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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 赤ちゃんができました!
20/112

第12話 仲よしをアピール

「8歳?」

 市川さんも小岩さんも同時にびっくりして聞いてきた。

「ああ。俺が8歳で、弥生は7歳のとき」

「その頃にお会いしていたんですか?」

「ああ」


 一臣さんは静かに話しだした。

「当事親父が弥生の祖父に柔道を習っていて、俺と龍二がその道場に一緒に遊びに行ったことがあるんだ。弥生も柔道を習っていたらしく、俺と手合わせをして俺はまんまと弥生に投げられた」

 まんまとって…。


「投げられた?」

「ああ」

「それが最初の出会いで最悪な…」

「いや」


 市川さんの言葉を遮り、

「投げ飛ばされたのは確かにショックだったが、そのあと弥生と話をしたんだ。それがとっても印象に残っていて…。さっき、弥生が大学に入って俺を見て、恋に落ちたと言っただろ?最初に恋に落ちたのは弥生のほうだったと」

と静かに一臣さんは話しだした。


「え?はい。確かにそうおっしゃっていましたよね」

「正確には違う。弥生は8歳のときの俺のことを特に何も感じなかったようだが、俺のほうは弥生に恋しちゃったんだよ」

「え!?」

 一瞬、市川さんも小岩さんも黙り込んで静止した。そして、慌てたように小岩さんはカメラのシャッターを押し、多分、真っ赤になって一臣さんと目を合わせた私を撮ったんだと思う。


「恋しちゃった?もしや、一臣様の初恋のお相手?」

「そのとおりだ。屋敷に帰ってから俺は、親父や他の連中にも、弥生と将来結婚すると息巻いていたくらいだし」

「え~~~~!!!」

 市川さんが大声を上げ、のけぞった。それを小岩さんがパシャパシャと写真に撮り、

「ほえ~~」

と、力の抜けた声を発した。


「じゃ、じゃ、じゃあ、世間では政略結婚…とか言われていますけど」

「親父が俺の言ったことを覚えていて、弥生と婚約させたんだろ」

「じゃ、じゃあ、それは、つまり、初恋が叶ったという」

「そうだな。そういうことだ」


「ひょ、ひょえ~~~~」

 市川さんまでが、声にならない変な声を出した。

「それ、弥生様はご存知で?」

「あとで知りました。聞いてびっくりしました」


「じゃあ、初恋の相手が婚約者だって知った時は、一臣様喜ばれて?」

「俺がそれを知ったのも、ずいぶんと後になってからだ。あのときの女の子が弥生だって気がついたのは、婚約してからだったし。な?」

「はい」


「知らずに婚約を?」

「そうだ。間抜けだろう?」

 自分で間抜けって言った?ど、どうしちゃったの?一臣さん。なんか、ボロボロと情けない話もしちゃうし、(投げ飛ばされたこととか)あっけらかんと隠さずに正直に話しちゃうし。


「いえ、間抜けってわけではないですが…。でも、驚きです」

「もう一つ、間抜けな話があるが、聞きたいか?」

「え?なんですか?」

 何?何を話す気?


「大学時代、こいつのことはよく知らなかった。それに、眼鏡かけて、今とは全然違っていたし」

「そうなんですか」

「ただ、卒業式の時には、レーシックも受けて、眼鏡はかけていなかったし、今と同じすっぴんだった」

「すっぴんなんですか?今も?」


「化粧、落ちちゃったみたいで」

 慌ててそう言うと、

「すっぴんでも肌が綺麗だし、大丈夫だろ?」

と一臣さんが、また涼しい顔で言った。


「え、もちろんです。本当にお肌綺麗だし、すっぴんと思えないほど…」

「そうなんだ。こいつは化粧しないほうがいいんだ。まあ、幼くはなるかもしれないが、そこが可愛いんだし」

 可愛い?!

 

 ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~。もう、喋らないでほしいくらいだ~~~。


 ほら、市川さんも小岩さんも引いてる!目が点になってる。呆れてる!


