帰国
オリオンはバーラト国王のもとに顔を出す。今の感染状況と今後の方針について伝えた。
罪人の処遇はカルティクが禁固刑二〇年、執行猶予付き。彼を手伝った者は禁固刑一〇年、執行猶予付き。皇帝の暗殺を企てたにしては大分甘めだった。
皇帝の判断が裏目に出た結果、多くのバーラト国民が死亡した影響もあり、罪が軽くなったのだろう。
「リオンよ、実に大義であった。何か礼がしたい。出来る限りの礼金も払おう」
「礼金はいりません。俺様に使うなら、国民に使ってあげてください」
オリオンは金を一切受け取らなかった。そもそも、バーラト王国の税金の一部をハワード公爵家が受け取っているのだから、すでに礼金を貰っているようなもの。
ハワード公爵家の失態で多くの者を不幸にしてしまった。礼を受ける立場にいないと思っている。
「ただ、願わくは……、バーラト王国の美女たちと風呂に入りたいです」
「ふっ……、実におぬしらしい願いだ」
裏表のない、オリオンの性格はバーラト国王に異様に気に入られた。「ぜひ、娘を嫁がせたい」というほどの惚れこみ具合だった。
バーラト王国だと一夫多妻はごく一般的だ。
ルークス帝国は一夫多妻が認められているが、一夫一妻の家庭が多い。色ボケた貴族だと一夫多妻もいる。
オリオンは「心に決めた相手がいる」と伝えた。
諦めが悪いバーラト国王は公爵家の失態を突く。オリオンに娘を継がせようとあの手この手で攻め立てる。
だがオリオンの起点の良さで回避され続ける。ますます、惚れこまれる結果に。
――今回は回避できたが、バーラト国王はまだあきらめないだろうな。
広い風呂場に美しいバーラト王国の女が集う。
オリオンは下劣な笑いを発した。天国という名がふさわしい風呂を満喫した。
女たちは全裸……ではなく、水着を着用している。
どれだけ好みのお姉さんがいようとも、お触りや味見はしていない。紳士的な姿を見せる。
年が近そうで、他の女が霞んで見えるほど美しい者がいた。
その者だけ、誰にもまして身を隠すように縮こまる。顔が真っ赤だった。妙に恥ずかしそうだ。
他の女は男慣れしている様子だった。まるで男を見るのが初めてのような反応。素肌を見せるのすら恥ずかしいと言わんばかり。
オリオンは腰に巻いていた布を取る。少女の体の前側を布で隠した。
「バーラト国王に無茶を言われてしまったか。すまなかったな」
バーラト王国の女は素肌を見せるのは夫だけだ。おそらく、ここにいる者は皆、娼婦で働いている者達だろう。だが、
「君は恐らく周りと何か違う。これだけいい女たちがいるんだ。一人抜けても気にならない。まぁ~、俺様としては、君が一番好みだが~」
少女は布を抱くように受け取る。状況が理解できないのか琥珀色の大きな瞳をオリオンに向ける。
猫を思わせるしなやかな肉体。踊り子のような括れた腰つき。あどけなさが残る雰囲気。だが、どことなくバーラト国王に似ている気がしなくもない威厳を纏っている。
「足下が濡れていて危ない。出口まで案内しよう」
少女の手を取る。優しくエスコートして脱衣所まで送る算段だった。
だが、ギュッと手を掴まれる。風呂の中に引っ張られた。
横並びになってお湯に浸かる。なぜか周りに寄ってたかってきていた女たちが距離を置いた。明らかに、何かおかしい。
「お、オリオン様、お湯加減はいかがでしょうか……」
「ああ、丁度いい。国が大変だというのに、厚くもてなしてもらえて感謝してもしきれないな。この国に来て、君ほど美しい女性にあったのは初めてだ。もちろん、皆、美しいが、その中でも一段と際立っていた」
「そ、そんな、私など……」
「謙遜する必要はない。君は実に美しい。ほんと最後に良い思い出ができた。美少女と一緒にお風呂に入れるとは、頑張ったかいがあったな~」
オリオンは鼻の穴を膨らませる。隣の少女との距離を縮めた。近くで見るとより一層、美しさで目が焼けそうになる。
一五分ほどお湯につかった。
「私に奉仕させてください」
「では、手が届かない背中を洗ってもらおうか」
体を洗う布は少女が持っていた。少女は自分が持っていた布を使い、石鹸を泡立て始める。その後、優しい手つきでオリオンの背中を洗った。
それ以外の場所は自ら洗う。綺麗さっぱりした状態で全女性に感謝の言葉を伝えてから風呂を出る。
「女性の贅沢な使い方をしたなー」
長い間溜まっていた欲求を開放し、存分に味わった。出発の準備を整えてから王都を後にする。
「あの子の名前、聞いておけばよかったかな。まあ、あれだけ可愛ければ一生忘れないか」
帰国する者たちが戦艦の中に入る。内部をくまなく清掃。
船内で感染が広がると最悪だ。大人数ではなく、必要最低限の人数にとどめた。
人込みに紛れ入り込もうとする鼠を駆除。ルークス帝国の中に外来種が広がるのも防ぐ。
戦艦は煙突から真っ黒な煙を吐き出す。バーラト王国から出向した。一週間近くかけてルークス帝国のウェーズにある大きな港、ホリヘッドに到着。
研究中にわかったのは、疫病の潜伏期間はおおよそ一週間だということ。
バーラト王国から出て、ルークス帝国に着くまでの間に発症していなければ、菌を持ち込んでいないと思われる。
だが様子見で、もう一週間の間、ホリヘッドに設置された隔離施設で待機。
「やはり、俺様は何ともないな」
オリオンの体調は常に万全。他国の料理を食べても、腹を下したりせず、健康的な毎日が送れた。
バーラト王国は感染が落ち着いたら普通に観光に行きたいと思えるほどいい国だった。
ハワード公爵家として、また外国に行く機会は多く訪れるだろうと思い、観光地を調べておくかなどと悠長に考えている。
ホリヘッドからドンロンまで結ぶ列車に乗った。馬車よりも明らかに速い。
ドンロンの駅で下車した。大きめのトランクを持ちながら駅のホームに行く。
ヴィミが辺りを見渡し、両手を胸の前で握り合わせながら待っていた。




