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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 赤ちゃんができました!
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第9話 俺様健在

 ホテルに到着した。ドアボーイがすっ飛んできて、

「お待ちしておりました。緒方様」

と深々とお辞儀をした。


 それからフロントに行くと、みんなが私たちに向かってお辞儀をし、支配人が来て、

「どうぞ、こちらへ」

と何も受付もせず、そのままエレベーターに案内された。


 エレベーターに乗り込むと、カードキーを入れ最上階のボタンを押した。

「本日は、ご内密ということですね」

「ああ。頼んだぞ」

「かしこまりました」

 内密も何も、フロントでみんなしてお辞儀をしていたから、目立っちゃったと思うんだけどなあ。


 最上階に着き、ロイヤルスイートっていう部屋に案内された。

「ここでしばらく、ゆっくりしよう」

 部屋に入ると一臣さんはそう言って、私の肩を抱きソファに座らせた。


 支配人は、鞄を置いて部屋を出て行った。

「しばらく、泊まるんですか?」

「そうだな~~。あの川井ってやつ、どうやら焦っているかもしれないし」

「焦る?」


「ああ。よくわかんないが、お前を狙っているのは確かだし…。つわりもよくなったから、久々に里帰りさせたと偽の情報を屋敷内には流すようにしてある」

「え?それって、うちの実家が狙われたりしませんか?」

「ちゃんと侍部隊も忍者部隊も配置させた」


 いつもながら、すごいなあ。

「ああ、それにしても、腹立たしいよな!なんで、弥生を狙うんだよ。くっそ~~~~」

 うわ。いきなり怒りがあらわに。お屋敷では、ぐっと抑えていたんだろうな。


「すぐにでも、あの二人クビにしてやりたいんだが、辰巳さんがしばらく泳がせて、黒幕を調べるとかなんとか言ってるから。そんなの待ってたら、弥生が危ないって言ってるのに!あの、くそじじい」

 くそじじいって、辰巳さんのこと?


「川井が怪しい電話をしていたことは、もう辰巳さんにも報告されていると思うから、弥生を連れ出したことに文句は言わないだろうけどな。それに、樋口の話では、だいぶ黒幕の正体もわかってきたらしいからな」

「え?そうなんですか?」


「川井の親父ってのが、厄介なやつで、産業スパイをしていたようなんだ。で、会社をクビにされた」

「それで?」

「親父のほうの行方はわからないみたいなんだが、娘はどうやら、スパイ業を受け継いだらしい。そういう黒歴史は、全部塗り替えていたみたいなんだけどな、緒方財閥の情報網のほうが上を行くんだよ」


「も、もしや、緒方財閥もスパイをどこかに送り込んでいたりとか?」

「いや、忍者部隊が秘密裏に動いているが、産業スパイみたいに姿を表に出さないんだよ」

「え?」

「忍んで探る。だから、水戸黄門で言う風車の弥七なんだ」


「すごいですね」

「まあ、それだけじゃないけどな。あらゆるところから、情報がやってくるから。警察、弁護士、検察、医師、他、もろもろ」

 緒方財閥恐るべし。


「川井の親父のほうも、そのうち情報が来るだろ。とりあえず、川井に依頼しているアメリカの会社が、マンハッタンにビルを買って、市場を広げようとしたのを、緒方財閥と上条グループで邪魔しちゃったみたいなんだよな」

「アメリカ進出プロジェクトですか?」


「ああ。買い付けようとしていたビルや土地を、俺らのほうで買っちまったから、恨みを買ったみたいなんだ。別に、こっちは土地をのっとったわけじゃないぞ。逆恨みだろうな」

「そ、そうか。そんなことが…」

 いろいろと、新しいことをすると問題が出てくるもんなんだな。


「だからって、弥生を狙うのはお門違いもいいところだろ?」

「ですよね」

「跡継ぎ狙って、何がしたいんだか」

 一臣さんはため息をつくと、窓の外を見に行った。


「ホテルに缶詰も嫌だろ?明日は、ここからオフィスに行くぞ」

「え?行っていいんですか?」

「ああ。会社のほうが、弥生を守れる。車の移動も大丈夫だったみたいだしな?」

「はい。もう、大丈夫です」


「じゃあ、明日から仕事復帰だ」

「はい。頑張ります」

「頑張らなくていい。無理はするな」

「…でも、ずっと仕事も出来なくて、お屋敷でうずうずしていたから」


「じゃあ、無理しない程度にやれよ?」

「はい!!!」

 やっと、仕事復帰だ~~~。嬉しい!


