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蒼風のヘルモーズ  作者:
『ハザマの国』編〈1〉
36/59

第32話 元凶を探しに

 鬼人族は世界的にも極々希少な人種である。その起源は今から数千年も前に遡るらしい。

 どういう話の中で言ったのかは思い出せないが、何らかの質問をした僕に対して、『私は薬師だから考古学は専門外でぇ、だからあんまり詳しくないんだよねぇ』なんて言っていたのに、割と詳しげに歴史を教えてくれた万能教師のカカさん曰く。

 原初から存在していたとされる人族やエルフやドワーフと比べると、鬼人族は新しい人種と言えるそうな。

 存在しない世界の端を巡ろうと。この世の果てまで探そうと。たったの一人も同族がいない。

 真に孤独だったろう世界に誕生した、始まりの鬼人族。

 彼の『鬼王』の祖先とされている、そんな彼が初めに足跡を刻んだ場所こそ。もう分かっている通り、ここハザマの国の隣国——極東の島国『鬼国・鬼ヶ島』である。


 ……あまり歴史(勉学)というものに興味がなかったから、完全にうろ覚えだったのに。当の鬼人族である『トウキ君』と偶然に知り合ってしまった故に、ほぼほぼ忘れていたそんなことを思い出してしまった。

 脳裏でそんな懐古を映しながら、僕は同年代の彼と横並びで走って談笑しつつ。

 先陣を切ったのだろう冒険者の一団が去って、人が疎らになっている北門前広場。そこで未だに話をしている男女の元へと、騒ぎについての情報を求めて向かった。


「あの、すいません。この集まりって、一体なにがあっての——ってぇっ、ルルドさん!?」


「へっ、なんで俺の名前を知っ——ってぇっ、えええっ!? ソ、ソラさんっ!?」


「あ、フリューでルルドが粗相してしまった人。その節はどうも、ご迷惑をおかけしまして」


 見た感じ、戦力的に一線を張ることができない面々。

 言葉は悪いが『二枚目』と言ったところだろう、多種族の老若男女の冒険者たちが、一陣を見送るために開かれている北門の横。

 そこで最終的な確認を取り合っていることが遠目で認められる、魔道照明の光が当たる場所にて。

 まるで仲間外れにされてしまったかのように、たった二人で会話を行なっていたのは、かなり重苦しそうな鎧を着込んでいる、僕やトウキ君と歳が近そうに見える、明るい黄土色をした短髪の青年。

 それと、目を離せば突っ走り、そして失敗してしまいそうな雰囲気が滲み出ている青年の『お目付役』と言ったところだろう、桜色の長髪を夜風でさらさらと靡かせている、樹木から直接もぎ取ったような木杖を携えた一人の少女。


 もはや見覚えしかないそんな二人の男女に、今の緊迫としている状況についてを尋ねようと近づいていき、声を掛けた僕は、やっぱりあの時の二人じゃんか! と、全身で驚愕を表した。

 僕が声を掛けた、第二陣だろう集団から離れていた二人とは、約一月前に滞在したフリュー。

 そこの大通りで偶然に打つかり、そして出会った、ルルドさんとロウベリーさんその人たちだった。 

 あまりにも『まさか』が過ぎる、二人との再会。それがまさか、ソルフーレンを遠く離れたこんな場所でなんて。本当にびっくり仰天である。


「二人とも何でこんな所に……って、あっ、ど、その節はどうも、お久しぶりです、ロウベリーさんにルルドさん」


「あっ、ど、どうも、お久しぶり……だね。って、いやいや、それにしても本当にビックリしたよ。まさか遠くから走ってきた人が、フリューで打つかってしまったソラさんだとは……」

 

