贈り物
オリオンは毛布を用意した。寒さの中で死なない程度にカルティクを介抱する。
皇帝の暗殺は重罪に当たる。少しは減刑してもらえるよう掛け合うつもりだ。どこまで減刑されるかわからない。
「アルティミスを人質にとった件と、ヴィミをボコボコに殴った件は許すつもりはない。その罰はしっかりと受けてもらうぞ」
「わかったわかった。もう、俺に構わなくていい。屈強な騎士達がいるんだからな」
三名の騎士がカルティクが逃げないよう見張りについていた。皆、彼にボコられた者たちだった。
オリオンは騎士達にカルティクに手を出さないようきつく言っておく。頭に血が上った騎士がなにしでかすかわからない。権力の使い方が上手かった。
彼は皇城に備えられた医療機関に移されていたヴィミのもとに鼻息を荒くして駆けつけた。ジト目になっている彼女を覗き込む。
「むふふふふ、ヴィミ、さっきの約束は忘れていないよなー」
「い、今は駄目ですよ。体中あざだらけで、醜いと思いますから。それに、太ったままですし。か、完璧な状態に仕上がったら、ちゃんと見せますから……」
「そうか、なら仕方がない。完璧な状態に仕上がったヴィミの姿を見せてもらうとするか」
オリオンは医療ベッドに横たわっているヴィミの頭をよしよしと撫でる。
彼女がいなかったら皇帝が殺されていたかもしれない。自分が駆け付けられるだけの時間を稼いでくれていた。ものすごく大きな働きだ。
ヴィミは視線を反らす。耳をヘたらせた。手から逃れようとする。体が動かない。
彼女の近くにアルティミスも医療ベッドの上に横になっていた。
外傷はない。気絶しているだけだ。すぐに目が覚めるだろうと医者はいう。
オリオンは心地よさそうに眠っているとはいいにくい表情のアルティミスのそばに椅子を移動させる。のっしりと座る。
ピアニストやヴァイオリニストのような美しくしなやかな指が特徴的な手をそっと握る。自分の傷はポーションを飲んで治した。痛みはない。
「アルティミス、無事でよかった……」
小さな手にキスするように顔の近くに持ってくる。生きている者の暖かさが伝わってきた。美しい人形ではないとわからせてくれる。
オリオンは取りに行くべき品を思い出した。
皇城の入口近くで雪下に隠れた庭園の草をつまみ食いしているシャイヤーのもとに駆け寄る。
シャイヤーはオリオンを見て「私を待たせるなんていい御身分ね」といわんばかりに鼻先で頭を突く。
オリオンは頭を撫でて機嫌を取った。鞍に腰かけてリージェンツストリートまで駆け戻る。
壊れた建物、穴が開いたり潰れたりしている通路、水道管が損傷し水があふれ出ている箇所もある。
公共施設に甚大な被害が出た。社会的経済基盤と社会的生産基盤の両方に痛い打撃だ。
だが、バーラト王国の者たちが奮闘してくれた。市民の被害者は奇跡的にいなかった。
魔法で地下の空洞を埋める作業や、水道管の修理など手間はかかる。だが復興に時間はかからない。
多くの店が魔物の被害にあっている。外注した店も被害を受けているかもしれないと思い、手綱を持つ手に力が入る。
到着した。案の定、店は大きな被害を受けていた。
「ああ、オリオン様。無事でしたか」
魔道具店の店長は壊れた店の前にやって来たオリオンにすぐに駆け付ける。
魔物が地下を通った影響で地盤が弱くなったのか建物が沈没していた。内部はグチャグチャに乱れ、高級な魔道具も使い物にならないほど損傷している。
「これだけは死守しました」
店長の服装は作業着にエプロンという変わった容姿だった。
寒さが厳しい中、白い顔や手を赤くし、震えている。仕事人のような年季が入った手の上に紫色に塗装された絹布の包が見える。
シャイヤーから降りたオリオンは店長から袋を受け取る。袋口を開けた。中に入っている品を取り出す。
使いやすそうな櫛で、磨かれぬかれているからか油を塗ったかのような光沢が生れている。栗毛のような色合いで高級感が漂う。
持ち手部分にヌータウロスの紫色の魔石がはめ込まれている。
これ以上に高級な魔道具もあった。だが、店長はそれらを捨てた。オリオンの注文した品だけを店から持ち出していた。
「これ以上に高級な品もあっただろう」
「店に展示されていた品はまだ誰のもとにもなく、使われるわけじゃありません。ですが、それだけはオリオン様の相手を思う気持ちが籠っていると思いまして……」
店長は店の道具よりオリオンの気持ちを守った。
その行為に感謝するべく、オリオンも出来る限りの援助を約束する。
シャイヤーに乗り、皇城に向って安全に戻る。
皇城で行われる聖典式パーティーは中止だ。だが、アルティミスのために今日まで準備してきた贈物だけは届けようと思い、なんと言って渡すか考えを纏め始める。
医務室に戻ってくる。
アルティミスがベッドの上で上半身を起こした。何が起こっているのかわからないといわんばかりに視線をきょろきょろさせる。
羽織っていたシーツがはらりと捲れる。綺麗な鎖骨、艶やかな肩、キャミソールかと思うほど透けたつやつやのランジェリードレスを身に着けており、ぺったんこな胸に白い布地と少し色が違う部分が見えてしまう。
彼女が普段そんなエッチな服を着るわけがないと知っていたオリオンの脳内は、あまりに理解不能な状況に思考が暴走した。
「ごふっ!」
鼻から血が吹き出す。気絶するように後方に倒れ込む。
「え、リ、リオン……、どうしたの……って、きゃぁああ~っ!」
アルティミスは自分がスケスケのエッチなランジェリードレスを身に着けていると思い出した。身を丸める。思わず叫ぶ。
――ア、アルティミスの肌着を見てしまった。また、嫌われたかもしれない……。
事故とはいえ、嫁入り前の貴族の肌着姿を見るのはあまりよろしくない。
節度がない男として認識される。すぐに視線をそらして見なかったことにするのが紳士的だった。だが、オリオンは大好きな相手の肌着姿を拝みたいという欲望に勝てなかった。




