表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第四話 幽霊なんて、いるわけないのに


「おい、深山のやつ、幽霊見たんだって……!」


「うぉ~っい!?コラぁ~大島っ!適当なこと言うな!」


 教室のあちこちから、男子の笑い声。


 見慣れたクラスメイト。

 見慣れた教室。

 いつもと同じ朝の風景。


 春休み明けの登校日。

 少しだけ変わったことは……

 窓から風と一緒に、白い花弁がひらひら遊びにくるくらい?


 ―――なのに。

 私の心の中だけが、落ち着かなかった。



 吉野さん……早く来ないかな。


 開く扉に、何度も視線を向けてしまう。

 自分でも笑っちゃうくらい、そわそわしている。



 カラカラ―――。


 その時。

 騒がしかった教室が、すっと静まり返った。


 吉野さんが、来た。


 夕焼け色の髪。

 ラムネ色の瞳。


 この前、公園で見たままの彼女だ。


 ―――その瞬間。

 教室の空気が、冬に戻った気がした。


 俯いたまま、自分の席へと向かう彼女に―――

 誰も声を掛けようとしない。


 誰も、椅子を引く音すら立てなかった。


 刺さるような視線だけ―――。



「―――おはよう、吉野さん」


「……っ!お、おはよう!」


 顔を上げた彼女は、安心したみたいに少し笑った。



「春休みの課題、終わった?

 私は今朝までかかっちゃった。

 もうギリギリ~!」


「そ、そうなんだ?

 ボクは……結構前に終わらせ……られたかも……?」


「わわっ!吉野さんすっごいね!

 勉強得意なの?教えて欲しい!」


「そ、そんなに得意ってわけじゃ……ないんだけど……」




 みんな、ちょっと驚いただけ。


 そう、自分に言い聞かせた。


 でも。


 何かが、変わってしまった気がした。




   ◇     ◇     ◇


 



 その日の夕方。


 公園の池の畔で彼女と待ち合わせをした。


 屋根付きの小さなパーゴラ。

 古いテーブルとベンチ。


 ここは、あの日偶然見つけた、

 二人だけの秘密の場所。


 花筏(はないかだ)が、

 (あお)い月を湛えた水面を流れていく。



 今日の教室……嫌な空気だったな。



「った~……やっちゃった」


「吉野さんっ!」


 振り向くと、彼女が立っていた。

 無理してるって、すぐに分かる笑顔だった。


「ボクさ……昔から、浮いちゃうんだよね」


 ぽつり。

 

「だから、髪を黒く染めて、カラコンして……

 みんなと同じになろうって……頑張ってた」


 震える声。


「でも……キミが、素敵って……言ってくれたから……

 ありのままのボクで、いたって……思って……」


 かみしめた唇。


「でも―――やっぱり、ダメだったみたい」


 ぽろぽろ、落ちる―――。




 わたし―――


 立ち上がってた。


 気が付いたら、抱きしめてた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