最終回
オリオンは馬車の中でヴィミの太ももに顔を埋めた。暖炉のような温もりを得る。
二日掛けて学園に到着すると懐かしい気持ちになった。
「なんか久しぶりだな。明日の始業式、アルティミスに会えると思うと楽しみだ」
寮の部屋でベッドに寝転がる。明日から、また学園生活が始まると思うと、落ち着いていられない。
楽しいこともあれば辛いこともある。その都度、起点を聞かせて乗り切って行けばいいと楽観的に考える。
入学したころより、自分は強くなっていると確実に思えた。もっとカッコよくなっていると自覚できる。順調そのもの。
アルティミスにべた惚れされて「リオン、好き好き~っ」と言ってもらえるようになるまで、とことん努力しなければ。
☆☆☆☆
四月一日火曜日、在校生たちがドラグフィード学園内にある広い聖堂の中に集まった。
オリオンは制服をぴしっと着込む。聖堂の中央を自信満々に歩いた。艶やかな金髪が美しい美女を見つける。
以前にもましてキューティクルが増した髪の艶めきは、絹を超えている。久しぶりに会えた許婚の姿に感動した。
「アルティミス、会いたかったよぉ~。百本のタンポポの中に一凛だけ、バラがあるような美しさ、前よりもっと綺麗になってるっ~!」
オリオンはアルティミスに向って走る。盛大に抱き着こうとした。
この前はひらりと躱されてしまったので、アルティミスの動きを読んで拍子よく方向転換。
完璧に抱き着けるタイミングだったが……、ムチムチの頬に鋭い平手が飛んでくる。
「ぐほっ~」
オリオンは弾かれた玉のように吹っ飛ばされた。赤い絨毯を勢いよく転がる。止まった後、自分の頬を叩いたアルティミスを見た。
「リオンのおバカ。酷い状況のバーラト王国に行くなんて何を考えていたの。私がどれだけ心配したと思っているの!」
アルティミスは普段絶対に見せない怒りを大勢の前で露にした。どうしても我慢できなかった。
「す、すまない、アルティミス。心配かけるつもりはなかったんだ。それに俺様、滅茶苦茶頑張って、バーラト王国を救って来たんだ」
「その後に、沢山の女の人と一緒にお風呂に入ったそうじゃない」
「…………な、なぜそれを」
「バーラト王の感謝状に金品を要求せず多くの女と風呂に入ることを要求した英雄の内容が事細かに書かれていたわ。さぞかし楽しんだんでしょうね」
「ま、待ってくれアルティミス。そ、それは、たまたま口が滑っただけで。きみとの仲睦まじい生活のため、バーラト王国のお姉さん達に囲まれてみたいという欲望を発散させておきたかったというか」
「バーラト王国のお姫様とずいぶんと良い雰囲気になっていたそうじゃない。もう、娘がリオンに惚れこんでしまって仕方がないって、オリオン様ほど紳士的な人は初めて会った、とまで思わせたそうね。その子、相当可愛かったんでしょうね。私という者がおりながら……」
――あ、あの美少女、バーラト王国の姫だったのか。というか、バーラト国王、なんでそんなこと感謝状に書き残しちゃうの。
「た、確かにあの子は可愛かった。バーラト王国の中にいた女性の中で一番。で、でも、アルティミスの方が可愛いよ。今度、二人っきりでお風呂に入ろっか」
「う、うぅ、もうっ。リオンのおバカぁあああああああああああっ!」
握り拳を作ったアルティミスの攻撃がオリオンの顔面にクリーンヒット。蹴り飛ばしたゴムボールのような勢いで聖堂内を吹っ飛ばされる。
公爵家の嫡男にここまで当たりが強い女も珍しい。
アルティミスが初めて人を殴った相手という勲章が貰えてオリオンはご満悦な表情だった。
だが、今までの頑張りでは彼女の心を射止めるまでに至らなかったと思い込む。
「きょ、強烈ぅ……」
お尻を突き出した状態で床に倒れ伏す。アルティミスに心配してもらっていただけで嬉しい。これから先、もっといい男になる意欲が増した。
どんな敵が立ちはだかろうとも、大切な者の笑顔だけは守り抜く。守れる力を得るためにこれからの学園生活も邁進していくと決意した。




