第三話 ニンジンとラムネと……私の友達!
「はわわ~っ!ま、まさかの、吉野さん!?」
「はぁ~!?キミ、気が付いていなかったの!?ボクだよ《《ボク》》!」
そう言って彼女は、ポケットから慌てて黒縁の眼鏡を取り出して掛けた。
「………っ!!ほ、本当だ。吉野さんだ!」
一年間、同じ教室にいたクラスメイト。
なのに、今まで全然気が付かなかった……。
「くうぅ~~っ!悲しすぎるよ~!」
吉野さんは、前髪をくしゃっと掻き上げて、本気でショックを受けているみたいだ。
「だ、だって……髪も瞳も、全然違うんだもん!」
私たちは、桜が舞い散る並木道を並んで歩く。
さっきまで、ただの”知らない女の子”だったのに。
気が付けば、こんな風に隣を歩いているなんて……なんだか不思議。
でも、まさか一年間も同じ教室にいたなんて………ゴメンね。
「あ……っ、そっか。今は春休み中だから、こっちの色だった。
それじゃあ気が付かないかも……」
陽の光の中で、髪がふわりと揺れた。
オレンジ色の髪。
宝石みたいな瞳。
教室で見る”吉野さん”とは、まるで別人。
「だよね?だって普段の吉野さんは、髪も瞳も真っ黒だもん」
「ガ―ン……。なんか鴉みたい。
驚いたよね?コッチが素のボクなんだ。
染めてるし、カラコンもしてる。
ボク、日本人とアイルランド人のハーフなんだよ」
「へぇ……」
思わず、見とれてしまう。
きれい―――
それしか言葉が出てこなかった。
「……やっぱり、変かな?」
ポツリと、彼女が言った。
「……やっぱり。
ニンジンみたいな髪も、ラムネのビー玉みたいな目も……可笑しいよね?」
寂しそうに笑う、その顔を見た瞬間。
胸がぎゅっと締め付けられた。
「ううん、そんなことない!」
気が付いたら、叫ぶみたいに声が出ていた。
「すごく素敵だよ。
だって私、ニンジンもラムネも大好きだもん!」
あれ?
なに言ってるの私!?
でも―――
「そっか。……ありがとうね」
その笑顔が、春みたいにやわらかくて……あたたかくて……。
たぶん、この瞬間。
―――私たちは、友達になった。




