愛の魔法は欲しくない
第四回小説祭り参加作品
テーマ:魔法
※参加作品一覧は後書きにあります
「ど、どいてくれ――!」
ドカドカドカッ! と土煙を巻きながら、エリックは走っていた。いや、正確にいうのならば、駆られていた。そこに彼の意思は反映されず、大きな青毛の馬は飽きたとばかりに急ブレーキをかけて、序でにとばかりに筋肉のついた後ろ脚を上げてみた。
エリックは華麗に空を跳んだ。ただ、最後にみたのは土の茶色だったから、空の美しさも彼を見つめる人の青い瞳にも気付かなかった。
ドサッと音がして、彼は地面に伏した。その彼の上を青毛の馬は前脚を上げて、踏みつけんばかりに立ち上がったが、彼が起き上がらず自分の美しいポーズを見つめていなかったので、エリックの横に蹄を下ろして、元居た場所に静かに歩いていくのだった。
「死んだ――?」
エリックの同僚達は、口々に呟いた。
「これぐらいで死ぬか!」
彼らの師匠である調教師カルロスは、持ってこさせた水の入ったバケツをバケツごとエリックに投げつけた。
「い、痛いです。師匠……」
エリックはバケツがあたった額を撫でながら、ゆっくりと起き上がった。
「無駄に頑丈だな、エリック。この馬鹿が! 乗ったら直ぐに手綱を緩めろといっただろうが!」
「で、でも緩める間もなく……」
今度は箒が飛んできた。
「すみません、すみません!」
「もう、お前はいい! 手入れでもしとけ!」
「はい……」
エリックはずぶぬれのまま、箒とバケツを持って立ち上がった。
「ありがとうございました」と頭を下げて、馬を連れて厩に向かっていった。
「頑丈なやつだ」
「あれで、もうちょっと乗れたらいいんですけどね」
気難しいカルロスにエリックの先輩であるフリオは言った。
「乗れるどころかまだ跨っとるだけだ。お前も大してかわらん」
フリオは短く切った髪をポリポリと掻きながら、「そら師匠に比べたら……」とぼやいた。師匠であるカルロスはその小柄な体型にもかかわらず、どんな凶暴な馬でも乗りこなす。天才と呼ばれる人間だった。
「こら、早く乗らんか!!」
カルロスの怒号に先ほどまで笑ったり心配したり忙しかった面々は、慌てて繋がれた馬に乗り始める。流石にエリックほど無様な人間はいない。
「もうちょっとなんとかならねのかね……」
フリオは、落ち込みながら馬を手入れしいているだろう後輩を思って、溜息を吐いた。
エリックは、今年二十歳になる。十八歳の時に故郷のアレンタ村から出てきた田舎者だった。
エリックの特技は、速読だった。王都アリールから五日も辻馬車でかかるアレンタ村には誇るものが二つある。甘いニンジンと王都から来た神父様だ。アレンタ村には珍しい銀の長い髪に紫色の双眸の美しい神父様は、神の遣いかと思うほど美しく賢かった。村の人間は、アレクシス神父を拝んで暮らしていた。
エリックは、村でものんびり屋さんだけど、努力というものを知っていた。アレクシス神父に勉強を教わり、速読を覚えた。その特技を生かしてなんと王宮の試験に受かったときは村は三日三晩お祭り騒ぎになった。
意気揚々(いきようよう)と出てきたエリックがしたことといえば、財務の下級役人になったので帳簿をつけ、間違いを正すことだった。そこで発覚したのは上司の汚職だった。そしてその煽りをくらって、エリックは移動させられたのだが、そこは未知の世界。騎士団のための軍馬の調教師の下で働く事だった。
エリックは悲嘆などしなかった。何故なら、そこには憧れていた馬がいたのだ。アレンタ村にも馬はいた。一応遠すぎて忘れられがちとはいっても伯爵領であるアレンタ村だから、領主様に納めるために何頭もの馬を育てていた。
残念ながらエリックの家は馬の生産にも調教にもかかわっていなかったけれど、その優美さ凛々しさ賢さにはずっと憧れていたのだ。
その馬に乗れる! と喜んだのもつかの間。軍馬になるような馬は賢かった。
馬は元々群れる動物で、上下関係が厳しい。
エリックのような主張の苦手な声も張らない、馬を怒る事もできない人間は馬の下に順位づけされてしまうのだった。一度決まったその関係を覆すことはとても難しいのだと、エリックが気付いたときには、彼に従う馬はほとんどいなかった。
「ほら、馬の顔色を窺わない!」
エリックが、調教された後の馬の手入れをしているとフリオがやってきて、注意する。
「フリオ先輩」
エリックがフリオの方を向くと馬に背中を口先で突かれた。よろめくエリックの肩をささえて「どっか痛むか?」と言うと「いいえ、おれ頑丈なのが取り柄なんで」と笑う。
「嘘付け」
フリオが支えていた肩を押すとエリックは少し呻いてから「たいしたことないです」と言う。
「ちゃんと冷やしておけよ。馬だけじゃない人間だってメンテナンスが必要なんだぞ」
「はい。すいません」
エリックは、謝って手入れに戻った。
丁寧だが、要領が悪い。気をつける場所がわかっていないから、手を抜く事もできないのだ。
フリオはわかっていたが教える事はしなかった。教えられたことだけやっているようでは成長しないからだ。
左遷されてここに来たエリックは、調教師を夢見てやってきた同じような調教助手の中では浮いている。馬にまともに乗れないし、躾けられない。馬を触る人間が普通に知っている事を知らなくて、随分苦労していたようだ。
図書館にいって空き時間に勉強しているようだが、実地で学べというこの世界ではやはりエリックはどこか異質なのだ。
色んなことを教えているフリオだが、やはり馬の扱いについては人のことをみて覚えて、体で知れと思っているので、馬を触っているエリックを見ると口を出したくなるから見ないようにしている。
調教師の師匠であるカルロスがフリオをエリックの先輩につけたのにはわけがあった。エリックが自分でこの道を選んだのではないのと同じようにフリオも自分で決めた職業ではなかったのだ。
ただ、自分はこんなに不器用ではなかったとフリオは思う。
五年も立てば、きっとエリックも慣れるだろう。ただ、それまでエリックが五体満足でいられるのか、フリオはそれだけが心配だった。
=====
エリックが馬の鬣を梳いていると、長い足首まである白いローブを着た男がやってきた。見ない顔だなと思っていたら声を掛けられた。
「やあ、君がエリックだよね。俺はエドワード。愛の魔法使い様だよ」
愛の……魔法使い? エリックは聞きなれない言葉に唖然とする。馬が手を動かせと横目で見てくるので、そのまま梳いているとエドワードという男は「ああ、君は馬が好きなんだね」と言った。
「君の願いは、馬の言葉がわかるようになりたいってことだけど……。本気なの?」
言われた言葉にエリックもやっと気がついた。
「ああ、貴方が魔法使いなんですか……」
そう名乗ったつもりなんだけどとエドワードは苦笑した。
エドワードの瞳は、瞳孔が黒く周りが金色という人間には余り見ない色彩だった。髪の色は黒く、その姿は優美な肉食の動物のようなのに、雰囲気からだろうかのんびり草を食む羊のような顔に見えた。それが警戒されないようにとエドワードが常に纏っている魔法の効果だと勿論エリックは知らない。