 その日は、ホテルでのんびりと一臣さんと過ごした。最近、お屋敷で一臣さんも気を張っていたようで、いつも以上に一臣さんは甘えモードになっていた。


「弥生、弥生」

と名前を連呼するし、べったりくっついてくるし、可愛いと言って抱きしめてくるし。

「エッチはできないのはわかってるけど、風呂くらいは一緒に入ろうな?」

「はい」


 なんとなくだけど、盗聴器があるから、お風呂も一緒に入るのをやめていた。今日は久々に、気兼ねなくいちゃるける!それに、つわりもよくなったし。


 さすが、ロイヤルスイートだけあって、バスタブも大きいし、ジャグジーもついている。一臣さんの部屋のお風呂に入っているみたいだ。


 バスタブでは、一臣さんが後ろから私を抱きしめ、

「少し、腹も出てきたな」

と、お腹を撫でてきた。

「はい」


 チュ。一臣さんがうなじにキスをした。

「もう、こんなことがないように、メイドもしばらく新しいのを入れないからな」

「え?そうなんですか?」

「ああ。モアナも来たし、黒影は川井たちがいなくなったら、もといた部署に戻るが、大阪に行ったメイドをひとり、戻すらしいしな」


「龍二さん、怒りませんか?」

「龍二から言って来たんだよ。わけのわかんないメイドなんか入れて、弥生に何かあったら大変だろって」

「そうなんですね」

 嬉しい。


「あいつ、弥生のこと、大事に思っているし。お腹の子のこともな」

 じ~~~ん。感動だ~~~~。

「龍二とこんなふうになれたのは、弥生のおかげだよなあ」

「そんなことないです。私、なんにもしていないし」


「したよ。弥生が龍二の味方になるって言ってから、あいつ、弥生のこと信頼して心開いたんだし」

「……。でも、本当によかったですね。一臣さんだって、龍二さんとまた仲良くなれて…。やっぱり、兄弟なんだし、仲いいのが一番です」

「そうだな」


 ギュ。一臣さんが後ろから私を優しく抱きしめてくれた。

「子供も、兄弟仲良く育てような」

「はい」

 あ~~。何日ぶりかな。この幸せ感。


 私も、一臣さんがそばにいてくれたら、幸せだったけど、でも、やっぱり不安だったんだな。

 そう思うと、一刻も早く、安心できるお屋敷に戻ってほしい。


 翌朝、ルームサービスを呼び朝食を済ませた。

「だいぶ、食べれるようになったんだな、弥生」

「はい」

「スーツを1着持ってきたが、スカートはいるか?」


「履いてみます」

と、頑張ってみたが、

「無理するな。お腹の子にも悪いし、ワンピースを着ていけ」

と、昨日着ていたワンピースを着ていくことになった。


「マタニティも買わないとな。また、青山に頼んでおくか」

「青山さんにいつも甘えちゃって、申し訳ないです」

「気にするな。あいつはこういうことをするのが好きなんだよ」

「そうなんですね」


「青山はセンスがいいからな。弥生に似合うものを用意してくれるし。逆にお前が買うよりずっといい」

 むっ。それって、私のセンスが悪いってこと?

 当たっているだけに言い返せないけど。


「さ、行くぞ」

 一臣さんはスーツの上着を羽織り、私の腰に手を回した。ああ、いつもながら、かっこいい~~。

 今日のスーツも似合ってる。立ち振る舞いもかっこいい。うっとりしながら歩いていると、

「こら。あんまりそういう目で見るな。襲いたくなるから」

と一臣さんは頬にキスをして言ってきた。


「は、はい」

 その言葉だけでも、十分腰を砕けさせる。


 私たちは正面玄関ではなく、地下の駐車場に直接行った。そして、いつもなら等々力さんの運転する車なのに、違う車が待っていた。でも、運転席には等々力さん。あれ?


「親父の車だ。ここまで、カモフラージュしないでもいいかとも思ったんだが、念には念を入れたほうがいいと辰巳さんも言っていたからな」

「じゃあ、等々力さんの車は?」

「会社においてきました」


 助手席には樋口さんの姿が無い。

「樋口さんは?」

「会社です」

 樋口さんも会社においてきちゃったの?


「樋口がいたら、俺がここにいるのがばれるからな。念には念を入れ、別行動だ」

「そうなんですね」

 徹底しているんだな。


「安心しろ。忍者部隊のやつらがちゃんと守ってくれているからな」

「あ、はい」

 そうだよね。樋口さんって、秘書だけどボディガードでもあるんだよね。樋口さんがいない分、誰かに守ってもらうことになるんだな。


 車に乗り、会社に向かった。いつもと違う車でも等々力さんが運転しているから、安心できる。

「等々力だと、酔わないだろ?」

「え?」

「いつもと同じ運転手のほうがいいと思ったんだ。安心も出来るだろ?」


「はい!思い切り安心できます」

「そう言っていただけると嬉しいですよ」

 等々力さんは、本当に嬉しそうに笑った。


 これも、一臣さんの配慮かな。ああ、優しいな~~~~。


 思わず、一臣さんの肩にもたれかかった。一臣さんは私の手をギュッと握り締め、

「今日はなるべく一緒にいるからな」

と耳元でささやいてくれた。キュン!


