第2話 金髪グラマーの秘書
「アマンダ。久しぶりだな」
一臣さんからも軽くハグをした。アメリカ式の挨拶なんだ。
「紹介するよ。俺の奥さん、弥生だ」
「弥生?初めまして。アマンダです。よろしくお願いします」
きれいな日本語を話す人だ。私のこともハグしてきた。背、高い。170はあるかな。ヒールも履いているし、一臣さんと並ぶと同じくらいになる。
綺麗な青い目。私ですらドキドキするんだもん。一臣さんもドキドキしたりしない?
「弥生が町を歩きたいそうだ。俺はまったくわからないから、案内してくれないか」
「OK!ボディガードも二人連れてきました。安心して下さいね」
部屋を出ると、すでにエレベーターホールのところに、ごっつくてサングラスをかけた黒人の人が二人、仁王立ちで待っていた。一人はスキンヘッド。一人は髭もじゃ…。
「や、弥生です。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をしたが、二人は何も挨拶をしてくれず、仁王立ちのまま。
そして、その二人を引き連れ、エレベーターに乗り、1階に着くとホテルの外に出た。アマンダさんはにこにこしながら、道案内をしてくれた。
海辺の道は、やしの木が並び、まさに「これぞ、ハワイ!」って感じだ。
青い空、やしの木、青い海、ダイヤモンドヘッド。ああ、ハワイだ。ハワイに来たんだ!
「一臣さん!ビーチにも行きたいです」
「それは明日だ。プライベートビーチがあるんだから、こんなごちゃごちゃしたビーチで泳ぐなんてあほだろ」
そうなんだ。
「アマンダ、いつもの店に行くから車の手配を頼む」
「はい」
いつもの?
私たちはまたホテルに戻った。そして、用意されたリムジンに乗ると、アマンダとスキンヘッドのボデイガードがまん前に座った。そして、何気にいちゃついている。
なんで?
「アマンダ、仕事中だぞ」
「OH、そのくらい許してください。まだ、私たちだって新婚なんだから」
「え?!アマンダさん、新婚なんですか?」
私はびっくりしてそう聞くと、隣にいる怖そうなスキンヘッドの人がにんまりと笑った。
「私の旦那さん、ボブです。まだ結婚して2ヶ月しかたっていないんです」
「わあ。おめでとうございます」
驚いた!こんな怖そうなおっさんと。いや、それは失礼か。けっこう若いのかもしれないし。
「ホリデイを二人で過ごせるって思っていたんですよ。一臣」
「ああ、悪かったな。俺の旅行につき合わせて。でも、ハワイを良く知っていて、頼りになって、弥生の面倒も見てくれそうなのはアマンダしかいなかったんだ」
「一臣、弥生のこと本当に愛しているんですね~~~。良かったです!」
え?今、なんかサラッとすごいこと言った!
「いきなり、何を言い出すんだ、アマンダ」
「だって、結婚してもハネムーンなんかしないって、ずっと言ってたし。それも、結婚しても女と遊ぶとか、馬鹿なことばっかり」
今、思い切り「馬鹿」って言ったよ。一臣さんに向かって、なんて強気な発言。
「若気の至りだ」
「ばかげのいたりー?」
「若気!つい若かったから、馬鹿なことをしたって、そんなようなことだ」
「ああ、ばかげ」
アマンダさん、まだばかげって…。若気なんだけどな。
「もう、いい」
一臣さんはそう面倒くさそうに言うと、私の腰を抱いた。
「可愛いですものね、弥生。今まで遊んできた女性とはまったく違うタイプ」
「そういう話ももうおしまいだ、アマンダ」
「…一臣、一つだけ。本当に女遊びはやめたんですね?」
「やめた」
「じゃあ、エイミーも…」
「エイミー?ああ、安心しろよ。アマンダ、昔から心配していたもんな」
「そりゃ、大事な妹ですから」
「でも、前々からどっちかって言えば、あいつのほうから仕掛けてきたんだぞ」
何を?何を仕掛けたの?う。気になるけど聞けない。
「だからって、まだエイミーは18だったのに」
「……。エイミーのほうが男遊び派手だったけどな」
「一臣!確かにそうだったけど、でも、エイミーは一臣にだけは本気で」
「待てよ。結婚もできなきゃ、本気になんてならないからって俺は言ってあったぞ」
なに。なに。なに~~~~?
