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蒼穹輪廻の魔法騎士  作者: 如月 蒼
Prelude:日常編
3/8

輪廻2 断罪者の空軍

 ちょっと硬いかな、と思ったのであらすじを結構変えました。ストーリーに変更はありません。勝手ですみません……。

 魔法。

 人間にその奇跡の技術が使えるようになってから、世界に生まれたものは発展だけでは無かった。

 神様の伊吹と言われるフォレン粒子で全てのエネルギーを(まかな)っているこの時代でも、魔法は便利な技術だった。

 フォレン粒子は確かに何でもありの、科学者からしてみれば反則の気体だが、そのエネルギーを人間が使用する為には機械などの媒介が必要になってくる。例えば、フォレン粒子から電力を生みたいのならフォレン粒子の持つエネルギーを電気に変える為の発電機械が必要不可欠という訳だ。

 魔法もフォレン粒子から生まれた技術だ。だが、魔法を発動する為にフォレン粒子の媒介となるのは「人間」だった。正確に言えば「人体」である。

 五つの浮遊大陸で構成された今の世界は、当たり前だが資源が圧倒的に不足している。エネルギーはフォレン粒子という形で豊富にあると言っても、フォレン粒子は木材や金属材の代わりには成り得ないのだから。

 そんな理由で、フォレン粒子の媒介となる機械などというものは中々手に入らない。一般家庭の人々には決して手の届かない代物なのだ。

 だが、魔法はどうだろうか。勿論、魔法なんていう奇跡の技術が誰にでも使える訳では無いし、血筋も濃密に関係してくるが、魔法は人体とフォレン粒子、そして魔導機(まどうき)さえ有れば発動出来た。

 入手困難な精密機械が無くても、魔法は人間にフォレン粒子の持つ無限の可能性を与えたのである。

 そうして世界にあっという間に広がった魔法は、人々に利便性を与え、世界には発展を促した。

 だが、力を持てばそれを悪い事――つまり犯罪――に使おうとする(やから)は必ず出てくる。断言しても良い。

 何時でも雲を見下ろす事の可能なこの空の世界で、魔法を悪用する人々は着々と増えていった。力を付けた犯罪者グループは、一つの浮遊大陸に留まる事など出来る訳がなく、偽りの陸地から外に出る。やがて彼らは他の浮遊大陸も狙うようになり、その為に空域までも支配するようになった。

 エネルギー不足の次は資源不足に苛まれている今の現状では、犯罪者グループ――空賊に空域を支配されて他の浮遊大陸との貿易が邪魔される、という事態はあまりにも迷惑な事であった。

 そこで、とある組織、いや軍隊が設立された。

 魔法を悪用する空賊や犯罪者に裁きを与える魔法師――断罪者(バスター)の軍隊を。

 断罪者達には勿論、空賊や犯罪者に対抗して勝つ事が出来るように、魔法に()けた人材が集められる。

 断罪者達は殆どの空賊・犯罪者達に恐れられている存在であった。


 BAF。

 Baster's Air Force.

 断罪者の空軍。


 それが、魔法によって裁きを与える魔法師達の軍隊の名前である。

 そして、BAFの頂点に立つ断罪者は、同じBAFの仲間からも敵である犯罪者からも、込められた思いは違うが同一の呼び名で呼ばれた。

 最強の断罪者。それは即ち、魔法師の――


 ――「総長」、と。




     ☆




 西暦36XX年03月12日現在の「総長」は20代目である。

 その20代目の彼も、犯罪者からBAF総長と、最強と呼ばれて畏怖されていた。

 BAFの仲間からも、彼の事をよく知らない者達からは尊敬と畏敬の眼差しを向けられている。

 だがそれらは、BAF総長20代目の彼――柊終夜が、高々15歳の子供だと知らない者達に限られた。


「なぁ、馬鹿総長」

「ん、何? 俺今眠いんだけど」


 だからこういう会話も普通に交わされるのであった。

 BAF第一飛空艇――断罪者(バスター)からは「軍艦」と呼ばれているが――の甲板(デッキ)で、一人の少年と一人の女性が話をしていた。

 鳶色の髪の少年は漆黒の軍服――BAFでも今は彼だけのの制服だ――を着て強化素材の床の上に胡座(あぐら)を掻いている。上着には腕を通さずに肩に引っ掛け、風に(なび)かせていた。