 目前の二人とは、大通りで打つかってしまった時にしか面を合わさず、そして話さなかった。

 あの時の僕は、もう少し落ち着いて共に過ごせていたら、友達になれたかもって。そうしんみりに思いながら、走り去っていく同年代の二人の背中を見送った。

 故郷から出たことがなく、まさに未知と好奇の塊だった大都会、フリューを旅立って。

 長年とも過ごしてきた、大好きな故国、ソルフーレンを後にして。

 もう、今まで出会ったきた誰とも、これから先で会うことはないんだろう。

 もし偶然が起きても、それは何年も経った後なんだろう。

 そう、暗い面持ちをしながら思っていたのに、まさかこんな場所で会うなんて。

 時を経て風化していた、知り合いとの再会の思い。

 それを意味不明すぎる偶然で果たしてしまった両者は、少しだけに戸惑いがある表情で、しかし互いが相手に対して好感を持っていることが分かる柔和な口調で、この再会を喜び合った。


「しかし、すごい偶然ね。まさか、フリューを遠く離れたここで再会をしてしまうだなんて」


「ロウベリーの言う通りだな……。まさかこんな所、こんな切迫した時に再会できるなんてさ。これが例の『天文学的確率』ってやつなんじゃないか? っと、そういえばだ。ソラさんはどうしてここに? そこにいる鬼人の、めっちゃ強そうな彼は……フリューの時に居たっけ?」


 この偶然に目を見開くロウベリーさんは、確かな素養を感じさせる品のある仕草で自身のほっそりとした顎に手を添え、僕たちが思っていたことを、まるで独り言のように代弁していく。

 それに深く同意するように、僕ともども大袈裟に頷いていたルルドさんは、徐に彼女の心情代弁を継いだ後、近くで三人の邪魔をしないように無言を貫いていたトウキ君に視線を送った。

 そして問い掛ける。

 知る限りで個人行動をしていたはずの僕と行動を共にしている、どう見ても強者な彼は一体何者なのかと。

 フリューで打つかった時には彼はいなかったよね? という含みも一緒にして。


「ああ、彼は————」

 

 初対面したフリューから遠く離れている場所で起こった、顔見知りの二人との再会。それに要らぬ水を差さぬようにと気を遣い、今まで沈黙していたトウキ君の紹介を、僕は求められる。

 順当だろうことを問われた僕は内心、彼とはさっき知り合ったばかりで、素性の方はまったく詳しくないんだよな。だから直接聞いた名前と年齢くらいしか話せないんだけど。と思った。

 そのことを正直にルルドさんたちへ伝えつつ、知っている限りのことを僕が話そうとすると。

 顔見知りとの久方の挨拶が終わった。それを場の空気で察したトウキ君は僕の真横に立って、俺の方からするよ。そう言うように、僕の前に片腕を出した。

 そして自分で自己紹介を始める。

 

「俺はトウキ。ヒガンノ・トウキ。見たまんま、すぐそこにある鬼国が出身だ。ソラとはさっきそこで会ったばかりでな、俺たちが一緒に行動してるのも、まあ、奇遇ってところだな」


 静かにその挨拶を聞き終えたルルドさんは、僕と行動を共にしているトウキ君がよからぬ危険な思想を持っている人間ではないことに安堵し。そして柔和な人当たりに好感を持っている、見るからに田舎者で呆けている顔見知りの僕に忍び寄った魔の手でないこと分かり、読めない腹の底を探るような目をする表情を緩めた。


「そうだったのか。んじゃあ、俺も自己紹介を。俺はルルド・オルバッシュ。生まれはアリオンの東にある『ルーローン』ってところだ。どうぞよろしく、ソラさん、トウキさん。んで、こっちにいるのが」


 すると、相手だけにさせる訳にはいかないと、自分もトウキ君に倣って挨拶を済ませていく。

 終わって。隣に立っているロウベリーさんの紹介を自分のに続けてしようとしたルルドさんは、先程の僕がトウキ君にされたように、自分ですると目で言っている彼女に腕で制される。

