています。弥生は産婦人科のほうで診察してもらうのか」

「はい。わたくしがご案内します」

「じゃあ、産婦人科の待合室で待っていればいいか。いや、待て。それはさすがに抵抗があるな。俺も弥生と一緒に行く」


 結局、壱弥を抱っこして、一臣さんも私と一緒にくっついてきた。

 診察室に入り、私はカーテンの中で診察を受けた。異常なし。あっさりと診察も終わり、またもや婦長に連れられ、エレベーターに乗り込んだ。


 1階のロビーに着くと、樋口さんがさっと現れ、一臣さんの横についた。

「じゃあ、帰るぞ」

 婦長以外にも看護師さんが数名、私たちが車に乗り込むまで見守ってくれて、車が発進するまで見送ってくれた。



 





 

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