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『第一話』

さよは今日も窓の外を眺めている。それを優しい眼差しで見る寿子。

たった一か月前に起こった不思議な出来事によって、何が変わったと言うのだろう。


寿子は二階の裏窓を開けてこう言った。



「義母さん、今日もいい天気ね」



そして振り返ってにっこりと微笑んだ。

まるでたった一か月前に起こった出来事が、

何事もなかったかの様な、それは青空に満ちた爽快な朝だ。



「今日も見守ってくれてるね」



そう言ってもう一度、姑のさよの方を見る寿子。

山野家はそんな朝で始まる。


そうだっ、あれはたった一か月前の出来事。

さよが突然言いだした。



「ほれ」



そう言ってバルコニーへ出るさよ。

そんなさよを不思議な顔で見る寿子。



「今日もあそこにいるよ」


「義母さん誰がいるの?私には何も見えないんだけど・・・・・」


「いるじゃないかほーらあそこに!」



そう言ってさよはバルコニーの向こうに

見える小さな御宮の建屋を指さした。

しかしその指は小刻みに震えていた。

そう、さよは認知症になり始めていた。

寿子はそれを感じていたので、さよの言う事に

はあまり信憑性を求めてはいなかったのだ。

だからこそ、その時寿子は



「あぁ解った解った。あそこにいるのね!」



そう答えた。


寿子は思っていた。もしも、さよの話を否定した

としても大した意味合いはないだろう。

それを寿子自身が理解し、さほど重要な

話以外は適当に流して置こう。

それが一番いい。事を荒立てなくて良い。

きっとそう言い聞かせていたに違いないだろう。


それから数日の月日が流れた。相変わらずさよは

窓の外を見ている。



「今日もいる。年の頃は15歳前後なのか若いおなごがいる。

しばらくして夕暮れ時になると老婆が二人してやってくる。

ほれっ見てみ今日もやって来た!」



そう言って寿子を呼びとめるさよ。



「そうだね。今日もやってきたね」



勿論寿子には見えるはずのない光景に彼女は相槌を

打っているのだ。しかし何故か寿子の心の中には、

言い知れない気持ちが込み上げてきたのも事実だ。

それは決して説明の付かない感情だ。


次の朝、寿子はバルコニーから見える小さな御宮へ

と足を運んでみた。静かな御宮の周辺は、少し肌寒く

不気味な感じがする。寿子は良く目を凝らして辺りを見回

したが、矢張り何も見えやしない。



「やっぱり何もいる訳ないよね。そんな事ありえないわっ!」



寿子は呟きながら家に戻った。さよはまだ戻っては来ていない。

何故ならさよは日中、デイサービスに通っているからだ。

確かに認知症の年老いたさよは手に負えない部分もあるのだろう。

だからと言って寿子が勧めた訳でもなかった。

不思議とさよ自身がそれを望んだのだ。しかしそれは、

逆に寿子の心を少し悩ませていた。



さよがもしかすると、

家にはいたくない理由でもあったのだろうかと



そんな事を頭の中でつい考えてしまう寿子。

彼女は随分疲れているのだろう。



第二話へつづく・・・。




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