この国には魔法使いがいる。街に一人か二人。数的には少ない。彼らは生まれた時に瞳の色で見分ける事ができた。
生まれた時点で彼らは魔法使いの弟子として登録されて、成人したら国のため、民のためにその力を使うことを定められていた。
「で、なんで恋愛相談じゃないの?」
エドワードは馬の口元をムニュムニュと触りながら聞いてきた。馬も大人しいのでエリックは気にせずにお手入れを続けていたが、そういわれて、首を傾げた。
「えっと……恋愛相談ですか?」
何をいっているのだろうと、エリックは戸惑いながら聞いてみた。
「ああ、君は王都の生まれじゃないのか……。もしかして、村には魔法使いはいなかった?」
エリックの知る限り魔法使いはいなかった。
「そっか、そうなんだ」
魔法使いは納得したように頷いた。
エリックは今年二十歳になる。フリオから魔法使いにお願いごとを書いておけと言われて差し出された紙に『馬と喋れるようになりたい』と書いたのだ。どうやらエリックの育ったような田舎でなければ、二十歳になるとひとつだけ魔法使いが願いごとを叶えてくれるらしい。なんて素晴らしいんだとエリックは喜んだ。
「魔法ってそう便利でもないんだよ。魔法使いの能力には限界があるし、その魔法がいつつかわれるかもわからない」
よくわからないエリックのためにエドワードは例え話をした。
「この花を咲かせてくださいと願うとしよう。五日後に花は咲いたが、それは元々花が咲く予定だったから咲いたのか、魔法使いの魔法で咲いたのかはわからない」
咲いたら別にいいじゃないかとエリックは思った。顔色に出たのかエドワードは口元だけで笑った。
「その花が咲かなかったとしよう。魔法使いの力が足りずに花が咲かなかったのか魔法使いが魔法を使わなかったから咲かなかったのかわからない――」
「はぁ。でも馬の言葉をわかるようなったら、魔法が効いたってわかりますよね」
「そうだね。でもそんな便利な魔法を使える魔法使いなんてそうそういないんだよ。だから、魔法をつかわなかったのか、魔法の力がたりなかったのかわからない」
ああ、なるほど。エリックは頷いた。残念だが、そういうものなら仕方ないとエリックは納得した。
勿論エリックは知らないが、城にいる魔法使いが二十歳の魔法を故意に使わないことなど絶対にない。もし使わないとすれば、それは理由があることだけだ。だが、王宮に勤める魔法使い以外は、魔法を使わず、使ったといって国から報酬をもらうこともままあることなのだ。たまに訪れる監査官にばれなければ、それでいいと思っている不届きな魔法使いもいないではない。
「君は知らないようだから教えてあげるけど、この王宮で一番有名なのは愛の魔法なんだ。そのために必死に二十歳までに王宮に勤めようとするものが絶たないくらいに」
「愛の魔法ってなんですか?」
「恋愛の魔法だよ。あの人に届けこの愛~」
エドワードが歌うと馬がうるさいと嘶いた。
「失礼な馬だな、君は。へたくそとか言うな」
エドワードは、馬に文句を言った。
「王宮に関わらず、魔法使いへは恋愛の願い事が多いんだよ。魔法使いは愛について師匠から色々伝授されているから、一番得意分野でもあるしね。想っている人と一緒になれなかったとしても、その人に最適な人と恋に落ちるようにがんばってる。だから、魔法使いの一年の仕事は愛の橋渡しなんだよ。素敵な仕事だろう」
エドワードは自分の仕事に自信があり、誇りをもっているのだろう。エリックはうらやましくなってしまった。
「素敵ですね。でも俺は、好きな人もいないし、このままじゃこの仕事だってちゃんとやり遂げられない。自分への戒めにしたいんです。師匠は、馬が『そうじゃない』と言ってるというんです。俺もそれはわかるのに、なんていっているのかわからない――。いつか、わかるようになりたいと思っているので、願いは変えたくないんです」
エドワードは、エリックが魔法使いへの願いを神様への願いと、勘違いしていたことに気付いた。叶えて欲しいというより叶えたいという希望を紙に書いたのだろう。
こういう単純なやつは、強いんだよな――。そして強情だ。
エドワードは、エリックを見てそう評価した。魔法使いは、愛の伝道師、つまり人の性格を見抜くことが仕事だし機微にも敏感だった。
「ふん、お前と話がしたいんだって。ちょっと喋ってやれよ」
エドワードに話しかけられた馬は、彼と目線を合わせなかった。あらぬ方向をみている。
「わかった――。とりあえず、受けつけとくよ」
エドワードは、仕方ないと溜息をついて出て行った。その姿はローブ以外は普通の人に見えた。
魔法使いなんて本当にいたんだな、とエリックは嬉しくなった。エリックが昔に読んだ本の魔法使いは、誰も彼もいい人だった。お姫様と王子様の恋を助けたり、勇者を助けたり、ああ、勇者も恋をしたんだ、当の魔法使いと……。本当に魔法使いは愛の伝道師なんだなとエリックはしみじみと思った。
=====
「お前か、シェイラを手入れしているやつは!」
エリックが、蹄を磨いているとエリックと同じくらいの背の女性が怒りながらやってきた。女性にしては背が高い。
騎士のようだった。帯剣しているし、青い騎士の服は第三騎士団の隊服だ。
この国の騎士は特に男でないといけないわけではなかったが、そう多いほどではない。第三騎士団は第一王女であるエリザ姫のものなので、女性の割合は多いかもしれないが、エリックにはよくわからなかった。
今日はなんだか沢山の人が来る日だなと、エリックは単純にそう思いながら頷いた。
「お前の手入れはシェイラの美しさを損なっている!」
見ろと耳の後ろを指して女性は汚れを指摘した。
「あの……その馬は、耳の辺りを触れられるのが嫌なのかと」
エリックが耳の側を手入れしようとすると歯で威嚇してくるのだ。
「それはお前の触り方が良くないんだ。ほら、無口をしっかりと持って、こすってやれば……気持ちよさそうだろうが」
女性が馬を繋いである無口を掴み、ブラシで耳の後ろをこすると、馬の目がグルングルンと眼球が回ってるかのように異様に動いた。
エリックは驚いた。
「これは気持ちいいのですか?」
馬の顔は顎が外れそうだし、目は白黒しているようで、そのままひっくり返って死んでしまうのではないかと思えるくらい変な顔だった。
「お前……。見ればわかるだろうが」
呆れたような顔でそういわれて、見てもわからないのだと言えなかった。
「綺麗なところはピカピカなのに、なんで手入れに斑があるのかと思って今日はずっと見てた」
エリックは、この馬シェイラの相棒であるだろう女騎士に呆れたような顔をされたのが少し恥ずかしかった。派手に落とされたところもみられているだろう。
「はい……」
沈んだエリックの声に女騎士は「丁寧にやってるのはわかった」と慰めるように言った。
「だがな、たとえ馬が嫌がっても、手入れはちゃんとしないといけないし、勿論躾けることも大事だ。怖がらせてはいけないし、難しいと思うが、そこは何度も繰り返して、教え込んでいけばいい。最後に大事なのは信頼だけだ」
