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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第3章 副社長は奥様にぞっこん?!
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第6話 一臣さんの心情

 もうすぐ妊娠9ヶ月目に入る。さすがに一臣さんは、出かけるときに連れて行ってくれなくなった。それどころか、

「そろそろいつ陣痛がきてもおかしくない時期だな」

と、会社に行くのも今週までとなった。


 寂しいなあ。また、お屋敷で過ごさないとならないのか。


「予定日に仕事が入らなければいいんだがなあ」

 ぼそっと一臣さんがつぶやいた。


 今まで、産婦人科に1度だけついてきてくれた。エコーで心臓の音を聞き、お腹の赤ちゃんの様子も見た一臣さんは、

「実感わかないもんだな」

と、帰りの車の中でぼやいていた。


「母親のほうが先に実感わくでしょうね。お腹の中に赤ちゃんがいて、動いたりするわけですし」

 等々力さんがそう言うと、一臣さんは私のお腹を触った。

「たまに、足の裏とかもわかるようになったよな」

「はい」


「でも、生まれてこの目で見ないと実感わかないよな」

「そうですね」

 樋口さんも淡々と相槌を打った。


 私だけが、そういうもの?と寂しくなった。お腹の中の赤ちゃんが、元気に心臓動かしてる!とか感動しないものなの?

 なんだか、温度差があるのが寂しいなあ。それに、お義父様や、お義母様は早々と赤ちゃんグッズを買ってきたり、実家の祖父や祖母、父も送ってくれたりしているけれど、一臣さんはあんまり興味ないようだ。


 休みの日に、赤ちゃんのものを一緒に見に行っても、私だけがハイになっちゃったし。


 大丈夫かな。かわいがってくれるのかな。

 う。ちょっと不安。


 いや、大丈夫だよ、弥生。だって、一臣さんは大事に思っている人は、とことん大事にする人じゃない。


 その週の金曜、14階の秘書課に行き、産休に入ることを告げた。

「無事、元気な赤ちゃんが生まれること祈っています」

 みんながそう言ってくれて、嬉しかった。


 翌日の土曜、一臣さんと祐さんのサロンに行った。

「弥生ちゃん、いらっしゃい」

 祐さんが優しく出迎えてくれた。


「髪を洗うのは大変よね。霧吹きでぬらしながら切りましょうか」

「ああ、祐さん、髪は家で洗ってきたから大丈夫だぞ」

 そんな私と祐さんの会話を聞き、優雅にソファに腰掛け雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた一臣さんがそう言った。


「あら…、まさか、一臣君が髪洗ってあげてるの?」

「ああ、そうだ。それが何か?洗い足りていないのか?」

「え?!冗談で聞いたんだけど、本当に洗ってあげてるわけ!?びっくり!そんなに弥生ちゃん、溺愛されてるんだ!」


 きゃ~~~~。祐さん、そういうこと言わないで。照れる。

「溺愛?そのくらい普通するだろ」

 しれっと一臣さんがそう言うと、周りにいるスタッフさんも目を丸くして一臣さんを見た。


「なんだよ」

「まあ、そこまでしてあげる旦那もいるだろうけど…」

 くすくすと祐さんが笑って、

「弥生ちゃんも大変ねえ」

と私の髪をとかしながらそう囁いた。


「え?大変って?」

「一臣君の溺愛っぷり。目に入れても痛くないくらい可愛がってるみたいだけど、それ、窮屈じゃない?」

「…?えっと、全然そんなことないです…」

「あ、そうなの?そっか。弥生ちゃんは束縛されるの好きなんだ」


「どうかな?だけど、束縛って感じたことも無いですけど」

「へえ。そうなんだ。でも、あれだけ女性に淡白だった一臣君が、これほど独占欲あるとは驚きよね」

「祐さん、無駄口たたいてないで、さっさと終わらせろよな。弥生も今、大変なんだから」

「ああ、はいはい。ごめんなさいね」

 一臣さんの言葉に、また祐さんは笑った。


「一臣君、ほんと、よかったわね」

 私の髪を切り終わり、今度は一臣さんの番。一臣さんが椅子に座ると、突然そう言って祐さんが真剣な表情をした。

「何が?」


「弥生ちゃんがフィアンセでよ」

「フィアンセじゃない。もう結婚して奥さんだ」

「そうそう。だから~~、政略結婚の相手が弥生ちゃんでよかったって話よ」

「……」

 一臣さん、無言で鏡に映った祐さんを睨んだけど…。何で睨んだのかな。


「一臣君、アメリカから帰ってきてから、ずっとおかしかったし。婚約してからは次々に女とっかえひっかえ付き合ってみたり。心配していたんだからね」

「祐さんに心配される筋合いは無い」

「あら、ひどい。ユリカのことだって、心配していたのよ」


「は~~。またユリカの話か?」

「だって、ユリカと別れてからおかしくなっちゃったでしょ」

「祐さんの思い違いだ」

「そうね。本気で好きになった子は弥生ちゃんだけなのよね。だから、よかったわねって言ってるのよ。本気で好きになれる人と出会えたことも、そんな女性と結婚できたことも、そうそうないわよ、こんな奇跡」


