『第三話』
認知症になりかけていたさよを労わる寿子。
その生活の中で少しづつ不思議な体験をする寿子。
次第に寿子は山野家と死の石が何か関係があるのではない
かと、漠然と気になり始める。
いつもの様に寿子は庭を掃除していた。
ふと池の奥にうっすらと見える大きな石。
その石は木々に囲まれ苔の様な物が生え、
あまり目立たなくなっていた。
寿子はその石の周辺の草を抜き取り、庭を整えた。
綺麗に掃除された庭を見て寿子はほっとした。
寿子がさよの部屋に行くと、
又いつもの様にさよは二階の窓から外を眺めていた。
「義母さん今日もいる?」
寿子は優しく問いかけた。そうするとさよは答えた。
「今日も三人いるよ。若いおなごが一人と老婆が二人」
「そうなの」
そう言って寿子は日暮れが迫るさよの部屋のカーテンを閉めた。
そして・・・
「今日はもう見るのは辞めましょ。
義母さんテレビのスイッチ入れておくわね」
そう言ってさよの部屋を出た。
寿子は台所に行き洗い物を片づけながら小声で呟いた。
「年を重ねるって大変だわぁ。私も気が付けばもう58歳、
子供達も成長して其々に独立した。
やっと一段落したけど、
同時に義母さんの認知症は進行していくばかり。
でも私もいずれああなっちゃうのかしら。」
と言い終わるとふと溜息をついた。
そして無言のままテレビに見入る夫にお茶を入れ、
その後、さよの部屋へとお茶を運んだ。
「義母さん、お茶が入ったわよ」
そう言って障子をあけると、さよは電源が入ったままの
テレビを背に、再びカーテンを開いて
ぼんやりと外を眺めていた。
「義母さん、夜は冷えるからカーテン開けちゃダメよ。
風邪でもひいたらどうするの~」
優しくそう言いながら、再度カーテンを閉めた。
そこには誰も見ていないテレビ番組の笑い声がた
だ虚しく響いていた。
翌日、
寿子が再び庭の掃除をしていると、背後から誰かに
見られている様な気配を感じた。
ふと振り返るとそこには大きなあの石があった。
又思い出した。何故かあの死を呼ぶ石の話。
「なんだか不気味だわぁ、もしかしてこの石と
あの死の石と何か関係でもあるのかしら?」
寿子は一瞬脳裏でそんな事を考えてしまったのだ。
そして・・・。
「そんな訳ないわよねぇ」
そう思った瞬間、突然体の力が抜け、
立ち眩みでその場に倒れかかった。その時、
ふと寿子の掌が石に触れたのだ!
「何なの?」
寿子はそう叫ばずにはいられなかったが、声が出ない。
まるで金縛り状態の様にその場で固まった
まま寿子は何かに映像の様なものを見せられた気がした。
そこには髪を後ろに束ねたお侍であろうか、
なかなかの美青年が立っていた。
そしてその後、若い着物の女性が出て来て、
暗い部屋の中で何かを探している様子だった。
その傍らにはよく似た二人の老婆が、
そしてしばらくすると女性が何かを探していた部屋に
3つの塔婆の様な板が並べてあった。
その映像が終わると自然に石から手が離れ、
何事も無かったかの様に寿子は金縛り状態から解放された。
「今のは・・・なんだったの?」
寿子は何だか少し怖くなった。
第四話へつづく・・・。