 それに苦笑しながら彼は両手で彼女のことを指し、僕達の視線と意識をそこへと集中させた。


「ゴホン。それじゃあ私の番ね。私の名前はロウベリー・アルバー。今に私を指差したこのアンポンタンのスカポンタンとは、まあ『幼馴染』って関係なの。でも生まれはアリオンじゃなくて、北方大陸の『エリュン』っていう国よ。どうぞ、よろしくね。ソラくん、トウキくん」


「こちらこそよろしくです。ロウベリーさん、ルルドさん」


「オウ。短い間だろうが、よろしくな」


 未だに緊迫とする状況を背にしつつ、今日が初顔合わせである三人の挨拶が無事に終わった。

 僕達の周囲に醸されている、つい安心して眠くなってきそうな和やかな雰囲気的にも、お互いに対する心象は良好のようだ。

 これでようやく、気になって仕方がない現状の問題について。

 今に何があったのか? という本題に移れるぞ。

 そう思った僕が、良い意味のハプニングで止まっていた話題を再会するために、場の流れを無言で見つめていると、謎に自己紹介を終えた三人が僕に視線を集中させていることに気づく。


「えっ、な、なに……? なんの視線……? ま、まさか僕もしろって……こと?」


 急に黙り込んでどうしたのかと思えば。全員に見つめられてあからさまに動揺する僕が取った確認に、三人はコクリと頷く。

 いやいや、三人とも僕の名前は知ってるじゃん。なのに今さら自己紹介とかさ。そんな僕の思いなど関係ないと言わんばかりに、僕の自己紹介を待つ三人。 

 目で言っている。伝えている。

 お前がさっさと終わらせないと、話が次に行かないぞ——と。

 なんとも言葉が出ない三重の圧。

 普通に息苦しさすら感じられるそれに晒されて、わなわなとたじろいでしまう僕は、額から一筋の汗を顎先まで伝わせて、ゴクッと大きく喉を鳴らした。  


「え、えっと……僕はソラ。ソラ・ヒュウルです……。生まれも育ちもソルフ——」


「おいおい、ソラ。余所余所しい敬語はいらねえだろ。この感じだとよ」


「そうそう! 気兼ねなんてしないで、もっと親密に行こうよ。そっちの方が楽しいしさ」


「うんうん」


 僕の自己紹介なんてものに必要性はまったく感じられないものの、こと交友を深めるには必要な儀式なのだろうことは理解できる。

 しかし、同年代の三人に意識されながら自己紹介をするというのは、流れに身を任せて自然に出るものとは違い、妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。

 それに耐えながら一応はしようとしたのに。

 まさか敬語抜きで最初の方から始めてくれとは。

 故郷には目上の人間しかいなかったから、最低限のマナーとして敬語が標準的になっている。 


 見るからに『年下』だろう子であれば、自然とタメ口——アミュアちゃんが例——をつけるんだけども、今までの人生でまったく関わりを持つことがなかった同年代の、しかも全員が僕より年上っぽい人達には、目上に対する人間と同じく、無意識に敬語を使ってしまうんだよな。

 完全に骨身に染みついてるというか。

 これを取り除くのは結構に意識を割く必要があるというか。 


 だから、わざわざタメ口にするというのは背中が痒くなるし、疲れるしで、遠慮させてもらいたい。

 ……なんてことを全員に言いたい気持ちが山々なんだけど、人見知りのシャイな子供みたいに引き下がることを『ヨシ!』としてくれるような雰囲気じゃないしさぁ。

 三人のニヤニヤ的にも、な。

 僕はなかなか面倒なノリに顔を顰めながら、それすらも楽しげに見ている三人に大きな大きな溜め息を「はぁ」と吐いて。

 何事も諦めたように、ちょっと恥ずかしそうな顔で口を開いた。


「…………じゃ、じゃあ、えーっと、僕はソラ。ソラ・ヒュウル。生まれも育ちもソルフーレンのリューザ村。まあ、ど田舎だよね。本当になんにもない所だよ」


 ソルフーレンの東部にある、周りに何もない山間。そこに僕の故郷である、ド田舎という言葉が至極ピッタリな『リューザ村』は存在している。

 村は小高い山々を周囲に置いており、辺りに山陵の類が存在しない都市部、フリューやフォールゥ——二つ目は行ったことないが——に慣れていれば、やや自然の圧迫感を感じるだろう。

