ありがとう
「荷物持ったか?」
「ん?あぁ、大丈夫」
後ろから聞こえた父の声に応えて、俺は振り向いた。
「とうとうお前もここを出てくのか……」
感慨深げに言う親父は、寂しいような、誇らしいような、そんな色んな感情の詰まった表情をしている。
「……嬉しい?」
「いや、判らん」
「なんだそりゃ」
本当はその判らんに込められた意味に気付いていたが、俺はあえて触れなかった。
「お前には色々と手を焼いたよ」
「そうだっけ?」
「あぁ。公園前の家の窓ガラス割ったり、道路の真ん中に爆竹置いたり。今までどんだけ迷惑かけたと思ってんだ?」
「そ、それは……まぁ、数えきれないぐらい?」
「学校に呼び出されたこともあったな」
「……すいません」
何故か説教モードの父に何も言えない俺。本当に、ここでは色々としでかした。黒歴史の宝庫だ。
「ふっ……。ここは、そうやってお前が馬鹿やらかしながらも、育ってきたところだ」
「……うん」
「ここはお前の故郷だ。これから巣立っていくお前が培われた原点だ。だから……自信を持て。ここはいい街だ。現にここまでお前を立派にしたんだ。そんな街の人間だと思えば、お前はいつだって頑張れるはずだ」
「……そうだな。何だか思い出してきたよ。一杯叱られたこと」
「叱ってくれるってのはいいことだぞ?お前を愛してくれてるんだ」
「ははっ、かなりの人たちに愛されてるなぁ、俺」
「だろ?」
「……うん。俺、頑張るよ」
「……あぁ、行ってこい!」
俺は父の力強い言葉に見送られながら、旅立ちの駅へと一歩、足を踏み出す。
後ろで父が高らかに手を振っているだろうことを想像しつつ、俺は小さく呟いた。
「みんな、サンキュっ」