輪廻6 血濡れた微笑み
またまた遅れてすみません……!
次の更新はもっと遅れるかもしれない……orz
それは、ドレミファソラシドを奏でる時のような一定のリズムで。
終夜を囲んでいた男達の首が一斉に、舞った。
空賊の騎巧艇を血飛沫が染め上げる。
一瞬、だった。
中心にいた終夜が右手の魔導銃の引き金を引くなり、彼らの滞空する空域に風が吹き――次の瞬間には生存者は二名だけとなった。
「……」
生存者、二名。
一人は無論のこと終夜で、もう一人は空賊のボスらしき男だ。
二人だけとなった空域に沈黙が流れる。男は口をみっともなくポカンと開けたまま、一瞬で数人の人間を何の躊躇も無く殺してみせた少年を見詰めている。
「……あの」
仲間の血と共に、まるで安いドラマみたいな驚愕の表情も張り付けた男に、終夜は沈黙に耐えられず声を掛けた。
「……何ですか?」
「何で敬語? まぁいいや、ともかくそんなに見詰めないでくれるかな。俺、そっちのケはねぇから……」
「ばッ……!? 俺だってねぇわボケ! 申し訳なさそうに何言ってんだよお前!?」
「顔赤いぞ。……もしかして、ガチ?」
「だから違ぇ! つーかお前、今、何したッ」
「魔法」
「知ってる!」
ぜーはー、と荒い息を吐く空賊の男。
やがて彼の顔にはじわじわと、驚愕以外の表情が広がっていった。――それは即ち、恐怖。
「お前……本当に何だ、この化け物……ッ」
終夜に突き付ける両刃の剣が震えている。否、震えは魔導剣だけでは無く、男の身体全体に広がっていた。
恐怖に歪んでいく男の顔を慣れたものとして眺めている終夜の表情は、頬を血でべっとりと濡らしながらも優しく微笑んでいる。
だが、その一見優しく暖かい微笑みが、誰かを安心させることは無い。
なぜなら、その表情には何も無いのだ。ひたすらに虚無で、空虚。それらの空っぽな様に気付けた人間ならば、必ず背筋を寒気で震わせるだろう。
「……とりあえず、俺が言いたいのは一つだけだ。俺は、ただ――」
空の静寂の中、終夜は何のモーションも起こさずに、ただ男に語り掛ける。
これから殺す、男に。
「罪を犯すことは、お前は苦痛じゃないのか?」
独り言のように紡がれる終夜の言葉など聞かずに、男は出鱈目に魔導剣に精神力を込めた。
「罪の重さを、お前は知らないのか?」
魔導剣が起動する。
柄に埋め込まれた石――魔晶石が青く輝く。
込められた精神力が魔導剣の中の魔力回路を流れ、その過程で魔導剣が取り込んだフォレン粒子と結合、精神力が魔力に昇華する。
男の構える魔導剣、その切っ先に青い魔法陣が生まれた。
半径一メートル程の円形をした魔法陣は、刀身に魔法を授けるかのように、スゥッと下がっていく。一見、刀身が魔法陣の中央を貫いているように見えるが、動いているのは魔導剣ではなく魔法陣の方だ。
男の腕共々通り抜け、魔法陣は虚空に消える。
そして刀身には、「水」が螺旋状に巻き付いていた。――いや、「水」ではなく「水流」だろうか。
水属性Bランクの接近型攻撃魔法、[水蛇剣]。
男は水流の蛇を纏った剣を振り上げると、騎巧艇で体当たりするように突っ込んで来た。
「――罪の重さを感じることの出来ない人間程、哀しいものは無い」
終夜の独白は、そこで終わった。
魔導銃を起動させるまでも無い。
新たな魔法を発動させるまでも無い。
この空戦で今まで無慈悲に空賊の魔法師の命を奪っていった魔法が、最後に一人残った男にも飛来する。
何の音も無い。
静かに、ただ、静かに。
男の首から上は宙を舞い、もう人間の住めなくなった地上へ、落ちていった。
「……」
終夜は自分の周りをゆっくりと見渡した。
騎乗者のいなくなった騎巧艇が十数艇、首無しの胴体だけを跨がらせている騎巧艇が数艇。
「……断罪、完了」
ポツリ、と呟く彼はどこか哀しそうな微笑を浮かべていた。
☆
「……馬鹿総長が使った魔法が分かるか? 饅頭」