 故に、行商や浮浪者等が村へと近づくことはあまりなく。

 それが良いか悪いかは判断しかねるが、人の流動が極々乏しかったことに対しては、そこはかとなく気楽だったのは事実だった。


 村中で蓄えておいた日用品やらが不足する頃合いになれば、遠地にある市町からいつもの行商がやってくるくらいで、それ以外で物品を入手するには、もう自作するくらいしか手は無い。

 軽めの木工をすれば損壊した家具等は作れるけれど、鉄などの便利な資材は他所から買い付けないと手に入らない故、やって来るもはや顔見知りの行商が村の生命線だったのは確かだ。

 と、そんなことはどうでもいい。僕がしたいのは、本当になに言いようもない田舎村の説明などではなく、明らかに緊張している冒険者達が集合した、今のこの状況について。その説明をことさら詳しく聞くことである。

 

「って、そんなことよりも。冒険者達が集合してるこの状況は、一体なにがあってのことなのさ? 僕、それが気になったから宿を出てきたんだけど」


「それは俺も同じだな。互いに名乗りは済んだことだし、早速聞かせてくれ。俺たちの準備はできてるからよ」


「分かった。んじゃあ、軽く冒頭の方から話していくよ」 


 老いているとできない。ついて行けない。

 つまり老人だらけの僕の故郷には存在しなかった、そのような気配を滲ませている息すらもなかった、非常〜に若々しいノリ。それでの遣り取り。

 普通の若人であれば息をするように流せるのだろうそれすらも、やや新しい部類である僕はちょっとだけ気だれた様子を見せながら、止まっていた話を進めようと切り出した。

 一気に感じられた心的な疲労。

 それを小慣れた『切り替え』で表情から消し去った僕が、中断していた本題を再開させる起点を作り、それにトウキ君も乗っかって、ルルド君は頷いた。


「ソラとトウキも、ここまで来たなら道中で一度くらいは聞いたと思うんだ。ここ最近、ハザマの国で『子供が居なくなる』っていう不可思議な事件が増えてるってさ」


「ああ、子供が『神隠し』に逢う——って話だよね?」


 この話は、かれこれ四日前の移動中。親切に乗せてもらっていた馬車を操っている御者のおじさんが言っていたものだ。

 神隠し、というのは言い得て妙というか、ただの言葉の綾でしかなく。実際は人間、もしくは魔獣の類が元凶だろうと、あの時のおじさんは言っていたっけ。

 話を聞いていた僕も、伝説上の存在である『魔なる神』がわざわざ顕現して子供を攫っているとは思えてないし。

 十中八九、この世界の生物が犯人——犯獣?——に違いないと思っている。

 

「そう、それだよ! しかし、この国の人達は『神隠し』っていう変わった言葉の使い方をするけどさ、実際は『人の手』によるもののはずなんだよ。なんせ、野生下にいる知性を持たない魔獣であれば、失踪者が最後に居たと思われる場所に、足跡や糞尿、体毛に掻き傷。それ以外も多々の痕跡を残しているはずなんだ。だけど、それが何一つ見つかっていない。だからほぼ間違いなく、知性がある悪人が事件の黒幕のはずなんだけど…………」


「…………はずってことは、断定はしきれてない感じ?」


「残念ながらね……。結局、これといった縄張りを持たず、それ故に通過したルートにマーキングをしない、放浪型の魔獣の可能性も否めないしって感じさ。だからまあ、犯人探しが漠然とした虱潰しになってるんだよね。だけど、一つも俺達に心当たりがないわけじゃないんだ」


 やや声に熱が乗っているルルド君は、その全貌をひた隠している『神隠しの犯人』の正体を暴かんとしている正義漢のような顔をして、有り得なくはない心当たりがあると口にした。

