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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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討伐

「俺よりも、まるまる太ったオリオンの方が美味しいぞ。俺の肉は、臭みがすごいからおすすめしないっ」


 肉を全て投げ終わったアレックスはシャイヤーにしがみ付き、泣き叫んでいた。一人で真面に戦える相手ではない。彼の安い命はシャイヤーの体力に掛かっていた。


「好き、好き、大好き、シャイヤー愛しているっ。頑張って、もっと頑張れ」


 オスのシャイヤーに愛を叫ぶ。大口を開けたタルピドゥが背後まで迫り、もう数秒で口の中に入ってしまうところ。


「僕の腕ももっていけっ」


 ライアンは大声を上げ、タルピドゥの頭上から右拳を振う。大口を閉じるように叩き込まれた拳は釘のように地面とタルピドゥをくっ付けた。

 叩きつけられた際に発生した衝撃波がアレックスとシャイヤーを吹っ飛ばし、波紋状に広がる。余波が粉雪を波立たせた。

 急激なストップを掛けられたタルピドゥは後部が持ち上がり、そのまま地面に叩きつけられる。


「う、腕が……、痛くない」


 ライアンは腕を一本差し出すつもりで拳を放った。剣を持っていない今、腕があっても意味がなかったため、スキルの効果を確かめるためだ。強烈な一撃を放った拳に傷はない。

 代わりにタルピドゥのワニのような口がグチャグチャにつぶれていた。


「体に反動はないのか。でも、身体強化ができなかった……」


 大きく跳躍する際、ライアンは身体強化という魔法を使おうと試みた。しかし、発動しなかった。代わりに高く跳ねる魔法を発動し、タルピドゥの頭上に降り立った。スキルの特徴が明らかになっていくにつれ、自分の姿が見えてくるような不思議な感覚を得る。


「じゃあ、もう一発……、うぅ、て、うわっ」


 タルピドゥはまだ死んでおらず、カブトムシのように頭部を勢いよく持ち上げ、ライアンを高らかに放った。


「さっきはよくも俺様の大切な腕を粉々にしてくれたな」


 オリオンは息を荒げながらタルピドゥの背後に到着。パンツ丸出しの情けない姿だがやる気は本物。

 右腕だけで剣を振るってどこまで戦えるかわからない。ただ、自分の特技は剣だけではなく、他にもあるのだと冷静に思考を回した。


「『スリップロー(滑る床)』」


 正確に魔法を使うならば杖を持った方が効率がいい。だが、相手は一〇メートルを超える巨体ゆえ、杖がなくても魔法が当たる。

 巨大なタルピドゥの体は寝返りを打つようにひっくり返った。


「くっ、デカいと魔力の消費が激しいな……」


 巨体を転ばせると体内の魔力が半分以上持っていかれた。だが、大きな隙を作った。加えて、タルピドゥの弱点部分を走っている間に冷静に分析し、特定していた。


「お前の腹は柔らかい皮膚だけだ」


 オリオンは自分の腕を砕いた尻尾の上を走る。右腕で握りしめているイナンナの美しい剣身をタルピドゥの肛門と思われる穴にぶっ刺した。そのまま腹を顎下まで掻っ捌く。

 タルピドゥの腹が割れ、真っ黒な血がオリオンの背後に噴水のように吹き上がる。

 とどめと言わんばかりに振り下ろされたイナンナの剣身はタルピドゥの喉元を鋭利に切り裂いた。

 藻掻いていた体はぱたりと動かなくなる。真っ黒な血液が白い雪を溶かしながら広がる。


「や……、やった、やった~」


 オリオンはイナンナを空に掲げ、高らかに叫んだ。腕が折れていると忘れている。

 脳内にアドレナリンが大量にあふれ出ており、痛みが感じにくくなっていた。あまりに巨大な魔物を討伐した達成感は、勉強して高得点を取った試験の時と同じか、それ以上。男としての強さの証明も相まって甘美な刺激が体を駆け巡る。


「う、ううん……、って、う、うおっ」


 目を回していたアレックスはタルピドゥの腹の上でぽにぽにと跳ねているオリオンを見た。あの巨大な魔物をオリオンが倒したのかと自分の視界を疑った。

 シャイヤーと共に立ち上がり、苦笑いが自然に出てしまう。パンツのもっこり具合からして、いま、オリオンは女の全裸を見ている時と同じくらい興奮しているんだなと同じ男として察した。


「まあ、この化け物をぶっ倒したら興奮するか。にしても……、俺よりデカくないか? いや、そんなバカな。ありえないね」


 アレックスは乱れた前髪をかき揚げ、平常心を保つ。化け物に追われてあそこは情けないくらい縮こまっていた。


「リオン、倒せたんだね」


 高らかに吹っ飛ばされたライアンは地面を殴り落下の衝撃をスキルの衝撃でうち消し、無事生きていた。

 戻って来たころオリオンがタルピドゥを倒した場面を見て、表情を明るくする。


「ライアンがいなかったら倒せなかった。ほんと、感謝している」


 移動中にタルピドゥの腹が雪と擦れ、皮膚が捲れているのを見つけた。腹に鱗があれば皮膚は破れない。つまり、腹に鱗はないと判断し、弱点を見つけられた。一撃で行動を止め、口が空かなくなるほど潰してくれていたのも大きい。


 周りの冒険者たちは、大量のヌータウロスと巨大なタルピドゥのダブルパンチを受け、死に物狂いで逃げている。逃げ足の速度は冒険者にとって重要な素質だ。アレックスが今まで生き残っているのも逃げ足の速さに助けられている。


 討伐したタルピドゥの中を調べるが、魔石は見つけられなかった。おそらく放っておいてもすぐに息絶えてしまっただろう。戦利品が多すぎても持って帰れないため、巨大な爪や牙を採取し、オリオンの腕の治療も兼ねて他の冒険者たちよりも先に離脱する。

 その間、オリオンはシャイヤーの背中で眠った。アレックスとライアンの男に挟まれてむさくるしい空間でも疲労による睡魔に勝てなかった。


 足先から水の中にとぷんと入ったと思うや否や、左腕が沸騰したようにボコボコと気泡が発する。霜焼けで赤くなっている脚からも泡が現れ、浮力が生れるとアクのように頭上にあがる。

 体の中から悪い物質が抜けていく感覚。腸内に溜まったガスを排出するおならのような快感に似ていた。

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