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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第3章 副社長は奥様にぞっこん?!
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第5話 噂が変わった!

 甘い生活が戻ってきていたある日のこと。

「弥生、10時からの重役会議は出ないでいいからな。秘書室でのんびりしておけ」

「え?なぜですか?」

「眠そうだから。じいちゃんたちの話に付き合ってたら、絶対に寝るだろ」


「……」

 ここで、寝ません。頑張ります!と言えなくなっていた。何しろ、前回の重役会議、眠気との戦いで大変だったからなあ。どうも、妊娠中は眠くなって困ってしまう。

「わかりました。秘書室でお手伝いしてきます」


「昼も大塚たちと食べていいぞ」

「え?」

「重役会議の後、来客がある。12時を過ぎると思うから、弥生は12時に昼飯を食え。時間がずれないほうがいいだろ?」


「…はい」

 ちょっと寂しい。


 そして、12時まで秘書課でお手伝いをして、12時になると、

「たまには、カフェでも行かない?一臣様から許可出ないかなあ」

と大塚さんが言い出した。


「ロッカールームでのお昼、弥生様もいい加減窮屈ですよね」

「あそこ、窓とかも無いし、閉鎖されてるって感じだもんね。弥生もいつもロッカールームじゃ嫌でしょう?」

「はい。でも…」


 一臣さん、OKしてくれるかな。

「一応、細川女史に聞いてみます」

 そう言って、すぐに細川女史に江古田さんが連絡してくれた。こういう判断は早いよなあ。


「弥生様、細川女史が一緒に行くそうです」

「え?細川女史も~~?」

 大塚さんが嫌そうな顔をしたが、細川女史も忍者部隊の一人だし、護衛のために来てくれるんです、とは言えないよなあ。


 細川女史、江古田さんも交えて、5人でカフェに移動した。カフェでは私を見て、ひそひそと話をする女子や、

「こんにちは」

とお辞儀をしてくれる社員もいた。


そして、ランチを食べていると、なぜかカフェに足早に一臣さんがやってきて、カフェが一気にざわつきだした。

「一臣様よ」

「一臣様がカフェに来るなんて珍しい」


 女性社員は色めきだち、男性社員は一気に背筋を伸ばし、青ざめた。

 いったい、カフェに何のようなのか…とみんながいっせいに黙り込んで一臣さんを見つめていると、

「あ!いた。弥生」

と私を見つけ、私に向かって颯爽と歩いてきた。


「一臣さん、どうしたんですか?」

「どうしたんですかじゃない。心配しただろ!」

 へ?


 大きな声でそう言いながら、一臣さんは私の隣に座った。

「一臣様、昼食をこちらで召し上がりますか?」

「ああ、樋口。適当に買ってきてくれ」

「かしこまりました」


「心配も何も、会社のカフェだし…」

 ぼそっとそう言うと、一臣さんがギロリと私を睨み、

「会社内だって変なやつがいるかもしれないだろ」

と小声でぼそぼそと答え、そのあと私の隣に座っている細川女史を見て、

「ああ、悪い。細川女史を信用していないわけじゃないんだ」

と気まずそうな顔をした。


「そうですよ、細川女史もいるし大丈夫なのに」

「俺の目の届くところにいないと、心配なんだよっ!」

 え?


「今の聞いた?」

「きゃ~~~~。一臣様、そんなに弥生様のことを大事に思っているんだ」

「広報誌に書いてあったこと、本当なんじゃないの?」

「初恋の相手っていう、あれ?!」


「一臣様ってもしかして、弥生様にぞっこん?」

「カフェになんて一回も来た事なかったのに、心配で来ちゃうなんて」

「もしかして、ラブラブなの?」

「一臣様のほうが、ほれ込んじゃってるんじゃないの?」

 