 それに『マジかよ!』と大袈裟に目を開いていた僕は、僕らの背後、そこで静かに腕を組みながら、神妙な面持ちで黙り込んでいるトウキ君に気が付かなかった。


「実は今から一年くらい前に、ここの隣の『鬼ヶ島』でもあったそうなんだよ。子供が攫われるって事件がさ。その犯人の拿捕に『花号を得たサムライ』が乗り出したらしいんだけど」


「花号…………?」


「花号は鬼国を納めている『鬼王』が、選ばれた『もののふ』に与える称号みたいなもんだ。持ってると国の中じゃスゲエって感じだな。ま、それだけなんだけどよ」


「なるほどぉ…………?」


 ルルド君の話の中で出た『花号』という、まったく聞き慣れない言葉に対して、ついつい眉尻と視線を斜めに上げてしまう僕は、僕の口から出た疑問符に回答を出してくれた、当の鬼ヶ島が出身であるトウキ君に、答えを聞いたのにあまりピンときていない間の抜けた声調を返す。

 失笑ものだろう僕を前にし、くすくすと笑ってしまうロウベリーさん。それに気恥ずかしく頭を掻いた僕は、依然として話を続けているルルド君に、再び耳を傾けた。


「しかし、花号を与えられたサムライが出陣しても、人攫いの拿捕へは漕ぎ着けなかったそうでね。かなりの手傷は負わせたそうなんだけど……。だから、その逃げ延びた悪人がここに来たって説がギルド的には有力らしいんだ。だけど、それを断定する証拠が現状で無さすぎる。犯人は鬼ヶ島が提供してくれた情報的に、自分のことを追わせて、捕まえさせるために、わざとらしく痕跡を残していたらしいから。だが、ここには痕跡が無い。何一つね。だから分からないんだよ。人食を始めた魔獣のせいなのか。鬼ヶ島の人攫いのせいなのか。もしくは別の『何か』なのか……がね……」


 これで話の冒頭は終わりだよ。

 そう言うように無言の一拍を置いたルルド君は、今に聞いた話を脳内で必死に整理している僕を見届けた後、続けて『この状況』についての説明を始めた。


「よし。それじゃあ、ソラやトウキが求めていた今の状況についてを話していくよ。俺たち冒険者がここで、こんな時間に集合していたのは、ギルドからの緊急招集。それに付随したクエストを受けたからなんだ。その招集とクエストの内容は、この町の近辺にある人里で『行方不明者』が出たというのと、その行方不明者の捜索と、こと一件の原因の究明を、首都から遠征してくる武士団が到着する前に進めておけというものだ。足跡やらは時間が経つと消えてしまう可能性があるからね。そして、行方不明になったのは、ここから西にある山村。そこに住んでいる『四十一歳』の農夫」


「…………ん? え、よ、四十一歳? 居なくなったのは子供じゃないの?」


 おふざけなしと一目で分かる、引き締まった冒険者の顔をするルルド君。そんな彼の口から確かな発音と語気で語られていくのは、この一件の内容である。

 そして静かに発せられるその一言一句の中で、僕の意識を逸らさせるだけの存在感を放ったのは、明らかな『違和』だった。

 今までにした神隠しの話では、子供のみがその被害に遭っていたようだったのに、冒険者たちが今に出動しているのは、歴とした大人の消息不明が理由だという。

 

「ああ、その通り。今回の被害者は子供ではないんだ。行方不明者の親類からの説明では、十六日に山へ山菜を取りに向かった行方不明の男性は、豪雨が止んだ夕方になっても里へ帰ってこず、そこから三日ほどの間を置いても一向に音沙汰がなかったらしい。異常事態と認識した親類が、最寄りのギルドに依頼を出したのは、行方不明を認識してから一日が経った、今日。つまり、男性が消息を絶ったのは今から四日前。かなりの近日だ。もしこの消息不明の原因が不慮の事故ではなく、外的にあるのだとしたら。最悪の場合、神隠しの元凶がここの近辺に潜伏している可能性がある——ということで、この町に滞在していた冒険者の全員に声が掛けられたってわけさ」


