愛をこめて花束を
煌びやかな衣装を着た花嫁が新郎に寄り添いながら、草木で飾られたテラスより彼らを見下ろす。今日、この結婚式兼披露宴に出席してくれた、愛すべき友人、恩人、家族達だ。
「さて、これより運命のブーケトスを行いたいと思います。花嫁をお目指しのお方は是非、血眼になって手を伸ばしてください」
進行役の女性の見事な言い回しに、所々で笑い声が漏れ聴こえた。
花嫁がブーケを掲げ持つ。
「いきます!」
放たれるブーケ。運命の糸に群がる亡者達のように、若い女性たちが落下地点へ殺到した。
「獲ったぁ!」
そして一分としないうちに、決着がつく。ブーケを手にしていたのは、小学生ぐらいの可愛らしい女の子だった。嬉しそうにブーケを抱きしめ、母親だろう女性に駆け寄るその姿に、会場の空気はフッと暖かくなった。
「では―――」
「「皆さん!!」」
進行役の女性が締めに入ろうと口を開く。だがそれに待ったをかける声がかかった。
その声は広場の上方―――テラスのから聴こえた。参列者が上を見上げる。その視線を一身に受け止めて、新郎新婦は後ろ手に隠していたあるものを掲げた。
「ブーケ?」
誰かが呟く声がした。
そう。彼女たちが手にしているのは、青白い花を包んだ小さなブーケ。先程投げられたブーケよりも二回り程小さい。
新郎が声高に話し始める。
「今回お越し頂いた皆様には、直接的であれ間接的であれ、今まで大変お世話になっています。その感謝の意を伝えたく、このブーケを、二人で作りました」
新婦がそれを引き継ぎ、ブーケを手に声を張り上げる。
「これは運命のブーケではありません。ですがこのブーケには、私達の皆さんへ向けた愛がこもっています。どうか私達の愛が、皆さんの心を少しでも温かくしてくれますよう……」
ブーケが投げられる。
事態にようやくついてきた聴衆が、慌てて降ってくるそれらを追いかけ始めた。
キャッチした中年の男性が、大きな声で叫んだ。
「確かに受け取ったぞ!」
「うん!受け取った!」
若い女性がブーケを掲げて続く。
受け取ったそばから、皆口々に叫んだ。
「あなたたちの愛は、確かに受け取った」と。