「我は大福だ!」
BAF第一飛空艇の甲板で、美女と和菓子が会話を交わしていた。
長い銀髪に紫水晶の瞳――リナヴィア・ウッドノートと、小さな齧り痕がある大福――饅頭だ。
「後で落花生遣るから怒るな。で、分かるか?」
「本当か、お嬢。その言葉、努々忘れるなよ」
「忘れない。分かっているなら早く言え」
「うむ。……お主の使った魔法は風属性Dランクの遠距離型攻撃魔法、[風刃]だろうな」
リナヴィアは小首を傾げた。
彼女は騎巧艇の整備士でハッカー。聖フォレン学園でそれなりに魔法を学んではいるものの、終夜の魔法は魔力的に然り気無さ過ぎて見ただけではどんな魔法なのか分からないことがある。
「[風刃]は確か、殺傷力はそれなりにあるがコントロールの利かない魔法だったよな? だからDランクなどという低ランクに指定されているんだ。だが馬鹿総長の使った魔法は精度抜群の魔法に見えたが?」
リナヴィアの瞳は仄かに紫色の光を発している。
無属性Bランクの感覚強化魔法、[視力強化]。
彼女はあまり得意とは言えない魔法で、遠く、あの少年がいるであろう一点を見詰めていた。――といっても彼女では、人間と思わなければそれと分からない、ぼんやりとした影だけしか見えていないが。
饅頭も彼女が見詰める場所に目を向けながら答えた。
「普通ならあの魔法には[追尾]の付加魔法が付いている[風刃]と思うだろうが……」
「馬鹿総長はそんなことしないだろう」
「うむ。お主は絶対に魔力を無駄にしないからな。ホーミング性能を付加するなんて魔力の無駄になることはしないだろう。だから、お主はフォレン達に頼ったのだ」
リナヴィアは饅頭の言葉を聞いて疑問符を頭の上に浮かべた。
「フォレン達? ……フォレン粒子のことか?」
「そうだ。お主はフォレン粒子と会話(正しくは念話)することも操ることも出来る」
「……ああ、それは知っている。魔法師はフォレン粒子を精神力から魔力に昇華させる為の『エネルギー』とするが、確か馬鹿総長はフォレン粒子を生命体だと言っているな。だから念話が出来る。……だが、操るとは?」
「簡単に言えば、念話の延長線上だな。フォレン粒子と念話をして、そこで『念』――つまり魔力だが――をフォレン粒子に強く送り込む。何処其処に移動してくれと頼めば、フォレン粒子はそれに従うのだ」
「……アイツはそんなことも出来たのか。しかし、それも魔力を消費するだろう? 魔力を送り込むんだから」
「確かに、魔力『は』消費する。だが、ほんの微量だ。魔法を一週間学んだだけの者でも放出出来る程の量だな。お主はフォレン粒子で精神力を魔力に昇華しなくとも、精神力を魔力として使える素質と技量がある。殆どの魔法をお主は魔導機無しでも発動出来るだろう。ともかくそういうことだからな、微弱な魔力だけで可能なフォレン粒子の操作に、フォレン粒子は消費しない」
「……つまり?」
リナヴィアは再び疑問符を浮かべた。今度は困惑の度合いが大きい。
「お主は魔力を無駄にしたくないのではなく、フォレン達の生命を無駄にしたくないのだよ」
「……」
「――それでフォレン粒子の操作だが、それをすることでコントロール性能皆無な[風刃]を意のままにしたという訳だ」
「……成程な。フォレン粒子は高エネルギー気体。それが層を成せば、魔法の風などすぐに跳ね返るな。反射を利用していたのか」
銀髪の美女の瞳から紫色の光が消えた。
「……本当に敵わないな、彼には」
「む? お嬢は正式な魔法師ではないのだろう? お主からお嬢は『せいびし』で『はっかー』だとずっと前に聞いたぞ」
「……魔法師として敵わない、ということではないよ」
そう言って、リナヴィア・ウッドノートは控え目に微笑んだ。
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