「………………深刻じゃん」


「深刻も深刻。ド深刻さ。だから、俺らみたいな若輩がたった二人で出動するのはあまりにも心許なくてね。……どうだろう、ソラたちも加わってくれないか? 行方不明者の捜索に」


 厳かな話し合いの雰囲気にそぐわない、非常に間の抜けた僕の発言。

 それに同じような言葉遣いを重ねたルルド君が続けるその提案に、まあそうなるよな、という正直な思いを僕は抱く。

 僕は数瞬だけ考えるような素振りをしつつ、組んでいた腕を解いたトウキ君の様子を窺った。 

 彼はやはりと言うべきか、この危険に満ちた一件に関わろう誘いを断るつもりはないという表情をしていて。

 それを見た僕は、爺ちゃんの叱咤激励の声を心中に響かせながら、苦笑した。


「俺は構わないぜ。元より、神隠しの一件には個人的に関わろうと思ってたからよ」


「…………ぶっちゃけ、僕みたいなのが、本職の人たちの力になれるとは思えないし、役に立てる自信はないけど。でも子供が被害に遭っているし、大人も居なくなっているらしいし。だから、できる限りでだけど、うん。僕も力になりたい。ていうか、三人が立ち向かおうとしてるのに、僕だけ怯えて引き篭もるってなったら、故郷にいる爺ちゃんにゲンコツを食らわされそうだしさ」


「……ありがとう、二人とも。あと、ゴメン! 俺が二人の足を止めて、この話を振ったのは、もしかしたらっていう下心があったからなんだ。……だから、ゴメン」


 あまりにも逞しいトウキ君の協力に、やや気後れしながらも僕は続いた。

 それにとても嬉しそうな、それでいて引け目を感じているような顔をしたルルド君は、パンっと両手を合わせる。

 そして発せられた謝罪に、僕たちは二人合わせて微笑んだ。

 気にする必要は何もない——と。 


「気にしないでよ。多分だけどさ、ここで会ったのがルルド君やロウベリーさんじゃなくても、この話を聞いてたら、僕も捜索に加わっていたと思う。だから自責をする必要なんてないよ。この出会いは偶然だったけど、この助力は必然なんだからさ」


「くくっ……ああ、ソラの言う通りだな。俺は元より、この話を聞いた時点でこれに参加するつもりだったぜ。ルルドが話をしようがしまいが関係なくな。変に気後れしてると足元を掬われるぞ。だからさっさと切り替えてけ」


「………………ありがとう、二人とも」


「はいはい! 私を置いてけぼりにした挙句、熱い男同士の友情とか見せつけないでもらえないかな? ほら! もう二陣も出て行っちゃったし、私たちも早速出発しちゃいましょうよ。善は急げって言うしね!」


 やや湿ったくなっていた場の空気を一新するのは、悪く言えば空気が読めず、よく言えばありがたい。

 四人の中で紅一点である、おそらく魔法使いであろう、ロウベリーさんの一声だ。

 僕たちは完全に仲間はずれにされていた乙女からのそんなツッコミに苦笑を見合わせ合い、良い感じで切り替わった空気と気持ち、そして面持ち。

 それを開かれている町の北門へと向けた。


「それもそうだな。よしっ。ロウベリーの機嫌が良いうちに行こう、みんな!」


「うん!」


「オウ」


「ちょっと、ルルド! それどういう意味よ!」


 そうして、あまりにも個性が出過ぎている、凸凹とした四人組はいざ、約四日前に行方不明者が出たという西の山村を目指して、工芸の町・スミカザリを旅立った。

 足取りは疎ら。呼吸も揃っていない。だけど、なぜか相性ピッタリに思える全員の雰囲気は、夜の闇と神隠しの澱みで暗い行き先の道を、たしかに照らしていた……。

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