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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 赤ちゃんができました!
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第5話 怪しいメイド?

 夕方になり、部屋を出て階段を降りながら、

「弥生様、お体お大事に」

「秘書課でお待ちしていますね」

「いつ戻ってこれそう?」

と江古田さんや矢部さん、大塚さんと話していた。


「いつ頃かな。安定期になってからだと思うんだけど」

 私が大塚さんの質問に答えていると、そのとき、背中をトン!と後ろからいきなり押された。


「きゃ!」

「大丈夫ですか?!弥生様」

 横に並んでいた亜美ちゃんが、私の体を支え、転んだり、階段から落ちることはなかったものの、ものすごく焦ってしまった。


「弥生、どうしたの?」

 大塚さんが心配そうに振り返って私を見た。


「階段からずり落ちた?気をつけないと、一人の体じゃないんだから」

「は、はい」

 斜め後ろには江古田さん、そのとなりに矢部さん。心配そうに私を見ている。


 誰かに押された気がしたんだけど、まさかね。

 ちょうど踊り場を通り過ぎたところだった。そして気がついた。新人のメイドさんが二人、奥様のお部屋のほうへ、階段を上っていった。今、私とすれ違ってたかな。


 話に夢中で、あんまり回りを気にしていなかったけど。


「弥生様、大丈夫ですか?」

 階段の下で待っていた細川女史が、私に近づき聞いてきた。

「はい。大丈夫です」

「気をつけてくださいね」

「はい」


 タクシーはすでに来ていて、みんなを喜多見さんや亜美ちゃんと見送った。


「弥生様、楽しそうでよかったです」

 亜美ちゃんが2階まで一緒に上がりながら、そう自分のことのように喜んでいる。

「ありがとう」

「あと少しで一臣様も戻っていらっしゃるし、もう寂しくないですね」


「うん」

「お疲れでしょう。少し、お部屋で休まれては?」

「はい、そうします。ありがとうね」

 自分の部屋に入った。しんと静まり返っているから、寂しくなって一臣さんの部屋に行くことにした。


 だが、私が例のドアから一臣さんの部屋のドアを開けると、部屋の中から誰かの気配を感じた。

「誰ですか?喜多見さん?」

 そう聞いた瞬間、ドアの閉まる音がした。


「だ、誰?」

 部屋の鍵をいつもかけているわけではないけど、喜多見さん以外一臣さんの部屋には入らない。

 あ、もしかして、お風呂の用意でもしていたのかな。と、バスルームに行くと、お風呂の用意はまだできていなかった。


「あれ?」

 絶対に今、誰かいたよね。

 怖くなって、慌ててまた自分の部屋に戻った。


 そして、しんと静まり返る部屋の中、ベッドに潜り込んで、眠ることも出来ず、ただひたすら一臣さんの帰りを待った。


「弥生様、夕食をお持ちしました」

 国分寺さんの声が聞こえ、

「はい」

と、ベッドから抜け出し、ドアを開けに行った。


「一臣様のお部屋にお持ちしますか?」

「いいえ。ここでいいです」

 テーブルに国分寺さんが、サラダやフルーツ、スープを置いた。


「あの、喜多見さんが一臣さんのお部屋に来ていたかわかりますか?」

「お風呂のご用意ですか?今からすると言っていましたから、ちょうど今頃用意していると思います。夕飯を召し上がってから、すぐに入られますか?」

「今、お風呂の用意をしているんですか?」


「はい。どうかしましたか?」

「さっき、一臣さんのお部屋に行ったら、誰かがいる気配があったんです。てっきり喜多見さんかと思ったんですけど。あ、他に何か用事があったとか?」

「いいえ。特にそのようなことは…」


「じゃ、誰が…」

「ご心配なさらないで下さい。お調べしますから。弥生様は、わかるまでこちらでお休みになっていてくださいね」

「はい」


 国分寺さんは顔は穏やかだったが、急いで部屋を出て行った。

 喜多見さんじゃなかったら、誰かな。一臣さんのお部屋って、喜多見さんしか入らせていないよね。


 夕飯を食べ終え、国分寺さんが来るのを待った。一臣さんの部屋に行って、誰か変な人と遭遇しても怖いし。普段なら、やっつける。でも、今は無理だ。お腹に赤ちゃんがいる。無茶をしてお腹の赤ちゃんに何かあったら大変だ。


 夕飯を終え、しばらく国分寺さんを待ったが、まったく来る気配が無い。

 なんか、ここに一人でいるのも、心細いんだけどな…。


 ガチャリ。


 ん?今、一臣さんの部屋から、ドアを開ける音がしなかった?もしかして、帰ってきた?!

「一臣さん?」

 となりの部屋に通じるドアを開けようとした。でも、ドアノブは回ったのに、ドアが開かない。


「あれ?」

 ガチャガチャ。何度か開けようと試みたが、まったく無理だ。

「まさか、鍵がかかってる?」

 なんで?誰かが一臣さんの部屋から鍵をかけた?


 それとも、一臣さんが帰ってきているの?

 それとも、国分寺さんとか、喜多見さんが鍵をしたとか?


