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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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42/62

ありえない

「手がかりを残さず暗躍できるとなれば、どこの公共手段も使わず驚異的な速度で移動できる身体能力が必要。冬場でも宿を使わずに野宿できる鍛え抜かれた精神力。帝国の中に暗躍する者がいたとしてリプバリク王国を誘い込んだ、その状況を悟られないようにするための労働力。まて、もし、そうなのだとしたら……」

「リオン、どうかしたの?」


 ライアンはオリオンの表情が青ざめていくため、声を掛けた。


「いや、ただの仮定に過ぎない。だが、もし、俺様の考えが正しければ、俺様はバーラト王国の者たちに誠心誠意、頭を下げなければならないだろう」


 仮定が繋がれば繋がるほど真実の可能性は増していく。

 オリオンは数日間調べものに力を入れるため、冒険者の仕事は二五日まで休むと決めた。実家に帰る前に危機感を覚え、ドンロン研究所に脚を運ぶ。


 ――俺様はすでに怪しまれている可能性がある。どこに監視の目があるかわからない。


 あまり、周りを警戒しながら移動すると逆に怪しまれる。平然としたいつもの自分を維持し、ドンロン研究所の受付に立つ。スージアを呼ぶよう伝えた。

 まだ、二日しか経っていないがある程度の調査は出来ているだろうと踏んでいる。


 応接室で待っていると、寝不足気味のスージアが扉を開け、現れた。バーラト王国の疫病の研究と毒物の解析という大きな仕事を二つも請け負っていたら寝不足にもなる。

 実際、彼は二日徹夜していた。すでに、ぶっ倒れそうだ。オリオンの頼みなどすっぽかしてもよかったが、研究者の熱が出てしまい、速攻で終わらせた。


「眠そうな顔だな。ちゃんと眠った方が頭の回転が増すぞ」

「私も眠れるならぐっすり眠りたいんですけどね、誰かさんのせいで睡眠時間が削られているんですよ……」

「うむ、すまない。で、水から毒は発見されたのか?」

「分析結果からして、おそらく毒物と思われます。生物が作り出した毒ではなく、人工的に作れた毒物なのは間違いありません。まだ、毒物の資料と照らし合わせていませんので、新しい毒物か、もとからある毒物かわかりませんけど」

「ならば俺様が調べよう。結果を照らし合わせる程度なら、俺様でも出来る」


 オリオンはスージアが調べた毒物の成分と毒物の資料を見比べる。ただ、すでに目星をつけていた。

 リプバリク王国が使っていた毒物と、今回使われた毒物の成分を照らし合わせると実に似通っている。

 やはりというべきか……。これほど似通るのは偶然にも程がある。今は製造中止になっているはずだが、あの国がそう簡単に手放すほど安い品ではない。

 莫大な費用が掛かっているはずだ。その実験を元に今回の毒物を作ったと仮定する。


「この結果を家に持って行くわけにはいかない。俺様が直接皇帝陛下に見せに行かなければ」


 オリオンは実験結果と資料が書かれた紙をウェストポーチに入れ込む。


「スージアは誰かにこの話をしたか?」

「い、いえ、日中は疫病の研究で忙しいですから、夜中に一人で分析調査していました」

「そうか、なら、死にたくなければこのことは誰にも話すな。生きていれば、帝国を救った英雄の称号はもらえると思っていればいい」


 スージアはオリオンのあまりに自信満々な言葉に頭を縦に振るしか出来なかった。


「毒の方は片付いた。後はバーラト王国で流行っている疫病について詳しく教えてくれ」

「は、はい、わかっているだけでも、すでに二万人が疫病で亡くなっています」


「二万だと!」


 オリオンの大声が貴族の犬小屋よりも狭い応接室に響き渡った。


「肉体で全てを凌駕するような屈強な戦士たちが疫病でそんなに死んでいるのか……」

「バーラト王国の民が耐えられずに死ぬ疫病ですから、ルークス帝国内で蔓延するのを恐れた皇帝は危機感を持ち、バーラト王国との貿易を取りやめました」

「では、今、バーラト王国は大量の疫病患者を抱えている状況か。確かにルークス帝国の民を守るという理由はわかるが、バーラト王国を蔑ろにしすぎではないか?」

「過去の戦争で、ルークス帝国はバーラト王国に多くの者が殺されましたから……」

「何年前の話だ。もう、一五年近く前だろう。バーラト王国の者が煙たがられているのは知っているが、皇帝陛下がそんな差別感情で動くと思えない。バーラト王国の被害は上に正しく伝わっているのか?」

「それは、わかりません。バーラト王国の方針を決めるハワード公爵家の方に情報が渡るので」

「……そうだったな。ならば、皇帝陛下の対応の悪さも理解できる」


 オリオンは底知れない感情がでっぷりと太った腹の奥底から沸々と湧いてくるのを始めて経験する。だが、冷静な頭は煮えたぎる思いを制御する。いったん深呼吸して気持ちを整えた。


「バーラト王国の状況は今、おそらく言葉で表せないほど最悪だ。真面な食事もとれていないだろう」

「しかし、皇帝陛下はバーラト王国民が三カ月持ちこたえられるだけの物資を送ったとハワード公爵家の方から報告を受けています」

「三カ月分の物資とはどれだけだ? 内容は確認したか? 計算は正しいだろうな?」

「それなら。過去一ヶ月分と同等の物資を三倍した数だと思われます」

「……バカか? なぜそうなる」


 オリオンはローテーブルを叩く。バーラト王国の状況を考えるとあまりにも少なすぎる物資の量だ。あり得なさすぎて叫んだ。


「今までの物資は被害者が少ない状況だっただろ。被害者の数が増えていくという状況は容易に予想できたはずだ。スージアも、なぜおかしいと思わなかった。二万人も死んでいるんだぞ。今までの三倍を送ったところで、すぐになくなるに決まっているじゃないか」

「そ、それは、た、確かにそうですが、我々も疫病の研究でいっぱいいっぱいで。ハワード公爵家の方にその部分はまかせっきりにしていました」

「言い訳は必要ない。悪いのは、ドンロン研究所の方ではないからな。だが、すぐさま疫病の特効薬を作り出すんだ。手が足りないなら、俺様にも手伝わせろ」


 オリオンはスージアの胸ぐらを掴んで大きく揺さぶる。

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