女騎士は、それはお前でもできる事だとエリックにブラシを渡した。
「私はクリスティーナ・フィル・セルウィン。フィルと呼んでくれ。シェイラの相棒だ」
漆黒の長い髪は後ろで一つに纏められているが腰まである。青い瞳はもう怒りを浮かべておらず、澄んで空の色のようだった。綺麗な人だなとエリックは出された手を握ってそう思った。
「エリック・マーレイです。調教助手というかまだ見習いのようなものです。教えてくださってありがとうございました」
エリックがあまりに素直に礼をいうので、クリスティーナはマジマジとエリックの顔を見た。異性をそんなに間近でみる事もないのでエリックはうろたえてしまった。
「お前、変わってるな」
クリスティーナは、頬を赤くしたエリックをそう評した。
=====
次の日になったら馬の言葉がわかったとかそんな奇跡はなかった。朝の四時から馬の運動は始まる。担当の騎士が運動や訓練をさせることも多いが、基本は調教師や調教助手が馬に乗る。
「握るな馬鹿もの!」
それはちょっとした見物だった。女騎士クリスティーナ・フィル・セルウィンがこのままでは自分の相棒を任せられないといって、カルロスに頼んでエリックの騎乗をみることになった。その日から、クリスティーナはエリックをしごき始めたのだった。
カルロスの怒号に混じって、クリスティーナの怒りに満ちた声が朝から馬場に響き渡っていた。
美しい女騎士に手取り足取り教えてもらってうらやましい……とは誰も思わなかった。クリスティーナの怒りは馬場の馬達に緊張感を与えるくらいには、怖ろしいものだったからだ。いつかその腰に佩いている剣の錆びとなるのではないかとエリックを嘲笑うものたちもいるほどだった。
だが、エリックは嬉しかった。カルロスは天才すぎて、凡人のエリックにはよくわからないことが多かったのだが、その点クリスティーナの言葉は理解できた。
「なんで握ってはいけないかわかるか」
シェイラの手入れが終わるとフリオも混ざって、一緒に朝ごはんを食べた。
「えっと、苦しいから?」
フリオが頭を横に振る。残念ながら外れたらしい。
「約束しているからだ」
クリスティーナは、フリオの持ってきたサンドウィッチに舌鼓を打ちながらそう答えた。
「あの馬は伝令の馬なんだ。速く長く走る事が一番重要な仕事だ。筋肉も重くなるからつきすぎてはいけないし、だからといってやせて体力がないのは問題外だな。普通の馬のようにハミをしっかりかけるのではなく、楽な状態で速く走れるようにしているんだ。鞍も軽いだろう? ハミを掛けたら、全力で走ると約束しているんだ」
クリスティーナの鞍は軍馬につける割に軽かった。
「伝令ですか……」
エリックは、初めてシェイラの仕事内容を聞いたのだった。
「知らなかったのか……」
呆れたクリスティーナだったが、エリックのことはこの一週間で大分理解していた。
「エリックは、動物を飼ったことがないだろう?」
エリックはサンドウィッチを食べていたから、喋れないので頷いた。
「もしかして、兄弟もいないのではないか?」
ゴクリと飲み込むと、驚いたエリックは「フィル様は魔法使いですか?」と尋ねた。
「私は騎士だが……」
フリオはエリックの頭を拳骨で下げさせた。
「だって……、なんでわかるんですか?」
痛みに呻いてエリックはクリスティーナを見つめる。そこに魔法のような不思議があるというように。
クリスティーナは、エリックの問いには答えずに、若干乾いた笑いをフリオに向けた。フリオが言葉を繋ぐ。
「職人気質な父親と二人暮らしとか……」
「ッ!」
息を飲んだエリックに、二人は遠慮なく笑った。
「わかりやすいぞ、エリック。俺でも想像がつく」
「父親は故郷か?」
「はい。俺を生んで母親が亡くなってから、ずっと一人で育ててくれてたんですけど、俺がこちらに出てくる時に同じように一人だった近所のおばさんと一緒になりました」
一人前になったと喜んでくれた父に感謝しつつ、もう一人ぼっちになったのだとエリックは少し寂しかった。
「よかったな。家族が増えたのか」
しみじみとそう言ったクリスティーナの顔を凝視して、何か返そうと思ったが、声にならなかった。
俺から消えたのではなく、もう一人大事な人が増えたのか……と初めて気付いたのだった。
エリックは、物語の魔法使いのように自分の気持ちを楽にしてくれたクリスティーナを尊敬の眼差しで見つめた。
この人が信頼して馬を預けてくれるようなそんな調教師になりたいと、エリックは初めて強く願った。
「ま、もうちょっと馬に乗れるようにならんとな……」
自分の気持ちが声に出ていたのかと仰天してクリスティーナをみたが、声はでていないようだった。恥ずかしくて、赤くなった頬を見られないようにエリックは立ち上がる。
「エリック、まだ残ってるぞ」
「いえ、馬の手入れしてきます! フィル様食べてください」
クリスティーナは、慌てて去ったエリックに手を振って、「エリックは頑張り屋さんだな」と褒めた。
「フィル様って案外鈍いんですね……」
フリオの言葉にクリスティーナは、わけがわからないと首を傾げた。そうやってみると普通の女に見えるのに……と、フリオは賢明だから声には出さなかった。
=====
その日から魔法使いは折を見てやってきた。エリックに会いにというよりは馬を触り来て、ついでに話をしていくようだった。エリックは少しづつ愛の魔法使いエドワードのことを知っていく。とはいえエリックより余程聞き上手なエドワードのほうが知る事は多いだろう。
同じ王宮で勤めているから、意外でもなんでもないかもしれないが、フリオとエドワードは知り合いだった。
エドワードは、フリオがサンドウィッチだけでなく、甘いものを持ってきたときによく訪れるようだった。
「俺の身体は砂糖と酒で出来ている」
エドワードは断言した。
「身体に悪そうだな」
「仕方ないだろう、俺は一人身だからね。自分の好きなものを好きなだけ食べるようにしいている」
「こいつこんな顔で三十超えてるんだぜ」
エドワードは、見た目エリックの歳と変わらないように見えた。
「魔法使いは歳をとりにくいんだよ。長生きだしね。だから俺の寿命から言ったら、エリックと同い年くらいなんじゃない?」
魔法使いの生態は、エリックには難しかった。
「エリックはさ、何で馬と言葉を交わしたいのさ。どうせなら、馬に上手に乗れますようにとか、落ちませんようにとか、自分のいうことを聞かせられますようにとか色々あるじゃない?」
そういわれてエリックは少しだけ困った。考えて、自分が馬の言葉を知りたいと思った出来事を話した。
あれは一年前のことだった。エリックが、財務から外されて何故か軍馬の調教助手という部署に配属された日のことだった。
カルロスに挨拶をして、フリオを兄弟子として紹介されて、厩舎に行く時の事だ。
広い放馬場があるにもかかわらず、少し狭いところにその馬はいた。少し遠目だったから、表情までは見えなかったが、前脚で砂をかいて、ゴロゴロを砂を浴びていた。
「気持ちよさそうですね」