 何が起きているわけ?


「弥生、帰ったぞ!」

 あ!やっぱり、一臣さんだ。一臣さんの声が隣から聞こえた。

「か…」

 一臣さんを呼ぼうとドアの前から声をかけようと近づいた。


 だが、隣から、

「なんだ!何してるんだ!」

という一臣さんの大きな声が聞こえてきた。


 何?誰かいるの?!

「一臣さん?!」

 ドアをガチャガチャ開けようとしても、やっぱり開かない。


 廊下側のドアを開け、廊下に出た。

「一臣さん!大丈夫ですか?!」

 泥棒とか、誰かが侵入したの!?


 ガチャリ。こっちのドアも開かない?なんで?!中から鍵がかかってる!

「一臣さん!!!」

 ドンドン!ドアをたたいた。中からなにやら声が聞こえては来るが、何を話しているかまでわからない。


「弥生様、どうかなさいましたか?」

「喜多見さん、一臣さんの部屋に誰かいるみたいなんですっ!」

「ああ、それでしたら、今、一臣様が帰ってきて…」

「中から鍵がかかってて、開かないんです。私の部屋から通じるドアも鍵がかかってて、誰かが一臣さんを待ち伏せしていたみたいで!」


「え?!」

 喜多見さんは、慌てて階段のほうに行き、

「国分寺さん!一臣様のお部屋の鍵を持ってきて!至急!大至急!!!」

と叫んだ。


 バタバタと国分寺さんも、他のメイドさんもやってきた。

「コック長、樋口さんと等々力さんも呼んでください!」

 階段を上りながら国分寺さんが叫ぶと、下から「はい!」というコック長の声も聞こえた。


 ガチャガチャ。国分寺さんが慌ててドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。と、その時、

「いやあ!」

という女性の悲鳴のような声が部屋の中から聞こえてきた。


 私と国分寺さんは、思わず目を合わせ、

「どうかしたんですか!?」

と、国分寺さんは慌てたようにドアを開けた。


「一臣様が!いきなり襲ってきて!」

 そう言って、メイド服の背中のファスナーを開け、肩やブラジャーまで露出した入曽さんが泣きそうになりながら、国分寺さんのもとにかけてきた。


「はあ!?お前、何を言ってるんだ!お前が勝手に脱いだんだろうがっ!」

 え?

「違うんです。部屋に引っ張り込まれて、抵抗したのに一臣様が」

「いい加減にしろよなっ!!!」


 一臣様はそう叫んだ。私の後ろで、

「メイドにまで手を出すなんて」

と、そういう声が聞こえてきた。何を言ってるの?と、怒りながら振り返ると、新人のメイドがそこにいた。


「一臣様がそんなこと、するわけないじゃないですか!」

「本当なんです。国分寺さん!」

 入曽さんは、国分寺さんにそう訴えている。


「そんなわけ、あるわけないです」

 私がそう言い切ると、

「弥生様なんて、もう抱く気もしないって、だから、お前が相手をしろって言ったんですよ」

と、とうとう入曽さんはわあっと泣き出した。


「呆れた。呆れて何も言えない。お前、いったいなんなんだ」

 一臣さんが、眉間にしわを寄せ、腕組しながらそう聞いた。


「あれれ。兄貴、とうとうメイドまで手を出しちゃった?いくら弥生が妊娠中で、エッチできなくて欲求不満だからって、それはまずいでしょ」

 え?!


 すごく、憎らしい口調の声が、階段のほうから聞こえてきた。そして、そこに現れたのは、龍二さんと京子さんだった。


「俺が弥生以外に手なんか出すか。他の女じゃ、まったく欲情しない。目の前で裸になったって、どんなことしても無理だ」

「なるほど。じゃあ、そこのメイド、なんか企んでる?第一、自分の城に弥生以外の女を入れるとは到底思えないし、あんたが勝手に入り込んだんだろ?」


 龍二さんがそう入曽さんを見下したように見ながら言った。

「…なによ」

 入曽さんは今まで弱弱しく泣いていたのに、突然顔を上げ、一臣さんや龍二さんを睨んだ。


「なんで、こんな童顔の寸胴の女のことは抱けて、私は無理なわけ?信じられない。そもそも、跡継ぎ生むだけの結婚でしょ?子供できたんだから、いい加減、一臣様を解放したら良いじゃない。一臣様は、こんな女のために、他の女は手を出さないようにしているってわけ?」

 え?なんか、いきなり態度が変わった。それに、今度は私のことを睨んでいる。


 そして入曽さんは背中のファスナーを自分であげ、メイド服をちゃんと着ると、

「一臣様が淡白なのは知ってる。前もお酒飲んで、まったく抱いてくれず、一人で帰ったことあるしね。だけど、結婚したって女遊びはするって、そう言ってたじゃない」

と一臣さんにタメ口で話しだした。


「お前に?俺が?以前会った事があるのか?」

 一臣さんは、私のことを自分のほうに抱き寄せて、後ろに隠すようにしながら入曽さんにそう聞いた。

「4年前よ。まだ、一臣様が大学生の頃。パーティで会ったわ。大学卒業して、なんとか近づきたくって、メイドにまでなったのに、全然私のこと思い出してくれないし、かまってくれないし」