 うわわ。聞こえるよ。全部聞こえてる。

 大塚さんも江古田さんも矢部さんも、にやにやして私と一臣さんをちらちらと見ている。一臣さんはまったく顔色も変えず、黙ったまま。


 私は、恥ずかしくって顔から火が出そうだ。悪い噂は落ち込むけど、こういう噂話は思い切り照れくさいんだな。


「お待たせいたしました」

 樋口さんが一臣さんのランチを持ってやってきた。あ、ハンバーグステーキのランチだ。

「樋口はどうする?」

「わたくしは仕事もありますし、15階で食べてきます。持ち帰ってもいいそうなので」

「そうか」


 樋口さんは、ぺこっと頭を下げその場を去った。

「よかった。樋口さんもここで食べるのかと緊張した」

 ぼそっと大塚さんが言うと、

「なんだ?大塚は樋口が嫌いか」

と、一臣さんがその言葉に反応した。


「す、すみません。嫌いなわけじゃ…」

「ああ、そうか。お前、面倒を起こした時に、樋口にきついことでも言われたのか」

 面倒?あ、あれか。庶務課に移動になった時…。

「いいえ。あの時は、すっごい事務的に、まったく顔色も変えず、淡々と処分について話されたので、それが逆に怖くてですね…」


 そこまで言ってから大塚さんは、すみませんと言い、黙り込んでしまった。

「別に謝らなくてもいいぞ。樋口は実際、怖いからな」

「一臣様にも怖いんですか?」

 大塚さんがびっくりしたように目を丸くしてそう聞いた。


「俺は怖くもなんともない。弥生なんか、樋口が大好きだしな」

「え?!なんで?!」

 大塚さんがさらに目を丸くさせた。

「樋口は、弥生の前だと変わる。俺の前でも変わるし、屋敷に戻れば素になるしな。そりゃ、年がら年中ロボットみたいなわけないだろ」


「そうなんですか。私、いつでも樋口さんは鉄化面みたいなのかと思っていました。って、ごめんなさい」

 言ってからまた、大塚さんは謝った。

「本当の樋口さんは、すごくお優しいんですよ。お屋敷では、メイドの皆さんとも仲がいいし。運転手の等々力さんとも、よく楽しくお話されているみたいですし。私も見たことは無いんですが、お屋敷にある寮の休憩室では、声を上げて笑っていらっしゃることもあるとかで」


「あの樋口さんが!?」

 それは、大塚さん以外のみんなもびっくりしていた。細川女子ですら目を丸くしている。

「俺の前でも、そうそう笑わないけどな。あ、弥生、見たいからと言って勝手に寮に行くなよ。行く時には俺に言え。でないと…」

「わかっています」


 お母様に知られたら、やっぱりまずいんだよね。お母様、そういうとことはいまだにうるさいみたいだから。


「…弥生様は、お屋敷にいても自由に動けないんですか?」

 矢部さんが、ちょっと言いづらそうに私に聞いてきた。

「屋敷も今ではセキュリティ万全だが、でも一人で行動しないほうがいい」

「え?何か危ないことでもあるんですか?」


 今度は江古田さんが驚いている。

「ああ。いろいろとな。だから、弥生のそばにいるお前らも、いつも注意を払っていてくれ。頼んだぞ」

 一臣さんは周りの席に聞こえないくらい声の音量を落として、みんなにそう言った。みんなも一気に硬い表情になり、はいと頷いた。


 そんなことがあり、社内の噂は、180度変わってしまった。もう、誰も『仮面夫婦』という人はいなくなり、

「一臣様は弥生様にぞっこんなんですって」

と、誰もが言うようになった。


 それからというもの、二人で社内を歩いていると、

「ほら、今日もあんなにべったりとして、仲がいい」

「一臣様って、いつも弥生様の腰に手を当てていますもんねえ」

などという声が聞こえてくる。


「大事で手放したくないんじゃない?」

「いつも目の届くところに置いておきたいそうよ」

「独占力半端ない」

「今、どこに行くのにも、弥生様をお連れしているんですって」

「奥様にぞっこんなわけ?あ、初恋の相手だったんですっけね」


「じゃあ、嫌がるどころか、弥生様が奥様で喜んでいるってこと?」

「だから、他の女性には興味ないんだ」

「昔付き合っていた女性全員と手を切ったんですって」

「言い寄ってきても冷たく無視しちゃうみたいよ」


「なんだか、弥生様が羨ましい!」

「そんなに愛されちゃってるんだ!」

 わ~~~~~~~~~~~~~!