「話しを続けるぞ。弥生も、横でそんなにジタバタするな。静かにしてろ」

 恥ずかしくて、体をうねらせていたら、一臣さんに叱られた。


「卒業式に、何かあったんですか?」

「いや、何があったわけではないが」

 市川さんの質問にそう答え、

「弥生が一緒に写真を撮りたいと言ってきたんだ。俺は、その当事弥生がフィアンセだって知らなかったし、こいつの顔も知らなかったし」

と、話し出した。


「それで、一緒に写真を?」

「いや、断った」

「え?な、なんでまた?」

 小岩さんのほうが聞いてきた。


「俺には上条弥生っていうフィアンセがいる。それだけは知っていた。でも、本人がまさか同じ大学にいるとは思ってもいなかったし。だから、一瞬にして惚れた相手がフィアンセとは知らなかった。一緒に写真を撮ったところで、フィアンセがいる俺にはどうにもできないから、だから、写真を撮ることすら断ったし、話もしなかったし、追いかけていって名前も聞かなかったし、思いも封印したし」


「い、今、一瞬にして惚れたって?」

「ああ、一目ぼれって言うのはあるんだな?初めて会った相手に、一瞬にして恋をする。あ、でも、初めてじゃないな。8歳の時にすでに会っていたから、俺は人生で2回も同じ相手に一目ぼれしたんだ」

 うっきゃ~~~~~~~~~~~~~~~~!!


「一臣さん、もうやめましょう。その話はやめて下さい。私、恥ずかしくて倒れそうです」

 一臣さんの腕にしがみついてそう言うと、一臣さんはきょとんと私を見てから、大笑いをした。

「恥ずかしくて倒れるのか?お前、ほんと、面白いよなあ」

「笑い事じゃないです。どうしちゃったんですか?なんでそんなことまで、ばらしちゃうんですか?恥ずかしくないんですか?」


「今の、本当のお話なんですね?真実なんですね?作り話じゃないんですね?」

「当たり前だ。作り話をしてどうする。俺は、自分のフィアンセと知らずに惚れて、勝手に報われないと思って思いを封印した。な?間抜けな話だろう。はははは」

 大笑いをする一臣さんを、市川さんは目を点にしたまま見つめ、小岩さんは写真をひたすら撮り続けた。


「で、では。えっと。一臣様は奥様にものすごく惚れ込んでいらっしゃる」

「ああ。惚れてる」

 きゃ~~~~~~~~~~~~~~~。顔、上げられない。きっと私真っ赤だ。


「弥生様も一臣様に」

「ああ、ぞっこんだ。な?」

 コクコクと下を向いたまま、首を縦に振った。


「で、では、政略結婚というよりも…」

「俺の初恋がめでたく叶って、ゴールインできた。幸せなカップルってわけだ。な?」

「ゴールイン?幸せなカップル?」

 市川さんがオウムのように繰り返すと、

「そうだ。そう記事にも書いておいてくれ」

と、一臣さんはクールな顔でそう言った。


「え?記事にしていいんですか?ここだけの話じゃないんですか?」

「いいや。真実だから、記事にしていいぞ。俺たちの馴れ初めだ。そういうことが聞きたかったんじゃないのか」

「はい。そうですが。まさか、馴れ初めがあると思わずに」


「え?」

「いえ。あの。親同士が勝手に決めた政略結婚かと…。あ、すみません」

 市川さんは一臣さんが睨んだから、慌てて謝った。


「まあ、いい。みんなにもそう思われているようだから、ちゃんと真実を知ってもらわないとな。噂では仮面夫婦だとか言われているらしいが、そんなことはないからな。見てわかるとおり、仲がいい」

