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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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血のつながった

「その姿を見たら、オリオン様もアルティミス様にウハウハしてしまうこと間違いなしですわ」

「そ、そうかしら……、えへ、えへへへ……」


 アルティミスは今晩の妄想が膨らんで仕方がない。頬は緩みきっていた。

 今、オリオンはどうしているだろうかと考え、自分と同じようにドギマギしているのだろうかと想像する。

 もしかすると、ヴィミにエッチな服装を着せて弄りまわしているころかもしれない。そう考えると、自分のぺったんこな胸がどうしても視界に入る。


「わ、わたくしだって、あと数年すれば、あれくらいの胸に成長いたしますわ……」


 ぺったんこな胸に手を当て、ヴィミの巨乳と比較する。完全に敗北しており、首が折れた木偶人形のように頭が下がった。


「姫様っ、至急、避難をっ、ごはっ!」


 扉が急に開いたと思えば、一人の騎士が壁に叩きつけられ、一瞬で気絶した。

 アルティミスは近衛兵が一撃で気絶する場面など産まれて一度も見た覚えがなかった。目を疑う。


「あ、アルティミス様、私の後ろに」


 笑顔だったメイドが形相を変え、前に出る。


「皇女の部屋はここか……」


 フードを被る一人の男が入口からアルティミスの寝室に音もなく入って来た。体に傷一つ負っていない。

 メイドが隠し持っていた短剣で近接戦闘を試みる。

 男は短剣を一瞬で奪い取る。頬をはじくだけでメイドは気を失い、絨毯の上に倒れる。


「だ、誰ですの。い、一体何を……」

「俺はカルティク……、バーラト王国の英雄になる男だ」


 カルティクはフードを取った。虎耳を曝す。今にも食い殺さんとする鋭い視線をアルティミスに向けた。

 アルティミスも優秀な成績を収める生徒。緊急事態にも拘らず、練習の時と差し支えない攻撃魔法をいくつも放った。だが、放つ魔法はカルティクにことごとく躱される。

 一瞬、消えたかと思うと、体が持ち上がっていた。首を筋肉しかないのではないかと思うほど硬い手に捕まれる。


「皇帝への交渉材料に使わせてもらう。悪く思うなよ……」


 頸動脈が的確に絞められる。アルティミスの意識がもうろうとしていく中で、大きすぎる力の差と死ぬかもしれないという恐怖が押し寄せてくる。


 ――リオン、たす、け、て……。


 強烈なストレスにさらされ、愛する者の顔を最後に思考回路が遮断された。


 ☆☆☆☆


「あとは、皇帝を殺すだけだ。皆、必ずやり遂げて見せる。もう少し、頑張ってくれ」


 カルティクは気絶したアルティミスを抱える。短剣を片手に皇帝がいると思われる皇室まで走る。

 危惧していた大天使の名を冠する騎士団は、騒動の方に向っている。

 残っていた騎士たちが再現不可能な身体能力で制圧されていく。

 協力者(バレル)のおかげで皇城の構造は理解していた。

 最も上階にある皇室の警備はアルティミスの警備より厳重だった。

 城の中でぬくぬく仕事していた者たちが、バーラト王国の中でも屈指の戦闘民族のカルティクを止められる訳もなく打倒されていく。


 皇室の扉に手が伸びた時、懐かしい匂いがした。一緒に遊んで料理を食べて狩りして水浴びして、幸せだった時間を共に過ごした愛する家族の匂い。


「……ほんと、兄さんは優しいですね」


 ヴィミは荒い息を整えながら愛する兄の背後に立った。

 彼女は集まっていたバーラト王国民の言葉と自分の直感を信じ、兄が直接皇帝を殺しに来ると踏んで、全力で駆け付けていた。


「皆、気絶しているだけ。一人も殺していないなんて、やっぱり、兄さんは凄く優しい方です」

「誰か知らないが俺を邪魔するな。俺はバーラト王国を救わなければならないんだ」

「早まらないでください。まだ、何か方法があるはずです。話合いで解決できるかもしれない」


 ヴィミはカルティクに向って歩みを進める。だが、カルティクは気絶しているアルティミスの首元に短剣を付きつける。


「それ以上近づくな。この女が死ぬぞ」


 カルティクは本気だとヴィミは勘づき、立ち止まった。優しかった兄が、どうしてそのようなことをするのか理解できない。ただ、彼をここまで変えてしまうほどバーラト王国の状況が酷いのは理解できた。


「兄さん、少し、お話ししましょうよ。私、兄さんとずっと話したかったんです。募る話しもありまから。ね、いいでしょう?」

「俺はお前の兄じゃない。俺に妹などいない」


 ヴィミは頭を振る。自然に流れ出る涙をぬぐいながら笑った。


「ほんと、嘘が下手ですね。全然変わっていない。お腹が減って仕方がないのにお腹が一杯だからと言って食べ物を私に分けてくれたり、寒いのに暑いからって上着を貸してくれたり。昔と変わらない私の大好きな兄さんです」


 カルティクは嫌いな食べ物が料理に出て来た少年のように表情をゆがませた。不意に目尻から涙がこぼれ出る。

 一瞬、心が揺れた。だが、心を噛み殺す。

 集まってくれた皆が決死の覚悟で戦っているというのに、自分は心を曲げようとしてしまったことを恥じた。


「これは国同士の戦争だ。女がでしゃばって良い場所じゃない。これ以上、喋るというのなら、力ずくで口を塞ぐ」

「……兄さんがそれで話を聞いてくれるというのなら、受けて立ちます」


 カルティクとヴィミは互いに攻撃の姿勢を取り、獲物を奪い合う獣のような鋭い視線を交わした。

 カルティクはアルティミスを左手で抱き、右手に短剣を持っている。

 ヴィミは両手を握りしめ、素手のみ。

 獣の咆哮が二度放たれると、ガラス窓に内側から殴られたような蜘蛛の巣状のひび割れが入る。

 同族、何なら血のつながった家族同士の戦いが始まった。


 ☆☆☆☆


「ありがとう、レディー、ここで大人しくしていてくれ」


 オリオンはシャイヤーに乗ったまま皇城の敷地に駆け込んだ。門番に止められかけたが、公爵家だと知るとすんなり通される。

 入口までシャイヤーで移動した後、鞍を降りて頬にキッスする。

 両手をブンブンと振るい、首をもたげるほど高い城に入り込んでいく。

 多くの者が使う昇降機よりも、階段で昇った方が早いと考え、ぶひぶひと鼻息を荒げながら最上階を目指す。

 何度も足を運んだ覚えがあるため、城の中は実家と同じくらい手に取るようにわかった。


 皇室に行く前にアルティミスの部屋に来た。すると、気絶している騎士とメイドを見かける。

 それまでにも気絶した者たちが廊下に転がっており、カルティクがやったのだと察した。

 加えて、アルティミスがいない理由が脳裏をよぎり、身が痺れたように痙攣する。

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