「1件、出かける用事があったが、さっさと済ませて帰ってくる。あとは、会議くらいだ。それは弥生も出席できるよな?」

「はい!」

「ははは。元気いいな」

 もちろんです!だって、一臣さんが横にいるんだよ?!元気の源がいるんだもん。

 

 会社に着いた。なんと社長専用の駐車場に停まり、いつもと乗るエレベーターすら違う。

 エレベーターが到着すると、そこは社長室に繋がる廊下だった。


「親父、いるかな」

 一臣さんはそう言いながら、ドアにADカードをかざし、何やらパスワードも入力する。そしてドアを開くと秘書室に入り、

「おはようございます」

と、青山さんがぺこりとお辞儀をした。


「親父は?」

「いらっしゃいます」

「ちょうどよかった」

 そう言って、一臣さんはまたドアにIDカードをかざした。


「社長、一臣様と弥生様がお見えです」

「ああ、中に入れ」

 という声も待たず、さっさと一臣さんはドアを開けていた。


「親父!大変なことになってるんだから、すぐに連絡よこせよ」

 中に入るといきなり、一臣さんが怒鳴った。ほんと、一臣さんって、お義父様には態度がでかいよねえ。

「辰巳からも報告を受けている。あ、弥生ちゃん、大変な目にあったね。体のほうは大丈夫かい?」

「はい」


「うん。元気そうで何よりだ。今日から出社するのかな?」

「はい。仕事も復帰します」

「それはよかった」

「よくねえ!!」


 あ。また、一臣さんが怒鳴った。

「今の状態じゃ、屋敷にも帰れないんだよ」

「大丈夫だ。あと数日で、尻尾をつかめる」

「親父、もう把握してるのか?」

「ああ。黒幕の正体はばっちりな」


「で、なんで弥生を狙っているんだ?」

「上条グループと緒方財閥の離縁を狙ってるな」

「はあ?んなことあるわけないだろ」

「お前にメイドを近づけさせたのも、作戦のうちだろう」


「なんのだよ」

 一臣さん、さっきからおでこに青筋たってる。相当怒っているかも。

「メイドに手を出させ、何か証拠を握り、スキャンダルにでもするか、上条グループに報告でもするか」

「馬鹿らしい!そんなのに俺が乗るとでも思っていたのか」

「思っていたんだろうなあ。お前、女に手が早いって有名だろうし」


「ふん!そんなの遥か昔の話だ。今は、どんな女が言い寄ったって、絶対になびかない自信があるぞ」

「そんなに、自分の奥さん一筋なのかい?すごいねえ、弥生ちゃんの威力は」

 そう言って、お義父様は大笑いをした。


「うるさいぞ、親父」

「純愛なんだねえ。羨ましいな。そんな人とめぐり合えて、そんな人と結婚までしちゃって…。ああ、初恋の相手なんだもんなあ」

「うるさい!それ以上からかうな!」


 あ、一臣さん、思い切り照れてる。顔が赤い。可愛い!


「ははは。いいじゃないか。弥生ちゃん、僕の初恋はね、中学校1年のとき、担任の先生に恋をして、切ない恋だったなあ」

「親父の初恋なんか聞きたくないっ」

「別に一臣に話しているわけじゃないぞ。僕は弥生ちゃんに」


「もう話は終わったな。じゃあ、行くぞ、弥生。10時半から、ミーティングがある。弥生も一緒に来い」

「あ、はい」

「なんだよ。弥生ちゃんと話をしてもいいじゃないか」

 ぶーぶー文句を言っているお義父様を置いて、一臣さんはとっとと社長室を後にした。


 やっぱり、この親子はおもしろいなあ。絶対に仲がいいと思う。


「ったく。俺がメイドなんかに手を出すわけが無いのに、そんな見境の無い男と思われたのが癪に障るよな」

 あ、まだ、一臣さん、怒ってる。


「弥生!」

「はい?」

 ぐいっと私の腰を抱き、

「弥生が社内にいなかった間、変な噂が立った。それを全部打ち消すくらい、仲良くするからな」

「え?」


「思い切り、みんなの前でいちゃついてやる」

 はあ?!


 ああ、まだまだ、一臣さんの『俺様』の態度と、スケベ発言は健在なのね。


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