その日はまだ寒かったけど、日差しは暖かかったから、馬が気持ちよさそうに砂浴びをしているのだとエリックは思って、隣を歩いていたフリオにそう言った。
「そうだな……」
フリオはチラリと馬のほうをみて、そう言っただけだった。
次の日の朝、練習が終わってフリオが持ってきたお弁当を分けてもらったエリックはフリオの言葉に愕然としたのだった。
「昨日の馬、死んだよ……」
エリックは最初、何の事だかわからなかった。
「昨日砂浴びしてた馬いただろう。夕方に死んだ――」
何で? とエリックは思った。
「あれはな、腹が痛くてゴロゴロ苦しんでたんだ。覚えとけ、馬が死ぬ大概の原因は脚が故障する事と、腸がよじれて痛みに苦しみながら死ぬ事だ。いつもと違う歩様のとき、馬が変に前掻きして転がっているときは、何を差し置いても俺じゃなくてもいいから誰かに知らせろ」
エリックは声が詰まって何もいえなかった。
俺は、馬が死にそうに苦しんでいる光景を見て、楽しそうだと思ったのか――。
エリックは自分のことをいい人だとか優しい人だとか思ったことはない。けれど、非情な人間ではない真っ当に生きる人間だと思っていた。
「あの時、あの馬の声が聞こえていたら……」
「辛いと思うよ」
「ええ。もし聞こえても一緒だったと思います。何も出来なかった……」
それでも、気持ちよさそうだなんて酷いことを思うことはなかった。唯の欺瞞だとエリックもわかっている。
「それでも、聞こえたら何かが変わるかもしれないと、そう思ったんです」
ふーんとエドワードは呻った。
「フリオ、案外酷いよね……。エリックの心にこんな酷い傷を作るなんてさ」
小さな声でエドワードはフリオを非難した。
「何でも言えばいいってもんじゃないだろ。エリックは知らなかったから仕方ない。でももう知ったんだからそれでいいだろう――」
無知は恥ずかしいことだ。だが、知ったかぶりするよりは余程いい。フリオはそう思っている。
「フリオってさ、優しそうな顔でご飯だって用意してくれるいい先輩だけど、何気にスパルタだよね」
フリオは、にっこりと微笑んで「今日のデザートはプリンなんだが、エドはいらないのか」とプリンの入ったバスケットを取り上げた。エドワードは慌ててバスケットにすがり付いて、「フリオ兄さん、格好いい! しびれる!」とフリオを持ち上げた。
「意味がわからん……」
それでもフリオはエドワードにも分けているから、やっぱり面倒見がいいなとエリックは思うのだった。
=====
半年も経てば、エリックは馬から落ちる事もなく、少しずつだが馬の言いたいこともわかるようになってきた。
全てはクリスティーナのお陰だとエリックは感謝している。
出会った頃にクリスティーナはエリックの騎乗を見て不思議そうに言った。
「エリックはさ、今、馬が嫌っていったのはわかるよな?」
パン! と馬が後ろ脚を跳ね上げたから、エリックも頷いた。
「じゃあ、なんで脚の位置も手の位置も変えないんだ? その馬は手綱を持たれたまま脚を入れられたから怒ってるんだ。脚の位置はそこでいいのか? 馬はなんて言ってる? 馬の顔色を窺えといってるわけではないけれど、できればお互い譲り合って勉強するべきだろう。我慢してくれたら褒める。出来るのにやらないときは怒る。人間だって、お互いを知るのには時間がかかるだろう? エリックは……、人間に対してもそうだが、言葉がたりないんじゃないのか?」
エリックはクリスティーナの言葉だけは、すんなりと理解できた。何故だろう、今まで出会ってきた女性は、エリックには理解できないことを話す人が多かったのに、クリスティーナは違った。
エリックは、馬に乗るクリスティーナを見ているとドキドキした。姿勢の美しさは騎乗していないときも維持されているが、馬と一体になって駆けるとき、彼女の背中には翼が生えているように見えた。
「何故フィル様は伝令なんですか? あんなに剣が遣えるのだから、護衛騎士とかの方がいいのではないのですか」
夏の武闘会の時に準決勝まで勝ちを進めたクリスティーナは、大そうな剣の使い手だとエリックは初めて知った。
沢山の貴婦人がクリスティーナを応援をしていて、黄色い声を張り上げていた。そんな女性達に囲まれて、笑顔で応対する彼女は、誰よりも輝いていた。
エリックは騎士団のことがわからなかったので、伝令について聞くと、クリスティーナは丁寧に教えてくれた。
「余所は知らないけどな。伝令っていうのは、危険がつきものなんだ。道中で襲われるかもしれないからな。だからそれなりに強くなくてはならない。そして、大体が緊急の書だから、王の間に直接入れる地位があるほうがいい。緊張して喋れないのでは意味がないし、途中で止められるのも困るしな。そして若い方がいい。だから、伝令は二十五歳以下で剣の腕の立つ、それなりの地位の人間がなることになっている」
クリスティーナは二十三歳だから、あと続けたとしても二年で部署が変わることは決まっている。
「フィル様は、凄いんですね」
エリックが何のためらいもなく誉めそやすと、クリスティーナは「凄くはない。だが、褒め言葉はもらっておこう」と少し照れながら、エリックに微笑んだ。
最初から、二人の立ち位置には深くて広い川のようなものが流れているのは、エリックにもわかっていた。立場もそうだが、考え方も。エリックは田舎で過ごしてきたせいか、父親が寡黙だったせいかはわからないが、物事を深く考えることはなかった。話の裏なんて気付かないし、人と人が言葉でコミュニケーションをとっていることだって、わかっていなかったかもしれない。言葉を惜しむつもりはなかったが、圧倒的に言葉が足りないといわれた。
キラキラとしたクリスティーナのことは、自分のものになるなんて欠片さえ思っていなかったけれど、彼女の空のように澄んだ青い瞳を想うと軋む何かがあることに、やっとその時気がついたエリックだった。
=====
馬はいい……。乗っていると時間も忘れるし、思い悩む事もあまりない。疲れきった身体は、夜悩んで眠れないということもなかった。そして、悩む心も馬に喋りかけながら手入れしていると落ち着いた。
クリスティーナの助言で、エリックは出来るだけ馬に話しかけるように努力している。
朝迎えにいったら「おはよう」、ご飯をちゃんと食べていたら「美味しかったか?」、エリックを乗せて走ってくれたら「ありがとう、気持ちよかったよ」と、それまでのエリックを知る人間は、気持ち悪そうにしているが気にしない。
「エリック、なんだかお前、顔色悪くないか?」
「そんなことありません。毎日ちゃんと食べてるし、寝てるし、問題ないです」
最近寝ているとバキバキと音がして、体中が痛かったが、どうやら成長してる証らしいので、フリオにはそう言った。フリオが作ってくる朝ごはんのサンドウィッチは、毎日はさむものが違った。今日は鶏肉を揚げたものと野菜がはいっている。
「フリオ先輩、何でこんなに料理が上手なんですか?」
「俺、昔は料理人を目指してたんだ」
なるほどと納得する気持ちと、じゃあなんで馬の調教助手をやっているんだろうかと不思議に思いながら、食べていると「まぁ、好きだからって手に入るとは限らないってことだ」と意味深にフリオは呟いた。
