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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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ドンロンに魔物

「カルティクが今どこにいるのか知っている者は誰もいない」

「俺たちがドンロンで暴れている間に、皇帝を殺す算段だったからな……」


 バーラト王国の者たちが首をかしげる。

 オリオンは今までの話を頭の中でまとめた。一つの仮説にたどり着く。


「すでに皇城の中にいるのかもしれない」

「そうなると俺たちじゃ皇城の中に入れない」

「そろそろ、午後二時か。作戦の時間帯だ。ん? 何か、音が聞こえないか……」


 バーラト国民たちの耳はスキルを使っているのかと思うほど良く聞こえるようで、床に視線を向けた。

 聞き覚えのある硬い地面を砕くような嫌な音が、オリオンにも聞こえる。


「皆、建物の外に逃げろっ」


 建物をぶっ壊す勢いで入口に突入した者たちは本当にぶっ壊た。外に脱出。

 オリオンも飛び出した。その瞬間、巨大なタルピドゥが床の木板を食い破る。天井を破壊し、跳ねた。


「魔物がドンロンの市街地にっ、ど、どういうことだ」

「わかりません。こんなこと、まったく聞いていません」


 皆、口をあんぐりと開けながら忽然と現れたタルピドゥを見ていた。

 タルピドゥの体長は一〇メートル近くあった。酒場が見るも無残な姿に変わっている。

 他の場所からも悲鳴が聞こえる。同じように魔物が出現したと考えられた。


「リプバリク王国の奴ら、俺たちをはなから信用していなかったんだ……」

「魔物は赤い液体におびき寄せられてきたんじゃないか? 餌に混ぜたらすぐに寄って来ただろ」

「じゃあ、最後は俺たちが餌にされるところだったってことか」

「皆、静かに。タルピドゥは音とにおいに敏感な魔物だ。刺激しすぎるな。すぐに駆除する」


 オリオンは杖ホルダーから杖を引き抜く。

 タルピドゥをひっくり返そうとするが以前の大きさでもひっくり返すのがギリギリの重さだったため、今回の個体は動かせなかった。


「お、重い。お前、ちょっと太りすぎなんじゃないか。あと戦う場所が悪いな、ここは狭すぎる」


 タルピドゥはオリオンたちに気づき、大口を開けながら裏道に出る。

 だが、裏道が狭すぎて体が挟まっていた。知能が低いと体が大きくても間抜けなのだなと思わざるを得ない。


「『バインド』」


 巨体になっても口を開く力は弱い。魔法で縛りつける。

 その隙にこの場にいる者たちのほとんどがバーラト国民であるという事実をオリオンは目の前で知った。


「おらああっ、この怒り、そのデカい腹にぶつけてやるっ」

「俺たちをコケにしやがってっ」

「ぜってえ、許さねえっ」


 打ち出される拳と蹴りはライアンのスキルで剣を消費してようやく切れるタルピドゥの四肢を叩き潰す。

 腹に打ち込まれた攻撃によって内臓が大量に破裂したようで、閉ざされた口の隙間から真っ黒な血液を吹き出した。

 魔法やスキルを使っていないにも拘らず、あまりの暴力に空いた口が塞がらない。ほんと、彼らが毒物を飲まなくてよかったと胸をなでおろす。


「オリオン様、皇城に向ってください。騒動が大きくなればカルティクが動いてしまいます。魔物たちは、俺たちが何とかしますから」


 バーラト国民の者たちは、自分たちで蒔いた種を自ら回収しようとしていた。信じたい道を見つけたからか、彼らの瞳は先ほどと打って変わり、光り輝いているように見える。


「わかった。皆、無茶はするなよっ」


 オリオンは皇城に真面に入れるのはこの中で自分くらいだとわかっていた。

