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三題噺 青・楽器・死神


 あるところに、一人の旅する男がいました。その男は世界が好きで、いろいろなことに興味を持っていました。そして、毎日いろいろな所を旅しながら生活していました。

 ある日の夜、男は眠れるところを探して海の近くをぶらぶらと歩いていました。すると、どこからかとても素敵な音楽が聞こえてきました。その音に心ひかれた男は、音楽が聞こえる方へと言ってみることにしました。

 そこは岩の陰になって少し見えにくいところでした。たくさんの人が集まってすてきな音楽を奏でています。目の前の、広く青い海に向かって、とても楽しそうに。男はその素敵な音楽にすかっリ魅了されてしまいました。

 一緒にやりたい。あの輪の中に入ってみたい。そんな思いが男の中に芽生えました。しかし、声をかけようとした瞬間、辺りに強い風が吹きました。

「わぁ!」

男は思わず手で顔を守りました。

 風が吹きやみ、辺りを見回した男は驚きました。さっきまでいた、たくさんの楽器を吹いていた人たちがいなくなっていたのです。どこへ消えてしまったのでしょうか。辺りを見渡しても誰一人見当たりません。

 男は、ふと、何かが落ちていることに気がつきました。それは、真っ青な海の色をし

た楽器でした。リコーダーを横にしたような形をしていて、とてもきれいでした。男はこの楽器を吹いてみたくなりました。少しだけなら大丈夫だろう。そう思い男は、優しく楽器に息を入れました。しかし、どういうことでしょうか。楽器はフューフューという息の音しかしません。

 男は、少し残念な気もしましたが、今日はこのままその場所で寝ることにしました。




朝になりました。男は目を覚ましてみて驚きました。なんと、目の前にとってもきれいな美女が立っていたのです。彼女が着ている服は、とてもきれいな青いワンピースでした。

「ウミネはどこですか?」

と、優しそうな、しかし、それでいてよく響くここちよい声が聞こえました。男は、いきなり美女が発した<ウミネ>という言葉が理解できず、思考回路が一時停止してしまいました。しかし、男はもう一度思考回路を復活させて、美女に尋ねました。

「海音?なんだい?それは。」

「ウミネはウミネです。海の音と書いて海音。昨日この辺に忘れてきてしまったのですが、知りませんか?」

男は思い当りました。もしかして、あの楽器の話ではないだろうか。昨日ここで拾った、あの青い楽器。

「ちょっと待ってください……。もしかして、これの事ですか?」

と、青い楽器を差し出しました。

「そうです。これです。拾ってくださって、ありがとうございました。では、私はこれで失礼します。」

そう言って美女は、<海音>と呼んだ楽器を受け取るとサッとどこかへ立ち去ってしまいました。その彼女の顔には何とも言えない複雑な表情が浮かんでいました。

 しかし、男はそんな表情には気づかず、その美しい姿にずっと見とれていました。しかし、気付いた時にはもう美女はどこかに行ってしまった後でした。男は、とても残念な気持ちになりました。また会いたい。そんな思いから男はしばらくこの地にとどまることを決めました。




男は来る日も来る日も、あの素敵な音楽が聞こえてくるのを、あの美女にまた会うのをずっと待っていました。そして、あの音楽が聞こえてきた日から1週間経った日の夜。

 ついにまた、あの音楽が聞こえてきたのです。男の心はうきうきとおどり出しました。男はあの岩の陰をのぞきました。よく見ると音楽を演奏してる人たちは、半分以上の人が男の人でした。さらに、あの美女以外は皆、70歳以上であろうと思われる老人たちでした。ただ一人の若い美女は、とても輝いていました。

 演奏の邪魔にならないように、岩の陰からそっとのぞいていた男でしたが、盛り上がっていくうちに、だんだんと姿を隠すことを忘れてしまいました。そして、気がつくと男は演奏している、あの美女のすぐ横まで来ていました。すると、演奏していた人たちは男に気がついたのか、急に演奏をやめてしまいました。辺りは一瞬、しんとして、遠くから波の音が聞こえるだけになりました。しかし、しばらくすると、ざわめきが起こりはじめました。男は耳を澄まして聞いてみました。

「…にんげ…ここにい…んで…」

「…たい…かりた…ましい」

男は何を言っているのかよく意味が分かりませんでした。男が、どうすればいいかわからず、おろおろしていると、いきなり男たちにつかまってしまいました。そして、人々の中心に連れて行かれました。

