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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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化け物

「なぜ、ルークス帝国の者だけがスキルを扱えるのか。神は多くの者に魔力を与えたが、スキルは違った。なぜ、全ての人間の中で最も博識で強く逞しく勇敢で自愛に満ちたリプバリク王国民にスキルを与えなかったのか。実に不愉快だ」

「何を言う。リプバリク王国でもスキルを使える者がいるだろう」

「それは、ルークス帝国の血が流れている者だからだ。生粋のリプバリク王国民はスキルを扱えない。スキルを持つ者が優秀な成績を収めるのは卑怯極まりないことだ。われら、生粋のリプバリク王国民が泥水を啜るなどあってはならない。まして、ただのガキに計画を覆されるなど、あってはならないのだ」


 バレルは鎧の裏から赤い液体が入った小瓶を取り出した。その瞬間、オリオンは赤色の水が脳裏によぎる。


 ――毒物を服用し、自殺つもりか。だが、リプバリク王国ほどの傲慢な者たちが目の仇を前に自殺するか?


「父上、すぐさま、バレルから離れてください。俺様が引き受けている間に他の警備を呼んでください」

「お前を置いて先に逃げるわけにいくか。それに、これほど近くにいながら気づけなかったのは、私の失態だ。けじめは私がつけなければならない」


 ポードンは護身用の剣に手を掛ける。だが、貴族ゆえに武術の知識はあれど実戦経験は微塵もない。公爵としての仕事を全うするため、頭脳だけを伸ばしてきた。剣の振り方を知っている素人と変わらない腕前だ。

 バレルの強さは護衛に置いていた彼が誰よりもよく知っている。勝てる想像は一度も出来なかった。


 ポードンが剣を取った間に、バレルは赤色の液体を口に含もうとする。


「『スリップロー(滑る床)』」


 オリオンは剣ではなく杖を抜き、バレルの足場を滑らせる。

 液体を飲み込めず顔面に掛かった。ずっこけた男に追い打ちをかける。


「『バインズボディ(縛る体)』」


 バレルの体は魔力の縄で縛られる。だが、真っ赤な液体は顔にかかったままであり、その液体は開けられた口に一滴入り込んだ。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 バレルは咆哮を上げた。その瞬間、壁に罅が入り、床がうねり、天井が軋んだ。激震が走り、机の上の資料は宙を舞い、空気すら切り裂かれるような衝撃音が部屋を貫く。

 まるで雷が真上に落ちたかのように空気が痺れた。本棚に置かれた本が振動を受けて、床に滑り落ち無造作に散乱する。


 もともと太かったバレルの腕や脚が二倍に膨らむ。着ている鎧が苦しそうな音を立てながら勢いよく外れる。

 同時、魔法の縄も強靭な肉体で無理やり引き千切られた。人間とは思えず、まるで悪魔が憑いたかのような形相が浮かぶ。肉体は膨張を続け、もはや人の域を逸脱していた。

 その巨躯は書斎の天井に頭がつくほど。ざっと三メートルを超えていた。


 ポードンはバレルのあまりの変化と忌々しい姿に腰を抜かした。老犬のように尻ごみする。


「ルークス流剣術、シアン流斬」


 オリオンは杖をホルスターにしまい、左腰から引き抜く力を利用して机にイナンナの美しい腹をぶつける。仕事机は掬い上げるように弾き飛ばされる。バレルの巨大な肉体に当たり、壁に激突する。


「マゼンタ撃斬っ」


 アレックスほどの威力は出せないが、今出せる最高火力を仕事机越しにバレルに叩き込む。

 無謀な攻撃に見えるが、オリオンの頭は常に冷静だった。


 ――バレルが口に含んだのは、おそらく魔物を狂暴化させた品と同じだ。ならば、奴は命を削っている。止める方法がわからないが、死人では喋れない。すぐさま拘束しなければ。


 イナンナの剣身が日の光を反射し、燃え盛るような輝きを放った。叩き込まれた剣術により高級な仕事机は木端微塵に破壊した。同様に書斎の壁も崩壊した。

 バレルを室内から室外に無理やり出す。


 真っ白な雪がのっかっている庭園に赤黒い肌の化け物に成り代わったバレルが落ちていく。

 高さは二階。頭から落ちれば普通の人間なら死ぬ高さ。しかし、彼は曲がりなりにも護衛だった男。化け物に成り代わろうとも容易く対処してみせた。落下の際、身にかかる力を外に逃がすように着地。

 その動きを見たオリオンは、すぐさま真似し、無事に着地した。多少の痛みはポーションによって回復し、問題ない。


「俺様は一度、お前と戦ってみたかったのだ。手合わせ願おうか」

「ぐぉおぉお……」


 バレルは狂犬病に侵された犬のように大口を開く。涎を吐き出しながら目を血走らた。近所迷惑なほど吠える。

 オリオンを敵とみなした瞬間、巨石のような拳で殴りかかる。手が肥大しすぎて真面に握れていない。

 東洋に存在するお相撲さんのようにパンパンの手だ。一撃でも受ければ人間の体など、尻で踏みつぶした食パンのようにペラペラになる。


「攻撃を受けなければ良いだけだ」


 オリオンはイナンナの艶やかな黒い柄を両手で優しく握る。自分の愛剣が最も美しく見えるように構える。女性が椅子に座り、股の上で手を重ね合わせているような姿勢。

 イナンナの剣先は右斜め下を向いており、真っ白な雪と同化してしまったのかと思うほど美しい白い剣身に見えた。そのため、彼は剣を持っていないように見える。


「ルークス帝国の民に、怒りの鉄槌大オオオオオオオオオオオオッ」


 バレルの拳がイナンナを構えるオリオンに振り抜かれる。

 だが次の瞬間、その拳は砲丸のように弧線を描きながら宙を舞う。黒い斑点を雪上に撒き散らす。重さを感じさせないほど弾み、地面を転がった。

 振り抜かれたバレルの腕には、手首から先がなかった。


「こっちはヌータウロスの太い首を折っていたのだ。突進より遅い拳が当たると思ったか?」


 バレルは痛みも鈍化している。右拳を跳ね飛ばされても痛がらず、逆に肥大化した歯に罅が入るほど噛み締めながら赤黒い瞳をオリオンに向ける。


 オリオンは黒曜石が割れたように綺麗に切られた手首の先からどろどろと溢れ出る黒い血液を見る。バレルはすでに人間ではなくなっていると悟った。


 バレルは手首を切られたというのに悪魔の力を手に入れて嬉しがっている異教徒のように不気味に笑う。右腕を振るい血液でオリオンの目つぶしを狙う。だが……、

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