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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 赤ちゃんができました!
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第4話  変な噂

 翌日、午後1時に大塚さんたちがやってきた。軽くフルーツとサラダでお昼を済ませ、応接間で待っていた。


「弥生様、細川様たちがお見えになりましたよ」

 喜多見さんが教えてくれて、一緒に玄関の外まで出迎えに行った。

「ようこそおいでくださいました」

 国分寺さんが、タクシーの助手席から降りてきた細川女史に声をかけた。


「細川様、ご無沙汰しております」

「国分寺さん、お元気そうで」

 細川女史がそう言った。


 おや?顔見知りなんだ。あ、そっか。国分寺さんはずっとお屋敷にいるけれど、お義父様の執事なんだもんね。細川女子は前にお義父様の秘書をしていたわけだし、顔見知りなのも頷ける。


「弥生様」

「あ、はい。こんにちは。わざわざ来ていただいてありがとうございます」

 細川女史に弥生様と呼ばれ、びっくりしながらそう答えると、

「すっご~~い大きなお屋敷」

と、大塚さんがでかい声を上げ、タクシーから降りてきた。


 その後ろから、江古田さん、矢部さんも降りてくると、あたりをキョロキョロと見回している。

「門をくぐっても、お屋敷見えてこないし、大きな噴水はあるしでびっくり!」

「本当に大きいですね~~~」

「予想以上です」


「皆様、弥生様にご挨拶は?」

「あ、すみませんでした。弥生様、おめでとうございます」

 矢部さんが私の前まで飛んできて、ぺこりと頭を下げた。

「え?はい」


「おめでとうございます。つわりがひどいって聞きましたけど、大丈夫ですか?」

 江古田さんは心配そうに私のそばに来て、

「なんだか、やせたんじゃない?」

と大塚さんは私のことを上から下まで見ながらそう言った。


「体重はそうでもなくて」

「赤ちゃん育っているんだから、体重は増えていくよね」

と大塚さんに言われてしまった。


「お寒いでしょう、早く応接間に入ってくださいませ」

 喜多見さんがみんなを応接間に案内した。みんな、お屋敷の中に入ってからも、天井を見たり、床を見たり、あちらこちらを見て目を丸くしている。


「こんなところに住んでいるんですね」

「お城みたい」

「お部屋もさぞ広いんでしょうねえ」

「弥生様の部屋、行ってみたい」


 口々にそう言いながら応接間にみんな入った。そして、ソファに座ると、

「家具も立派なんですね」

と、江古田さんがしみじみそう言った。


「弥生様の部屋は?やっぱり、こんな感じ?」

「はい。とても立派な家具やベッドがあり、絨毯もすばらしいんです。あと、壁に絵も飾ってあって」

「どんな?ゴッホとか?」

「いえいえ。肖像画です」


「え?誰の?ちょっと怖そう」

「…はい。ほんのちょっと怖いです」

 そう正直に言うと、それまで興味津々の顔をして聞いてきていた大塚さんが、なぜか哀れむような目で見て、

「怖くて広~~い部屋に一人でいるなんて、なんだか可哀そう」

と、私の肩に手を置いた。


「でも、一臣さんの部屋はモダンなんです。中学生のときに部屋の模様替えをして、家具も今風だし、テレビとかもあるし」

「一臣様のお部屋に入ることもあるの?」

 大塚さんがそう聞いたときに、ちょうどお茶を運んできた亜美ちゃんが、

「弥生様は、一臣様のお部屋で暮らしていますから」

と、にこりと微笑みながらばらしてくれた。


「え?そうなの?!」

「そりゃ、夫婦なんですから当然なんじゃないですか?」

 そう言ったのは、江古田さんだ。その隣で、うんうんと頷きつつ目を輝かせ、矢部さんが私を見ている。


「だって、あの一臣様だよ?あ~~。でも、15階のオフィスも弥生様だけは入れさせてくれるんだから、お屋敷の部屋も入れさせてくれるってわけか」

 なんだか大塚さんが一人で納得している。


「ねえ、メイドさん」

 クッキーを持ってきたトモちゃんを、大塚さんが引きとめた。

「はい」

「弥生様と一臣様って、お屋敷ではどうなの?仲いいの?」


「え、そりゃあ、もう…。あ、わたくし、話してもいいんですか?喜多見さん」

 トモちゃんがしゃべりかけてから、喜多見さんに確認した。

「弥生様の許可を取ってからですよ」

 喜多見さんはそうトモちゃんに言うと、

「では、わたくしはこれで。どうぞごゆっくりとしていって下さいませ」

と、応接間を出て行った。


「弥生様、いいよね、いろいろと聞いちゃっても。そのために来たんだし」

「違うでしょう、大塚さん。弥生様のお見舞いに来たんでしょう?」

 大塚さんにビシッと細川女子がそう注意した。


「え~~、一臣様は、弥生が一人で寂しがっているから、屋敷まで遊びに来てくれないか。って、言ってましたけど?」

 そんなこと言ったの?


