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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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ハワード公爵家の威信

「皆が、ルークス帝国に悪意を持った理由はわかっている。だが、バーラト王国を見捨てたわけではない」

「そんなこと言われて、いきなり信じられるか」

「だったら、なぜバーラト王国を落とし入れるような政策をとった」

「お前らのせいで何人が死んだと思っている」


 オリオンの発言に対し、鬱憤が溜まっていた者たちは同じように声を荒げた。言葉で殴り合う。だが、皆、違和感に気づいた。

 自分たちはバーラト語を使っている。怒りすぎて、現地の言葉が先走っていた。それ以前に、オリオンがバーラト語をしゃべった影響もある。

 ルークス帝国の者がバーラト語をしゃべっている状況を始めて見た者たちは動揺した。周りと会話し合い、どよめきが生れる。


「俺様はバーラト王国の者たちが大好きだ。男は筋骨隆々で非常に逞しい。女は胸と尻がデカくて面倒見がいい」


 目の前にいる男は本当にルークス帝国の者なのかと、バーラト王国の者たちは疑い始めた。もしかすると、ルークス帝国の者に見えて実はバーラト王国出身の者なのではないかと。


「俺様は言葉を覚えるほどに、バーラト王国を愛している」


 バーラト王国の言葉は非常に難しい。母国語ではない者が覚えようとすれば、相当な時間を有する。そのため多くの者がオリオンの言葉を疑えなかった。


「今すぐ信じてくれとは言わない。だが、確実にルークス帝国はバーラト王国を助ける。もし、バーラト王国に今後、何かあれば公爵家である俺様の責任だ。どんな仕打ちでも受ける覚悟を持ってここまで来た」


 オリオンの熱い言葉は全てバーラト語で紡がれた。零度近くの気温の中、全身を曝している。鼻水まで垂らし、体を寒さに震わせながらも吐き出される本気の声には熱が籠っている。


 その姿を見て、この場にいる全員が「この男は嘘を一つも言っていない」と、心からわかってしまった。


 オリオンの黒い瞳が揺るがず真っ直ぐ見据える。嘘を言う時に出る特有のにおいはない。声が耳にすっと入る。様々な要素からかんがみても、嘘偽りがない。

 第六感を持つといわれるバーラト国民は嘘を見抜く力に長けている。それゆえに直感を頼る場合が多く、皆、直感を信じやすい。

 嘘をついていないとわかってしまった以上、オリオンの話を聞かないわけにはいかなかった。


「と、とりあえず、服を着てください」

「あなたが嘘を言っていないのは、わかりました。ですが我々は、すでに和解で済まないようなことをしている」

「できれば、もっと早くにあなたに会いたかった」


 フードを被っていた三人が前に出た。フードを外す。

 辛い経験を何度も身に受けた渋さがにじみ出ているおじさん達で、バーラト王国民特有の獣の耳が頭部についている。


「ありがとう。さ、寒すぎて、死ぬかもしれないと思っていたところだ……」


 オリオンは置いてあった服を身に纏う。前に出て来た三人と話し合う。彼らが何して来たのか、何をするつもりだったのか、これからどうするつもりだったのかを聞いた。


「やはり、そうだったか。皆が、この赤い液体をルークス帝国中にばらまいたんだな」

「知っていたのですか?」

「いや、一つの可能性として想定していただけだ。バーラト王国民の身体能力なら一ヶ月程度でルークス帝国中に毒をばらまけると思った。皇帝を殺すために魔物を狂暴化させて国の防御を薄くしようと考えていたのはわからなかったが。にしても、皆、本気で死ぬつもりだったのか?」


 オリオンはバーラト王国民の皆に問いかける。

 皆、俯きながら尻尾を下げた。なにを考えているか、実にわかりやすい種族だ。


「われわれは、バーラト王国のためなら喜んで命を捧げますが今の状況で、それが本当に国のためになるのか確信が持てなかったのです」

「ルークス帝国への恨みは本物です。でもこれは戦争の時に生まれた憎しみでもあります。当時ならば、やすやすと命を投げ捨てられましたが、すでに戦いから退いた身、助けていただいた方から、生きろと言われていましたし、迷いがなかったかと言われれば嘘になります」

「戦いが得意な種族ですが、心の底から戦いたいと思う者はいません……」


 代表者三人の話を聞き、この場にいる者たち全員が共犯者であり、リプバリク王国の被害者でもある。

 ここにいる者たちによって狂暴化した魔物に襲われて死んだ民や冒険者も少なくないだろう。だが、疫病で死んだ者たちよりは少ないと思われる。


 戦争以外で多くの者が死に、体ではなく心が疲弊してしまっていた。この中には、バーラト王国から密入国して来た者もいるという。


「どうか、今のバーラト王国の状況を教えてほしい。情報が足りないのだ」


 オリオンはこの世の冥界を見て来たバーラト王国民から現地の声を聴いた。

 想像以上にひどい状況だった。聞いた状況では、物資が途切れたら見捨てられたと思っても何ら不思議ではない。

 彼らの話を聞いていたオリオンの目に大粒の涙が生れる。木製の丸テーブルにぽたぽたと零れた。

 自分よりも幼い者が疫病で命を落とし、食べ物が買えず飢えて命を落とし、ほんの少しの物資を奪い合う内乱で命を落とし。

 どれだけ尊い命がこの半年で失われたのか計算が得意になり過ぎたせいで優に想像できてしまう。


「皆、本当にすまない。出来る限り、皆の罪が軽くなるよう皇帝に話を付ける。ハワード公爵家の威信にかけて必ず、俺様がバーラト王国を救って見せる」


 この場にいる者たちはオリオンの嘘偽りのない言葉を耳にし、全員が子供のように泣き出した。ひとしきり泣いた後、一人の男が口を開く。


「……カルティクさんにも伝えないと」

「ああ、そうだ。カルティクにも伝えなければ。バーラト王国はまだ見捨てられていないと」

「だが、あいつがそうやすやすと信じるだろうか……」

「俺たちが説得しようとしても無理だろう」

「あいつは父親の代わりに英雄になろうとしている。だが、アシットさんと同じような運命を辿らせるわけにはいかない」

「そうだ、死して英雄になるなど今の時代じゃ、美しくないじゃないか」


 バーラト王国の者たちは皆、カルティクという男に誘われて集まったらしい。

 ヴィミの兄で戦争中、大量のルークス帝国の誇り高い騎士を屠ったバーラト王国の英雄の息子だと話を聞く。

 彼を説得しなければ、この事態は収まらないと誰もが思っていた。

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