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雨のち晴れ

 この日は雨が降っていて、晩秋の午後だけれど気温もずいぶん寒く感じられる。

あたたかなお日さまが恋しくなりながらも、今日中に読みたい本に目を落とす。

本の中では晴れた空に雲が舞い、愛犬がジャンプする。いいことだ。


 本に目をやると視界がグラッと歪む。立ちくらみだろうか。

そろそろカーテンを閉めて明かりをつけようと立ち上がると、

そこはもう暖かな日の光がさんさんと降り注ぐ真夏の日中だった。

うそのように思考が混乱し、うつむいて足元を見ると素足に白いサンダルを履いている。

そっか、ここは私の未来。過去から帰ってきたわたしがいる。


 足下の砂浜を踏みしめて歩き出すと、人が幾人かいるのが見える。

わたしには関係がない、そう思い通り過ぎて、ある一軒の家の門に着いた。

当たり前のように門に入り、サンダルを履き替え、部屋に入る。

おばあさんが、おかえり、とわたしに声を掛けた。

「寒かったでしょ、昔は」

「そうね。できれば晴れた日に戻りたかったわ。そう、暖かい日にね」

わたしは自分を抱きしめた。


 そう、わたしは夫を亡くしている。

あの晴れた日に、夕闇に向かってひとり泣いたのを覚えている。

不慮の事故なら仕方がないと何度思っただろうか。

しかし思い出はいつもわたしを追っかけてくる。

まるで忘れられない過去の記憶。

あれからひとりになってしまった。

それから、よく過去にダイブしに海に行っているのだ。

「お嬢様、いかがでしたでしょうか」

ありがとう。でも、わたしに聞かないで。

聞くなら昔のわたしに聞いて。

思い出がよみがえらないように。

今のわたしを否定しないでほしいの。

適当に返事をし、わたしは窓の外を眺めた。

太陽は今日も元気だ。

わたしは、今一番一緒にいたい人に思いを馳せた。


 運命のあの日。あの人は黒いスーツで、

緊張した顔をして我が家にやってきた。

両親との話も弾み、会話の最後に結婚を申し込むと、

部屋全体が一気に緊張した空気になって。

しかし何日か通ううちに仲良くなって、

無事に結婚にこぎつけた。

あなたは今どうしていますか。

元気なら元気だと言ってほしいの。

早くしないと忘れちゃうわよ。


 そう言って窓を見ると、ぽつぽつと雨が降りかけている。

あわてて窓を閉めた。

しかし思い直して、もう一度開けた。

「ありがとう、知らせてくれて。

わたしももう元気だよ」


 今日は一日晴れだと思うの。

わたしは気を取り直して窓を閉めた。

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