「今日はフィル様が二日だけ戻ってくるんだろ」
「はい。昼ごろに到着するらしいです」
クリスティーナは、騎士団の伝令係として西の国境に行っている。四ヶ月ごとに王都と国境の勤務は交代することになっている。出会った時は王都の勤務だったクリスティーナは、今は遠く離れた地で仕事をしているはずだった。
「手紙に書いてたのか?」
「ええ。でも忙しいからこちらに顔を出せるかわからないらしいです」
エリックは残念そうだった。
「お前の騎乗も手入れも見て欲しいのにな……」
フリオは慰めるように、そう言った。
「フィル様のお陰です」
「そこは先輩とフィル様のお陰ですっていっとけ」
「あ、そうですね」
笑顔でそういうエリックは本当に変わったとフリオはシミジミと感心した。
好きな女に言われた事を必死で守る健気な男だよな……。フリオにはエリックの頭には耳が、尻には尾っぽが見えていた。
エリックが馬を厩舎に連れて行こうと歩いていると、中庭の端にクリスティーナが見えた。
帰ってきたんだとエリックは、嬉しくなった。けれど、クリスティーナは一人ではなかった。同じ青い隊服を着た男と楽しそうに談笑していた。久しぶりに戻ったので、同じ隊の人間と話しているのは当たり前のことなのに、エリックは仄暗い気持ちになってしまった。
クリスティーナは、スラリとしていて騎士としての服装は誰よりも凛々しく格好いい。日に焼けているはずなのに、白いのは元々の色彩のせいだろうか。赤い唇は漆黒の髪にあいまってどこか艶やかなのに、女としての悩ましさを感じさせない。
綺麗な人だから、もしかしたらあの横にいる騎士は彼女の恋人かもしれないと、エリックは思った。フリオが聞いたら爆笑するほど色気もなにもないのに、エリックにはわからない。
エリックの立場でクリスティーナに声を掛けてはいけない。いつも同じお弁当をつついて、気さくに喋ってくれるクリスティーナだから、エリックは今更ながらそのことに気付いた。
彼らを見て、どんよりと自分の格好を見ると、何故か惨めになってしまった。そんなことは初めてのことだった。泥とボロと汗に汚れた姿はエリックの今の気持ちそのものだった。
何度か声を出そうとしたが、結局エリックは挨拶をすることすら出来ずに馬にせかされて歩いていった。
=====
あれは、エリックじゃないだろうか……。背が伸びた?
何とか時間に都合がついたので、調教馬場のほうにいこうと歩いていたら、同期のライオネルが声を掛けてきた。
喋っていると視界にエリックに似た男が映った。けれど、エリックに似た男はクリスティーナに声を掛けることもなく馬にじゃれ付かれながら去っていった。遠目だったから気付かなかったのかなと思うと、少し残念だった。
「フィル、久しぶりだな。中間報告か?」
伝令は、馬を走らせる仕事だから、西の国境に駐屯してるとはいえ、あちこちに派遣される。その移動自体が訓練になるからだ。中間報告は、西の砦から王都の国王陛下に宛てられた騎士団の指令官からのもので、先ほど提出してきたところだ。今日は仕事扱いになるが、明日は休日扱いになり明後日には戻らなくてはならない。
「ああ、ちょっときな臭いからなあっちは」
西の国境に面する隣の国は、何年かに一度は小競り合いを繰り返している敵国だ。そろそろ仕掛けてくるのではないかと騎士団はピリピリしている。
この国では、魔法使いは愛の伝道師と呼ばれているが、隣の国では兵器として扱われている。魔法使いの攻撃はこの国では何故か無効化されるため、実際に攻めてくるのはクリスティーナたちと同じ騎士や軍隊なのだが、魔法使いの援護があるので後方支援は楽らしい。
残念ながら、この国の魔法使いは戦に従事することはない。毎日、誰と誰をくっつけようかと画策し、うまくいったら祝杯を挙げるのが魔法使いの仕事だ。
「あちらの魔法使いが国境側に現れたいうからな。準備しているのかもしれない」
ライオネルは、中隊指揮官の一人で、この情報も今日には知る事になるので、クリスティーナはそう告げた。
「ふうん、あの国もいい加減しつこいものだな」
とはいえ、内容が極秘扱いなのでその距離は普段よりも近い。
「そういえば、お前の気に掛けてた調教助手見習いだっけ。最近随分もてているみたいだな」
エリックのこと……だろうか。
エリックという人物にもてるという言葉はあてはまらないと思うのだが、気に掛けているといえばエリックのことだろうと思う。まさか、フリオのことだろうかと、もう一人の人物を思い浮かべた。確か彼は妻帯者だったはずだ。
「私の気に掛けている調教助手にもてるやつはいないと思うんだが……」
随分酷い事をクリスティーナは言ったが、本人にその自覚はない。ただの事実だった。
「そうだったか? 黒髪のほら、お前の家の領地から出てきたっていってただろう。最近髪を切って、身長も伸びて、何より喋るようになったら優しいいい男だったと噂になってる」
エリックだ……。
クリスティーナは複雑な気持ちでエリックの顔を思い浮かべた。
調教助手にしては髪が長くて、肩にかかるほどだった。目つきが悪くて怖がられることがあるといって、前髪も長かったがエリックからの手紙では師匠の命令で切られたと書いていた。
フリオからの手紙では、エリックはクリスティーナの忠告を受けて、馬にも人にも話しかける努力をしていると書いていた。黙々と馬を手入れしているエリックだったが、馬も話しかけられるのが好きだし、何より話すということは人や動物とコミュニケーションをとる最初の一歩だと教えた。
それを実践していたら、もてたということか……とクリスティーナは笑った。
「なんだ、思い出し笑いか?」
「いや、素直な男だと思って……」
エリックはもててどう思っているのだろうと、クリスティーナは気になった。初めてのことで天狗になっているか……いや、きっと戸惑っているか気付いていないだろうなと思うと、笑いが止まらなくて、ライオネルには呆れた顔で「それくらいにしといてやれ」とエリックは同情されていた。
さっき少し遠いところを通ったのはやはりエリックだったのかと思うと、早く会いたくなった。
ライオネルが手を振って離れていくと、クリスティーナは足早に馬場へ急いだのだった。
「リナ、いつもありがとう。君がくれたニンジンをマックスは喜んでいたよ。リナは優しいんだね」
王宮の台所に勤めるリナは、馬が好きだといって「ニンジンを上げてもいいですか?」とニンジンを握り締めて二月ほど前から頻繁にエリックの元にやってきた。最近馬がブームなのか、そういう女性がちらほら仕事場に訪れる。元々女性の少ない職場なので、歓迎されているが、エリックはいつものように応対するだけだった。
「ありがとう。喜ぶよ」
エリックは、クリスティーナの忠告通り優しく微笑んでリナにお礼をいった。
無愛想なのはいけない。楽しいなら楽しい顔……ってどんな顔ですか? とフリオに聞いたところ、フィル様と一緒にいる時の顔といわれたので、エリックは馬にニンジンを持ってきてくれる人が来る時は、いつもクリスティーナの顔を思い浮かべた。