「びっくりですよね。あんなことを一臣様が言うなんて」

 そう江古田さんが言うと、

「それだけ弥生様を大事に思われているんです」

と亜美ちゃんがうっとりしながら、恥ずかしいことをまたらばしてくれた。


「そうなんだ。お屋敷でもそうなの?」

「そりゃ、もう。昨日の朝だって、弥生様の体調を気遣われたり、あたたかくろよって、優しくハグしたり」

 うわ。亜美ちゃん!そこまでばらす?


「そうなんだ。ハグとかしちゃうんだ!」

「一臣様、弥生様にはいつもお優しい言葉をかけたり、お優しい目で見つめたり。一緒に食事を取るときにも仲睦まじくって」


 うっとり。とどこか宙を見ながらトモちゃんが言うと、

「今はつわりで一緒にお食事をとっていらっしゃらないんですけど、弥生様が部屋で寂しがっているからと、一臣様はお食事をすごい速さで済ませて、お部屋に戻っていくんです」

と、亜美ちゃんが頬を赤らめながらばらしてくれた。


「そろそろ、失礼したらどうですか?」

 喜多見さんが応接間の入り口から顔を出し、亜美ちゃんたちにそう言うと、

「はい。すみません。いろいろとおしゃべりしちゃって。どうぞごゆっくり」

と亜美ちゃんとトモちゃんはお辞儀をして出ていった。


「メイド服可愛い。着てみたい」

 大塚さんの言葉にみんな一瞬黙ったが、

「一臣様、弥生様にお優しいんですね~~」

という矢部さんの声で、みんな私に注目した。


「弥生様が、お屋敷で一人で寂しがっていると思っていました。でも、あんな楽しいメイドさんもいるし、大丈夫ですね」

「江古田さん、心配してくれてたんですか?」

「はい」


 じ~~~ん。なんか、嬉しい。

「私も心配してた。でも、大丈夫そうかな」

「え?大塚さんも心配を?」

「あ、江古田さんとはまた別の心配を」


「し~~!大塚さん、それは言わないって約束でしょ」

 え?何?

「なんのことですか?」

「なんでもないんですよ、弥生様、気になさらないで下さい」

 江古田さんの必死にものの言い方に、かえって気になってしまった。


「あの、もしかして、一臣さんのこと?何か、変な噂でもあるとか?」

「あれ?誰かに聞いた?」

「ううん。聞いていないですけど」

 大塚さんのことだから、そういう心配かなあ…と。っていうのは口にしなかった。


「知ってた?一緒に住んでいるから知ってるか」

「え?何をですか?」

「一臣様、最近、コロンをつけていないの。弥生が…、あ、弥生様が妊娠してからだよ」

「いいですよ、呼び捨てで。大塚さんに弥生様って言われると、すごい違和感があるから」

「え?いいのかな」


 大塚さんは細川女史のほうをちらりと見た。細川女子は、特に何も言わず、紅茶を飲んでいる。

「じゃあ、弥生って呼ぶね。私も違和感あったんだ。で、弥生、コロンをつけていないから、変な噂が立って」

「ど、どんなですか?」


「コロンって一緒にいると、移るじゃない、香りが。移り香っていうの?」

「あ、はい」

 そういえば、私の服にもついていたりしたっけ。

「一臣様が浮気をしても、相手に香りが移ったりしないよう、コロンをつけないようにしたんじゃないかって」


「え?それは」

 私がつわりで一臣さんのコロンもダメだから。

「弥生が妊娠して、一臣様は跡取りが出来たもんだから、前みたいに女遊びが盛んになっているんじゃないかとか、弥生が妊娠したら、屋敷に引き込ませて、好き勝手しているんじゃないかとか、いろいろとね」


「根も葉もない噂ですよ、弥生様。気になさらないで」

 慌てたように江古田さんがそう言った。

「そうですよ。お屋敷でそんなにお優しいなら、噂はまったくの噂でしかないですよ」

 矢部さんも必死にそう言ってくれた。


 必死だと、かえって怪しいのに。

「でもさあ、火のないところに煙はたたぬって言うし」

「大塚さん、弥生様を不安がらせにきたんですか?」

 江古田さんが怒った!


「コロンをおつけでないのは、弥生様がつわりで一臣様のコロンの匂いもダメだからと聞いております」

 細川女史がすごくクールに口を開いた。

「え?そうなんですか?」

 大塚さんが細川女史を見てから、くるっと私を見た。


「はい。そうなんです。一臣さんのあのコロンの香りにまで、気分が悪くなっちゃって。それから、一臣さん、つけないようにしてくれているんです」

「わあ。一臣様の優しさからだったんですね」

 矢部さんが感動したように目を輝かせた。


「なんだ~~~」

「大塚さん!なんでつまらなさそうにため息つくんですか!もう」

 江古田さん、完全に怒っちゃったな。


「一臣様が浮気とか、考えられませんよ。弥生様一筋ですし、それに、まったくといって良いほど、お暇な時間もありませんからね」

 細川女子は少し熱っぽくそう言った。


「そんなに忙しいんですか?」

「多忙です。でも、早めになるべく屋敷に帰るんだと、オフィスにいる時は、1秒も惜しんで仕事をしていると、樋口さんが言っていましたよ」

 そうなんだ!感激だ。だけど、体壊さなければいいんだけど。


「そういうのって、会社にいたらわからないですよね」

 江古田さんがぼそっとそう言うと、

「一臣様って、社員から見たらなぞの人ですし。たまに会うと、ムスっとされていることも多いから、気難しいのかなとか、奥様にはどんな態度で接しているのかなとか、わからないですよねえ」