まだ18のエイミーさんに一臣さんが手を出したってこと?
18?高校生のときに?うそ。
「それに、エイミーだって、婚約者いただろ?なんとかホテルの息子。ハワイにリゾートホテルをいくつも持っているって言う」
「…親が勝手に決めたんです」
「アマンダが最初は結婚するはずだったのに、家飛び出して俺の秘書になって、挙句勝手に俺のボデイガードに惚れこんで奥さんから奪い取って」
ひょえ~~~~~。何、それ~~~~~~~~~~~。
「だから、親父さんは妹のエイミーにホテル王の息子と婚約させたんだろ?」
「エイミーは喜んでいます。何しろ、贅沢三昧できますし。本当は一臣との結婚を狙っていたみたいですけど、一臣にはすでにフィアンセいましたから」
待って。そのエイミーさんは一臣さんを狙っていたってこと?!
「一臣から愛人でいいなら、ずっとそばにいてもいいぞって言われたって言っていました。とんでもない。ちゃんと一臣と別れて、結婚しろって言いましたけど」
愛人!?
「昔の話だ、弥生。そんなに青くなるな。もう愛人なんか作る気もしないし、弥生以外の女には興味ないから安心しろ。ほら、アマンダがそんな昔の話を持ち出してくるから、弥生が不安がってるだろ」
「OH!驚いた!」
アマンダさん、すんごい目を丸くして私と一臣さんを見てる。
「なんだよ」
「そんな優しい言葉を奥様に言うなんて!一臣、大人になった!」
「うっさい!アマンダと大して年変わらないだろ。1~2歳上だからって、年上ぶるな」
もう、どんなことがあっても、驚かないぞ。って思っていたのに、けっこうショックだ。エイミーさんも金髪青い目、グラマー美人なのかな。まだ、18だったって。一臣さんはいくつの時なのかな。
それも、それも、愛人でいいならずっとそばにいていいぞって、そんなことをエイミーさんに言ったの?
かなり、ショック。
リムジンが停まった店は、超高級ブランドのお店。そこで一臣さんはシャツと、パンツと、水着も買った。
「弥生は何かいるのか?」
「いいえ、いいです」
どこをどう見ても、このお店にある服は絶対に私には似合わないのがわかる。だいたい、サイズが合わないでしょ、サイズが。
「は~~~~~~~~~~~~」
ホテルの部屋に着き、私はベッドにため息をつきながら座った。
「ん?どうした?」
「なんでもないです」
「疲れたのか?夕飯まで休むか」
隣に座ってきた一臣さんが、優しくそう聞いてくれた。
「はい、そうします」
浮かれ気分が一気に消えた。ああ、この常夏の国ハワイに来て、一臣さんはきっとたくさん羽目を外したんだ。
そんな過去を穿り返して、落ち込まなくてもいいのに。でも、なんだか、気分が沈む。
ドサ。
突然、押し倒された。あ、あれ?
「弥生は寝てていいぞ」
「え?」
「でも、俺はもう我慢できないな」
「は?」
「言ったろ。ずうっと忙しくて我慢してきたんだ。もう当に限界は超えてる。本当なら、外に買い物なんか行かず、弥生と部屋でいちゃつきたかったのに」
え?
うわ。
ちょっと!