 瞳は右眼が青色、左眼が漆黒である。

 柊終夜。BAF総長、その人であった。

 対して女性の方は、こちらも軍服を着ている。ただそれは女性用で、下はスカートである。もう少し堅い雰囲気が無くなれば普通のスーツにも見えるだろうか。

 長い銀髪を風に揺らしながら、彼女は終夜の隣に立って飛空艇の行く先を見詰めている。凜、とした顔立ちは美しく、誰もが確実に振り向く美女だった。


「騎巧艇の整備と待機室のコンディション、完璧にしといたぞ。……馬鹿総長、寝不足か?」

「うん、ありがとう。……そんなとこ。実は徹夜でさ」

「寝不足どころでは無いな。子供は早く寝ないと駄目だと言っているだろう」

「例えば何時くらい?」

「そうだな。……八時、だな」

「……早過ぎくね?」


 終夜は小さく苦笑して女性を見上げた。

 女性の方は彼の事を見下ろす。綺麗な紫水晶の瞳が、青と黒の視線を受け止めた。


「で、何? 姉さん」

「……私はお前の姉では無いぞ、と何度も言っているのに」

「分かってるよ、リナヴィア姉さん」

「そうそう、私の事は名前で呼べ……」


 うんうん、と頷いていた女性が、突然言葉を止めた。


「……って、結局姉さんと呼ばれてるじゃないか」

「うん。呼んでるけど、何か?」


 ニコニコ、と笑って惚ける終夜。

 相変わらず、底が見えない虚無な笑顔だった。


「……まぁ、良い。それより馬鹿総長、FT(エフ・ティー)見たか?」

「見たけど?」

「……五つ、全てか?」

「ああ。それがどうかしたのか?」


 きょとん、と首を傾げる自分の上司に、リナヴィアと呼ばれた女性は溜め息を()いた。

 FT。それは「Five Times」の略称である。

 では「Five Times」が何なのかと言うと、五つの浮遊大陸に一つずつある新聞・広報誌・雑誌を全てまとめたような情報誌の総称である。


「お前はよく平気でいられるな、あんなボロクソ書かれて」

「……(あなが)ち間違いじゃ無いしなぁ」

「しかし、私達は仕事を全うしたんだぞ。それを無能な政治家達は、また優秀な魔法師を大量に失ったなどとグチグチグチグチと……」

「十本の指にも入る大規模な空賊を潰した事を称賛する記事が良かった、と?」

「当たり前だ。〈ミノタウロス〉のメンバーを一匹残らず殺してやったというのに、政治家は何が不満なのだ」


 豊かな胸の前で腕を組み、眉を吊り上げるリナヴィア。

 そんな彼女を見て、終夜は偽りの笑顔を浮かべながら心の中で突っ込んだ。

 その一匹残らず、ってところにだろ、と。

 10日に〈ミノタウロス〉を断罪する事になったのは、実は緻密な計画の(もと)、という訳では全く無かった。

 切っ掛けは何とも些細な事であった。

 騎巧艇に乗って散歩――ではなく散空をしていた終夜に、〈ミノタウロス〉のボスが身の程知らずにも数人の仲間を引き連れて襲ってきたのが原因だった。

 どうやら奴らは終夜がただの子供だと思ったらしい。いや、それも当然かもしれない。

 終夜は普段から、大き過ぎる己の魔力を抑え込んでいる。故に、奴らは終夜に対して魔力を感じず、一人旅をする馬鹿な餓鬼、と思い込んだ訳だ。

 勿論、終夜は取り巻きを一瞬で断罪――つまり殺し、ボスの断罪は雲の中で行った。

 雲の中で殺すのは、ボスは魔法を他者に見られたくないからと思ったようだが、それは間違いで、ただ単に終夜のポリシーだった。

 何か一つの仕事に決着をつける時の断罪は誰も見ていない場所で、というのは終夜のポリシーである。

 自分自身で生み出した魔法、というものは当然、他者には見られたくないものである。だから魔法師は自分の魔法を極力隠そうとするが、終夜は別にそういう考えも気持ちも無い。