 そう言うと一臣さんは、私の肩を抱いた。


「それは、ずっと手を繋いでらっしゃったので、わかっていましたが」

 小岩さんがそう言うと、一臣さんは、

「ああ、忘れてたな。手、繋いでた。癖だな。いつも繋いでいるから」

といけしゃあしゃあとそう言った。


 嘘ばかり。絶対に仲いいアピールしたんだよ。だっていつもは、手を繋いでいるより…。どうしていたっけ?あ、私の太もも撫でてる。

 それはさすがに、できないか…。


 15階に戻る間、広報部のみんなは私たちをじろじろと見た。一臣さんは私の腰に腕を回し、

「弥生、疲れなかったか?大丈夫か?」

とやや大きめの声でそう聞いてきた。

「はい、大丈夫です」

 本音は、思い切り疲れています。


「そうか。15階に行ったら、少し休め。久しぶりの会社で疲れただろう」

「はい」

 一臣さんの声、みんなに聞こえる大きさ。これ、絶対に優しさアピールしているよね。


「弥生様のこと大事にしている」

「やっぱり、仲いいんじゃない?」

 後ろからそういう声がした。隣で一臣さんが、よしって口元を緩ませた。やっぱり、作戦か。


 でも、15階に戻ると、

「樋口、弥生が疲れたようだから、少し休ませる」

とすぐさまそう樋口さんに伝えた。

「大丈夫ですか?弥生様」

「はい」


「俺も、弥生と休むから、取次ぎとかしばらくしないでくれ。あれ?細川女子は?」

「秘書課です」

「何かトラブルでも?」

「いいえ。江古田さんから相談を持ちかけられているようです」

 ギク。まさか、土浦さんのことかな。


「そうか。じゃ、頼んだぞ」

「はい」

 一臣さんのオフィスに入ると、

「ほら、弥生。ソファをベッドにするから、少し横になれ」

と、ソファの背もたれを倒してくれた。


「大丈夫です」

「いや、かなりしんどそうだぞ。横になれ。毛布持ってきてやる」

 うわ。優しい!

 一臣さん、優しさアピールしてたけど、二人きりではもっと優しくなる。


 声も表情も、ずっとずっと。


「一臣さんは?休まれないんですか?」

「ああ。プロジェクトのことで、見る資料があるからな。弥生は気にしないで休んでいいぞ?」

 そう言って、一臣さんは一人掛けのソファに座り、資料を読み出した。


「嬉しい」

「ん?」

「いつもお屋敷だと、一人でベッドに寝てて、すっごく寂しかったから。こうやって、一臣さんがそばにいてくれるだけで、すっごく嬉しいんです」


「そうか」

 にこりと一臣さんは私を見て優しく微笑んだ。

「でも、さっきはびっくりしちゃいました」

「真実を言っただけだ」


「で、でも。投げ飛ばされたことまで言っちゃうなんて」

「子供の頃の話だ。別にいいだろ?もう時効だ」

 何が時効なんだか。


「あの記事を読んだら、さすがに噂は消えるだろ」

「はい、そうですね」

「俺に色目を使ってくる女もいなくなるだろ」

「え?」


 色目?

「たとえば、土浦だっけ?プロジェクトの」

 え?!

「あいつ、弥生に変なこと言ってなかったか?横に行ってこそこそと話しをしていただろ?」

「知ってたんですか?」


「やっぱり。お前、顔色おかしくなってたけど、変なこと言われたのか?」

 一臣さんってすごい。ちゃんと見ててくれたんだ。

「だ、大丈夫です。いつものパターンです」

「いつもの?」


「同情されただけです」

「同情?」

「はい。でも、気にしていません」

「……。あれか。跡継ぎを生むだけの道具…みたいな」


「はい」

「そうか。弥生、すまない」

 え?

「なんで、一臣さんが謝るんですか?」


「俺が、お前をちゃんと知る前に、親父が勝手に決めたフィアンセを嫌がり、女遊びをして、結婚しても女遊びはするだの、とんでもないわがままばっかり言ってきたからな。跡継ぎさえ生ませたら、屋敷には帰らないとか、そう言っていたのは俺自身だし…」

 う。それで謝ったのか。びっくりした。


「は~~~あ。自分で自分が情けないよな。大人気ないことをしてきた」

「後悔しないで下さい。今は、ちゃんと一臣さんに大事に思われているって、わかっています」

「……。俺のこと、信じているんだよな?」

「はい」


「そうか。やっと、信じてくれるようになったのか」

 ?やっと?

「他の女と何かあるんじゃないかって、疑っていたこともあっただろ?」

「それは、自分に自信が無かったから」


「自分に自信が持てたのか?」

「えっと。一臣さんが本当に優しいし、大事に思ってくれているから、自信が持てたっていうか」

 そう言うと、一臣さんは立ち上がり、私の隣に寝そべった。



「やっぱり、少し一緒に寝る」

「はい」

「添い寝、してほしいだろ?」

「はい!」


 べたっと一臣さんの胸にひっついて顔をうずめた。

「一臣さん」

「ん?」

「もう、コロンつけても大丈夫です」


「コロン、つけたほうがいいのか?」

「あの香り好きなんです。ドキドキするって言うか、でも、落ち着くって言うか」

「そうか。わかった」

 一臣さんは私のおでこにキスをして、おやすみと耳元でささやいた。


 ギュ。一臣さんに抱きつき、好き…と思わず言ってしまった。一臣さんは、優しく私の髪を撫でた。でも、俺もだとか、好きだとか言ってくれなかった。


 ほんのちょっとだけ、寂しいなって思っていると、

「愛してるよ」

と耳元でささやかれた。


 ひゃあ。胸がドキンって高鳴っちゃった。

 ああ、今日も、私は思い切り幸せだ。






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