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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第3章 副社長は奥様にぞっこん?!
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第10話 産院にて

 翌朝、早くからなんだか胸が張り出した。これが、「胸が張る」ってやつなのか!

 まだ一臣さんは隣ですやすや寝てる。


「失礼します」

 看護師さんがノックとともにドアを開けた。

「そろそろ立ち上がってみましょうか。赤ちゃんの授乳にも行ってみましょう」

「え?はい」


「んん?」

「あ、申し訳ありません。緒方様、起こしちゃいましたよね」

 看護師さんがベッドのそばまで来て、慌てて一臣さんに謝った。っていうか、隣に寝てて、今絶対に驚いていたよね。


「……もう朝か?」

「まだ6時です」

 私がそう言いながらそっとベッドから起き上がると、

「どこか行くのか?」

と一臣さんも起き上がりながら聞いてきた。


「赤ちゃんの授乳です」

「赤ん坊に会えるのか」

「あ、申し訳ないです。新生児室に入れるのはお母様だけでして」

「授乳の様子も見れないのか」


「はい。カーテンで見えないようにしますので」

「なんだ…。じゃあ、ここで待っているからな」

「はい、行ってきます」

 かなりがっかりした様子の一臣さんを残し、病室を出た。


 なんかふらつく。歩くのがやっとだ。なんでかな。


 なんとか新生児室にたどり着き、おぎゃあおぎゃあ泣いている部屋に入った。ああ、顔を真っ赤にして泣いている赤ちゃんばっかり。

 そんな中、何人かのお母さんが授乳に来ていて、私は看護師さんに促されたまま椅子に腰掛けた。


「今、緒方様の赤ちゃん連れてきますね」

 うわあ。いよいよだ。

 ドキドキドキ。


 看護師さんの腕に抱かれた壱弥は、すっごく小さかった。そして私の腕に抱かせてくれたけど、ふにゃふにゃでどうしたらいいのやら。


「えっと」

「こうやって首を押さえて、おっぱいに吸い付かせて」

 こわごわ言われたようにやってみた。わあ、おっぱい吸ってる!!なんかくすぐったい。


「お腹すいていたのね。いっぱい泣いたものねえ」

 そうか。ママが来るまで顔を真っ赤にして泣いてたんだね。

「パパ似かな」

 ぼそっとそう言うと、看護師さんが、

「そうですね。目元とか似ているかもしれないですね」

とそう言ってから、その場を去っていった。


 ドキドキ。私もとうとうママになったんだ。

 ああ、それにしても、一臣さんの子をこの手で抱っこしているなんて。

 可愛いよ~~~~。


 目元が一臣さんなのか。一臣さんに似た男の子になるのかな。じゃあ、きっとかっこいいね。

 

 ドキドキの初授乳が済み、うとうとしている壱弥をもっと抱っこしていたかったけど、オムツを替えましょうねと看護師さんに言われ、教えてもらいながらオムツを替えた。


 ほっそい足。すぐに折れそうなくらい。

 手も足も小さいし、すっごく不思議。でも、そりゃそうだよね。つい数時間前まで私のお腹の中にいたんだもの。


 壱弥をベビーベッドに寝かせ、新生児室を出た。病室に行く前の間、お腹をさすってみた。まだ、肉なんだか皮なんだかわかんないけど、だぼついている。でも、確実にもうこのお腹には壱弥はいない。


 お腹をなでながら話しかけた。壱弥といつもどこに行くときも一緒で寂しくなかった。

 そんなことと思いつつ、部屋を開けると一臣さんはすでに起きて着替えていた。


「弥生、どうだった?」

「壱弥、いっぱいおっぱい飲みました」

「そうか」

「小さくて折れそうなくらい足が細くて、くにゃくにゃしてて抱っこするのも怖いくらいで」


「そうだな。俺もそう思った」

「…もう、お腹の中にいないんですよね」

 寂しくそう呟くと、

「でも、お腹から出てきたから抱っこできるし触れるし、泣き声も聞けるんだろ?」

と一臣さんは優しく私の頭をなでながらそう言った。


「はい」

「今は新生児室に入ってて会えないけど、退院したらずうっと一緒だ。しばらくの間はな」

「ですよね」

「それよりも今は、俺にべったりあまえていろ」

「は?」


「俺も今のうちしか弥生を独り占めにできないんだから」

 そう言うと、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「はい」

 私もぎゅうっと抱きついた。


 8時。樋口さんが迎えに来て、一臣さんは上着を羽織り鞄を持った。

「いってらっしゃい」

「おう、いってくる。なるべく早くに帰るからな」

 そんな会話をすると、

「ここがまるで家みたいですねえ」

と言いながら、樋口さんがくすくすと笑った。


「そうだ。俺にとっちゃ、弥生がいるところが俺のホームだからな」

「いいこと言いますねえ。今度の広報誌に使いますか」

「うるさい、樋口。行くぞ」

 ちょっとテレながら一臣さんは部屋を出て行った。


 一臣さんがいなくなり、一気に部屋が静かになると眠気がやってきた。そしてうとうとと寝てしまった。

 