 皇城に潜んでいる可能性が高いカルティクを必然的に止めに向かう。リージェンツストリートから皇城まで距離があり、人の脚で移動するとなると時間がかかる。

 真っ先に向かったのは皇城ではなく、イーグル冒険者ギルドの本部だった。

 内部に入ると、すでに冒険者たちが慌ただしい。聖典式で酒を昼間から飲んでいたのに、いきなり仕事が入ったような騒ぎだ。


「アレックス先生、ドンロンの中で、魔物が沢山現れたらしいよっ。討伐に行かなきゃ」

「勘弁してくれよ。なんで聖典式まで仕事しなければならないんだ……」


 アレックスはグダグダ言いながらも椅子から立ち上がり、ライアンの大声に反応する。

 オリオンは緊急事態だが、魔物は冒険者たちに任せると決めていた。すぐに受付に駆け寄りシャイヤーを借りるための金を払った。


「おい、オリオン、そんなに慌ててどうしたんだよ?」


 アレックスはオリオンにも手伝わせようと考えていたが、聞く耳を持たず冒険者ギルドを出て行ってしまったため、ただ事ではない状況なのだろうと察する。そのおかげか、仕事のやる気が少しだけ増した。


 オリオン好みのシャイヤーを馬房から引き出す。手綱を付けて鐙に脚を掛けたあと鞍に腰かける。視線が一気に高まったが恐怖心はない。


「レディー、俺様に力を貸してくれ」


 シャイヤーは「仕方ないわね」と言わんばかりに嘶いた。オリオンの手綱に正直に従う。魔物の出現によって荒れる人の中でも物おじしない。リージェンツストリートを突っ走る。

 皇帝のことも心配だったが、皇城にいるのは皇帝だけではない。一人の少女が気がかりでならなかった。


 ――アルティミス……、無事でいてくれ。


 オリオンは白馬の王子さながらに、髪や服を靡かせながらシャイヤーを巧みに操る。

 タルピドゥを見かければ口を魔法で縛り上げ、少しでも攻撃力を下げた。

 翻弄している間に、人々は建物内に逃げ込んでいく。


 オリオンがリージェンツストリートを抜けようとしたころ、白銀の鎧を身にまとった騎士団たちとすれ違う。

 皇帝の命令によって派遣されてきた騎士達だ。つまり、皇城の警備が手薄になった証拠でもある。

 ドンロン内に狙う場所は他にもあったはずだが、皇城からの騎士がギリギリ他の騎士団より早く迎える距離の位置を狙われていた。

 偶然ではなく全て計算されていると察する。相手は幾度となく世界に名をとどろかせていたリプバリク王国なのだから、当たり前かと開き直った。


「急げ……、急ぐんだ」


 ☆☆☆☆


「ちょ、ちょっと、これは……、せ、攻めすぎじゃないかしら……」

「いえいえ、とってもよくお似合いですよ、アルティミス様」


 冒険者ギルドの広間ほどはありそうな、豪奢な一室。

 天蓋つきのベッドには繊細な金糸の刺繍が施され、壁には月と薔薇を描いた絵画が静かに飾られている。

 親バカな皇帝が愛するアルティミスのためだけにしつらえられた夜の舞台(寝室)だ。

 大理石の化粧台の前で、アルティミスはぎこちなく立ち尽くしていた。

 肌に吸い付くように滑らかな、白のランジェリードレスがシャンデリアの明りをチラチラと反射させている。

 肩から胸元、腰のくびれ、太もものラインまでを柔らかくなぞるそのシルエットは、見る者の想像を確かに掻き立てる。

 ただの下着ではない。まるで夜の舞台でたった一人の相手と、静かに心を燃やし、淫らに踊るために仕立てられたドレス。


「……これが、リオンの目にどう映るのかしらね」


 アルティミスは夜を想像し、柔らかく微笑んでいた。

 この部屋の空気に溶け込む甘く上品な香りと、動くたび擦れるシルクの音。

 目を閉じれば、愛する彼の荒い鼻息が聞こえてきそうだった。

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