『第五話』
いったいさよは何処へ?慌ててさよを探す寿子。
さよの一連の不気味な行動に次第に寿子自身、夢の中でまで魘される様になる。
「義母さん おはよう!」
そう言って朝、部屋に行くとさよの姿がなかった。
「一体どこへ行っちゃったのかしら、まさかこの階段を
降りて何処かへ行ってしまったのかしら?」
寿子はさよがいない事にふと気付く。
辺りを見回してみたが、さよがいる気配はない。
「まさか外へでちゃったのかしら・・・」
そう思うとさよの事が心配で気になり、
寿子は外へ駈け出したのだ。周辺を見渡しながら
必死で探す寿子。
「義母さん~!」
大きな声で叫ぶ寿子。そんな寿子の姿を周囲は冷や
やかな目で見ていた。きっと寿子がさよを苛めて追い
出してしまったのだろう。そんな風に感じる程蔑んだ目で。
しかし寿子は脇目も触れずにさよを探した。
「もしかすると、あそこかも」
そう言って角を曲がると真っ直ぐに裏通りへと走って行った。
息を切らせながら寿子が止まった先を見ると、ただ
御宮をじっと見詰めているさよがいた。
「義母さん大丈夫?心配したんだよ」
そう言いながら寿子はさよに近寄って行った。
するとさよは寿子を見て言った。
「この御宮の木戸を開けてみるんだ!さぁ早く!」
「義母さん神様の部屋には人は決して立ち入って
はならないのよ」
「いいから早く、時間がないんだ!」
いつにないさよの強い口調に背中を押される様に寿子は
御宮の木戸を開けた。その中には黒々としたとても美しい
女性の長い髪が置いてあった。それを見た寿子は気味が悪くな
って、慌てて木戸を閉めた。
「さぁ義母さん帰るわよ」
そう言ってさよの手をひいて家に戻った。
寿子は少し疲れている様子だった。だから思った。
「最近、疲れてるんだわ。今日は早く寝ないとこれじゃ
身体が持たなくなるわ」
そう言っていつもより早めに床へ着いた。
眠りについた寿子は魘されていた。
いつの時代なのだろうか、そこには激しく燃え盛る炎。
その炎を囲み獅子が舞っている。大きな神殿の中に入ると
神楽の舞と何処となく懐かしい響きの音色。
そこに舞う美しい姫、
その姫を引き立てる様に舞う二人の若い娘。
そしてその周辺を囲むかの様に二人の白髪頭の老婆。
その脇で演奏する五人囃子。
それはまるで雛人形の世界を見ている様に美しい光景だった。
寿子は雛段飾りの中にでもいる様な神秘的な気分になった。
再び外へ出ると初春の桜舞う美しい光景。
そこに立っていたのは髪を後ろに束ねたあの美しい青年だ。
しかしその後寿子は底のない真っ暗な闇の世界へと落ちて行った。
恐ろしくて酷く唸っていたのだろう。
隣で眠っていた夫が寿子の身体を揺すっていた。
「おいっ大丈夫か?」
その声に目を覚ました寿子。辺りを見回す寿子。
夫は傍らに置いてあったメガネを掛けて、おもむろに
部屋の灯りのスイッチを押した。再び寝床まで戻って
来た夫は寿子に言った。
「怖い夢でも見たのか、随分魘されてたみたいじゃないか」
夫のその言葉に寿子は答えた。
「ええっ・・・」
「今度母さんも連れて温泉にでも行くか、お前も少し休んだ方
がいいだろう!」
「そうですね」
寿子はすっきりしない表情でもう一度床へ入った。
そして何故か夫に背を向けた。
第六話へつづく・・・。