Best friends
「フラれちゃった……」
人気の無い階段で、一人の少女が顔を俯かせていた。体育座りのような格好で、腰かせた段の一段下に足を置き、揃えた膝の上に力なく両手を添えている。
私はつい数十分前。ずっと好きだった男の子に告白した。「ずっと好きでした。付き合ってください」ありきたりな文句だったが、それでも頑張って勇気を振り絞り、告白した。
だけど―――その願いは叶わなかった。
彼の「他に好きな人がいる」という残酷な言葉によって、私は見事に撃沈した。
「そう……」彼の言葉にそれだけ返して、私は逃げるようにその場を後にした。いや、実際に逃げたのだ。私は彼から―――逃げたのだ。
「泣きたいのにな……。何で何も出ないんだろ」
目元を擦っても、濡れた感触はしない。
「イタッ」
苛立たしげに目元に当てた指を振り切ると、伸ばしっ放しだった爪で目尻を引っ掻いてしまった。
「あぁ……もぅ。痛いなぁ……」
引っ掻いた目尻を押さえる。やはりそこは濡れていない。
「もう、何だっていいや」
何をする気にもなれなくて、引っ掻き傷から手を離しながら、再び俯いた。
そうして座り続けて、どれだけ経っただろう。体感では永遠にも感じられたその静寂は、遠くから聞こえた足音によってようやく破られた。
しかも段々と音は大きくなってくる。
「誰か……来る?」
逃げようかと考えたが、立ち上がる気力が湧かず、そのまま通り過ぎることを期待して、ただ黙っていた。
そうしている間にも刻々と足音は近付いて来る。
―――足音が止まった。
「あっ、やっぱここにいた」
「えっ……」
不意に響いた声。その聞き覚えのある声に思わず顔を上げると、そこには自分が思い浮かべた通り、一人の見知った少女が仁王立ちしていた。
「(役者の名前)……」
「すっかり沈んだ顔してるじゃない。何かあった?」
彼女は親友の(役者の名前)だ。大して取り柄もない私なんかをよく気にかけてくれて、一緒に遊んだりお昼を一緒に食べてくれたり、とても仲良くしてくれる娘だ。
「うん……。前に話したよね、私の好きな人。さっき告白してきたんだ」
「えっ!?」
いきなり告白してきたと言われて流石に驚いたようだ。
「で、結果は……?って、その様子だと駄目だったみたいだね」
「うん」
言いにくいだろうことなのに、(役者の名前)は遠慮なく言ってくる。私はその無遠慮さが、何故だか心地よかった。
(役者の名前)は私の隣にトスっと腰かけ、背中に両手を伸ばしてう~ん!と伸びをした。
「はぁ~っ。……なんていうか、私はフッたりしないよ?」
「は、は?今なんて言った?」
唐突にそんなことを言われて、沈んだままだった表情が無意識に変わった。
「いやだから、私は嫌いにならないっていうか、なんていうか……」
照れくさそうにそういう彼女は、私なんかよりも全然器用なのに、不器用だなぁと思えて……そして可愛かった。
さっきまで鬱屈としていた心が、随分と軽くなっていることに気付く。
その言葉は、自然に漏れていた。
「……ありがと」
いつも一緒にいて、ただ甘えさせてくれる―――だけじゃない。心地よい遠慮の無さ。本音を見せてくれる彼女に、私はどれ程支えられていただろう。
思い起こせば、色んなところで助けられてる気がする。
今日だって、彼女が来てくれなければずっとここで腐っていたのかもしれない。
私は改めて言った。
「ありがとう―――」