「奇跡?」

「そうよ。溺愛しちゃうくらい、ほれ込んでいる相手と結婚できて、超ラッキーよね?」

 ちらっと鏡に映っている私の顔を祐さんが見た。

「そうだな。ラッキーだろうな」


「あら。なんだか、テンション低くない?」

「別に、テンションあがる話でもないだろうが」

 そう言いながらも、一臣さんが照れているのがわかる。耳とか、赤いし。わざと雑誌に集中していますって顔をしているけれど。


「ねえ、もう女の子か男の子かわかっているの?」

「はい。実はもう…」

 私のほうを見ながら祐さんが聞いてきたので、私は頷いた。

「どっち?」


「男の子みたいなんです」

「あっら~~~、じゃあ、跡継ぎ決定ね。よかったじゃないよ、一臣君」

「そうだな」

「テンション低いわね。もっと喜んだらどう?」

 祐さんがそう言っても、一臣さんは黙ったまま雑誌をめくっている。


 男の子だってわかったのは、ちょうど一臣さんが検診に付き合ってくれた日だ。先生に、

「あ、男の子ですよ」

と教えてもらっても、一臣さんは特に何も言わず、

「元気そうでよかったな」

と帰りがけに言っていたくらいで…。


 そのことがずっとひっかかっていた。でも聞けずにいた。

 赤ちゃん、嬉しいんだよね?喜んでいるよね?


 あんなに子作り頑張るって、張り切っていたんだし、赤ちゃん生まれてくるの、楽しみにしてくれてるよね?


 家に帰り、夕飯の時間まで部屋で二人でのんびりすることにした。

「弥生、疲れただろ。ソファで休むか?」

「はい」

 腰を抱きながら、一緒にソファまで行くと一臣さんも私の隣に腰をおろした。


 私にはすごく優しいんだけど。

「あの、一臣さん」

「なんだ?」

「この子、名前、なんてつけます?」


「あれ?決めただろ」

「え!?いつ?」

「前に、樋口の提案で、イチヤだ」

 あ、そういえば…。


「漢字は弥生にたくしたよな」

 う、そうだった。

「で、どんな漢字にするんだ?」

「まだ、決めていないんです」


「なんだよ…。男だってわかったから、もう考えているのかと思っていたぞ」

「男の子でよかったと思いますか?」

「ん?そりゃ、跡取りができてよかっただろう」

 でも、一臣さん、今も顔、笑っていないし…。


「女の子でも、男の子でも、俺はこの子を大事にする。ただ、男じゃなかったら、弥生が自分を責めたりしないか、それだけ気になってた」

「え?」

「気にしていただろ?」


「はい。だけど、一臣さんが気にするなって言ってくれていたから、少し楽になりました」

「そうか」

「女の子でも、大事に思ってくれたんですね?」

「当たり前だ。俺と弥生の子だ。大事じゃないわけ無いだろ?」


 よかった~~。思い切りほっとしちゃった。

「みんな男の子でよかったですねって言うからさ、複雑だったんだ。もし、女の子だったら、みんななんて言うんだろうってさ。親父やおふくろまでががっかりしていたのかな」

「……」


「もし、そうだとしたら、生まれてくる子が可哀そうだし、俺と弥生だけでも、思いっきり大事に育てようとか、考えたりしてた。だけど、男の子だってわかったから、少しほっとした」

「ほっとした?」

「この子が、辛い思いをしないですんで…。でも、ほっとしている自分もなんだかな…。複雑だよな」


 それで、あんまり喜んだりしなかったのかな。


「元気に生まれてくれたらそれでいい。っていうのは誰もが思うだろ?親ならさ。だけどもし、元気じゃなかったら?五体満足じゃなかったら?」

「え?」

「それでがっかりはしたくない。やっぱり、愛しい大事な存在には変わりないんだからな」


 一臣さん?

 うわ。泣きそう。今の言葉…。


「どんな子が生まれてきたとしても、俺は大事に育てるよ。な?弥生」

「はい。私もです」

 むぎゅ~~。お腹が邪魔で思い切り抱きつけないから、腕にだけしがみついた。


「少しだけ、怖いんだけどな」

「……」

 怖い?え?何が?


「弥生のことですらこんなに溺愛しているから、子供に対して俺はどんだけ溺愛しちゃうんだろうかって、今からそれが怖い」

「へ?」

「まだ、お腹の子を見ても実感はわかないんだけどな。だけど、この腕に抱いたらやばいんだろうなあ」

「……」


 一臣さんはそう言うと、なにやら想像したらしく、にんまりとにやけ、

「ほら、弥生、名前の漢字を考えろ。生まれてくるまでの宿題だぞ」

とにやけたまま、そう言った。


 なんだ。一臣さんってば、私が心配する必要なんかまったくなかった。溺愛しちゃうことを怖がるくらい、赤ちゃんが生まれてくることも楽しみにしているんだよね。


「それにしても、祐さん、うるさいんだよな。自分の奥さんを独占して何が悪いって言うんだ。ったく」

 あ、怒り出した。

「私はすっごく嬉しいです」

「ん?」


「冷たくされたり、そっけなかったりすると不安になっちゃうから、こうやってすぐそばにべったりいてくれるほうが、安心できます」

「だろ?」

 あ、どや顔。


「弥生が不安になるから、こうやってべったりしているんだ。それをみんなわかってないよな」

 え?そうなの?違うよね。腰に手を当てたり、太ももなでているのは、触っていたいからだって、スケベ発言していたし。


 だけど、そういうことにしておこう。

 とにかく、私は今、とっても幸せなんだから。


 


 



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