メイド服
ヴィミは入口でオリオンを待っていた。太ももが見えてしまうほど短いスカートをはいている。ガーターベルトもつけていた。ムッチリした肉にほど良く食い込んでいる。
普段隠されている胸もとが空いたメイド服の破壊力は抜群だ。ものすごく恥じらっている表情も相まり、最高の一言に尽きる。
オリオンはボロボロになってしまった正装の上着を脱ぐ。ヴィミに持たせる。そのまま、体を暖めるために風呂場に向かった。
昔はヴィミに服を脱がしてもらわなければ風呂に入れなかった。だが、体が柔らかくなり自分で全て脱げるようになった。
ヴィミは屋敷にいた時のオリオンのすっぽんぽんな姿など見慣れているはずだった。寮で生活を始めて三カ月たった主の体を何気に、今日初めて目にした。筋肉質になっていた。
さっと目を反らしてしまう。
腹回りに脂肪はついている。だが、その下の筋肉がやけに男らしく発達している。
肩幅は元から広かった。先ほど抱き着いた時と同じように妙に胸が高鳴ってしまう。
自分が卑猥な恰好している状況のせいだ。それで感情が変になったのだと思い込んだ。
――オ、オリオン様を見て、カッコいいだなんて思ってしまうなど、おかしい。あり得ない。
ヴィミは頭を振るう。風呂場に入っていくオリオンの後ろ姿を見送る。
ふと脱衣所に備え付けられた手洗い場に目を向ける。暖色の光を反射する鏡が置かれている。そこに映る自分の顔が、ほのかに朱色に染まっていた。オリオンが脱いだ服を抱く。無意識に鼻を近づける。
オリオンの汗のにおいがする。油を焼いたあとのような悪臭かと思いきや、ハチミツのようなほんのり甘く花に近い匂いがする。美味しそうでいい匂い……。
花の油を垂らしたお湯で顔を洗っているような温もりに包まれる。いつの間にか、服に顔を埋めていた。
「……何している?」
ヴィミの目の前に体を洗う布を忘れて戻って来たオリオンが立っていた。自分が脱いだ服に顔を埋めている姿など初めて見た。理解不能だ。
「あ、い、いえ、どれくらい洗剤を使うか、匂いを嗅いで考えていただけです!」
「そ、そうか……。まあ、今日は沢山動いたから、汗臭いだろう」
「いえ、凄く良い匂いがしました! あ……」
ヴィミは馬鹿正直に叫んだ。
オリオンは汗を吸っている自分の服からいい匂いはしないと思った。自分より鼻が何倍もいいヴィミがいい匂いと言うから気になった。自分で自分の服のにおいを嗅ぎ、決していい匂いではないと再確認する。
「ヴィミ、嗅覚がおかしくなるほど疲れたんだな。今日はゆっくりと休んだ方がいい」
「は、はい……、そうします……」
「ん、そっちに靴下が落ちているぞ」
オリオンはヴィミの後ろに指さした。
さっきから戸惑いを隠せないヴィミは踵を返す。靴下を持ち上げようとする。短いスカートがヴィミの尻尾に持ち上げられた。
その姿を見て、オリオンは使い込まれた靴下くらい汚い笑顔をにんまりと浮かべる。
上半身だけを折り曲げるように物を拾ってしまうと下着が綺麗にチラっと現れてしまう現象を計算し、自分の服を嗅いだ時にわざと落としていた。
いつもの長いスカートならまったく問題ないため、ヴィミも油断していた。
ヴィミは下着を完全に見られたと思った。すぐさま、スカートを押さえて後ろを振り向いた。
だが、オリオンはすでに踵を返している。何事もなく風呂場に向っていた。
体だけではなく精神も成長してくれたのかと、ヴィミは少し見直す。
「ムフフ、今日はとことん弄っちゃおうかな~」
体は成長した。精神は未だに子供のようなオリオンだった。
聖典式の間、オリオンはヴィミに何度も痴漢を繰り返した。
周りのメイドたちが、ルークス帝国で未だに偏見が残るバーラト王国出身のヴィミに同情してしまいそうになるくらい。
ただ、痴漢しているオリオンの方は困惑していた。いつもなら、すでに雷が落ちているころだ。だが、今日のヴィミは寛大なのかいつも以上に痴漢されても怒って来なかった。
おっぱいをフルーツと間違えて食べようとしたり、スカートを布巾と間違えて持ち上げてしまったり、お叱りが来ないと歯止めが効かない。
「ヴィミ、いつになったら叱ってくれるんだ」
「今日は聖典式ですから、特別にと思っていたんですが? 怒っていいのでしたら、朝までたーっぷりと叱り続けることも出来ますけど?」
「……こ、ここら辺でやめておこうかなぁ」
オリオンは夕食を終え、眠る準備をすませたあとベッドの上に乗る。
できれば、今のヴィミの姿を写真に収めたかった。写真館に行っている暇はなかったため記憶の中に残しておくと決めた。
「ヴィミ、俺様にお休みのチュっとしてもいいぞ~」
オリオンは布団を肩まで羽織り「もう、何を言っているんですか」という言葉を待っていた。メイドを困らせたがるのも、彼の悪癖である。
数秒間が空いてもヴィミの反応がないため目を開けると、おでこにチュッとキスしてくる彼女の顔が間近で見えた。
目をぱちくりする。何が起こったのか少し考える。
ヴィミは顔をもたげる。少し気恥ずかしそうな表情。口を開いた。
「お休みなさいませ、オリオン様」
「う、うむ……、お休み……」
困らせようとしたのに逆に困らせられる羽目になり、寝返りを打ってヴィミに背を向ける。
キス顔の彼女が脳裏に焼き付いた。眠気が飛んでしまった。股間が熱い。
ヴィミはオリオンの寝室の扉を閉めた。一瞬、おでこではなく唇にしてやろうかと思ってしまった自分に恥じていた。
いつもより躊躇いがなかった自分が恐ろしくなる。大好きだった兄の優しさと、オリオンの優しさがこんがらがり、自分の気持ちに整理がつかなくなってくる。
「も、もう、尻尾、上がらないで……」
尻尾は感情と密接に繋がっている。下着が完全に見えてしまうくらいスカートを持ちあげた。中々下がらない。
バーラト王国民の女は強い者に惹かれる習性がある。自分の直感を信じる傾向から一途だ。感情が燃え上がりやすい。
尻尾がビンビンに反応した。考えてはならない方向に気持ちが揺らぐ。
「あり得ない、あり得ない」と、呟き続ける。明日からも平常心でいられるようお風呂に入る。すぐに眠った。