 そこまで入曽さんが言うと、一臣さんは呆れたようにはあっとため息をつき、

「ストーカーだな。国分寺さん、こいつ、即クビ」

とクールに言い放った。


「一臣様?私は、ずっとあなたのことを思って…」

「勝手に人の部屋に入りこんで、勝手に人に迫って、服脱いで、相手にされないとわかったら、悲鳴上げて、お前みたいな危ないやつ、クビに決まってるだろ。今度、弥生や俺のそばをうろついてみろ。お前だけじゃなく、家族まで働けないようになるからな」

 

 うわ。すごい脅し…。と思って、一臣さんの顔を見ると、真剣そのもの。それに、龍二さんや、国分寺さんまでが、入曽さんを睨んでいる。


「一臣様、大丈夫でしたか」

「ああ、樋口も等々力さんも、悪かったな。休んでいたんだろ?」

「いえ。弥生様は、お怪我はありませんか?」

「はい」


「樋口、こいつ、すぐにつまみ出せ」

「かしこまりました」

 樋口さんはクールにそう言うと、入曽さんの腕をぐいっと掴み、階段を降りていった。


「痛い、離して」

「申し訳ありませんが、離すわけにはいきません。あと、事情をいろいろとお聞きしたいので、寮の食堂までいらして下さい」

 樋口さんの声は、すっごく低くて威圧感があって、怖かった。


「弥生、大丈夫だったか?」

「一臣さんこそ、大丈夫ですか?」

「ああ。俺は大丈夫だ」

 一臣さんはそう言って、私を抱きしめた。


「兄貴、他の女には欲情しないって、まじ?」

「龍二、お前、適当なことをさっき言ってたな。俺がメイドに手を出したとか何とか」

「悪い。もう、昔みたいに、女癖悪い兄貴じゃ無かったよな」

「そうだ。お前だって、京子さんにしか興味ないんだろ?」


「…そりゃまあ、そうだが」

 龍二さんはすぐ隣にいる京子さんをチラッと見て、照れくさそうにそう言った。京子さんは、顔を赤らめている。

「じゃあ、俺らはもう休むから。弥生、気をつけろよな」

 龍二さんは、京子さんの腰を抱き、自分の部屋に入っていった。


「大阪から、龍二さんと京子さんも来たんですか?」

「ああ。今度は東京で、いろいろと会議があるから、それに出席するためにな」

 一臣さんは私の肩を抱きながら、部屋に入った。


「弥生、心配かけたな。お腹の子は大丈夫だったか?」

「はい」

 私のお腹を優しく一臣さんがさすった。


「つわりは?」

「今は大丈夫です」

「じゃあ、一緒に風呂に入るか」

「はい。でも、その前に」


 私は、一臣さんにギュウっと抱きついた。ああ、一臣さんだ。一臣さんだよ~~。

「ん?寂しかったか?」

「寂しかったです」

「大塚たちが来て、楽しかったんだろ?」


「でも、帰っちゃってから、ずっと部屋で一人で寂しくて」

「俺はびっくりしたぞ。弥生がいるのかと思ったら、ベッドからメイドの女が顔を出したから、まじで驚いた」

「え?ベッドにまで潜り込んでいたんですか?」


「怖いだろ?あれこそが、ストーカーだな」

「…。じゃあ、入曽さんが、ドアの鍵を閉めたんだ」

「いや、俺の部屋のドアには触っていないぞ?」

「いえ。私の部屋に通じるドア。誰かがガチャって閉めたんです」


「それは、入曽かもしれないが、俺の部屋のドア…、廊下に通じるドアは入曽じゃない。でも、鍵、閉まってたよな?」

「はい」

「……。他にも、あいつの仲間がいるのか」


「新人のメイドさん?」

「う~~ん。もしかすると、そうかもな。調べるか」

 一臣さんは携帯を手にした。

「ああ、細川女史?悪いけど、頼みがあって…。え?」


 細川女史に電話かけたんだ。

「そうか。わかった。ちょうどいい。それで頼む。…え?!弥生が?」

 何かな?びっくりしてる。


「わかった。ああ、そっちも頼む」

 そう言うと、一臣さんは電話を切り、険しい顔で私のそばに来た。

「弥生、誰かに今日背中押されて、階段から落ちそうになったのか?」

「え?」


「細川女史が、見ていたらしい。何人かその場にいて、すれ違ったりしてわかりにくかったらしいが、大塚や、江古田、矢部なわけがないし、立川のわけもないから、新人のメイドが怪しいって言ってたぞ。その場に入曽もいたか?」

「いいえ。残りの二人なら、ちょうど、奥様の部屋のほうへ階段を上っていってました」


「そうか。やっぱり、新人のメイドが怪しいよな…」

 そう言うと、一臣さんは眉間にしわを寄せ、

「屋敷も安全じゃないじゃないか。くそ。とにかく、弥生のことは守らせるからな」

と私を抱き寄せた。




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