「エリック、久しぶりだな。ちょっとは乗れるようになったか?」
声が聞こえてエリックは振り返ったら、少し呆れたような顔をしたクリスティーナが立っていた。
「フィル様……」
エリックは嬉しくて駆け寄ろうと思ったが、先ほど仲良く話していたクリスティーナと騎士の姿を思い出したら、少しだけ心が痛んだ。
「あの、エリック?」
リナが心細い顔で見上げてきたので、安心させるようにエリックは微笑んだ。
「リナさん、フィル様は俺の師匠なんです」
知らない人が寄って来たので不安なのかとエリックは思ったのだった。
「あ……、また来ます」
リナは会釈して去っていった。
「随分仲がいいんだな……」
何の事だろうとエリックは首を傾げた。リナは馬のマックスに会いに来ているのに、その言い方だとエリックに会いにきているようだと思った。
「だれがですか?」
クリスティーナは、エリックの本当にわかっていない顔を見ると、自分は何をしているんだろうと肩を落とした。額を押さえて、再度エリックを見ると、やはりその表情には困惑がありありと浮かんでいた。
「いや、気にしなくていい……」
エリックは、やはりエリックだった……。
「さっき中庭の横を通っただろう? 気がつかなかったか?」
「フィル様、忙しそうだったので……」
距離も近くて仲がよさそうだったと言い掛けて、それは言ってはいけないとエリックは気がついた。些細な事でも話すといいといっていたが、人を不快にさせることはエリックとしても本意ではなかった。
知らない人と喋っているのを見て、悔しかった……。話しかけられない事が辛かった……。そんなことを言われてもクリスティーナも困ってしまうだろうと、エリックは言葉を飲み込んだ。
「ああ、最近は忙しいな。でもさっきは忙しくなかったぞ。先に気付いたなら声を掛けてくれたらいいのに」
クリスティーナは不満げにエリックを見上げて、本当に背が伸びている――と気付いた。
「背も伸びたな……同じくらいだったのに」
そういわれて初めて、今まで見てきたクリスティーナと顔の位置が違うことに気付いた。
「フィル様、背縮みました?」
「馬鹿、お前が伸びたんだ……。もう、すっかり――」
男になったんだなと小さく呟くクリスティーナに、エリックはやはり首をかしげて「俺は昔から男ですよ」と言った。クリスティーナは堪らず噴出した。
身分も地位も性別も全然違うのに、何故こんなにこいつのことが気になるのだろうか。
クリスティーナは、馬に乗るエリックを「上手に乗れるようになったな」と思いつつ、「ちゃんと座れ! 拳の位置が高いだろ!」と檄を飛ばした。エリックの顔は、前よりも真剣に馬との距離を掴んでいるようだった。真摯なその顔に、クリスティーナは知らず見惚れるのだった。
=====
その一月後のことだった。秋の収穫が終わり、国中が祭りの雰囲気に浮き足立っているところに、国境から狼煙が上がったのは。
赤い狼煙は騎士団の定めた警戒値では最大のものだった。国境からいくつもの中継点を通って狼煙が王宮にもたらせると、騎士団は素早く準備を始めた。戦に行くのは騎士だけではない。戦闘準備に城が混乱に惑うことなく各々の仕事をこなすのは、隣の国からの攻撃が珍しくないからでもあった。
「フリオ先輩……。西の国境ってフィル様の……」
フリオは、エリックが輸送用の飼い葉の準備をいているのを見ながら、自身は軍馬の鬣を編み込んでいく。フリオが担当しているのは騎士団司令官の軍馬だから、見栄えも重要なのだ。
「そうだな。うちの騎士団は強いから安心して自分の仕事をしろ。フィル様もそういうはずだ」
戦になれば、輸送用のための馬も市民から借りだされる。馬に関わる自分達に時間の余裕はない。
「はい!」
エリックの目から迷いが消えた。
心配しているなんてことを言ったら、クリスティーナはきっと猛烈に怒るだろう。騎士として、クリスティーナは誇りをもっている。エリックは、それに見合う馬に対しての誇りを持ちたいと思っているだから。
エリックは、素早く整然と飼い葉を荷馬車に積んでいく。
「伝令だ――。伝令が着いたぞ!」
外から城門を突破した騎馬が人を乗せて駆け込んできた。伝令のたすきが掛けられた馬はそのまま横倒しに倒れこんだ。
「水だ――!!」
人だかりから立ち上がったのは自身もあちこち赤く染まった女騎士だった。青い隊服に血がしみて紫に変色している部分もあった。
騎士がその伝令に肩を貸すと、エリックにも顔が見えた。
「フィル様!」
エリックは、側まで駆け寄ることが出来なかった。その周りは青い隊服の騎士が囲んでいて、伝令であるクリスティーナを王の元に連れて行くために手を貸しているからだ。
エリックの声にクリスティーナは振り返った。右の目は血に染まって開ける事ができないようだった。
「エリック……シェイラをシェイラを……苦しむようなら殺してやってくれ……」
それだけを何とか残して、クリスティーナは歩いていった。
横倒しになった馬は、赤く染まった部分もあったが、酷い怪我はなかった。立ち上がれないのは、疲労と熱によるものだろう。伝令は本来何人かで行動するのにクリスティーナは一人だった。脱落したのかもしれないし、敵に襲われたのかもしれない。
「シェイラ……」
クリスティーナの愛馬の名前を呼ぶと、シェイラの瞳が開かれた。
「駄目だ――。こんなに熱い……」
師匠であるカルロスが、シェイラの身体をみて、そう嘆いた。体力の限界まで駆けたのだろう。既に汗も出ていない。水で必死に冷やすエリックに師匠の言葉は聞こえていたが、冷やす事を止める事ができなかった。
「大丈夫だ。シェイラ。頑張れ――」
フリオが諦めろと肩を叩いても、エリックは首を振った。
『死なない――。死ぬときはクリスに殺してほしい……』
確かに声が聞こえた。
「シェイラ……?」
確かにシェイラの想いのようなものが、耳に届いた。
「エリック、これ以上は馬が可哀想だ。殺してやれ」
カルロスの命令は絶対だ。エリックは、この世界で生きていくためにその命令を守らないといけない。それはわかっていたが、頷く事が出来なかった。
「シェイラは生きたがってます!」
『生きたい……』
声が聞こえるのに諦める事が出来るはずがない――。
けれど、この声は他の人には聞こえていないようだった。
「自分のエゴで馬を苦しめるな!」
カルロスの蹴りがエリックをシェイラから引き剥がした。
「お前が出来ないなら俺がやってやる。それが俺たちの仕事だ――」
フリオが間に入ろうとしたが、それすらカルロスの怒りを止める事はできなかった。何度引き剥がされても、エリックはシェイラを守ろうとした。もう身体から発する熱は生きていける限界を超えていて、シェイラは時間とともに心臓が弱り、すぐに死んでしまうだろう。それでも、エリックはシェイラの最後の願いを聞いてあげたかった。
エリックは自分が殴られたり蹴られる事には無抵抗だったが、シェイラの前からどくことだけはしなかった。一触即発の雰囲気がその場を支配していた。それを破ったのは、クリスティーナの悲しげな声だった。
