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『第八話』

寿子に振り掛かった一連の不思議な出来事によって、夫から山野家

の纏わる事実を告げられる事となった。

寿子は堪えきれず涙を流しながら夫の話に聞き入った。


静かな月夜に再び夫の話は続く、



「女性と子供はその後にも仲睦まじく山野家で暮らしていた。

がしかし・・・悪夢は突然やって来たのだ。

子供がいなくなってしまった。その頃、山野家は月に一度、

大量の物資を蔵へと貯蔵していたらしいが、その日に誤って

子供が入ってしまったのだろうと・・・。誰も気付かず

時だけが過ぎた。母親は子供を探し続けた。周囲も探し

続けたが見当たらなかった。そして半月が過ぎた

頃、次の貯蔵の日がやって来た。子供はその蔵の中から

変わり果てた姿で見付かったと言う」


「・・・・・・・・」



寿子は絶句した。その母親の苦しみを考えると居た堪れない

気持ちで、きっと母親は半狂乱になって

現実と向き合えずにいたのではないかと・・・。

そんな気持ちを感じとりながら心で噛み締めていた。



しかし夫の話は更に続いた。



「そして数日後の夜明けに・・・

裏の竹藪で母親が見付かった。首を吊った状態でな・・・」



寿子は涙を堪えきれなかった。山野家にそんな悲しい

逸話があったとは何も気付かずに過ごして来たのだから。

しかし寿子は、突然寿子自身の身に振りかかった不思議

な出来事によってその真実を知らされる事となった。



「やがて二人の亡骸はこの家の北西の地へと葬られた。

その場には小さな石の墓が二つ建てられた。

俺もよくは知らないが庭にある北西の小さな二つの石、

多分あれがその霊を祀ったものではなかろうかと思う。

そしてお前が言っていた二人の僧侶がその因縁の怒り

を鎮める為に、この家へと誘われる様にやって来た。

何故なら山野家はそれから幾度となく不運に見舞われ、

女は子を授かっても皆流産してしまい後取り存続の危機が

迫っていたからだ。それを心配した当時この家の当主、

つまり俺の何代か前の爺さん・・・が二人の僧侶を招き入れた。

年の頃は中年の厳つい形相の僧侶、もう一人は穏やかそ

うな若い修行僧だった。二人は全国を巡業中だった。

その途中で山野家へと立ち寄ったらしい。」


「そうだったんですか・・・」


「しかしそれ以上に厄介な問題が起きてしまった。

厳つい僧侶は山野家の当主に鎮魂の儀式を行うと申し出た。

だが霊を鎮める処かその怒りをかってしまい厳つい僧侶は、

鎮魂の義式の途中で突然魂を持って行かれたかの様

に亡くなってしまった。それを見た若い修行僧は恐ろし

くなって山野家を飛び出した」



寿子は静かに頷いた。そして夫の話は更に続いた。



「その後、数年して又二人の僧侶が山野家へとやって来た。

一人はあの時の若い方の僧侶だ。

そして彼はこう言ったらしい」



『あれから、毎夜、同じ夢を見ては魘され続けた。母親と

子供の霊、そして一緒にここへ来た僧侶の霊。

特に僧侶は無念の意から悪霊と化し、この家に災いを齎そう

と今も怨念に縛られ続けてる。

そろそろ彼の怒りの念を鎮めたいが私の力では到底及ばない。

そこでこの家に縁のある近藤家の次男、近藤凌隼殿の石を

奉りに上がりました』



そして再び夫は続けた。



「近藤家は元来旗本で凌隼もその血を継ぐ若者だった。

それは己に恥じない正義感を持つ立派な若者だったと

聞いておる。しかもなかなかの男前だったともな。

時代は幕末を迎え明治へと移り変わっても近藤家の継い

で来た精神は何も変わらなかった。

彼の強い精神力と優しさは、地元の民だけではなく旅人

をも勇気づけたと言う、皆が幾度となく頼りにしたと言う

話を聞いた事がある。しかし19歳と言う若さで病に倒

れ突然亡くなってしまった。そんな彼を皆は惜しんだ。

当時山野家から近藤家へと嫁いで行った者がいたと言う

話もあり、新たな時代に再び蘇る事が出来る様に

と一つの石に彼の魂とその願いを込めた」



「そうだったんですか・・・」



「ああっ話はまだ少し続くけど・・・」



そう言って夫は、窓際の椅子に座ったまま、月夜の景色を

眺めた。それを寿子も同じ様に眺めていた。



第九話へつづく・・・。



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