第四話 幽霊なんて、いるわけないのに
「おい、深山のやつ、幽霊見たんだって……!」
「うぉ~っい!?コラぁ~大島っ!適当なこと言うな!」
教室のあちこちから、男子の笑い声。
見慣れたクラスメイト。
見慣れた教室。
いつもと同じ朝の風景。
春休み明けの登校日。
少しだけ変わったことは……
窓から風と一緒に、白い花弁がひらひら遊びにくるくらい?
―――なのに。
私の心の中だけが、落ち着かなかった。
吉野さん……早く来ないかな。
開く扉に、何度も視線を向けてしまう。
自分でも笑っちゃうくらい、そわそわしている。
カラカラ―――。
その時。
騒がしかった教室が、すっと静まり返った。
吉野さんが、来た。
夕焼け色の髪。
ラムネ色の瞳。
この前、公園で見たままの彼女だ。
―――その瞬間。
教室の空気が、冬に戻った気がした。
俯いたまま、自分の席へと向かう彼女に―――
誰も声を掛けようとしない。
誰も、椅子を引く音すら立てなかった。
刺さるような視線だけ―――。
「―――おはよう、吉野さん」
「……っ!お、おはよう!」
顔を上げた彼女は、安心したみたいに少し笑った。
「春休みの課題、終わった?
私は今朝までかかっちゃった。
もうギリギリ~!」
「そ、そうなんだ?
ボクは……結構前に終わらせ……られたかも……?」
「わわっ!吉野さんすっごいね!
勉強得意なの?教えて欲しい!」
「そ、そんなに得意ってわけじゃ……ないんだけど……」
みんな、ちょっと驚いただけ。
そう、自分に言い聞かせた。
でも。
何かが、変わってしまった気がした。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
公園の池の畔で彼女と待ち合わせをした。
屋根付きの小さなパーゴラ。
古いテーブルとベンチ。
ここは、あの日偶然見つけた、
二人だけの秘密の場所。
花筏が、
蒼い月を湛えた水面を流れていく。
今日の教室……嫌な空気だったな。
「った~……やっちゃった」
「吉野さんっ!」
振り向くと、彼女が立っていた。
無理してるって、すぐに分かる笑顔だった。
「ボクさ……昔から、浮いちゃうんだよね」
ぽつり。
「だから、髪を黒く染めて、カラコンして……
みんなと同じになろうって……頑張ってた」
震える声。
「でも……キミが、素敵って……言ってくれたから……
ありのままのボクで、いたって……思って……」
かみしめた唇。
「でも―――やっぱり、ダメだったみたい」
ぽろぽろ、落ちる―――。
わたし―――
立ち上がってた。
気が付いたら、抱きしめてた。