「シェイラ……」
まだ手当てもされていないクリスティーナは、ライオネルに手を借りて戻ってきた。伝令の使命は果たしたのだろう。
「フィル様……」
「エリック、お前だから頼んだのに――」
クリスティーナはふらつきながら近寄り、膝をついて愛馬の首を撫でた。
その目は信じていたエリックに裏切られたような気分なのだろう。常にない硬質なものだった。
「シェイラ、よくやってくれた……。お前のお陰でちゃんと仕事を果たせた。ありがとう――。眠っていいよ」
甘く切ない響きでクリスティーナは相棒を労わった。ブブッと返事をしたシェイから『クリス、悲しまないで……。エリック、ごめんね』と聞こえた。
クリスティーナが瞼に手をやると、痙攣していた身体が諦めたように弛緩した。
「殺さなくていい――。遅くなって悪かったね。少々他にも用事があったんだ」
そこには魔法使いエドワードが立っていた。酷く気まずげに、エリックを見つめる。
「馬の声は聞こえた?」
エドワードがそう言ったので、やっと何故シェイラの声がわかったのかエリックにもわかった。
「魔法だったのですか……」
「それが君の願いだろう? とはいえ、俺も意地悪だからね、馬が苦痛を感じている時の声しか聞こえないと思う。苦しんでいる馬の気持ちを知りたいと言ってたから。それに、もう、楽しいと言っている馬の気持ちはわかるようになっただろう? 恋愛以外は本来受け付けないんだけどね。俺は氷というか水が生来持ってる力なんだ。だから、こんな事ならできる」
彼が手をポンと打つと、水びたしだったシェイラの身体が乾いていた。
「これも……」
シェイラの身体からひんやりとした冷気のようなものが漂ってきた。それも一瞬で、先ほどまで頭すら持ち上げる事ができなかった熱い息を吐いていたシェイラが、自分で座れるようになっていた。目にも先ほどまではなかった生気があった。死は遠のいたようだった。
「疲れまではひかないからね。氷で熱をとって、足りないところに水分を補給したんだ」
「あ、ありがとうございます!」
口元を震わせて、声を絞り出してクリスティーナは頭を下げた。
「俺には癒しの力はないんだ。もうその馬は軍馬としては使えないよ」
「はいっ! それでもシェイラは……友達なんです」
自分より背の高いクリスティーナの頭を撫でて「いい子だね」とエドワードは微笑んだ。
「おま、まだ生きてたのか!!」
カルロスがそういうのを聞いて、エドワードは「カルロスは随分爺になったね」と意地悪そうな顔をした。
「魔法使いって何年生きるんだ?」
「さて、何年だろうね。もういい加減約束は果たしたと思うんだけど、まだ死ねないや」
「え、この前三十歳超えてるくらいっていってなかったっけ」
フリオが思い出して呟くと「お前、そんな可愛いものか。俺が五歳の時にはもうこの姿だったんだぞ」とカルロスが呆れたように否定した。
「約束を果たすまでは死ねない身体なんだよ。それに三十歳は超えてるしね」
自嘲気味に笑ったエドワードは、やはりエリックと同じ歳くらいにしか見えなかった。
「これはアフターケアかな」
もう一度手を打つと、エリックは自分の身体が一瞬凍りついたように感じた。頬の腫れが冷えて痛みがひいている事に気がついた。クリスティーナの驚いたような顔を見ると彼女も同様のようだった。
「これは結界か?」
カルロスとフリオ、エリックとクリスティーナ、そしてエドワード以外はその場所にいないようだった。うっすらとした景色に人々の姿は映っていたけれど、夢の中のようにぼんやりしている。
「まぁ、あんまり披露していい力じゃないからね。魔法使いは、愛以外に魔法を使うには制限が多くてね」
エドワードはいたずらっ子のような顔でそう言う。
「エリックは、馬が苦痛を感じている時だけ言葉がわかる魔法がかかっているんだよ。二十歳のときの魔法でね。シェイラの『生きたい、死ぬならクリスの手で死にたい』という願いを必死で守ろうとしたんだよ。それを俺が教えなきゃ、エリックが可哀想でしょ?」
エドワードはクリスティーナにそう告げた。
後になって、エドワードの魔法で愛する人と一緒になった経験のあるカルロスとフリオはエリックに「何でそんな魔法を願ったんだ? 王宮っていったら恋愛魔法だろう」と先輩として苦言した。もう遅かったけれど。
「シェイラが……」
着いた時は、もう命がないことはわかっていた。それだけ酷使した自分の手で死にたいと願ってくれたのか。そして、エリックは自分が殴られても蹴られてもシェイラの願いをかなえようとしてくれたのか。
「フィル様……」
クリスティーナの目には涙が溢れた。切れた瞼の血は止まっていて、痛みも治まっていたが、涙は血の色をしていた。
「エリック――。エリック、ごめん。酷い事を言った」
本心だったが、だからこそエリックは傷ついただろうとクリスティーナは思った。
「いいえ、シェイラが死ななくてよかった。エドワードさん、ありがとうございます」
涙を流すクリスティーナを気遣うエリックの手は、一瞬クリスティーナに伸ばされかけたが、握りこむだけで留まった。
ヘタレめ! そこは、がんばれよ……。
三人の男たちの声援はエリックには届かなかったようだった。
「あ、時間切れだ。時間を止める事はできないからね。さぁ、皆がんばって――」
そう、クリスティーナがもたらした伝令は、上に伝わった。敵の規模と今の現状、第三騎士団が食い止めているとはいえ、時間に猶予はなかった。
「シェイラは、セルウィン殿が帰ってくるまでエリックが預かれ」
カルロスが命じるのを聞いて、エリックは「はい。お預かりします」と頷いた。
「頼んだ――」
景色が戻ったと同時にエドワードの姿はなかった。姿を消したまま移動したのだろう。
「あれ、馬が……」
シェイラが中々立ち上がれないながらも死にかけから脱したのに気付いた人々が驚いたように声を上げた。
「奇跡だな――」
フリオは、そう言ってエリックと一緒にフラフラするシェイラを連れて厩舎に戻っていくのだった。
逃げたのだと気付いた人はいなかった。何故なら、それどころではなかったからだ。
王からの宣旨をうけ、狼煙が上がってすぐに準備を始めていた騎士団は、その日のうちに西の国境へ派兵したのだった。クリスティーナも違う馬で西に戻っていった。
二週間の睨みあいの末、結局隣国は兵を引いた。いつもより早い冬の到来に予定が狂ったのだろうという噂をフリオはエリックに言った。
「冬が来るのはわかっていたじゃないですか」
「まさか1ヶ月も早く雪が降ると思ってなかったんだろう。あっちの国は、雪が降ると酷いからな。王都に戻るのに下手したら春までどこかで足止めをくらうかもな。しかし、雪か……」
何故かエリックとフリオの頭には、愛の伝道師エドワードの姿が思い浮かんだ。
「でも隣の国の魔法使いは何でうちの国に、はいれないんでしょうね」
「そりゃ、うちの国にきたら、魔法使いは愛に目覚めるからだろう?」
フリオは、笑いながら国境から戻ってきた軍馬を厩舎に返す。賢い彼らは、特に手綱を持たなくても、後ろを着いてくるから楽だ。