あっという間に脱がされ、濃厚なキスまでしてきた。こんなじゃ、寝てられないよ~~~~。
でも、落ち込んでた気持ちが浮上した。
だって、一臣さんが優しく何度も、可愛いだの、好きだだの、耳元で言ってくれたから。
あ~~~~~~~~~~。どんどん、心が満たされていく。
ハート充電完了。
うっとりしながら、一臣さんの胸に抱きつき顔をうずめた。
「ハネムーンベイビー、作るからな、弥生」
「え?はい」
わあ。なんか、いきなり顔が火照った。
「頑張ろうな、弥生」
頑張る?子つくりをってこと?だよね。
ここは、「はい」と言うべき?でも、ちょっと恥ずかしいかも。
「返事は?」
「う、は、はい」
「よし」
満足そうに一臣さんは、私のことを抱きしめた。
夕飯は、ホテルの最上階のレストラン。個室になってて、多分ビップしか入れない場所だ。
部屋もカードキーをエレベーターに挿さないと入れない、スイートルームだ。二人だけで泊まるのに、ソファもでかいし、ここで食事をするわけでもないのに、ダイニングテーブルまである。
それも、今日1泊しかしないそうだから、なんだか、もったいないくらい。
夕飯を食べ終え、また部屋に戻った。部屋にはなんとジャグジーバスもあって、二人でのんびりと入った。
こんな贅沢していいのかな。と、かなり罪悪感みたいなのが出てくる。でも、一臣さんにとっては、ホテルに泊まるって言ったら、いつもこんな感じの豪華な部屋?
「やっぱ、すげ~な。ロイヤルスイート」
「え?」
「ハネムーンだからって、アマンダが用意した部屋だ」
「じゃあ、いつもはここまですごい部屋に泊まらないんですか?」
「そりゃ、いつもは一人だからな。まあ、女呼んだとしても、ここまですごい部屋に泊まる意味もないし」
女を呼ぶ?!え?ホテルの部屋に!?
「いつもはエグゼクティブクラスだな」
そこに女の人呼んでいたんだ。
「まあ、でも、1泊程度だ。あとはじいちゃんの屋敷に行って、遊んでいたからな」
「じいちゃん…」
「会長だ。屋敷って言っても、東京の屋敷とは違うぞ。もっと、リゾートホテルっぽくって、コテージもあるから、俺はコテージに泊まってた。まん前海だし、テニスコート、プール、バー、全部揃っているし、パーティもできるし、遊ぶのにはもってこいなんだ」
「そこで、女の人を呼んで…。エイミーさんも?」
「ああ、エイミーもよく遊びに来てた」
まさか、何人も女性呼んでハーレム状態?!
「今回もコテージに泊まろうな?じいちゃん、ばあちゃんと顔合わせなくて済むし。二人だけでハワイを満喫できる」
「え?おじい様とおばあ様に会わないんですか?」
「ああ」
「でも、お孫さんに会うのを楽しみにしていますよ」
「まさか!あの二人が楽しみに待っているわけ無いだろ」
「そんなことないですよ。絶対に孫って可愛いものです。うちのおじい様やおばあ様だって」
「上条家とは違うんだよ。それに、俺は弥生と二人でのんびりしに来たんだ。じいちゃんに会いに来たわけじゃない」
「でも」
「でももくそもないっ!もう出るぞ!」
一臣さんは不機嫌になり、とっととバスルームを出て行った。私も慌てて、後を追った。
髪も無造作に乾かし、ぐびっと炭酸水を飲むと、一臣さんはさっさとベッドに寝転がった。
「弥生も早くに来い」
「はい」
私も慌てて髪を乾かし、そそくさとベッドに入った。
一臣さん、機嫌悪い。そっぽ向いて目を閉じてる。
後ろから抱きつき、
「おやすみなさい」
と言うと、一臣さんは低い声で、
「ああ」
とだけ言った。
う…。ハネムーン1日目から、なんか、気まずくなったかも。
でもね、やっぱり私、一臣さんのおじい様とおばあ様だもん。ちゃんと会いたいよ。