「俺がカル」

「わしがカル」

「タマシイをカリタイ…。」

―――カル…かる…狩る。タマシイを狩る。―――

男は自分がどのような状況に置かれているのか、ようやく理解しました。男は逃げようと必死にもがきました。しかし、男を押さえている力は強く男は逃げられません。


「ちょっと待ってください。」


よく響く、凛とした声が聞こえました。また、辺りが静まり返りました。そして、男の周りにできていた人垣が割れて、その中からあの美女がでてきました。今日もまた、きれいな青いワンピースでした。

「その男の処分は私に任せてください。」

すると人垣の先頭にいた黒いローブを被った男が一歩前に進み出てきました。黒いローブの男は何か言おうと口を開きましたが、言えなかったようで、しばらく考えていましたが、やがて一言

「よろしい」

とだけ言って、他の人たちとともにどこかえ消えてしまいました。




そこには、男と美女だけが残りました。男は目の前の行動が信じられず、しばらく考えていましたが、やがて美女に尋ねました。

「質問してもいいかい?わからないことが多すぎて困ってるんだ。」

「どうぞ。私に答えられることなら。」

「あなたは何者ですか?」

美女は、答えるのをためらいました。しかし、意を決したように話しだしました。」

「私たちは俗に死神と呼ばれるものです。」

「死神…ですか?」

「はい。死神です。」

「じゃあ、その死神がなぜ楽器なんて演奏してたんですか?」

「あの演奏は、狩った後のタマシイをあの世まで送るためです。」

必要最低限しか答えようとしない美女に男は少しイラッとしました。男がまた質問しようとすると、今度は美女の方から口を開きました。しかし、その内容はとても恐ろしいものだった。

「わたしは今からあなたのタマシイを狩らせていただきますが、思い残したことは何かありませんか?」

「…えっ?」

―――そういえば、俺の処分がどうとか言ってたなぁ、さっき。―――

男はそう思いましたが、今更そんなこと思っても時すでに遅しです。男に逃げ道はありません。

「だから、思い残したことはありませんか?と聞いているんです。無いならばすぐにでもあなたのタマシイを狩らせていただきますが…よろしいんですか?」

「えっ、あの、できれば取り消していただきた…」

「ないのですね。じゃあいいです。では、狩らせていただきますね。さようなら。」

そういって、美女は海音をとり出しました。しかし、海音は楽器の姿ではなく大きな鎌の姿へと変化しました。

 男は必死で逃げようとしました。だが、抵抗も虚しく男の目の前には大きな鎌が…。




「ふぅ……。」

ため息をついた美女の前には、タマシイを狩られた男の亡骸。美女は鎌を楽器の姿に戻しました。そして、演奏を始めました。

 いつもと変わらない、素敵な演奏でした。

「あのタマシイは無事にあの世へ行ったよ。」

 ふりかえるとそこには、あの黒いローブの男が立っていました。

「どうだい?好きだった人の生まれ変わりのタマシイを狩った気分は。」

黒いローブの男は、美女の隣に並んだ。

「さっき狩った男は、たとえタマシイが同じでもあの人とは違います。それに、そんな100年以上も昔の事をいまさら言われても困ります。」

「そうか~。もう100年も経ったのか~。じゃあ、君が死神になってしまった時の話の口外禁止はもう解いていいかい?」

「だめに決まってるじゃないですか。」

「そうかい?でも思い出すね…。君は好きな人のタマシイを追いかけて…」

「もういいじゃないですか。そんな昔の話。第一、そんな話は誰も知りたがりません。」

「じゃあ、口外禁止を解いてもいいかい?誰も知りたがらないんだろう?」

「それとこれとは話が違います。」

「君はずいぶんと冷めているね。昔と全然変わらない。」

「いつまで昔話をするんですか?私はそろそろ次のタマシイを狩りに行きたいんですけど…。」

「おやおや、ずいぶんと多忙だね。働きすぎは体に悪いよ。」

「もうそんな心配をする体じゃありません。」

「確かにそうだね。忘れていたよ。」

「…何年死神をやっているんですか?いい加減に自分の体のことぐらいは忘れないようになってください。」

「悪かったよ。」

「会長…。」

「何だい?」

「奥様がお見えです。」

「えっ、何だって?どこだい?わ、私は忙しいんだ。じゃあね。」

そういうと黒いローブの男はどこかに消えてしまいました。

 黒いローブの男、会長と呼ばれた男は死神たちのまとめ役である「死神会」という、ネーミングセンスのかけらもない名前の会の、会長でした。美女が、若くして死神になった時もずっと面倒を見てくれていた死神です。奥さんには頭が上がりません。なので、他の死神たちも美女と同じように、奥さんを使って逃げることがよくあります。

「あの人はたまに、とってもうざいのよねぇ…」

 そうつぶやいた後、美女は静かに涙を流しました。

 遠い過去を思いだして……。



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