「エリック、少しだけ、休憩してきてもいいぞ」
フリオがそう言って、顎で示した先にはクリスティーナが立っていた。
警戒に残った騎士団の一部を残して帰ってきた騎士の中に、クリスティーナもいた。
「シェイラに会ってきた」
クリスティーナは、静かにエリックに向かって頭を下げた。
「フィル様……」
驚いたエリックはクリスティーナの名前を呼んだ。
「エリック、ありがとう」
「いえ、フィル様。俺はやりたいようにやっただけなんです」
「でもっ」
「俺は、フィル様にそんな顔をさせたかったんじゃないんです。嬉しかったなら、喜んでくれればそれが一番嬉しい」
クリスティーナは、一歩前に進み出た。近くなった青い瞳が泣きそうに揺れているのをみてエリックは慌てた。
「お前はいい男だな。もてるのもわからんでもない……」
泣きそうなのに憮然と呟くのを聞いて、エリックは首を傾げた。
「誰の事をいっているのですか?」
やはりエリックはわかっていないらしい。フリオのニヤニヤ笑いを思い出すとクリスティーナの泣きたい気分が吹っ飛んだ。
「お前だ、エリック・マーレイのことだ」
「フィル様は冗談のセンスはありませんね」
笑えませんと、エリックは笑いながら言った。
「そうだな。冗談のセンスはないようだ。だから、真剣に聞いてくれ」
エリックは、笑いを納めてクリスティーナの空のような青い瞳を見つめた。その瞳に自分が映っているのが不思議な気分だった。
「私は、今回の褒美に軍馬を一頭賜わった。その馬の調教をお前に頼みたい。勿論私も手伝う」
息を飲んだ瞬間に喉の器官に唾が入ったのか、エリックは咽た。ゲホゲホと咳き込みながら涙を浮かべてクリスティーナを見ると「お前は……。ムードが台無しだな」と怒られた。
「俺はまだ調教は……」
「お前に頼みたいんだ――エリック」
クリスティーナの声が少し掠れていて、顔を見ると目じりが赤く染まっていた。見たことのない顔にエリックは驚いた。
「それから、シェイラを私の父の治める領地で過ごさせようとおもっているんだ。お前の故郷の村だ。お前の父にも新しく出来た母にも会ってみたい。お前を育んだ土地なら安心してシェイラを預けられる」
「父と母にですか? うちは馬の育成や調教には関わってないですよ?」
クリスティーナの父親が自分の故郷を治める領主だという事は、故郷の話をしたときに教えてもらっていたが、なんで自分の父や新しい母に会いたいのだろうかとエリックは不思議に思った。
「そうだ……。ああ、お前は本当にニブイ男だなぁ」
笑いながら、クリスティーナは少し自分より大きくなったエリックの後頭部を逃げられないように手で固定すると、自分の唇を押し付けた。
エリックの筋肉で硬い身体を引き寄せると、クリスティーナは耳元で「魔法にかかったんだ」と囁いた。この国では、魔法に掛かったという言葉は、愛していると同義語だった。
「エドワードさんの仕業ですか?」
「だとしたら……、嫌か?」
クリスティーナも不安がないわけではない。自分のほうが年上だし、身分の差をエリックが気にしているのも知っている。でもこの男は、正直だからずっと目が訴えていた。だからクリスティーナも勇気を出す事が出来た。
「貴女を愛しています」
飾りもそっけもない言葉だった。それでも、エリックらしいとクリスティーナは思った。
「それでいい。休暇をもらったら、一緒にアレンタ村に行こう」
エリックは、見たこともない笑顔でクリスティーナを抱き上げた。
「はい。フィル様。春になったら一緒に行きましょう」
冬の時期に王都からアレンタ村にいく馬鹿はいない。けれど、今年は雪が早く降ったから、雪解けも早そうだ。
「フィル様は止めてくれ。騎士団ではクリスティーナと呼ばれると馬鹿にされているようでいやだったが、不思議なものだな。お前にフィルって呼ばれると無性に腹が立つ」
「フィル様がそう呼べっていったんですよ?」
「わかってる。わかってるから……」
「はい。クリスティーナ様、俺も魔法に掛かったみたいです」
「様はいらない――」
「クリスティーナは、俺でいいんですか?」
エリックが、そっとクリスティーナの唇を啄ばむと、目を細めてクリスティーナは微笑んだ。
「私が、エリックを選んだんだ。エリックにだって文句は言わせない」
「はい。クリスティーナ。でもお願いですから、服を脱がそうとするのは止めてください……」
エリックは「外だし、結婚前だし、師匠にも報告しないと……」と服を死守しながらクリスティーナに懇願した。
「仕方ないな――。躾けは最初が肝心なんだが」
「なんの調教ですか!」
どう考えても調教はクリスティーナのほうが上だろう。やっと調教助手見習いから見習いが取れたばかりのエリックでは太刀打ちが出来そうもない。
春が待ち遠しい女騎士が、頼もしくなっていく調教助手を躾けるのは、もう少し時間がかかりそうだった。
Fin.
読んで下さってありがとうございます☆
今回のお祭りはとてもいいキッカケになりました。今までは勢いにまかせて書き進めていたのをじっくり考えながら書いて、何度も読み直しました。チョコチョコ書き直したりして、凄く自分的に満足な出来です(嬉)。
伝令については、乗馬の競技であるエンデュランスに出ている方のお話しを思い出しながら書きました。エンデュランスは最高で150kmも走る競技です。お話を聞いたのは80kmに出ている方です。
そして、エリックのトラウマは実は私のトラウマです><。
お気にめしていただけたら光栄です。1月25日26日の活動報告で『愛の魔法』のその後を少しだけ書いてます。良かったら覗いてくださいませ。
ブックマーク、評価ありがとうございます☆明日の創作の活力になります。
第四回小説祭り参加作品一覧(敬称略)
作者:靉靆
作品:煌く離宮の輪舞曲(http://ncode.syosetu.com/n4331cm/)
作者:東雲 さち
作品:愛の魔法は欲しくない(http://ncode.syosetu.com/n2610cm/)
作者:立花詩歌
作品:世界構築魔法ノススメ(http://ncode.syosetu.com/n3388cm/)
作者:あすぎめむい
作品:幼馴染の魔女と、彼女の願う夢(http://ncode.syosetu.com/n3524cm/)
作者:電式
作品:黒水晶の瞳(http://ncode.syosetu.com/n3723cm/)
作者:三河 悟
作品:戦闘要塞-魔法少女?ムサシ-(http://ncode.syosetu.com/n3928cm)
作者:長月シイタ
作品:記憶の片隅のとある戦争(http://ncode.syosetu.com/n3766cm/)
作者:月倉 蒼
作品:諸刃の魔力(http://ncode.syosetu.com/n3939cm/)
作者:笈生
作品:放課後の魔法使い(http://ncode.syosetu.com/n4016cm/)
作者:ダオ
作品:最強魔王様が現代日本に転生した件について(http://ncode.syosetu.com/n4060cm/)