 隠さなくてはならない理由ならあるが。

 そして終夜を襲ったという事実にキレた、何とも上司思いな部下達が、〈ミノタウロス〉の本拠地である飛空艇を追跡して襲撃、後は皆殺し――という次第だった。

 やり過ぎだろ、と終夜が柄にも無く思ってしまったのも、仕方無いだろう。

 政治家達は、優秀な魔法師である〈ミノタウロス〉のメンバーを利用したいと考えていたようだ。殺して断罪するのはボスだけで良い、と。

 だがキレて我を失った断罪者達は、〈ミノタウロス〉のメンバーを本拠地の飛空艇ごと葬ってしまった訳だ。

 それに苛立った政治家達は、少しでも嫌がらせを、と出版社に圧力を掛けてFTの内容を、リナヴィアの言葉を借りればボロクソにした訳である。

 五つの新聞、その見出しは大体こんな感じであった。


『BAF、空賊〈ミノタウロス〉相手に容赦無し。慈悲の欠片も無く地上に叩き落とす』


 何とも棘のある見出しだった。

 地上、とは毒性気体の蔓延した本当の大陸の事である。

 他にも、BAFは人殺しを何とも思わない外道の魔法師の集団だとか、そういう悪口にしても笑えないような言葉が書き綴ってあった。

 ――先程終夜が言った通り、強ち間違いでも無いのだが。


「特にLT(エル・ティー)(Lumeia Times)なんてな……」

「姉さん、もう過ぎた事は仕方無いだろ。それよりこれから俺とお茶でも――」

「結構だ」


 バッサリ、と終夜の誘いは切り捨てられた。


「何だよ。姉さん苛ついてるから気分転換に、と思ったのに」


 いじけた表情を浮かべて見せる終夜。

 そんな彼に、リナヴィアは「そうだったのか」という顔をした。


「そうか。それは済まなかった。てっきり色欲に溺れたのかと」

「む、そんな訳ないじゃないか。この俺が」

「最後の一言が納得出来んが……私の気分転換の為だと言うなら……」


 華奢な顎に細い指を当てながら考え込むリナヴィアを見て、終夜は目を輝かせた。


「良いのか、お茶っ?」


 この台詞を単体で聞けば訳が分からない言葉だが、今はそんな事は無かった。


「私の気分転換に、と誘ってくれたのは嬉しいよ」

「姉さん、じゃあ……!」

「だが、断る」


 長く嫌な沈黙が、二人の間を無慈悲に包み込んだ。

 その無言の中、リナヴィアがクルリと(きびす)を返す。

 彼女はモデルウォークさながらに姿勢良く甲板の上を歩いていき、軍艦内部に入る扉に手を掛けると、もう片方の手を肩越しにヒラヒラと振った。


終夜(・・)。女性を誘う時は、そんな何も無い笑顔を浮かべるな」


 去り際に彼女が発した声は厳しく、それでいて悲しさと寂しさの含まれたものだった。


「……」


 終夜は顔にお面のように張り付けていた笑みを消すと、ごろんと甲板の上に寝転がった。

 雲一つ無い蒼天の中で、太陽が眩しく輝いていた。




     ☆




「……私は馬鹿だな」

 

 扉を閉めてそれに背中を預けたリナヴィアは、溜め息混じりの言葉を漏らした。

 本当に、自分は馬鹿である。

 彼が女になど興味が無い事を知っている癖に。

 彼が色恋で自分をお茶に誘ったのでないと分かって少なからず落ち込む自分がいて。

 意地になって誘いを断ってしまって。

 挙げ句の果てには、それを――断った事を今の自分は物凄く後悔していて。


「……もう23の女が、15歳の少年に本気になるなど……」


 でも彼へ向ける気持ちは嫌ではなかった。


「……大体、彼と仮にこ、恋人同士になったところで何をするのだ? あっちからは絶対何もしてこないだろうしな。では私が文字通り、手取り足取り教え……」


 そこまで独り言を呟き、ボッと音が出そうな程顔を朱に染めるリナヴィア。


「な、何を言っているんだ私は!」


 リナヴィアは叫ぶと自室に向かって強化素材の床の廊下を、ヒールの(かかと)を鳴らしながら歩いていった。


 読んで頂きありがとうございました。

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