 なんでそういうこと、私がいるところで言うんだろう。っていうか、なんだって噂話って言うのは、聞こえてきちゃうのかしら。エレベーターを降りた瞬間にそんな話をされられたら、どうしたって聞こえちゃうよ。


 15階の一臣さんのオフィスで、一臣さんはソファに腰掛けると、足を組み、腕まで組んで難しい顔をした。

 何か怒ってる?


 最近、私のお腹が大きくなって、膝の上に座らせてもらえないようになった。それは寂しい。隣にちょこんと座り、一臣さんの様子を窺った。


「まあ、いいけどな」

 ぽつり。一臣さんの独り言かな。黙って隣にいると、一臣さんがいきなり私の頬にキスをした。

「え?」

「ぞっこんでも、独占力が強いでも、ほれ込んでいるでも、なんとでも言わせておけばいいよな。もう俺らが仮面夫婦だなんて言うやつもいなくなったし」


「あ、はい」

 顔が熱い…。

「樋口や等々力が言っていたように、普通にしているだけでよかったな」

 普通?


「ふん」

 鼻で笑って、一臣さんはソファから立ち上がり、デスクに座るとパソコンを開いて仕事を始めた。

「あ、カフェに来たのってもしかして、作戦でしたか?」

「カフェ?ああ、そういえば心配で行ったっけ。あれは、作戦なんかじゃない。本当に心配したんだ。悪いか」


「いえ!とんでもないですけど」

「これからは、噂をどうにかしようなんてくだらないことはやめる」

 くだらないことなの?それはそれで、ショック。それに、パソコンの画面ばかりを睨んで、怖い顔しているし、かまってくれないし。


 なんだか、寂しいなあ。


 だめだめ。仕事をしているんだから、そんなわがまま。

 仕事が忙しいから、かまってくれないだけで、私のことに飽きたとか、そういうんじゃないんだから。


「は~~あ」

 え?ため息?なんで?

「くそ~~~。親父のやつ、面倒くさい仕事押し付けやがって」

 眉間にしわを寄せ、一臣さんはまた黙り込むとパソコンを打ち出した。


「大変なお仕事なんですか」

「別に、面倒なだけだ」

「お手伝いしましょうか?」

「いや、大丈夫だ」


 手伝いもできないのか。寂しいなあ。


「弥生、もう少し待ってろ。すぐに終わらせるから。14階には行くなよ。俺が寂しいからな」

 え?!

「眠くなったら寝てもいいぞ?」

 あ、優しい一臣さんの声だ。


「はい」

 キュキュン!


 寝ない。だって、一臣さんのこと見ていたいもん!

 

 それからは、黙って一臣さんのことを見ていた。前なら、弥生、視線がうるさい。って怒られていたけど…。

「待ってろよ」

 私を見て、一臣さんが口だけ動かしてそう言った。その目はすごく優しい。


 30分で一臣さんは仕事を終わらせた。そして、私の隣に座りに来ると、ギュギュッと抱きしめられた。それに髪に頬ずりもする。


「やっぱ、お前、ランみたいだな」

 ラン…。前に飼っていた犬…。

「抱きしめると癒されるんだよなあ」


 いいけど。ランと同格でも。一臣さんの癒しになれば。別にいいけどさ。

「お前も俺に抱きしめられると、癒されるのか?」

「いいえ。私はいまだにドキドキしちゃいます。あ、でも、すっごく安心します」


「そうか。ドキドキするのか。それはやばいな。でも、腹も出てきたし、そうそうエッチはできないな」

「そういうドキドキじゃないですっ。もっと、純粋なドキドキです!」

 もう。スケベなところは前と同じだ。


 でも、こうやって抱きしめてくれる一臣さんのぬくもりがうれしい。

「大好きです」

「ああ、わかってる」

 そう言いながらも一臣さんは、にやにやとにやついていた。




 

 




 




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