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『第六話』

連日の不思議な夢に魘され、寿子は何処までが現実なのか

解らなくなっていく、そしてもしかするとさよじゃなく

寿子自身が認知症なのではないか?と考え込んでしまう。

そんな時再び不思議な夢の中へと誘われる。もしかすると

寿子には与えられた使命が?


それから寿子は度々不思議な夢を見ては魘されていた。

いつしか夫もそんな寿子に慣れてしまったのか、

寿子が魘されていても全く気付かなくなっていた。


夢の中で寿子は家の中の居間に座っていた。

そこに旅をする僧侶がやって来た。

何故だか寿子は快くその僧侶を迎え入れた。

読経を唱え始めた僧侶の背中を寿子はじっと見

つめていた。そしてしばらくして読経が終わる

と二人の僧侶は振り返って寿子に言った。



「山野家の因縁と怒りを鎮める為に、この石を

近藤家から預かって参りました。山野家に縁と

恩義があった彼は、この石に絶大なる力を封じ

込めたと伺っております。それをこちらへ譲渡し

神の化身となった彼の力を山野家の

守り神として、北東の方位へ置いて頂きたいのです。」



向き合って話を聞いている寿子だが、言葉を発しようと

するにもこちらから言葉を発する事が出来ない。

そして身動きが取れない。ただ話を聞いている事しか

出来ない。そんな夢の中の出来事になすすべはない。


朝目が覚めた寿子はすっきりしない。それもそのはず、

ここの所毎晩の様に魘され続けているのだから

それもしょうがないのだろう。寿子はぼんやりした

まま長い廊下の引き戸を次々と開けた。

そこからは中庭が見える。最後の引き戸を開けると

真ん前にあの大きな石が見えた。

寿子は夢を思い出してしまった。しかし今回は不思議

と気味が悪いとは思わなかった。

寿子は段差を降りて裏庭のサンダルに足を通すとその

まま真っ直ぐに石へと近付いて行った。



そしてその石に語り始めたのだ・・・。



「若い方、あなたは私に何を求めているのでしょうか、

何故毎晩恐ろしい夢ばかり私に見せ続けるのでしょうか?」



そんな事を語りかけたが、何も起こらない。

そして寿子は呟いた。



「もしかして義母さんが認知症ではなく、私の方が

どうかなっちゃったのかしら・・・」



そんな事を考えながら寿子は静かに中庭の掃除を

終えた。そして空を見上げた。



「最近どうかしてる・・・。こんな事では義母さん

の事は愚か家族にも迷惑掛けてしまう。

どうすればいいのかしら・・・。しっかりしなくちゃ」



そう自分に言い聞かせると、サンダルを脱いで

リビングへと入って行った。



寿子はその夜、また夢を見た。髪を束ねた若い男性が

こちらをじっと見ていた。

そして近付いて来て寿子に告げた。



「私は山野家を守る為、御仏と成りこの場所へと

やって来た者だ。しかしこちらへ来てしまった故

愛する千夕にはもう会えなくなってしまった。

私は千夕を求めたがしかし百年近い時を超えても

いまだ会えない。このまま百年の時を超えてし

まうともう私の力は崩壊してしまうだろう。

何故なら私は百年の思いをこの石に封じ込めたからだ。

もう時間がない。このまま時を超えて

仕舞えば山野家は衰退し、最後には途絶えるだろう。

そして私自身も恐らく千夕とは会えずこの魂

のすべてが砕け散ってしまうだろう。そうなると私

はもう二度とこの世に輪廻する事はない。ただ無念だ」



寿子は思った。彼の話は本当だろうか?しかし彼の真剣

な眼差しを見詰めていると到底嘘だとも又幻だとも思えない。

寿子は聞いてみる事にした。



「若い人、何か私で力になれる事は御座いますか?」



寿子がそう言うと彼は振り返って言った。



「私は近藤凌隼、それがし名はなんと申す」



「はいっ、私は山野寿子と申します」


「山野?もしかすると幾三殿の子孫に当たる者か?」


「いいえ、私はこの家に嫁いできた者です」


「そうなのか・・・」



そこまで言って凌隼は話を止めた。

しばらく黙って彼は山野家の建屋を見回している様だった。



「ほっほー!この様な建屋を見たのは初めてだ。

これらは何と言う材質を使っておるのだ」


「それはコンクリートと申します」


「コンクリート?何故この様なものが?」


「多分、凌隼様は時を超え今私のいる時代へやって

来られたのでしょう」



寿子がそう言うと驚いた顔をして凌隼が言った。



「時を超えて?」


「そうでございます」


「私は今時を超えてると言うのか?」


「はいっ、恐らく・・・」



そこまで言うと再び彼は押し黙った。そして・・・

足元にある枯葉を一枚拾い上げもう一度言った。



「いつの時代も変わってはおらぬ。

この枯葉にしても何もなっ!」


そう言って寿子の方を見て微笑んだ。しかし寿子

の方は彼を見返して堅苦しい笑みを浮かべた。



「そうだ。寿子殿、先ほど力になってくれる

と言っておったが」



凌隼がそう言うと寿子は慌てた様に答えた。



「はっはい、山野家の今後に携わる問題なら、

何か力になれないかと存じまして・・・」



「有難きお言葉、私はしかとその思い受け止めたぞ!」



「はいっ!」



そう言って凌隼の影はどんどんと薄くなって行き、

やがて消えてしまった。寿子は呟いた。



「これは・・・決して夢なんかじゃない!」



第七話へつづく・・・。





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