と矢部さんもあごに手を当てながらそう言った。


「あら、今まではべったりいつもくっついていて、わざとらしいくらいだったって、そう社員は言ってるわよ。なのに、結婚したら、ほとんど別行動。ここ1~2ヶ月は弥生様は姿も見せない。やっぱり、結婚するまで仲のいいふりをしていただけなんだって、そうみんな言ってるわ」

 え?そうなの?


「弥生が妊娠したっていう噂はたちまち広がったけど、きっと一臣様は屋敷にも帰らず、もと付き合ってた女たちと遊んでいるに違いないとか、好き勝手なことをみ~~んな言ってて、もとカノたちは、いつお声がかかるかって、浮き足立っているみたいだし」

 もとカノたち?


「社内で会うと、積極的にひっついている女もいるみたい」

「誰ですか?」

 思わず、大塚さんの言葉に声を大にして聞いてしまった。


「えっと、海外事業部の、なんだったっけ?」

「大塚さん。いい加減おやめになったら。海外事業部の人だったら、上条グループとのプロジェクトのためにお話されているだけでしょうし、本当にそんな噂は根も葉もない噂ですよ」

 細川女史が怒った。


「すみません」

 さすがに大塚さんは黙り込んだ。

「まったく。弥生様のために来たのに、不安がらせるなんてどうかと思います」

 江古田さんもぷんぷんと怒っている。


「あ、じゃあさ、弥生の部屋見せてよ」

 大塚さんはペロッと舌を出すと、そう元気に言ってきた。

「あ、はい」

 みんなして、ぞろぞろと私に続き2階に上がった。


 でも、細川女子だけが、2階まで上がったとたん、

「わたくしは、国分寺さんにお話があるので、下にいますね」

と、一階に引き戻っていった。


「廊下の絨毯も高級そう」

「壁の絵は肖像画ですか?」

「夜見たら怖そうね」

 大塚さんと江古田さんがそんなことを話している中、矢部さんは黙ってあたりを目を丸くして見回している。


「ここが一臣さんのお部屋で、その先が私の部屋です」

 一臣さんの部屋の前を通過して、私の部屋のドアを開けた。

「ひろ~~~い」

 中を見て、大塚さんがでっかい声を上げた。


「ベッド、天蓋つき!お姫様みたいなお部屋ですね」

 矢部さんが、さらに目を丸くしている。

「この絵、怖いね。夜中に動き出しそう」

「やめて、大塚さん。そういうの聞くと、夜、この部屋にいられなくなるから」


「でも、一臣様のお部屋で暮らしているんでしょ?」

「う、そうなんですけど。もう、絶対にこの部屋で眠れないかも…」

 そうぶつぶつ言うと、

「一臣様と同じベッドで寝たらいいじゃない」

と、大塚さんが腕をつっついてきた。


「……」

 なんか、どう返事をしていいかわからない。ただ、顔が火照ってしまった。


「一臣様のお部屋は見せてもらえないの?」

「え?それは、無理です」

 大塚さんの申し出を断ると、

「え~~。見てみたい」

と、大塚さんが猫なで声を出した。


「ごめんなさい。一臣さんはお屋敷の自分の部屋に、メイドさんたちも入れさせないくらいなんです。お掃除をするのは喜多見さんだけで、他のメイドさんには一切手をつけさせない徹底振りで」

「でも、弥生は入れるんだよね?」

「はい」


「へ~~~~。そうなんだ」

「弥生様は特別なんですね」

 大塚さんの言葉に、矢部さんがうっとりとそう言うと、

「夫婦なんですから、それが普通なんではないですか?」

と江古田さんが、首をかしげながら大塚さんに聞いた。


「だから~~、一臣様は普通と違うでしょ?一般人の常識を当てはめちゃダメなわけよ」

「そうなんですか?」

「だって、社長はお屋敷に帰らず、ホテルとか会社の自分のオフィスに寝泊りしているって聞いたよ?」

「どこでその話を?」


「前から社内では、そういう噂あったし。っていうか、事実でしょ?」

 う。頷いていいのかなあ。

「だから、一臣様もお屋敷になんか帰らず、女のところを点々とするか、ホテルに泊まるか、別宅を持つかするんじゃないかって、社内で言われているんだよね」


 え~~~~~~~~~~~~~。

 もう、なんだって勝手にいろんな噂するのかなあ。毎日、毎日、お屋敷に帰ってきてくれているのに。

 なんか、ショックだ。







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