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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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一対一

「ギルドマスター、サンドイッチを二〇人前頼む」


 オリオンは食堂で朝食を済ませた。その後、アレックス、ライアンの指導を受け、シャイヤーに乗る方法を学ぶ。

 ある程度練習すれば、穏やかな性格のシャイヤーに楽々と乗れた。

 昨日は冒険者が多く借りられる個体が少なかったが今日は三頭借りられた。移動が楽になる。


 オリオンが見定めたシャイヤーはもちろん牝馬だ。栗毛の鬣と好みの顔、筋肉がよく引き締まった肉体美、デカいケツ……、などを含めた中で「私を選んで」と言っているように甘え上手な所が一番の決め手。

 性格もよく、初心者のオリオンが相手でも一切慌てるそぶりを見せない。逆にリードしてくれちゃう熟練お姉さんタイプだ。


「お、おう、おう、す、すごい、これが荒道の騎乗……、体の芯に響く~」

「あんまり変な声を出すな。舌を噛むぞ……、いっつ」


 アレックスは喋っているそばから舌を噛み、背を丸める。


 南の平原までやって来たオリオンたちは、一人がヌータウロスを引き付けた。その他の二人が攻撃し討伐。手早く解体したら火をつけ、においを増す。脚に縄を結び、シャイヤーに引っ張ってもらいながら走る。すると地面に潜っていたタルピドゥが飛び出した。


 魔物が飽和すると、他の魔物が姿を見せない。おそらく他の魔物は近くにいないだろうという想定の下、執り行われた作戦だった。効果てき面。


 シャイヤーの移動と飛び出してくるまでの時間差があるため、肉は上手い具合に食われていない。

 タルピドゥが肉を追ってきたらライアンが口を思いっきり攻撃して閉じさせる。オリオンが魔法でひっくり返し、腹を掻っ捌く。


「本当にあっという間に駆除できたな……」


 アレックスはオリオンの考えた作戦があまりにも上手く行き、引き気味だ。昨日、多くの冒険者が苦汁を飲まされたのを知っているためあまりに簡単な駆除作業に、困惑するしかない。


「次々行くとしよう」


 オリオンは返り血一つ浴びず、巨大なタルピドゥを倒した。だが、昨日と同じ達成感は味わえなかった。

『完全睡眠』により、ヌータウロスとタルピドゥの動きは完全に網羅していた。

 攻撃を食らう未来は見えない。今なら一人でも倒せるかもしれないと思っているが、今は駆除作業に専念すると決めている。


「はははははははっ、ぼろもうけだっ。ひゃっほー!」


 魔物の討伐作戦に参加している冒険者の数が少なく、オリオンの作戦のおかげで大分楽して魔物の素材を大量に手に入れたアレックスの顔は、実にゲスかった。自分はほとんど囮にしかなっていなかったというのに……。


「魔物の数が大分減ったね。もう、大丈夫かな?」

「どうだろうな。原因を突き止めなければ、同じ状況が引き続き起こる。今、凌いだとしても、次、また次と増えられては鼬ごっこだ。魔石が取れればマシだが、取れないのではな……」


 ライアンとオリオンはヌータウロスの油を燃やし、暖を取っていた。シャイヤーが三頭いれば昨日よりも大量の素材を持って帰れる。

 だが、儲けが出て嬉しがっているのは借金まみれのアレックスだけ。学生の二人は金に興味がなかった。


「ライア、俺様、一人で真正面からタルピドゥを駆除してみたいんだが、どう思う?」

「危険だと思うけど、それ僕も全く同じことを考えていた」


 オリオンとライアンはいたずらっ子のようににやりと笑って、手を握り合う。


「俺様が戦う時、何かあればライアも入ってくれ。逆にライアが戦う時、何かあれば俺様が入る。そうすれば、いい実戦訓練になると思う」


 オリオンの提案に、ライアンは乗っかり、地上でヌータウロスの肉を食べているタルピドゥのもとに向かう。


「頼もう。俺様の名前はオリオン・H・ハワード。きさまに一騎打ちを申し込む」


 オリオンはタルピドゥの目の前で高らかに叫び、イナンナを掲げる。昨日と同じような緊張が背骨を走り、冬場の魚のように身が引き締まった。

 次なる獲物を見つけたといわんばかりのタルピドゥが大口を開け、彼に突進。


 オリオンは「シアン流斬っ」と大声を出しながら顎下目掛けて真上にイナンナを振り上げる。テルピドゥをのけぞらせた。

 四肢がしっかりとあるため、腹と地面に空間が空く。勢いよく滑り込む。巨体がゆえにタルピドゥは彼の姿を見失った。


「『バインズマウス(縛る口)』」


 移動中、タルピドゥの口を魔法で縛りつけた後、お得意の『スリップロー(滑る床)』で巨体をひっくり返し、尻穴にイナンナを差し込んで、腹を掻っ捌く。

 一分もかからず、巨大なタルピドゥを討伐した。


「うむ、倒し方がわかれば、一人でも勝ててしまうな。だから、強い冒険者はまだ見ぬ強敵に挑みに行くのか。少し理解した」


 ライアンがいっていた本当に強い冒険者は都会におらず、新たな強敵を求めて危険地帯を行く理由を理解し、自分も多少なりとも近づけたのではないかと満足感を得る。


「さすが、リオン。次は、僕だね」


 ライアンもオリオンと同じように、タルピドゥに一人で挑む。


「マゼンタ撃斬っ」


 ライアンが本気で振るった剣はタルピドゥの頭に直撃。すると体が真っ二つに割かれた。それと同時に剣も粉砕した。その剣は古道具屋で購入したなまくらだった。


「やっぱり、安い剣でもこれだけの威力が出るんだ。でも、武器を失ってしまう」

「一対一ならいいかもしれないが、敵が複数いるときは避けた方がいいな」


 ライアンとオリオンは魔物を倒し、互いの良い点悪い点を言い合いながら今より成長しようと無意識に楽しんでいた。


「ふっ……、若いぜ、二人共」


 成長よりも大金が手に入って満足しているアレックスは、キラキラとした瞳のまま会話し合うオリオンとライアンが眩しすぎて見られなかった。このまま、清らかに成長してほしいと、教師ながらに思っていたりする。


「じゃあ、次はアレックス先生ですね」


 ライアンが大きな声を上げ、アレックスの方に向かって手を振った。

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