 だが、3時間して看護師さんが起こしに来て、また授乳の時間がやってきた。

 それからずっと3時間毎、授乳の時間はやってくる。


出産の疲れが回復していないからなのか、けっこうハード。そんな中、

「弥生さん!」

とお義母様とお義父様がお見舞いに来てくれた。


「予定日より早くなったって聞いて慌てたわ」

「すみません、出張中なのに来て頂いて」

「いいのよ。1つパーティほっぽらかしたけど、たいしたことのないパーティだから」

 え?よかったの?本当に。


「弥生ちゃん、無事生まれてよかったね。赤ちゃんはどこだい?」

「新生児室にいると聞きましたよ」

 お義父様の質問にお義母様が答えてくれた。

「そうか。じゃあ、さっそく」

 そう言ってとっととお義父様は出て行ってしまった。


「病院食だけじゃ寂しいでしょう?大福なんだけどおっぱいの出がよくなるかもしれないから、食べてね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、赤ちゃん見に行ってから帰りますね。一臣はここに泊まるんですってね」

「はい」


「本当にあの子は弥生さんがいないとダメになっちゃったわねえ」

 ちょっと呆れたようにため息をついてから、ふふふとお義母様は笑って病室を出て行った。

 

 その日の夜、8時になっても一臣さんは来ない。

「まだかなあ」

 ベッドに横になり、ひたすら待った。授乳はさっき済ませたばかり。1日中ぼんやりと寝てばかりいたから今は目がばっちり冴えている。



 まだかな~~~、と天井を見つめていると、ガラっとドアが開き、

「弥生、帰ったぞ」

と一臣さんが少し疲れた顔を見せた。


「一臣さん!」

「ただいま、弥生」

 私の顔を見ると一臣さんがなぜかにやけた。


「そうか、俺がいなくて寂しかったんだな」

 ベッドの横に来て私の頭を撫でながらそう言うと、一臣さんは満足そうに上着を脱いだ。

「私、顔に出てました?寂しいって」

「ああ、思い切り」


 またにやついた。っていうか嬉しそう。

「お仕事、どうですか?」

「心配するな。プロジェクトも順調だ。綱島もしっかりとやっているしな」

「もう一つのプロジェクトは?」


「ん?」

 一臣さんはさっさとYシャツも脱ぎ、替えの下着を手に持っている。

「きゃ」

 上半身裸の一臣さんに反応すると、

「なんだよ、まだ俺の裸見慣れていないとか言うなよな?」

とおでこをつっつかれてしまった。


「シャワー浴びてくる。そのあと仕事の話はするから」

 そう言うとシャワールームへと一臣さんは消えていった。

「…だって、いつまでたっても麗しくってドキッとしちゃうんだもん」

 ぼそっと呟き、ベッドから出て水をくみに行き、一臣さんのために炭酸水も用意した。


「ちょっとここ、二人だけの家みたいでいいなあ」

 キッチンもあれば、お料理も作っちゃうのになあ。あなた、ご飯にする?お風呂にする?なんて聞いてみたりして。


 ガチャリとドアが開き、一臣さんがバスローブ姿で髪をバスタオルで拭きながら出てきた。その光景は何回も見ているのに、また胸がときめいてしまう。

 っていうより、胸がはってる?ああ、さっき授乳に行ったのにもう胸がはってきちゃってるなんて。


「どうした?」

「胸がはっちゃって。けっこう痛いんです」

「揉んでやろうか?」

「いいです」


「遠慮は要らないぞ」

「本当に大丈夫です。ちゃんと壱君にすってもらいます」

「くそ」

 くそ?!


「しばらく弥生のおっぱいを独占されるのか、悔しいな」

 え~~。子供に嫉妬?

 一臣さんはむすっとしたまま炭酸水を飲んだ。


「で、壱弥は元気か?」

「はい。おっぱいもちゃんと飲んでくれるし、元気です」

「そうか。明日の朝はちょっと遅くても大丈夫だから、新生児室でも覗いてみるか」

 そう言われ、ちょっと安心した。壱君のこと可愛くないのかなあ、なんてほんのちょっと思っちゃった。


 それから一臣さんは、仕事のことについて話してくれた。

「今は海外事業部のほうが忙しくて、新しいブランドを立ち上げるプロジェクトには関わっていない。まあ、あそこは優秀なやつが集まっているから大丈夫だろ」

「龍二さんが関わっているんですよね?」


「ああ、でも、たまに顔を出す程度だと聞いたぞ」

「そうなんですね」

「そういえば、如月が来週日本に来るそうだ。合同会議に出席するからなんだが、壱弥の顔も見たいらしい。そのころには弥生も退院しているから、屋敷に来てもらうぞ」

「はい」


 私は一臣さんの脱いだYシャツやネクタイ、スラックスを畳み、明日喜多見さんが来てくれるから紙袋に入れた。

「あ!言い忘れたが、それは勝手につけられただけだぞ。エレベーターで」

「え?何をですか?」


「気づかなかったのか」

「え?何がですか!?」

「いい。気づいていないんなら」

 何?なんのこと?エレベーターって?


「つけられた?勝手に?」

何を?何を?何を?!

「あ~~、しまったな」

 一臣さんが顔をしかめた。


「口紅だ」

「え?く、口紅?」

 一瞬何を言われたかわからず、口をぽかんと開けてしまった。

「誰のですか?」


「金町だ」

「金町さんって、広報の…」

「ああ。新ブランドのプロジェクトのな」

 なんで金町さんの口紅がYシャツに?えっと。なんで?


「エレベーターでって?」

「背中にだぞ」

「え?なんで、Yシャツだったんですか?」

「会議が終わって15階に行くところだったから、暑いし脱いでいたんだ」


「エレベーターで二人だったんですか?」

「ああ、樋口は先に15階に戻ったからな。金町は先に乗っていて途中で降りていった」

「……」

「そんな目で見るな。俺は話すこともないから背中を向けて無視していたら、いきなり背中に抱きついてきただけだ」


「抱きついてきた?!」

 なんで?!


 

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