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気のない暇つぶし

作者: 52
掲載日:2026/02/07

「ちょっと寒いとか、ちょっと暗いとか、ちょっと温いとか。

そういうのが好きかな〜」

「なにそれ」

好きなものある?と聞かれたので、そう答えた。

言い終わってから、質問の趣旨と答えがズレていることに気づく。

まあ、いいかと思って、そのまま続けた。

「映画館とかさ、館内が妙に暖かいと、

ちょっと退屈な映画だったりしたら100パー寝るでしょ。

で、あとから評論とかで

『あの映画のラストシーンが素晴らしい。それを見るだけでも価値がある』

なんて言われたらさ……『マジか』って思わない?」

「寝てたんだもんね」

「そう。肯定も否定もできない。

でも少し寒ければ寝ないから、良かったか悪かったかくらいは言える」

「……ちょっと暗いは?」

おい、これ続けるのか。まあいい。

「おっさんの一人暮らしだよ。

散らかってはいないけど、そんな頻繁に掃除するわけない。

つまり、片付いているが、埃はある」

「だらしなさの隠蔽?」

「否定はしない」

「じゃあ、ちょっとぬる──

(御茶ノ水、御茶ノ水でございます)

ほら、着いたわよ」

そう言って、彼女は颯爽と降りていった。

後ろ姿を見送りながら思う。

――こいつ、興味ないのに喋らせて、完全に暇つぶししてたな。


御茶ノ水駅を出て、聖橋を渡る。

橋の下では何本もの線路が立体的に交わり、

JR線に沿うように神田川が流れている。

橋の上には、人がずらりと並び、

同じ風景を撮っている者、列車が重なるラッキーを待っている者など…。


だが自分たちの目的は、それじゃない。

その列の横を、そのまま通り過ぎる。

橋を渡ると、イチョウ並木が色づき始めていた。

湯島聖堂に沿って右へ折れ、信号を渡る。

見えてくるのが、今日の目的地――


『神田明神』。


正式には「神田神社」と書かれているが、

やはり「神田明神」のほうがしっくりくる。

商売繁盛で有名で、正月には仕事始めの人であふれる。

「江戸総鎮守 神田明神」。東京の守り神。

「よっ、大明神」の明神だ。

偉い、って意味だな。たぶん。w

一時期、秋葉原が近いせいか「オタク神社」などと言われ、

可愛い女の子キャラの看板が置かれていた。

軽すぎるという声もあっただろうし、

懐が深いという見方もあっただろう。

自分としては、東京の守護神なんだから、極論、何でもありだと思っている。


鳥居をくぐり、参道を進むと、

朱色の綺羅びやかな楼門が現れる。

両脇には仁王像ではなく、門番のような男性像。

大きな提灯に「神田明神」と書かれている。

楼門を抜けると、人が多い。本殿の前で賽銭を入れ、

二礼二拍手一礼。

普段は作法にこだわらないが、

ここでは、そうしたくなる空気がある。


「ねえ、せっかくここまで来たんだから『うさぎや』寄っていかない?」

「いいね〜」

本殿裏から蔵前橋通りへ出る急階段を下りながら、

提案してみる。

「この際、『湯島天満宮』も行かない?」

「もう完全にウオーキングねw」

清水坂を上り、正面に現れる湯島天満宮。

学業の神様として有名だ。

ここでも賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。

顔を上げると、彼女が左へ歩いていく。

「ちょっとお守り買ってくる」

「学業の神様だぞ」

「来年、甥っ子が中学受験するらしくて。

せっかくだし、送ってあげようと思って」

なるほど。


湯島天満宮を出て坂を下り、

中央通りへ出ると、人の列。うさぎやだ。

今日は少なめで、5分ほどで店に入れた。

「うさぎ饅頭2つと、どら焼き2つ」

外で待っていると、

ニコニコしながら彼女が出てくる。

「どこで食べる?」

今にも歩きながら食べそうなので言う。

「甘いの食べるし、日比谷公園まで歩こうか」

「あっ、賛成」


秋葉原の人混みを抜け、靖国通り、日比谷通り。

皇居のお堀を右に見ながら歩くと、日比谷公園が見えてくる。

噴水近くのベンチに座り、袋を開ける。

自販機で買った温かいお茶。

「どっちから食べる?」

「うさぎ饅頭ちょうだい」

渡すと、彼女が饅頭を見つめて言う。

「これ見るとさ、たい焼きを頭から食べるか尻尾から食べるか、

あれ思い出すんだよね。でも、うさぎだと……ちょっと迷う」

「なぜリアルを想像する?w

甘い物は癒やしだ、と思って食べなよ」

「結局おいしく食べるんだけどねw」

久しぶりに食べたが、やっぱりうまい。

小さいから、二口で終わるのが少し寂しい。

彼女は三口。

次はどら焼き。

「この生地のフカフカ感が絶妙なんだよな〜」

「言うと思った。毎回言ってる」

「あれ、そう?」

「生地好き派だもんね」

主役を引き立てるのは、土台だ。

完全に個人的な意見だけど。


「あ〜おいしかった。いっぱい歩いたけど、

これでチャラねw」

「このまま歩いて帰る?」

「そうね。そうしよ」

日比谷公園を出て、また歩き出す。

「ねえ、で、ちょっと温いって?」

……また暇つぶしさせる気かよ。




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